ブラジル・リオデジャネイロにある国立博物館で今月二日に大火があり、由緒ある建物とともに約二千万点もの収蔵品の大半が焼けうせた。この悲劇を「対岸の火事」とせず、教訓を学びたい。
博物館は一八一八年に開館。南米大陸では最も古い約一万二千年も前の人骨をはじめ、南北米大陸で最大級の人類史や自然史の史料を収蔵していた。だが近年は予算が削られ、消火の設備など防災の対策が遅れていたという。
英BBC放送は、かねて専門家たちが深刻な火災の恐れを訴えていたことや、火災の後に副館長が会見して「一度たりとも満足な支援を得られたことがない」と述べたことを伝えており、政府に抗議する激しいデモも起きた。
だが、博物館の厳しい現状は、日本でもひとごとではない。
日本博物館協会が二〇一三年、国内の博物館に行った調査では、回答した二千二百五十八館のうち八割に上る千八百六館が「財政面で厳しい状況にある」と答えた。また三分の二を超す千五百十四館が「施設設備が老朽化している」とし、さらには「資料を良好な状態で保存することが難しくなっている」「施設の耐震化対策が不十分」と答えた館も半数を超した。
背景の一つには国や自治体の財政難があるが、見逃せないのは、選挙で票になりにくい文化政策を政治家が冷遇してきたことだ。昨年四月、地方創生担当相というポストにあった山本幸三氏が、文化財の保護や継承に尽くす学芸員たちを「一番のがん」と発言したのは、その端的な表れであろう。
また、今年創設五十年を迎えた文化庁は、本年度の当初予算をめぐって「新・文化庁元年」と華々しくPRしたが、その額は千七十七億円。米国から二基も購入する地上配備型迎撃ミサイル(イージス・アショア)の一基分(千三百四十億円)にも及ばない。
安倍政権が日本を守ると本気で言うのなら、先人から受け継いだ国土と同じくかけがえのない遺産である文化財を守る方策や、その拠点となる博物館など文化施設の拡充に努めるべきだ。
近年増える訪日観光客には、日本の伝統文化や歴史にふれたいとまじめに願う人も多い。そうした期待にも応える文化施設は、一獲千金の夢をあおるカジノより、この国に親しみを感じる人を育むのではないか。政府・与党には、カジノ立法に傾けたほどの熱意を文化政策にも注ぐよう求めたい。
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