日本における女性リーダーの育成は先進国のなかで大きく遅れをとっている。企業内でどのような経験を積んだ女性が、役員に就いているのか。どのような「一皮むける経験」がリーダーシップを育むことにつながったのか。キャリアの軌跡をつぶさに辿ることで、企業内での女性リーダー育成のヒントを探る。 第7回目は、JFEエンジニアリング常務執行役員の馬場久美子さん(52)。2014年に東芝から転職し、この春、常務執行役員に就いた。JFEグループの主要3事業会社、JFEスチール、JFEエンジニアリング、JFE商事のなかで、初の女性役員である。ここまでの軌跡を辿ってみよう。
1965年生まれ。89年東京外国語大学外国語学部卒、東芝に入社。海外営業、海外企業とのアライアンス業務を担当する。2004年、技術統括部グループ長(課長相当職)に就く。仕事を通して法律知識が必要なことを痛感し、慶應義塾大学法学部に通信制で学び、07年学位取得。09年技術戦略提携部長、11年商品統括部ソフトウエア&サービス部長、12年クラウドソリューション第三部長。14年、JFEエンジニアリングに転じる。海外本部本部長附に始まり、15年戦略企画部長、16年経理部長、18年常務執行役員に就任。
不正会計の発覚前から「この事業構造では厳しい」と転職を考える
先を見通す目のある人だ。2014年、東芝の不正会計が明るみに出る前年に、四半世紀勤めた東芝を後にした。
「東芝は今後どのように価値創造していくのか」
米ハーバード大の教授が疑問符をつけるのを聞き、やはりそうか、と呟いた。2011年、ハーバード大の上級幹部職プログラムに会社選抜で送り込まれたときのことだ。その少し前から「構造的な限界を感じる。経営の意思決定も俊敏さを欠く」と危機感を抱いていた。海外からの客観的な評価は、残念ながら自身の仮説を裏付けることになった。
ちょうどそのころ、いくつかの会社からヘッドハンティングの声がかかっていた。次第に「手がけたことのない分野に挑戦したい」という気持ちが強くなっていく。それまでパソコン事業を中心に、より高性能のデジタル機器やサービスを世に出すために奔走してきた。しかし、世の中で本当にそこまでハイスペックなものが求められているのだろうか。多くの人にとっては、安全でクリーンな環境で暮らせることのほうが大切なのではないか。こう考えるに至り、環境関係のプラント建設を手掛ける現在の会社に転じることを決めた。
遡って、大学に入るときから馬場さんの先見の明は光っていた。外国語大学での専攻を決めるとき、スペイン語を選択した。男女雇用機会均等法が施行されていたとはいえ、まだ大卒女子の就職が厳しかったころのこと。スペイン語圏である中南米諸国の成長著しいときで、スペイン語学科を卒業した女子の就職率が高かったからだ。
89年、東芝に入社。入社試験では、英語とスペイン語でのスピーチを求められたというから、語学力が武器となったことは間違いない。入社間もなく結婚した。ライフプランを考えつつ社内を見渡したところ「年齢を重ねないと意味ある仕事が回ってこない」ことに気付き、「ならば今、体力のあるうちに出産しておこう」と思ったという。25歳で第一子を、27歳で第二子を出産。組織の年功序列を冷静に分析して20代で早産みキャリアに踏み切ったからこそ、30代を迎えて飛躍のときを迎えることができたのだろう。
いただいたコメント
コメントを書く