画期的ながん治療にノーベル賞 日米の研究者が共同受賞
ミシェル・ロバーツ、BBCニュースオンライン健康担当編集長
人体の免疫システムを使ってがんと戦う手法を発見した科学者2人が、今年のノーベル医学生理学賞を受賞した。
米テキサス大学のジェイムズ・P・アリソン教授(70)と日本の京都大学の本庶佑特別教授(76)の研究は、進行した致死性の高い皮膚がんの治療に貢献した。
ノーベル賞を主催するスウェーデン・アカデミーは、免疫チェックポイント阻害療法はがん治療に革命をもたらしたと説明した。
複数の専門家が、この治療法は「際立って効果的」だと立証されたと評価している。
アリソン氏と本庶氏は、900万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)の賞金を分け合う。
受賞に際して本庶氏は記者団に対し、「これまで以上に多くの患者を救うことになるように、もう少し研究を続けたい」と話した。
アリソン教授は「免疫チェックポイント阻害薬を使ってがんを克服した患者に会うことは、素晴らしく胸を揺さぶる栄誉だ。患者さんたちは、基礎科学の力、我々が物事を学び、その仕組みを理解したいという気持ちの生き証人なので」と喜んだ。
治療できないものを治療する
免疫系は人間の体を病気から守ってくれる一方、自分自身の組織は攻撃しないよう自己防衛機能を持っている。
一部のがんはこの「ブレーキ」を悪用し、免疫システムの攻撃を逃れることができる。
アリソン教授と本庶教授は、このブレーキを動かすたんぱく質を阻害することで、免疫システムによるがん攻撃を可能にする方法を発見した。
この発見により、以前は治療できないとされていた進行性のがんに対する新薬が開発され、患者の希望となっている。
英国の国民保健制度(NHS)では、皮膚がんの中でも特に重い「悪性黒色腫(メラノーマ)」の患者に対して、免疫チェックポイント阻害療法が使われている。
この療法は誰にでも効果があるわけではないが、一部の患者には素晴らしく威力を発揮しているようだ。中にはがんが全身に転移し始めた後でも、がん細胞が完全に消失した例もある。
全身転移まで症状の進行した患者で、これほど症状が改善する治療法はかつてなかった。
この療法は皮膚がんだけでなく、進行性の肺がん患者にも利用されている。
英国がん研究所のチャールズ・スワントン教授は、「この画期的な研究によって、免疫システムがもともとがんに対して持つ力が活用できるようになり、治療法に結びついた。そのおかげで、がん患者の命は、今も助かり続けている。免疫促進剤は、進行性のメラノーマや肺がん、腎臓がんについて、万策尽きた多くの患者の展望を一変させた」と受賞者2人を祝福した。
「(両教授の)発見を機に花開いた免疫療法の領域は、まだ生まれたばかりだ。将来この研究がどのように発展し、どのような新しい可能性が生まれてくるかを考えるのは楽しい」
医学生理学賞は、ノーベル賞の中で最初に発表される。
スウェーデン・アカデミーは5月、関係者の性的暴行疑惑を受け、今年の文学賞を見送ると発表している。
過去10年のノーベル医学生理学賞の受賞者
2017年:ジェフリー・ホール氏、マイケル・ロスバッシュ氏、マイケル・ヤング氏。体内時計(概日リズム)を制御する仕組みの発見
2016年:大隅良典氏。細胞が自身のタンパク質を分解する仕組みの解明
2015年: ウィリアム・C・キャンベル氏、大村智氏、屠呦呦(ト・ユウユウ)氏。寄生虫による感染症に対する治療薬の発見
2014年: ジョン・オキーフ氏、マイブリット・モーセル氏、エドバルド・モーセル氏。脳内の空間認知システムの発見
2013年:ジェームズ・ロスマン氏、ランディ・シェクマン氏、トーマス・スードフ氏。細胞が物質を運ぶ仕組みの解明
2012年:幹細胞研究の先駆者、ジョン・ガードン氏と山中伸弥氏。成熟した細胞を幹細胞に変化させた功績
2011年:ブルース・ボイトラー氏、ジュール・ホフマン氏、ラルフ・スタインマン氏。感染症に対する免疫システムの理解の革新
2010年:ロバート・エドワーズ氏。体外授精による不妊治療を確立し、1978年7月に初の「試験管ベイビー」を誕生させた功績
2009年:エリザベス・ブラックバーン氏、キャロル・グライダー氏、ジャック・ショスタク氏。染色体末端に位置するテロメアの発見