6月27日 NHKTV |
2003年6月27日(金)23:00~23:50放映 放送枠:にんげんドキュメント(NHK総合) 番組タイトル:「草遍路・終わりなき旅・幸月さん・80歳」 |
番組の紹介 |
全行程1400キロに及ぶ、四国八十八か所・遍路の旅。歩いて回ると40日近くかかり、札所めぐりが盛んになった近年でも、全行程を歩き通す人は年間2000人余りに過ぎない。その遍路道を「自分の最期の場所にしたい」と、もう6年にわたり逆打ちで歩き続けているひとりの老人がいる。80歳の幸月(こうげつ)さんだ。夜はたいてい野宿。寝袋や調理用のコンロなど、必要最小限の道具だけを手押し車に載せて歩く。あごひげをたくわえたその風貌に、行き交う人々は思わず足を止める。そんな時、幸月さんはみずからも立ち止まり、しばし談笑を楽しむ。そして時折、即興で俳句を詠む。番組では、高知から徳島へと向かう幸月さんの旅路に同行取材。その生きざまを描いていく。 ディレクターからの一言: (情報提供:NHK徳島放送局) ※上記は㈱シンメディア発行の「週間へんろ」の紹介記事から転載させていただきました。株式会社シンメディア (旧社名:株式会社ふぃっつ) |
7月10日 朝日新聞 |
12年前手配の男NHKに出演 警官が気づき逮捕 大阪府警、殺人未遂容疑 12年前にけんかで人を刺したとして、大阪府警西成署は9日、殺人未遂容疑で指名手配していた住所不定、無職田中幸次郎容疑者(80)を逮捕した。 田中容疑者は6月、NHKが全国放映した番組に本名で出演し、テレビを見た警察官が気づいたのが逮捕のきっかけになったという。調べに対し、「刺したのは認めるが、殺す意思はなかった」と供述しているという。 調べによると、田中容疑者は91年11月5日朝、大阪市西成区萩之茶屋1丁目の路上で、仕事仲間の型枠工の男性(58)とけんかになり、左胸などを包丁で刺して1カ月のけがを負わせた疑い。同容疑者は現場から逃走し、西成薯が行方を追っていた。 府警によると、田中容疑者はその後、四国霊場88カ所を巡る遍路を始め、6月27日に放映されたNHKのドキュメンタリー番組「にんげんドキュメント」で紹介された。たまたま番組を見た千葉県警の警察官が「指名手配犯ではないか」と思い、大阪府警に連絡した。 府警捜査共助課の捜査員が立ち回り先で聞き込み捜査したところ、愛媛県新居浜市内で白衣姿の同容疑者を見つけたという。 NHK広報局の話 お遍路さんとして雑誌などで紹介されたこともあり、番組の主人公として出演してもらった。指名手配のことは全く知らなかった。 |
7月11日 朝日新聞 天声人語 |
名もない新劇俳優が映画出演を依頼される。彼の舞台が高名な監督の目にとまったのだ。「虚無的な風貌」が気に入られての抜擢である。スターへの足がかりをつかんだ幸運に俳優は有頂天になりつつも、破滅の予感にさいなまれる▼松本清張の短編小説「顔」である。俳優は9年前、殺意を秘めてある女と旅行した。途中、女の知り合いの男に偶然出会った。しかし俳優は殺人を決行する。唯一の目撃者の男は果たして自分の顔を覚えているか。舞台からスクリーンへ、有名になればなるほど俳優の特異な顔が男の目にとまる可能性は高まる。そのサスペンスを描いた▼9日逮捕されたお遍路さんに、まずこの小説を思い浮かべた。12年前の殺人未遂事件で指名手配されていた80歳の容疑者である。俳句をつくり、接待のお礼に句集を配りながら四国八十八カ所を6年間巡っていた彼は、出会う人々に感銘を与えてきた「伝説的」人物だった▼彼を追うNHK番組は5月末に四国で放送され、再放送もされた。そこで終わっていれば、逮挿には至らなかったかもしれない。しかし6月末に全国放送され、千葉県警の警察官の目にとまった▼「死を覚悟の生涯遍路」とNHKが紹介した容疑者は、どんな思いで歩いていたのか。重い荷を背負っての巡礼であったことは間違いないだろう▼彼の句集を出した出版社が、番組担当ディレクターの言葉を紹介していた。人は何のために生きているのかという根源的な問いを投げかけている遍路、と。容疑者と発覚したいま、問いはさらに切実に迫る。 |
感 想 | 推理小説を読んでいる気分。小説にあるようなことが現実に起こった。逆かな?小説家は、現実に起こりうることを小説に書いている。 |
7月15日 朝日新聞 ゼロサン時評 |
呉智英 評論家 エゴイズムとしての遍路 長崎の衝撃的な事件が大きく報じられる陰にかすんでしまったが、七月十日朝刊の「テレビ見てたら『あっ、容疑者だ』」という記事は興味深かった。 NHKのドキュメンタリー番組に、俳句を詠みながら四国を遍路で回る八十歳の男が紹介されていたが、彼は殺人未遂で指名手配中の容疑者で、番組を見ていた警察官が気づき逮捕された、という。 私は普段テレビを見ないが、たまたまこの番組は見ていた。そして、どうも変な話だと思っていたのだ。 この男、六年間も休むことなく連続して遍路で四国を回りっぱなしである。生活用具は手押し車に積んで、食料は「お接待」、泊まりは野宿である。あるカメラマンはその姿に感動して写真集を出し、霊場の寺の住職はあなたに本当の仏様の姿を見ますと泣きながら拝んでいる。八十歳の老人が六年間も帰郷せず霊場を回りっぱなしだったら、普通変だと思わんか。どうも、日本人から世間知が失われたといおうか、うぶな奴らが「癒やし」をほしがっている、といおうか。 この男はどういうつもりでこんなことをしていたのだろう。司直の手を逃れるためだけではあるまい。やはり罪の償いをしたいと思っていたのだろう。しかし、霊場を遍路したって被害者には何の償いにもにもならない。結局は自分の罪の意識を静めたいだけのエゴイズムなのだ。殺人事件の犯人が、生きて罪の償いをしますとよく言うが、せいぜい四国霊場巡り程度しか出来やせんぞ、と私は思う。 |
幸月さんの句集 | 幸月さんの句集が出版されています。 かぜふところにかちざんまい 句集 風懐に歩三昧 著・幸月/発行・シンメディア 四六判、上製、全260頁 |
ML | 幸月さんの件について、MLが開設されています。⇒MLへ |
判決 2004年 2月25日 朝日新聞 夕刊 |
NHK出演して逮捕 西成の殺人未遂被告に懲役6年 四国霊場八十八カ所を巡るお遍路の姿を紹介したNHKのドキュメンタリー番組で放映されたのがきっかけで逮捕、起訴された無職田中幸次郎被告(81)に対する判決公判が25日、大阪地裁であった。12年余り前の犯行で殺人未遂罪に問われた田中被告に対し、小川育央裁判長は「四国遍路などで逃走を続けており、刑事責任は重い」と述べて懲役6年(求刑懲役7年)の実刑判決を言い渡した。 お遍路について被告・弁護側は「亡き両親の供養のためだった」 「苦行を自らに課すことで犯行を反省していた」と主張し、執行猶予付きの判決を求めた。田中被告は公判を通じてお遍路に出る白装束姿で出廷し、「社会復帰後、再び遍路を続けたい」と述べていた。 判決によると、田中被告は91年11月、大阪市西成区の路上で仕事仲間の男性の胸などを包丁で刺し、重傷を負わせた。 |
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