スマートホーム(スマートハウス)の記事 2018.10.02
Googleが日本でAI関連事業を次々立ち上げ ―国産AIは死んでしまうのか?
存在感を示せない日本の国産AI
商用AIの名前をいくつか挙げてみてほしい。
まず間違いなくほんとんどの人が一番にIBM Watsonの名を挙げるだろう。続いて、業界に多少詳しい人であればMicrosoftのAzure AI、GoogleのDeepMindの名前も挙がるだろうか。商用AIの定義を広く解釈して人工知能開発ツールであるTensorFlow(テンソルフロー)の名前が出てくるのは業界関係者とみて間違いない。
逆に、商用AIの定義が分からずにGoogle HomeとかAmazon Echoとかしか出てこない人 ――むしろこちらのほうが一般的だとは思うが ――も大勢いるのではないだろうか。
さて、ここまでに出てきたAIはすべてアメリカ企業のもの(DeepMindはイギリスで生まれてGoogleに買収されている)である。
日本の産業界は「ものづくり」にプライドを持っていそうだが、こと人工知能にかけては ――いや、ここ20年で台頭したテクノロジー全般について日本は世界で存在感を示せておらず、かつてお家芸だった半導体産業も衰退し、結局はレガシーな産業である自動車分野だけが検討しているというのが現状だ。
このことについて、「人工知能は人間を超えるか」(2015年/角川EPUB選書)の著者、東京大学 松尾豊特任教授はあるメディア向けのインタビューの中でこう考えを述べている。
- インターネットがそうであったように技術の取り込みが非常に遅いこと
- 若く情報感度の高い人たちが裁量を持っていないこと
覚えのある読者も多いだろう。1990年台前半にインターネットが登場した頃、「これは世界を変える!」と叫んでいたのは若者ばかりだった。
一方で裁量をもったおじさん連中は「オタクのもの」「おもちゃでしかない」とまったく取り合わず、結果として多くの企業、業界がインターネット化の波に乗り遅れてしまったのだ。いまだに日本のビジネスにおいてFAXの重要性が高いのはこのときの名残だろう。
同じことが今、人工知能で起こっていると松尾教授は言っている。
一方、日本のAIベンチャー、株式会社コーピーの山元浩平CEOは、日本発AIスタートアップ関係者らが多く登壇したあるイベントで「日本の技術力が低いわけではない、論文発表の重要性が理解されていないために国際会議での発表数が少なくプレゼンス(存在感)を示せていない」と語り、その原因に日本の大学院はマルチタスク ――研究、実験、論文執筆を一人ひとりに求めすぎることではと分析する。
これらの意見を総合すると、日本のAIがいまいち存在感を示せていないのは、
- 技術力のある若い研究者や意欲ある若手社員に力(決裁権)がない
- 逆に決裁権のある人たちにとってAIは理解しにくく結果として予算がつきにくい
- 研究施設では論文の価値が低く見積もられ、国際市場で存在感が示せないために売れない
- 売れないから、決裁権のある人たちの興味は国産AIから離れていく(以下1に戻ってループ)
という悪循環に陥っている現状が見えてくる。
Googleが日本で展開するAI事業が環境を変えるか?
さて、タイトルに戻ろう。2018/9/18にGoogleが開催したイベント、「Cloud Next 2018」で日本市場にとって重要な発表が2つあった。
1つはCousera(コーセラ)にGoogleが持っているマシンラーニング分野のコースと、資格検定であるAssociate Cloud Engineerを日本語化した上で、ASLの世界で4番目の拠点として東京を選び、日本の技術者が人工知能関連のスキルを身に着けやすくしたこと。
そしてもう1つが、ファストリテイリングとのパートナーシップ契約である。
つまり、人工知能についての総合的な教育・開発環境が日本に生まれ、さらにはファストリテイリングを手始めに実務分野でも実績を残そうとしているわけだ。
これは、先ほど示した「国産AIが陥っている負のループ」における「2.決裁権のある人達にAIが理解されない」を解決する手になると私は考えている。
日本のビジネスでは「前例」が大切だ。その点で、Googleという世界的な大企業が日本を代表する企業のひとつであるファストリテイリングと組んだことはインパクトが大きい。
ほんとうの意味でAIの価値は理解できないとしても、このタッグが日本で生まれたことでAIが「カネになる」ことへの理解が急速に進むだろう。
となれば、いまAIを研究開発している研究機関やベンチャーへの投資が盛んになり、論文発表の機会も増えるかもしれない。
まずはGoogleの手を借りることにはなるが、日本が「失われた○○年」の数字を更新し続けている現状に少しでも歯止めをかけるきっかけになることを願うばかりである。
<このライターの記事をもっと読む>
「テクノロジー逆転現象」で先進国が「テクノロジー後進国」になる未来
クリエイティビティは人間の聖域か? ―AIが生み出したジャパニーズアイドルたち
関連記事
-
NEW
-
ペット事業に参入したシャープによる猫用システム「ペットケアモニター」
AIやIoTに参入するシャープ シャープが掲げる「AIoT」とは、AIとIoTを組み合わせた造語です。これまでシャープは、スチームオープンレンジ「ヘルシオ」や、ロボット掃除機「ココロボ」といった生活家 ...
続きを見るスマートホーム(スマートハウス)の記事2018.09.29
-
NEW
-
AIを知る本棚 vol.1 「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(新井紀子/東洋経済新聞社/2018年2月刊行)
「シンギュラリティが到来する?」――到来しません。 AIが東大を目指す、というプロジェクトについて聞いたことのある読者も多いだろう。日本の国立情報学研究所が主導で「ロボットは東大に入れるか」をテーマに ...
続きを見るスマートホーム(スマートハウス)の記事2018.09.28
-
-
AIにとって理想的な「教師」は誰か? メルボルン大学のチームが実験で「AIの危険性」に警鐘
実験に使われた「生体ミラー」 ※画像はイメージです この実験では「生体ミラー(原文では The Biometric Mirror)」という装置が使われた。これは、1万の顔データを備えた人工知能によって ...
続きを見るスマートホーム(スマートハウス)の記事2018.09.25
-
-
Qrio Smart Lockなら、鍵をシェアすることできて、スマホで解錠できる!
Qrio Smart Lockなら、まるで鍵を開けるかのようにスマホを操作するだけ Qrio Smart Lockは、スマートロックサービスです。 鍵をドアに設置する際の工事も不要です。鍵につけさえす ...
続きを見るスマートホーム(スマートハウス)の記事2017.10.02
-
-
これからのスマートホームには欠かせないAIについて知っておこう!
そもそもAIって何? AI(Artificial Intelligence=人口知能)は、人間が行う様々な作業や活動をコンピューターなどで模倣し、人間と同じような知能の実現を目的としたソフトウェアおよ ...
続きを見るスマートホーム(スマートハウス)の記事2017.10.02
-
-
人の感情に共感する次世代のAIロボット「JIBO」とは?
多くの可能性を秘めた新型AIロボット「JIBO」 JIBOは、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)のシンシア・ブリジール准教授により開発されました。 その後、2014年にIndiegogoのク ...
続きを見るスマートホーム(スマートハウス)の記事2017.10.02