ZOZOTOWN・前澤氏の月の周回軌道に入らない宇宙旅行が「月旅行」とは言えない理由「高速で熱海のICで降りずに自宅に戻ってるようなもの」
💡ここがポイント
●ZOZOTOWN創業者・前澤友作氏が「2023年に月旅行をする」と発表。
●この旅行の詳細について岡田斗司夫氏が生放送で分析。
●実際に月に行ったアポロ11号と比較しながら、前澤氏の宇宙旅行について見解を語った。
毎週日曜日、夜8時から生放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。9月23日の放送の中で、パーソナリティの岡田斗司夫氏は、ZOZOTOWN創業者の前澤友作氏の月旅行について言及しました。
“宇宙マニア”としても知られる岡田氏は、前澤氏が搭乗予定の米スペースX社のロケットの軌道について解説した上で、「あれは月旅行とは呼べない」と苦言を呈しました。
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「月に行く」のと「月の近くを通過する」のは全く違う岡田:
これが、今回発表されたスペースX社のロケットの軌道です。スペースX社のロケットは、まず、地球から発射されて、地球の衛星軌道に乗って、そこからもう一度加速して月に近づき、“近月点”という最も月に近づいた部分に達して、そのまま地球に帰ってきます。
この軌道は実際に月に行った“アポロ計画のロケット”とどう違うのか? アポロ計画のロケットは、月の周りを回ってるんですね。地球から発射されて、衛星軌道に乗って、加速して月に向かうところまでは一緒なんですけど、月の周りを回って、そこからもう一度加速して地球に帰ってくるというコースを取っているんです。
これ、宇宙に興味のない人とか、素人から見たら大した差に見えないんですよ。でも、専門の人から見たらこの差はエラい違いなんです。
スペースX社のロケットの軌道というのは“弾道コース”といって、言ってしまえばトランポリンで飛んでいるようなものなんですね。月に行っているように見えるんですけど、違うんですよ。月の近くまで思いっきり跳ねて、落ちてきているのと同じなんです。
要するに、月の軌道に降りていないんですよ。「いや、降りてないと言っても、月まで行ったんだから大したもんじゃないか」って考えるかもしれないんですけども。宇宙空間の軌道というのは、一度乗ってしまえば、放っといても乗りっぱなしなので、これは技術的には大違いなんです。
この弾道コースというのは、例えるなら“高速道路”のようなものだと思ってください。つまり、スペースX社のロケットを使った前澤さんの旅行というのは、高速バスみたいなものに乗って、月というインターチェンジで降りずに、そのまま高速道路を通過して自宅に戻ってきているだけなんです。
例えば、東京の高井戸料金所の辺りから上がっていって、熱海の辺りに行こうとも、そのまま高速から降りずにグルっと東京まで帰ってきたとしたら、「俺、今日、熱海に行ってきたわ」とは言えないですよね。
一旦、料金所で降りて、最悪、自動車から降りなくてもいいから、その土地で一息つけば、それは「熱海に行った」だと思うんですけど。高速から降りずにそのまま帰ってきたんだったら、「熱海の辺りを通った」だと思うんですよね。
「月に行った」アポロ計画のロケット岡田:
アポロ計画では、逆噴射できるロケットエンジンを搭載した宇宙船で月の軌道を回って、実際に降りるかどうかはその場で判断するとしても、もう一度、月の軌道上からロケットエンジンを吹かして地球に戻って来て、さらに地球の近くで減速するという、ものすごい難しいことをやっているんです。そういう意味では、アポロ11号はちゃんと「月に行った」んですよ。月面に着陸したから。
アポロ8号に関しては、今回の前澤さんのプランと同じように、月の周りを回ってきただけなんですけど、それでも、ちゃんと月の近くで逆噴射エンジンを掛けて、月のパーキング・オービット(周回軌道)に乗っています。
そして、地球からの電波が届かないところで、独自計算をしてロケットエンジンを吹かして、もう一度トランスファー軌道(地球帰還軌道)に乗って帰ってきた。そんなかなり難しいことを、船内に2つ、3つ積んであった“ファミリーコンピュータ”並の処理能力しかない当時のコンピューターを使ってやってのけたので、「そりゃすごいな」って思ったんですけども。
でも、スペースX社のロケットというのは「東名高速から降りてないのと同じ」だと、僕は思うんですよね。細かいことなんですけど、月面に降りないからダメというわけではないんです。月の周回軌道に入っていなければ、月に行ったことにはならないんです。
「あれは月旅行ではない」とは誰も言わないこんなことは普通の人は知らなくて当たり前だし、それでいいんですよ。ただ、大手新聞社の科学部の記者だったら、絶対に知っていることなんです。
だけど、今、出回っている記事の中で、そこにツッコんでいる記事を僕は全く見たことがない。これについて「すごいな」って思うんです。前澤さんというのは、ZOZOTOWNとして莫大な広告出稿を支払うことで、業界ですごく力を持っているので、「あれは本当は月旅行じゃないぞ」とは、誰も笑わないんですよね。
ロケット事業をやっているホリエモンなんか、すごく意地悪なこと言ってますよ。取材に対して「いやあ、俺にはそんな金はないから行かないよ」なんて冗談めかして言いながらも「……まあ、金があっても行かないけどね」なんて言ってます。あれが月旅行とは言えないことを知ってるからですね(笑)。
つまり、「前澤さんが行くのは“月旅行”ではない」ということですね。
▼記事の箇所は22:20からご視聴できます▼
『#249表 岡田斗司夫ゼミ【錯覚の心理学】ZOZOTOWNの社長が買い占めた宇宙旅行代金はもっと安い?ガイナックスはトップ3を作らない?』
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