2018年10月2日
2018年ノーベル生理学・医学賞:がんを攻撃をする免疫のブレーキを外す新たな治療法を発見した本庶佑氏らに
がんの治療は,長らく「手術,放射線照射,化学療法」の3本柱と言われてきた。2018年ノーベル生理学・医学賞は,4本目の柱である「免疫療法」を打ち立てた,京都大学特別教授の本庶佑氏と米テキサス大のアリソン(James P. Allison)教授に贈られる。
本庶氏とアリソン氏は,がんを攻撃する体の免疫系にブレーキをかける仕組みをつきとめ,そのブレーキを解除する「免疫チェックポイント阻害剤」を発見した。それまで打つ手立てがなかった進行したメラノーマなどに対する新たな治療の選択肢となり,ガン治療の新たな可能性を開いた。
両者の研究はまったく異なる動機から,独立に始まった。先にカギとなる物質を発見したのは本庶氏らのグループだ。1992年,石田靖雅氏(現奈良先端科学技術大学院大学准教授)が,免疫を担うT細胞で多く発現する遺伝子の探索から,細胞のアポトーシスを制御するタンパク質の候補を見つけ,「PD-1」と名付けた。この名はProgramemed Cell Death(細胞のプログラム死)から来ている。だがその後長い間,この物質の機能はよくわからないままだった。
一方,アリソン氏らは1995年,先に仏のグループががんを認識するT細胞の活性化にかかわる物質として発見したCTLA-4(細胞障害性Tリンパ球抗原4)を調べ,T細胞の働きを抑える作用があると結論づけた。その後,CTLA-4が自己免疫疾患に関わっていることを示唆する研究が相次いだが,アリソン氏はがんの治療に使えるのではと着想した。この物質をブロックすれば,T細胞にかかっていたブレーキが外れ,がんに対する免疫力を向上できるのではないか。そして1996年,がんを移植したマウスに抗CTLA-4抗体を投与し,がんが消失することを見いだした。新たな免疫療法,免疫チェックポイント阻害剤の登場である。
アリソン氏らはこの手法を様々な動物モデルで確かめた。だが当時,製薬大手はほとんど関心を示さなかった。ベンチャー企業のメダレックスがアリソン氏らと共同でヒト型抗CTLA-4抗体を開発。後に同社を買収したブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)が治験を実施した。メラノーマ患者に対する第3相試験で生存期間を延ばすことが確認され,2011年に米食品医薬品局(FDA)とEMA(欧州医薬品庁)から承認を得た。
一方,本庶氏らはPD-1の機能の探索を根気強く続けていたが,1999年,PD-1の遺伝子を壊したノックアウトマウスを作ったところ自己免疫疾患の全身性エリテマトーデスに似た症状を示し,これがPD-1がCTLA-4と同様の作用を持つことにと気づくきっかけになった。T細胞にあるPD-1が,ある種のがんの細胞表面にある分子PD-L1(PD-1のリガンド)と結合すると,T細胞ががんを攻撃できなくなる。
本庶らは小野薬品工業と共同で実用化に向けた研究を進め,小野薬はBMSと提携して2006年に治験を開始。進行メラノーマの患者に投与して効果を確認し,2014年に日本での製造販売承認を得た。現在ではメラノーマのほか,肺がんや腎臓がんなどにも使われている。
本庶氏のPD1とアリソン氏のCTLA-4は,ともにT細胞のブレーキとして働くが,その作用機序はまったく異なる(以下の図を参照)。
両方を併用することで効果が高まると期待され,メラノーマ患者を対象に臨床試験が実施された。2剤を併用した患者はどちらか1剤で治療した患者より生存期間が長く,その効果が確認された(下のグラフ。Wolchok JD. et al., New England Journal of Medicine, 2017, 377(14): 1345-56)。ただし大腸や脳下垂体・副腎系などに重い副作用が起きることがあり,課題として残されている。
免疫チェックポイント阻害剤の登場は,かつて「たいして効かない」とのイメージが強かったがん免疫療法のイメージを大きく変えた。現在も複数の製薬大手が開発を競っており,急性リンパ性白血病に対するCAR-T療法など,新たな免疫療法も登場している。本庶氏とアリソン氏が打ち立てた4本目の柱は,現代のガン医療を支えている。
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もっと知るには…
2016年8月号【特集:がん免疫療法】「本庶 佑(京都大学名誉教授)免疫チェックポイント阻害剤に道」
2015年1月号「がん免疫療法の新アプローチ」