独メディアがザクセン州民への「ヘイトスピーチ」を繰り返す背景

反論する者は皆「ナチ」よばわり
川口 マーン 惠美 プロフィール

右派攻撃は何でもあり状態

それでもザクセン・バッシングは止む気配を見せなかった。

ザクセン州民はナチ呼ばわりされ、緑の党の幹部は前述のデモを「ザクセンのポグロム」と名付けた。ポグロムというのは、もともとは「破壊・破滅」という意味だが、この場合は、ナチがユダヤ人に対して行った殺戮、略奪など集団的迫害行為を指す。

ケムニッツ市民のデモをポグロムというのは、明らかな暴走だ。それどころか、フェイクニュース、ヘイトスピーチの類だと私は思うが、それを指摘する政治家もいなければ、メディアもない。右派攻撃は何でもありだ。

9月1日には、それを見かねたザクセン州の州警が、「私たちの手元にあるすべての情報によれば、ケムニッツで外国人狩りは行われなかった」と発表し、メディアの報道を完全否定した。

しかし、そんな警察発表などどこ吹く風、9月3日発売の最大手のニュース週刊誌『シュピーゲル』のタイトル記事は、「ザクセン − 右翼が権力を手に入れれば」。表紙のデザインが不気味だ。

 

このザクセン・バッシングの背景には、明らかに、同州でのAfD(ドイツのための選択肢)の伸長がある。ザクセン州ではこの新興右派政党が俄然強く、既存の各政党にとっては重篤な脅威だ。

AfDの支持者は、既存の政治家やメディアの言葉を信用しておらず、一番真実に近いことを言っているのはAfDだと思っている。だからこそ、そのAfDを潰すために、政治家とメディアが渾然一体となっているのが現在の状況と言える。

それにしても、ドイツの主要メディアは、いつから政府のスピーカーのようになってしまったのだろう。

〔PHOTO〕gettyimages

AfD潰しの構図

さて、9月5日、決定的な事があった。ザクセンの州議会で、州首相クレッチマン(CDU・キリスト教民主同盟)が、「ザクセン州では、外国人狩りも、ポグロムもなかった」と明言したのだ。ザクセン州としての、バッシングへの厳重な抗議である。

クレッチマン氏は可哀想なほどやつれていた。彼はこのスピーチにより、自党の党首であるメルケル首相に楯突いたことになる。とはいえ、州首相というのは、州民の後ろ盾がなくては存在し得ない。前も後ろも絶壁というギリギリのところに、クレッチマン氏は追い込まれている。

そうする間に、二人の殺人容疑者についての情報が少しずつ漏れ出てきた。連邦法務省の発表によれば、一人目は2015年9月、メルケル首相が国境を開いたときに入ってきた89万人の難民の一人。シリア難民というが、それは自己申告によるもので、パスポートはない。

二人目は麻薬売買、傷害罪の前科のあるイラク人。こちらは身分証明書はあるが、偽物だった。しかも、彼はすでにブルガリアで難民申請が終わっているので、本来ならばドイツの滞在許可はないが、なぜか美容院で働いていたという。