■統合失調症かもしれないコンビニ店員さんのこと

ネットで話題になったので読んだ。

私には統合失調症の身内がいる。他に見る人がいないので私が後見人をしている。

引きこもりが始まったのが高校卒業頃。当時彼の母親はすでにいなくて、父親は異変に気付きながらも10年間引きこもりをどうすすることもせず、またすでに家を離れていた私の手助けにも頑として首を縦に振らなかったのでその間何もできなかった。その後父親が弱って老人ホームに入ったタイミングで速攻保健福祉センターの手を借りて措置入院させ、そこで統合失調症と判明したため、今で6年になる。

その後父親も亡くなり一人世帯となったので生活保護を受給していたが、昨年から障害年金を受給できるようになり、不足分だけを生活保護の助けを借りて入院生活を続けている。

はじめはお見舞いに行くのがホントに気が重かった。

いつも早く退院させてほしい、他人に邪魔されず今までみたいに家でずーっと考え事をしていたい、と延々と訴えられた。いやいや、髪の毛も爪も手入れもせずそのまんま、一人でお薬も毎回きちんと飲めないうちは無理でしょといっても話が通じないので辛かった。ケースワーカーと私は退院してグループホームで生活できるレベルになることを一応念頭においてるんだけど、共同生活はいや、とにかく一人で一日中ぼーっとしていたいの繰り返し。それが4年間続いた。

ところが5年目ぐらいからそういうことを一切言わなくなった。

入院した当初は私と目も合わすことができず言葉も発しなかったからそのことを考えると、今は病院でお買い物訓練とか、お料理体験とかさせてもらって少しずつ外での生活に向けた訓練にも参加できるようになって随分症状は安定しているように見える。もっとも他人と喋ったりすることは今もほぼないが。それなのに、今は見舞いにいってもいつ退院できますかと？聞かなくなったのだ。

最近退院したいって聞かないけど、どうしたの?と、この間聞いてみた。すると、もう外に出るのは怖いからと。初めは早く外に出たいと思ったけど、ここにようやく慣れてきたからこっちのほうがいいかもしれない。外に行ったらまた初めからになる、それならこっちのほうがマシだと。

統合失調症の人にも色んな人がいる。良くなって普通の生活ができるレベルになる人もいる。なのであくまでもこれは彼の話でしかないことをお断りしておく。

その彼の場合、6年経って一番よく面会に来る私には聞かれたことぐらいは答えるようになったしお風呂も一人で入れるようになったりして身の回りのことは以前より出来るようになった。でも、それだけで、社会にぽっと出たとき、やはり彼は普通の人から見たらちょっとおかしな人であることには違いないのだ。歩くときも少しふわーっとどこを見てるのかわからない歩き方だし、いつまでもぼーっと壁を見続けていたりする。他人に危害を加えることはないけれど、例えば電車に乗ったなら、隣に座った人には確実になにか感じるものがあるはずだ。なんかこの人変だ、と。この、なんか人と違う空気、なんか少しおかしな言動について、私達フツーを自認する人たちというのは恐ろしく敏感だ。

そしてそういう危害を加えるわけでもないけどなんか変な人のことを普通の人は恐れる。

彼が外に出たくないと言うようになったのは病院から出たら多くの普通の人の中で生きていくことの難しさを薄々感じているからかもしれない。

ケースワーカーも私も彼が色んな訓練をして社会の中にもう一度戻れるよう、一人暮らしは無理でもグループホームに入れるレベルになってほしいと願ってきたが、そういう訓練で克服できないもっと大本の部分が問題なのではないか。

ひと目でちょっと変な人と分かる特性を持ったままいわゆる普通の人に混じって生活することは果たして彼の幸せにつながるのだろうか、もしかしてそれはものすごく彼にとって辛いことはのではないか、そう思うことがある。

あのコンビニ店員さんの妄想的な言動は普通の人にとって、危害とは言えないけれど脅威ではある。お嬢さんは怖かったと思う。そして問題は、いくらコンビニ店員さんとしてスキルを身に着けてその部分で評価できても、訓練ではカバーできない特性を完全に封印できなければ社会は受け入れてくれない。普通の人というのはほぼ均一で、狭い範囲の中で自己を運転して生きている。そういうものなのだ。ほぼ同じ人たちの中に入るとほんの僅かな違いやはみ出しは大きく目立つ。そういうことなのだ。

福祉や医療の現場ではなるべく障害のある人を社会の中で生活できるようにしましょうという方針が取られていて、それは病院の社会化だっけ、素人なので不正確だが、つまりは一生病院で隔離するようなことはやめましょうということになってる。

あのコンビニ店員が社会の中で自分らしく生きれるのならそれがいい。でももし、それが当事者にとって苦しいことで、もしもっと他に自分らしくいられる生きる場所があったとすれば？

私は障害のある人を隔離しろという言っているのではない。

当然優勢思想には断固反対だし、怒りを覚える。

ただ、いま私が、身内のこと、そして今回のコンビニ店員さんのことから思うことは、「本人にとって生きやすい場所はどこか、本人のことを考えずに社会に出て生きることを目標とさせてしまっていないか」ということだけだ。

あのコンビニ店員さんがこのまま何事になかったかのようにお仕事を続けられるだろうか、クビになったのではないだろうか、と考えながら、うちの身内の彼がこの社会に馴染むことの難しさを感じた理由をぐるぐる考えてしまうのだ。

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Permalink | 記事への反応(1) | 16:55