テスラの会長兼CEOのイーロン・マスクが
米国証券取引委員会(SEC)に屈服
2018年8月7日に、テスラ(ティッカーシンボル:TSLA)の会長兼CEOであるイーロン・マスクが「テスラを420ドルで非公開化する準備中だ。資金のメドもついた」とツイートしました。
その余りに唐突なツイートは、マーケットを混乱させ、投資家はその真意を測りあぐねました。
その後、米国証券取引委員会(SEC)が調査に乗り出し、9月27日の朝までにイーロン・マスクと話し合いをして、彼が賠償金を払うことで無罪放免にする合意が出来ました。しかし、その合意の発表の朝になって、イーロン・マスクが突然心変わりし、この提案を蹴りました。
SECは仕方なく、即日イーロン・マスクの起訴に踏み切りました。訴訟が提出されたのは、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所です。ここは、証券関係の訴訟を扱う裁判所として知られています。
起訴に至った経緯を説明する記者会見は、SECが本当に怒っていることを感じさせる厳しいものでした。
自分がたいへんな間違いを犯してしまったことを悟ったイーロン・マスクは、弁護士を通じてSECに「もう一度示談に応じてくれ」と嘆願。SECは、1)イーロン・マスクが2000万ドルの罰金を払った上で、2)3年間、会長職を辞し、3)2名の外部取締役をイーロンのツイートのお目付け役として招き入れることを条件に示談に応じました。
問題となった「非公開化」発言は
「ガールフレンドへのウケ狙い」
米国の証券法では、上場企業の経営者が投資家を騙す発言をすることは禁じられています。SECは、訴状の中で「資金の出し手と出資の確約を得ていない段階で、取引条件もあいまいなままツイートしたのは明らかに嘘である」と主張しました。
確かにイーロン・マスクが「420ドルで非公開化する」とツイートしたのは一種のジョークであり、彼のガールフレンドへのウケ狙いだったと本人は語っています。
このジョークを解説すると、「420」は「フォー・トゥエンティ」と読み、午後4時20分を指します。これは「マリファナを吸う」という意味に使われているそうです。
「フォー・トゥエンティ」が「マリファナを吸う」という隠語になったのは、1971年にカリフォルニア州マリン郡のサンラフェル高校の生徒たちが、放課後4時20分頃にこっそり集まって大麻を吸ったことから来ています。この高校生たちの「冒険」が地下ミニコミ誌で紹介され、「伝説」になったというわけです。
生放送中に大麻を吸っていたイーロン・マスク
裁判をしても、はじめから勝算は無かった
イーロン・マスクは、9月6日にもユーチューブ(YouTube)で生放送されたコメディアンとのトークショーで大麻をスパスパと吸い、世間を御天させました。
その番組を収録したカリフォルニア州では大麻が解禁されているので、法を犯したというわけではないのですが、まだ解禁されていない全米の他の視聴者も視聴する機会があるこのような番組でマリファナをふかすのは、明らかに常軌を逸しています。
このことで多くの投資家は、「イーロン・マスクの様子がどうも変だぞ」と気付いたのです。
そもそも問題のツイートが「420(マリファナを吸う)」という冗談だったこと、その冗談のせいで投資家に迷惑がかかったこと、SECはしっかりした調査の上で「非公開化のための資金の確保が出来ていなかった」と判断したことなどからから考えて、この訴訟はイーロン・マスクには勝ち目は無かったと思います。
彼がプライドを捨ててSECにすがりついたのは、良い判断だったと思います。
「モデル3」の生産も軌道に乗らず悪戦苦闘
テスラへの投資家の評価が下落する可能性も!
イーロン・マスクは、SECから突き付けられた条件を呑み、会長の座を3年間退きます。しかしCEOは継続できるので、実質的にこれまで通り采配を振るうことができます。
これは、テスラ株の投資家にとって重要なことです。なぜなら投資家は、マスク個人のカリスマ性に魅せられてテスラ株に投資しているからです。またマスクは、単にCEOであるだけでなく、テスラのチーフ・デザイナーでもあり、テスラ車の設計に深くかかわっています。
テスラは、「モデル3」の生産がうまく軌道に乗らず悪戦苦闘しています。テスラの工場はカリフォルニア州フリーモントにあるのですが、生産工程の流れが悪いので、工場の外に仮設テントを張り、そこで組み立てを行うという苦しい操業を強いられています。
今後「モデル3」の増産が上手く行かない場合、投資家の忍耐力が限界に達するシナリオもあると思います。
テスラはSECとの和解の条件となった2名の社外取締役の人選を既に始めている、と伝えられています。
来年3月には巨額の転換社債の償還を迎えるテスラ
3カ月以内に20億ドル近い資金調達が必要か
テスラは赤字を垂れ流しており、バランスシート上には90億ドルの純負債が載っています。
2019年3月には、9.2億ドルの転換社債が償還を迎えます。この転換社債の転換価格は、360ドルです。現在の株価は264.77ドルなので株価がそれを超えない限り償還に応じなければなりません。
これとは別に、テスラは2025年償還のジャンクボンドを出しています。その利回りは「危険水域」と言われる8%を超えており、投資家が深刻な経営危機を織り込んでいることを暗示しています。
テスラがサバイバルするためには、3カ月以内に20億ドル近い資金を調達する必要があると言われています。
【今週のまとめ】
イーロン・マスクとSECの示談は成立したものの
テスラの危機は依然として去っていない
ちょっとした冗談から深刻な事態へと発展したイーロン・マスクのツイート問題は、マスクがSECに謝罪、罰金を払うことで示談成立となりました。
テスラが2名の社外取締役を招き入れることは、テスラのガバナンスの向上につながると思われるため良いニュースです。
一方、テスラは資金繰りに窮しており、「モデル3」の生産も立ち遅れています。また、イーロン・マスクの軽率なツイートと一連の奇行で、投資家からの信頼はかなり損なわれたと思います。
つまり、きちんとした業績を出して行かない限り、テスラの危機は去らないということです。
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