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1958年12月18日、イングランド南部、サリー州ハスルミアでの出来事である。
上級公務員の妻、ダイアナ・ブロムリー(39)には過去に3回、精神医療施設に入院した経歴があった。しかし、その心は尚も癒えていなかった。その日、ダイアナはクリスマス休暇で寄宿学校から帰省していた2人の息子、マーティン(13)とスティーヴン(10)に睡眠薬を飲ませて眠らせると、無理心中を企てた。
まず、ガレージに息子たちと寝具を運び、自動車のエンジンを掛けて一酸化炭素中毒で死のうとした。ところが、どうもなかなか死ぬことが出来ない。そこでマーティンの首をベルトで締め、スティーヴンを浴槽に沈めた。そして、確実に死に至らしめるために、それぞれの喉を剃刀で切り裂いたのである。その後、自らの喉も切り裂いたのだが、やはりなかなか死ぬことが出来ない。仕方がないので、首に重りを巻きつけて、庭の池に飛び込んでみた。しかし、浅いのでやはり死ぬことは出来なかった。死にたいのに死ねない苦しみ。
「死ねな〜い、死ねな〜い」
と泣き叫んでいるところをご近所さんに見咎められて、通報された次第である。
かくして、精神異常と判断されて精神医療施設送りとなったダイアナ・ブロムリーは、なんとフランケンシュタインの怪物役で有名な怪奇俳優、ボリス・カーロフの姪っ子だという。事件翌日の新聞にも、
「Mrs. Bromley, niece of horror actor Boris Karloff」
と書かれているので、本当なのだろう。これにはかなり驚いた。このことは映画マニアの間でもほとんど知られていない。
(2012年10月6日/岸田裁月)
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