GameTheory  
 
 ソーシャリストのためのゲーム理論である。
 ゲーム理論は、遊戯(ゲーム)の理論ではない。もちろん、遊戯(ゲーム)を扱うこともあるが。「戦略」とコトバが頻出するが,争いや戦争だけを扱うものではない。もちろん、争いや戦争を扱うこともあるが、同じくらい協調や協力を扱うこともある。
 ゲーム理論は、意志決定できる主体同士が相互依存の関係に結ばれる場合の、意志決定やその帰結を取り扱うことができる。
 エルスターは「マルクス主義・機能主義・ゲーム理論」で、「ほとんどすべてのマルキストは合理選択理論を、とりわけゲーム理論を拒否してきた。しかしゲーム理論は、搾取に階級闘争、提携に革命などに取り組もうとする歴史的過程の分析にとって計り知れない価値がある」といっている。


*Elster, Jon (1982), Marxism, Funtionalism, and Game Theory: The Case for Methodological Individualism, Theory and Society 11 (4), pp.453-482.この論文はエルスターのホームページ全文公開されている。

 

元ネタ&参考図書

 ソーシャリスト用にゲーム理論について解説した(元ネタにつかえそうな)書籍は残念ながら見つけられなかった。
 日本では、たとえば吉原直樹氏や松尾匡氏の論文が、我々が想定しているものに近い。両氏のサイトには論文の電子データや概要が掲載されている。
(一般に学会誌などに掲載された論文は、学生や教員として大学に属してもいないと入手が難しいが、近年、金はかかるが国会図書館を通じてハードコピーを入手することができるようになった)。

 当サイトが想定する読者は、ゲーム理論入門者や未入門者である。
 提供できる情報はとても十分とはいえない。以下のリストは、ソーシャリストがゲーム理論をつかった研究を理解したり、応用したりできるよう基礎的なトレーニングのために作られている。
武藤 滋夫「ゲーム理論入門」(日経文庫、2001)
は、戦略型ゲームや展開型ゲームからはじめ支配戦略均衡、ナッシュ均衡、部分ゲーム完全均衡、ベイジアン均衡と進み、進化ゲームや適応的学習ゲームといった近年のトピックまでカバーして新書サイズ、コストパフォーマンスが高い。事例を示し、数値例を使って説明するというスタイルも、入門者のソーシャリストには親しみやすいだろう。よりやさしいみかけの、ゲーム理論系おもしろ事例本は




 
Prisoner's Dilemma

ゲーム理論のはじめ

1ジレンマを考える
(1)囚人のジレンマ(黙秘,自白)
(2)PDの見えない第3のプレイヤー(看守?)
(2)ストライキのジレンマ(スト,スト破り)=白人と黒人、A国とB国、などなど・・・

A\B
黙 秘
自 白
黙 秘
 2,2
3,−1
自 白
−1,3
0, 0


囚人のジレンマゲームは一般にゼロ・サム・ゲーム(zero-sum game=プレーヤー間の利得の合計が常にゼロになるようなゲーム)ではない。しかし、囚人がいるのに看守(あるいは警察)がいないのは、なんとも不思議なことである。囚人がどちらも自白してくれれば、捜査にあたっている警察や司法取引で事件の情報を引き出そうとしている検察は、その分得をする。看守(あるいは警察または検察)を勘定に入れると、囚人のジレンマゲームは、プレイヤーが3人のゼロサムゲームになる。

 もう少しソーシャリストに馴染みの深いゲームとするために、看守(あるいは警察または検察)と囚人のかわりに、資本家と労働者に登場願おう。
 AとBは、労働者個人というより、労働組合などの集団である。いま、労働者集団AとBは(独房に入れられた囚人のごとく)互いに連絡を取り合うことができないとする。この想定にあてはまるのは、たとえば国際資本に対するA国の労働者集団とB国の労働者集団、あるいは歴史をさかのぼると、社会学者マートンが自己成就的予言の例に用いた、お互いに協力し合うどころか反目しあった白人労働者たちと黒人労働者たち、あるいは同様に反目し合う革新政党やそれぞれに結びつく2つの組合などがあげられるだろう。

A\B
ス ト
スト破り
ス ト
 2,2
3,−1
スト破り
−1,3
0, 0


 AとBは協力しあってともにストをすれば、どちらもプラス2の賃上げを達成できる。しかし資本側は分断を画策しており、ストをすれば解雇するぞと脅し、スト破りをしてくれれば「君たちにだけ」プラス3の賃上げを約束しようと「アメとムチ」を持ちかけている。どちらもストを止めると解雇されることはないが、賃上げは達成されない。こうした場合、AとBのそれぞれの戦略と、それぞれの利得は上のようになる。これはもちろん囚人のジレンマ・ゲームとなっており、AとBどちらにとっても「スト破り」が支配戦略である。

 資本家は、条件を提示しゲームの枠組みをつくりあげるまでですべてを終えていて、このゲームの中には登場しない。しかし、片方と結託してプラス3の賃金の追加支払いをしても、どちらもストをして2+2=4の追加支払いするよりもましである。そして2つの労働者集団が自分たちの利益を最大化するという合理的行動をとるならば、双方とも「スト破り」が支配戦略となるのだから、結局まったく追加支出が発生しないことを狙っているのである。

 なるほど、スト権が認められる現在では、1社や1業界や1国あたりでこうした分断は表立ってはいない。そのかわり、海外に生産拠点を移すことで、複数国の間で実質的に労働者の連帯を分断させることが行われている。30時間労働を求めた西ドイツの労働組合に対し、ドイツの産業界は日の丸を掲げて「アジアのライバルは〜だ」と反対した。
 安い生活費のためになおさら安い賃金に支えられた激安である原材料の国際価格や、新興工業国のやはり安い賃金に支えられた安い工業品価格との競争のため、一層の合理化や実質賃金の安い不安定雇用者の活用が行われる。これに対して多くの先進工業国の労働組合は、自国労働者の雇用や賃上げだけに力を注いできた。




BattleOfSexes

2男女のゲーム
(1)ボクシングかバレイか
(2)混合戦略(確率による戦略から戦略をとる人の割合へ)
(3)役割分担均衡(男女ゲーム)

TreeOfGame

3木を書く(分岐で整理する)
 (1)行き着く先の確率
 (2)意思決定を含む=デジジョン・ツリー
 (3)複数人の意思決定を含む=ゲームの木
 (4)極端に視力が弱い場合=情報集合

Signaling
 
 
コピーされたトピック
    シグナリング
        ソーシャリストは、シグナリング・ゲームを学ぶとよい。
ブルデューのいう卓越化(ハビトゥス≒「お育ちによるふるまい」による選別)、(マルクスが目にした初期資本主義ではプロレタリアートの家族はどんどん解体していっていたのに)後期資本主義ではなぜ家父長制が再生産されるのか、果てはヤンキーはなぜ早婚か(Theodore Bergstrom and Mark Bagnoli(1993), "Courtship as a Waiting Game", Journal of Political Economy , Volume 101, Issue 1, pp.185-202.  ; http://ideas.repec.org/a/ucp/jpolec/v101y1993i1p185-202.html)まで(ついでにいうなら、クジャクはなぜムダに派手か、まで)統一的に理解できる。

シグナリング・ゲームを、おおざっぱに説明すると(よくつかわれる学歴ゲームを例にすると)、こんな風である。

ある人が仕事ができるかどうかは、パッと見ではわからない。そして学歴は、仕事ができるかどうかとは、無関係である。なのに学歴が雇い入れの際に、選別に使われるのはなぜか?
それは、学歴を取得するのに(受験勉強などの)コストがかかるからである。

雇われる方は自分の仕事能力が高いか低いか(少なくとも雇い入れる企業よりは)知っている。ならば、雇い入れる企業は「高学歴な人には高給を出します」と表明すればいい。自分の能力が高いことを知っている人は、あとでそのコストを回収して余りある高給を得られるのだから、コストをかけても学歴を取得しようとするだろう。自分の能力が低いことを知っている人は、そのコストを回収する見込みがないと考えて、コストをかけて学歴を取得することは避けるだろう。

(ふつうは、仕事能力が高い人は受験勉強のコストがより低く(つまり勉強好き)、仕事能力が低い人は受験勉強のコストが高い(つまり勉強嫌い)、という条件を付け加える。
ポイントは、選ばれる人にとってはベネフィットがコストを上回り、選ばれない人にとってはコストがベネフィットを上回りさえするものなら、なんでもシグナリングに使える)。

逆に選別につかうシグナルが、コストがかからないものであったら、どうなるだろう。たとえば能力の自己申告だけで給料が高い低いが決まるとしょう(コストはかからないと仮定しているので、仕事の内容などは自己申告によって厳しくなったりしない、とする)。コストがかからない自己申告なら、誰もが高給がとれる申告をするだろう。これでは自己申告はシグナルとしての役目を担えないだろう(これは別の利益が得られてコストを回収できる場合も、シグナルには使えないことを意味する。学歴や受験勉強は、それ自体ではそのコストを回収できない程度にムダなものである必要がある)。




        金持ちのベネフィット、コストを、それぞれ、Brh、Crh、と、あらわし、同じく貧乏人のベネフィット、コストを、それぞれ、Bph、Cph、とあらわすと、
Cph-Bph>0 かつ
Brh-Crh>0
と、なるものなら、どんなものでもシグナリングにつかえる。
            ゼロ・コスト=チープトーク
            有限のコスト=シグナリング
                どちらのコストも大きくなり過ぎると、一括均衡になる
                ハビトゥスは、無自覚なので、なかば差別(ディスクリミネイション)に近い。
            無限大のコスト差=アトリビュート(属性)/差別(ディスクリミネイション)
        シグナリングと卓越化(ブルデュー)
            区別のために、非生産的なコストをかける。
            ブルデューのハビトゥスによる選抜論の骨子は以下のようになる。すなわち、
ヒトは、幼児期の社会階層の高低におうじて、階層特有のハビトゥス(習慣)を(親などから)無意識に習得する。そして、若年・成年に進んでいく際に、タテマエにおいては学力などで選抜すべき入学試験などにおいて、このバビトゥスの差異によって、ヒトは高い階層へのチャンスの多寡へと選抜されてしまう。その結果、全体を客観的にみると、金持ちの子が、金持ちの子であるがゆえに金持ちにふさわしい身のこなし(ハビトゥス)をみにつけ、そのおかげで金持ちになりやすい学校などに進学でき、やがては金持ちなった、すなわち、階層的再生産が生じた、だけであった。のに、当事者の視点からは、「勉強したら、あるいは、生まれつき頭よかったから」いい学校に入れて金持ちになれた、と事態が「正当化」されてしまう、わけである(文化資本の無自覚的相続による、社会階層の誤認的再生産)。

                「パスワード改訂現象」
                    ハビトゥスによる選抜においては、パスワード改訂現象がしょうじているのではないか、とわれわれとしては推測(仮説)してみたい。こう考えることで、上述のハビトゥスによる選抜の謎(の少なくとも一部)が解かれる、とおもわれる。説明しよう。
すなわち、もしハビトゥスによる選抜が、あるハビトゥスをもっている者たちに有利に・他のハビトゥスをもっている者たちに不利に、なるのだとしたら、たとえ無意識であっても、長期的には、下位ハビトゥス保持者たちも上位ハビトゥスを習得してしまう蓋然性がある(高い)だろう。それにたいするいわば対抗方略として、上位ハビトゥス自体が「変異」して、いわば下位ハビトゥス保持者による「おっかけ」を「ふりきる」メカニズムが進化したのではないか、と考えてみたいのである。まさに、パスワード改訂メカニズムがここにも、生じているのではないか。このようにかんがえられるのではないだろうか。
ブルデューが直接あつかった論件について、この仮説を支持する知見が存在するかどうかは知らない。しかし、われわれ日本人には、この仮説を支持すると思われる知見・現象が身近に存在する。すなわち、柳田国男が見いだした方言周圏現象である(柳田1930)

                「限界費用の差異を利用したシグナリングメカニズム」である。
                    すなわち、下位階級の者(貧乏人)には、上位階級のハビトゥス(「上品」な習慣)を、習得するだけの「余裕がない」から、というものである。たとえば、「クラシック音楽、や、美術への、嗜好」によって、「お里が知れて」しまう事例を想起してみよう。
この回答は、じつはかなり正鵠を射ているとおもわれる。そしてまた、上記のパスワード改訂仮説と通底し、それてまたそれを包含するものであるとおもわれる。説明しよう。
まず、すぐうえでのべた、「貧乏人には、金持ちハビトゥスを習得する余裕がない」という点が、情報経済学における「シグナリング」理論の典型的な実例(ケース)となっていることを確認しよう(Spence 1973)。
                    「余裕がない」と直観的にのべたが、厳密には、コスト(Cph)をかけて金持ちハビトゥス(rh)を習得しても、それに見合うだけのベネフィット(Bph)をえられず、ペイしない、ということである。
他方それにたいして、金持ちの方は、おやが同様なハビトゥスをもっている、とか、もともと金持ちなので習得(に、たとえ貧乏人と同じ金額がかかったとしても)のさいの貨幣の限界負効用が少ない、とかして、コスト(Crh)が相対的に貧乏人ほどかからない。あるいは、貧乏人をふりきることのベネフィット(Brh)が大きい。こうして、都合、ベネフィットとコストの差し引きがペイする、ということである。

すなわち、あるハビトゥス(h)が、シグナリング(このばあいには、フィルタリング)として機能しうるための、必要条件は、そのハビトゥスを習得することによる金持ちのベネフィット、コストを、それぞれ、Brh、Crh、と、あらわし、同じく貧乏人のベネフィット、コストを、それぞれ、Bph、Cph、とあらわすと、

Cph-Bph>0 かつ
Brh-Crh>0
と、なることである。

いうまでもないが、上記のシグナリングメカニズムをもたらす「ネタ」はなんでもいい。上記の二不等式をみたすものなら、なんでもOKである。クラシック音楽や美術への嗜好の多寡、あるいは、お茶・お花への通暁の多寡、さらには、(入試にはつかえないが)持っている車(ベンツ?!)や服装の値段など、つかえるものはさまざまだろう。
しかし、いうまでもなく、このシグナリングメカニズムは、(上位者階層にとっても)コストがかかってしまう。これは、上位者もコストをかけることで、下位者との一種の「がまんくらべ」をして、下位者をふりきるメカニズムであるからだ。

                    なぜ、社会的な力をもっている上位階層がこのような「公平な」(そうであるがゆえに、絶対的に有利な自分のポジションにたいして相対的に不利な)メカニズムを受容しているのか。さまざまな理由がありうるだろうが、その大きな一つは、上記のパラサイト・シグナリングメカニズムによって、結果的に自分たちに有利な帰結がもたらされるからだ、とかんがえることができるだろう。(第一の、暗黙のご了解)。
ただし、この点は、すでに、ブルデューが、外見上の中立性・公平性がなぜ呼び込まれるのかについて論述していることで、実際上すでにのべられていたと解釈しうるかもしれない。
筆者としては、さらに「うがった」仮説をたててみたい。すなわち、すべての場合ではないにせよかなり多くの場合において、上記のような入試シグナリングのもつ、二重の機能(表のシグナリング、と、裏のシグナリング)を、じつは下位階層も無意識には了解しているのではないか、ということである。そして、相対的劣位者との優位者との「暗黙の交渉」によって、「名目ともに、とられるよりはマシ」として、いわば「名を取って、実をゆずっている」のではないか、ということである。

        情報の非対称性と役割分担均衡
            無限のコスト=アトリビュート(属性)/差別(ディスクリミネイション)
                (シグナリングは有限のコストによる意図的なものだが、役割分担均衡をもたらすのは(選べないという意味で)限界コストが無限大で、自分で選ぶことができないこと(属性アトリビュート)についての「シグナリング」である(コストゼロのシグナリングは、いわゆる「チープトーク」である)。それは経路依存的で、フォーカス(焦点)である。国境がフォーカスであるような意味で)
            労働者達相互と企業の間のゲームモデルである。労働者は、自ら家事労働者・単純労働者になるか、それとも別の家事労働者の労働と企業の養成費用を得て複雑労働者になるかを選べる。企業は、労働者を複雑労働者にするための養成費用をかけるかどうかを選べる。この結果、複雑労働者と単純労働者の生産性格差が大きいもとでは、労働者を無差別に扱うならばすべての労働者が複雑労働者を目指すため誰もそれになれないパレート非効率な解がナッシュ均衡になるが、何でもいいから労働人口を外見で二分できる指標により片方が複雑労働者になれない予想が与えられるならば、その指標によって複雑労働者と家事労働者に分かれることが何の外的強制もなしに各自の合理的選択の結果として維持される。そしてこれがパレート効率的なナッシュ均衡となる。ところが複雑労働力と単純労働力の生産性格差などのパラメータが変化すると、この後者のナッシュ均衡が消失する。
 このモデルは、追手門大学の川口章氏がすでにほとんど同じ精神のモデルを発表していたために、未公表としてある。しかし、性別以外に民族等、人口を二分する指標があれば何でもこの役割分担均衡成立の根拠になること、パラメータの変化によって解が消失することなどが、もっぱら私のモデルの特徴である。
        シグナリングと男性晩婚(はクジャクの羽)
            女性の価値は見た目で分かるが、男性の価値は見た目ではわからないのでシグナリングが必要になる。
            ハンディキャップ理論
                さてここで、発想の転換が必要です。こうやって、やたら重くて、頭からつんのめりそうになるような、困ったお荷物だからこそ、それを抱えられるということが強さのシンボルになるのじゃないでしょうか? (ツノ=セルフ・ハンディキャップ仮説)

  もし、体が十分に大きくなかったら、大きくて、よく目立つ立派な角なんて、上手に支え切れません。バランスを崩して、ふらふらしてしまうでしょう。でも、体さえ十分に大きければ、すなわちそのシカが強いシカであれば———そりゃ、そんなものない方がもっと楽に決まってますけど———なんとかその角を支えながら、きちんとシカらしい人生を全うできるはずです。

  一方また、グラファイトのような軽くて強い素材を使って、いくらでも大きな角を、体の小さな雄でもつけて歩けるとなったら、どうでしょう。はじめのうちは、雌もだまされるかも知れません。でも、そのうちに、そんな角など信用しなくなってしまうでしょう。そしてまた、体の大きな雄は、小さな雄との差が一目でわかるような、別のシグナルを開発するに違いありません。

  逆にいうなら、角というのは、そういうずるやはったりがきかないがゆえに発達してきたということがいえるでしょう。

  そんなツノに、学歴ってよく似てると思いません?

 
                さて、受験勉強と学歴に戻りましょう。僕らが、人と出会った時に、こいつはどの位できるやつだろうか、ということを判断するための情報は、非常に限られています。もちろん、何とか会社の部長さんとかいう肩書きでもよいのですが、それらは何らかのかたちで規格化されている必要があります。そのうえで、学歴(あるいは入学時の偏差値)は最もよい基準になります。

  もちろん問題は、規格化だけではありません。まず、人の潜在的な能力を直接的に表現することは、ほとんど不可能に近いのです。

  そこで、彼らのもつ能力ができるだけ直接効いてくるようなところで、ハンディキャップの材料を用意してやります。受験生達は、そのハンディキャップを自分に耐えられる範囲内で、背負っていきます。これが、受験勉強だということです。

  もし、受験勉強が(シグナルとして以上に)役に立つものであれば、みんなどこまでも勉強をしてしまって、能力のシグナルとしては使えなくなってしまうでしょう。

それでも、このシグナル・ゲームから、下りることはできないのです。もし、下りたら最後、「下りなきゃならないだけの能力しかなかったのだ」と判断されてしまうのですから。

                あえてオリジナリティを訴えるとすれば、学歴というシグナリングの「制度」の淘汰と進化というような、ヴェブレン的発想が見え隠れしていることぐらいでしょうか。
                スペンスの学歴=シグナルという理論は、サローの職待ち行列理論やスクリーニング理論としてさらに発展していました。
                シグナリングから見たヴェブレンとブルデューの理論については、現在未発表の論考で検討してます。
               
           
                「1.シグナリングゲーム」「2.チープトークモデルル(クチサキコトバのモデル)」、ダーウィン生物学≒進化心理学における「3.ダンバーのコミュニケーションン====毛づくろい説」「4.ミラーらの、ハンディキャップ原理理====適応度指標の見せびらかしとしてのコミュニケーション行動論」、この四つの理説は「必須」である。(ただし、4は、論理的には、1の特殊例であることが近年知られるようになった)。このうちの一つも視野にない方が少なくないようである。
        チープトーク
             【チープトークゲーム】 

  不完備情報動学ゲームの例として、シグナリングのゲームを考えよ
 う。
  一般にシグナルの送り手と受け手がいて、送り手が自分のタイプに
 もとづいてシグナルを発信し、受け手がそのシグナルを見て(送り手
 のタイプを知らずに)なんらかの行動を行うゲームをシグナリングゲ
 ームという。
  このとき、シグナルの発信にコストがかかる場合と、実質的なコス
 トがかからない場合があるが、コストのかからないシグナルを用いる
 シグナリングゲームをチープトークゲームという。例えば<学歴>や
 <資格>をシグナルとして用いる場合は、学歴や資格の取得にコスト
 が必要なので有コストシグナルゲーム(ハンディキャップシグナルゲ
 ームともいう)であるが、音声言語をシグナルとして用いる場合は実
 質的にコストは必要ではないのでチープトークゲームである。

  シグナリングゲームを考えるうえで、シグナルの送り手と受け手の
 利害が一致しているかどうかは重要な要素となる。利害が対立してい
 る場合には、送り手はうそのシグナルをだすことで得をすることがあ
 りうる。シグナルにコストがかからない場合が、うそのシグナルも出
 し放題となるので、受けてはそのようなシグナルを信用することはで
 きない。このときにはシグナルによる情報伝達は起こらないと考えら
 れる。
  一方、シグナル発信にコストがかかる場合には、うそのシグナルを
 出すことに大きなコストが必要となり、うそをつくことが引き合わな
 くなるために、そのようなシグナル発信が抑止される場合もある。そ
 のような場合には、受け手はシグナルを信用できるので、シグナルに
 よる情報伝達が可能であると考えられる。
  このように、利害の対立のある場合は、有コストシグナル(ハンデ
 ィキャップシグナル)による情報伝達のみが可能で、チープトークシ
 グナルによる情報伝達は起こらないと考えられる。
  一方、送り手と受け手の利害が一致している場合には、チープトー
 クシグナルによる情報伝達が可能になる。たとえば、どこかで待ち合
 わせをしようとする場合、その場所を口頭で知らせることは両者にと
 って利益となる。待ち合わせ場所を「北口」といっておいて、わざわ
 ざ南口に行ったりすることは、送り手にとっても受け手にとっても利
 益にならない。このように、両者の利害が一致する場合は、シグナル
 にコストがかからない場合にも情報伝達が可能になる。

  以上のようにおおまかにいって、利害が一致しているときにはチー
 プトークシグナルは機能するが、利害が対立している場合には機能し
 ないことが予想される。では両者の利害が部分的に一致し、部分的に
 対立する場合はどうであろうか。次のようなモデル(クロフォードと
 ソーベルのモデル)を立てて考えてみよう。
  送り手のタイプtは0〜1までのいずれかの実数であるとする。ど
 のタイプも等しい確率で自然から割り当てられる、すなわち、タイプ
 の分布は一様分布であると仮定する。
  送り手は自らのタイプを知ったうえでチープトークシグナルsをお
 くる。受け手はシグナルsを見て(送り手のタイプを知らずに)行動
 xを取る。このとき、受け手の利得Urは
    Ur=−(x−t)^2
 であるものとしよう。つまり、受け手は送り手のタイプを見抜いて
 x=tなる行動を取ったときに利得が最大になるものと仮定する。
  一方、送り手の利得Usは
    Us=−(x−tーb)^2
 であるとする(ただしb≧0)。送り手の側としては、受け手が自分
 のタイプをbだけ「過大評価」して、x=t+bなる行動をとったと
 きに利得が最大になると仮定することにしよう。
  ここで、bが0の時には両者の利害は完全に一致する。bが次第に
 大きくなると両者の利害は次第に乖離していく。したがって、bは両
 者の利害の一致度(不一致度と言うほうが適切だが)を示すパラメー
 ターであると考えられる。このような状況で機能しうるチープトーク
 シグナルが存在しうるであろうか。存在するとすれば、それはどのよ
 うなシグナルであろうか。

  この問題を以下の手順で考えてみよう。まず、送り手のシグナルの
 発信戦略s(t)を所与としたときの、受け手の最適反応(シグナルの
 最適解読戦略)を考える。次に、この受け手のシグナルの解読戦略を
 所与としたときの送り手のシグナルの発信戦略を考える。この発信戦
 略が最初の発信戦略s(t)と一致していれば、この発信戦略と解読戦
 略の組はNash均衡となり、安定なシグナリングシステムが存在する(
 最適反応が一意な場合は、進化的に安定なシグナリングシステムにな
 る)。
  この手順でs(t)に逆関数がある場合とない場合について、均衡シ
 グナルの有無を考えてみよう。

 1)s(t)が逆関数を持つとき。
  s(t)が逆関数を持つときは、シグナルの受け手の最適反応は、
 s(t)の逆関数でシグナルを解読して、x=tとなる行動tをとるこ
 とである。
  この解読戦略に対する、シグナルの最適送信戦略は、タイプtのと
 きにs(t+b)なるシグナルを送って、相手にx=t+bなる行動を
 とってもらうことである。s(t)に逆関数があるときは、s(t)と
 s(t+b)は一般に一致しないので、この場合は均衡シグナルは存在
 しないことがわかる。

 2)s(t)が逆関数を持たないとき。
  甲)s(t)が定数のとき
  s(t)が逆関数を持たない場合もいろいろあるが、いちばん簡単な
 場合として、s(t)が定数の場合を考えてみよう。
  この場合、送り手はタイプにかかわらず、定数のシグナルcを送信
 する。これに対する受け手の最適反応は、タイプが一様分布している
 ので、常にx=1/2 を返すことである(c以外のシグナルがたまたま
 観察されても、送り手のタイプについての何らの情報も得られないの
 でやはりx=1/2 を返すことが最適)。
  この受け手の反応に対する、最適送信戦略は、どのシグナルを送っ
 てもx=1/2 が帰ってくるので、任意のシグナルを送ることである。
 この場合に定数シグナルcを出す場合は含まれるので、(シグナルc、
 x=1/2 )の組み合わせはNash均衡である。
  ★ この組み合わせは「弱い」Nash均衡なので、進化的に安定なシ
 グナリングシステムではありません。

  乙)s(t)がステップワイズ関数の場合
  tがある値以下ではs(t)=L(ローシグナル)、tがある値より
 大きいときにはs(t)=H(ハイシグナル)、ただしL<H、を送信
 するような、ステップワイズの送信戦略の場合も、逆関数が存在しな
 い。tの閾値をk(0<k<1)として、この2段階ステップワイズ
 戦略が均衡戦略になる場合があるかどうか、調べてみよう。
  この場合、受け手の最適反応は
    シグナルLに対して x=k/2
    シグナルHに対して x=(k+1)/2
 で返すことである。
  受け手が上記のように反応する場合、送り手はt+bが k/2 に近け
 ればシグナルLを、(k+1)/2 に近ければシグナルHを出すことが最適に
 なる。もうすこしきちんというと、 k/2 と(k+1)/2 の中間 k/2+1/4
 を境として
    t+b<k/2+1/4 のときシグナルL
    t+b>k/2+1/4 のときシグナルH
 を出す戦略が、送り手の最適戦略となる。これは、k=k/2+1/4-b す
 なわち、k=1/2-2b のときに最初の送信戦略と一致する。
  ここで、k>0なので、1/2-2b>0(つまりb<1/4)のときには
 上記のシグナリングシステムが安定となる(これは強い均衡なので進
 化的にも安定)。
  この結果は利害が部分的に対立しても、その程度が比較的小さい場
 合にはチープトークシグナルによる情報伝達が可能であることを示し
 ている。一方、b>1/4 すなわち、利害の対立がある程度以上激しい
 場合には、2値のステップワイズシグナルも機能することができない
 ことがわかる。
  なお、詳しい説明は省くが、b<1/8 のときは3値の、b<1/16
 のときは4値の、・・ステップワイズ関数による情報伝達が可能にな
 る。利害の対立が小さくなるほど、より多くの情報がチープトークシ
 グナルによって伝達可能となることがわかる。


        文献
             数理マルクス経済学の到達点と課題 (特集 20世紀マルクス経済学:回顧と展望) / 松尾 匡       
経済科学通信. (95) [2001.4]

 男と女のゲーム--賃金格差と役割分担の理論モデル (菊池光造教授記念号) / 川口 章
 経済論叢. 164(4) [1999.10]

 労働者自主管理企業における所得格差の発生--世代交代モデルへのゲーム理論の応用 / 松尾 匡
産業経済研究. 37(2) [1996.09]

 異種労働者間ゲーム / 松尾 匡
産業経済研究. 36(1) [1995.06]

 循環的投入構造における「平均生産期間」規定--吸収マルコフ連鎖の応用によるベーム・バベルクの新解釈 / 松尾 匡
産業経済研究. 35(1) [1994.06]

 二国労働者の非協力賃金決定モデル/ 松尾 匡
『現代経済学研究』第3号 (西日本理論経済学会編、勁草書房、1994年2月)

 夫婦間分業:経済合理性による説明とその限界 / 川口 章        
追手門経済論集. 36(1・2) [2001.9]
 
  女性のマリッジ・プレミアム:結婚・出産が就業・賃金に与える影響 / 川口 章        
家計経済研究. (通号 51) [2001.夏]