吉田羊 映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』インタビュー

Special Interview

吉田 羊

壮絶な過去と向き合い、母の愛を掴み取ろうとした息子のコミックエッセイを映画化した『母さんがどんなに僕を嫌いでも』で、未成熟な母親を演じた吉田羊さん。「理解から程遠かった」という虐待への心境や役作りのアプローチを伺いました。劇中と全く違う親しみやすい素顔で明かしてくれた彼女のスマホライフもお楽しみください。

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ある種の現代的なコミュニケーションを楽しんでいます

普段はスマホをどれくらいお使いですか?

結構依存症です(笑)。気づいたら半日経っていることもあるくらい。

主にどんなことにお使いですか?

インスタグラムをやっているので、その写真を加工したり、正方形にトリミングしたり(笑)。LINEカメラも画質がきれいなので、重宝しています。

お花の写真を多くアップされていますね。

決めているわけではないんですけど、何となく自分でシリーズにしちゃったから撮り続けています(笑)。もともとお花が好きなんです。家にお花を飾る心のゆとりを持つ生活でありたいと思っていて…花を愛でるって、言うなれば日々の生活の中でなくてもいいことで。でも花があると和んだり癒やされたりする。だから花を愛でる気持ちがあるうちは「あ、まだ大丈夫だな」って自分の心のバロメーター代わりになっています。

インスタグラムを更新したくなるのはどんなときですか?

自分が「あ、面白いな」と思った瞬間を切り取りたいなと思っています。ブログをやっていたときは、いつの間にか「ブログのために写真撮影をする」みたいになってしまい本末転倒だったので(笑)。自分が心を動かされたことをアップする場所にしたいなと意識しています。

ちょっと分かります(笑)。添える文章にこだわりは?

基本的にはなるべく端的に、説明しすぎないようにしています。見る人の感性で見ていただければいいと思うし、ちょっとファンの人とゲームをしているようなところも…「このひと言で分かるかな?」って(笑)。

それは楽しいですね。

そうなんです、楽しんでいます。コメントを見て、伝わった人がいると「あ、正解!」って、勝手に心の中で解答してうれしくなって。

(笑)。プライベートのメッセージもシンプル派ですか?

そうかもしれないですね。LINEではわりとチャットに近い短めの文章で送ることが多いかな。

スタンプとかも使われますか?

すごく使います。大好きです。特に「自分ツッコミくま」はシリーズ全部持っています。ショートメールのステッカーでも全部持っていて、LINEで出ているものがそちらでも発売されるのも今か今かと待っています。

わりと凝り性なコレクタータイプですね!?

そう、それで冷めやすいんですよ(笑)。わぁってハマって、しばらくすると飽きちゃう。

(笑)。お仕事にスマホが役立つ場面はありますか?

ナレーションのお仕事をしているので、「NHK日本語発音アクセント辞典」というアプリを持っています。すごくお高いんですけど(笑)、音で聞いて確かめられるので非常に助かっています。

最近、スマホ周りで何か変化はありましたか?

つい最近、動画を分割する技をファンの方に教えてもらいまして、覚えました。それで動画をインスタグラムにアップできるようになったことが私にとって一歩前進でした(笑)。

そのやりとりもまたいい距離感ですね!

はい。アプリがコミュニケーションのきっかけになるというのも非常に“今”らしいというか、現代らしいなと思っています。

太賀くんに引き出された感情がたくさんありました

続いて、映画についてお聞かせください。まず、原作を読んでいかがでしたか?

重い題材でありながら、コミックエッセイという性質もあって非常に軽やかで。敢えて軽やかに客観性を持って描かれている作品だなと思いました。原作の歌川たいじさんのつづる言葉の力を、映画を通して一人でも多くの人に知ってほしい、触れてほしいという思いになりました。

その歌川さんのお母さんの役でしたね。

実在の人物を演じるとき、私はできるだけご本人に近づけたいという作業をするんですけど、今回はクランクイン前に歌川さんご本人に直接お会いして、お母さんについてのリサーチをさせていただきました。でも、エピソードを聞けば聞くほど彼女への理解には遠く離れていく(笑)。虐待につながる彼女の心持ちというのはどう考えても理解できないと途方に暮れまして。

どうされたんですか?

監督が「デコボコで、不完全で、不安定なまま演じてくれればいい」とおっしゃいまして。「そうか、未成熟なまま母親役を強いられた光子さん自身も、母親とは何なのか分からないまま、もがきながら生きている。だとすれば私が今光子さんに対して分からないというこの思いがリンクして、何かしら現場で生まれるものがあればいいな」と、祈るような気持ちで演じさせていただきました。

現場はどんな感じでしたか?

タイジ役の太賀さんが感受性豊かに真っ直ぐに演じてくださったんですよね。こういう母子関係ですので、現場でもお互いなるべく関わらず、話さないようにしていて、それでいいとお互い思っていたんです。そうして共通認識を持たずに臨むと、彼が私の真意を探ろうとして送 っていたという視線に、私は見透かされているように感じたんです。それをそのまま生かす… 俳優として同じ温度で役に向き合えて、それが 許される現場でぜいたくだなと思いました。

リアルな、真剣勝負ですね。

太賀くんが取材で、「自分のほうは光子さんが何を考えているのかなと常に考えていました」「だからどこか探りを入れるような、この人を知りたいという目で見ていました」とおっしゃっていた。でも、私からはそれがどこか見透かされているような、そういうふうに感じたんです。その気持ちはきっと、光子さん自身が親から虐げられ自信を持たずに生きてきたことの顕れであろうなと思いましたし、俳優として同じ温度で役に向き合うことが許される現場は非常にぜいたくだなとも思いました。

この現場を経て、太賀さんへの印象は変わりましたか?

この作品に参加させてもらった理由のひとつが、もともと俳優としてファンだった太賀さんと共演できることでした。実際に共演して、本当に信頼度の高い、安心できる俳優さんだなと思いましたし、やっぱり彼でなければ引き出されなかった感情というのがたくさんありました。相手役が太賀くんで本当によかったなという気持ちです。

当事者を救うことはできないけれど、意味はあると思う

あらためて、難しいテーマの作品ですね。

虐待とひと口に言ってもいろいろな形があって、手を上げる虐待もあれば、育児放棄という虐待もある。また、過干渉という虐待もある。過干渉という虐待を受けている子どもたちは、むしろ親との関係を切ることこそが自分の救いであると信じている。歌川さんの原作に共感できないという意見を寄せてくださる方の多くは、「むしろ自分たちは関係を切りたいんだ」とおっしゃるのだそうです。そういうお話を聞いて、非常に根深い問題だなと思いました。

虐待をする母を演じて、気付きはありましたか?

私はこの映画で…ちょっと乱暴な言い方になりますけど、当事者を救うことはできないと思うんです。当事者の皆さんはきっとこの映画を観ることはできないし、実際この映画が情報解禁になったときに、私のファンの方で、「私は羊さんのお芝居は好きだけれど、この映画は観ません。それは、私が、現在進行形で母のことを恨んでいるからです」とおっしゃる方が、実は何人もいらっしゃって。

実際問題、そうなんですよね。

でも、歌川さんが原作の中でおっしゃっていますけど、虐待に走ってしまった方の多くが、孤立と孤独を抱えている。そういう人に寄り添おうとしたときに、その人の痛みについての情報を少しでも多く共有すること、共有することで助けを出すこと。それがこういう題材でドラマや映画を作る意味だと思うとおっしゃっていて。「あ、これだな」と思ったんです。

どういうことでしょう。

当事者を直接的に救うこと、それはおこがましくてできないかもしれないけれど、映画を観た周りにいる人たちが「こういう寄り添い方があるのか」「こういう手の差し伸べ方があるんだ」というヒントとしてこの映画を観ていただいて、虐待に至った本人の孤立や孤独を救っていく…そういう環境づくりに、この映画がひと役買えたらいいなと思っています。

虐待する母でありながら、主人公に守りたいと思われる複雑な役どころでもあります。

クランクインをするときに、監督から「少女のように演じてほしい」と言われたので、光子さんの少女性というものは意識して演じました。なので、感情を爆発させるところも、まるで駄々をこねる少女のように演じさせていただいて…その姿が、結果として、タイジにとって守るべき、守りたい存在に映っていたのだとしたらよかったなと思います。

難しい問題ですね。

はい…ただ、映画の中でも彼女の生い立ちについて触れられていますけども、決してそれをエクスキューズにしたくないとも思いました。どんな理由であれ、やっぱり虐待は肯定されるべきではないと思うので。敢えて彼女の未熟さを徹底的に演じることで、逆説的に、それでも母の愛を求める子供の愛が色濃く、深く見えるといいなと。

演じてみて、光子さんの強みやいいところは発見できましたか?

いいところ…難しいですね。でも、ご飯をきちんと作っていたところかな。暴力を振るっていても、食べることを大事にしていたというのは、子どもたちを生きさせる意志があったということだと思うので…苦し紛れですけど(笑)。

母のミートソースと母の言葉が、私を支えてくれています

今、ご飯の話が出ましたが、吉田さんご自身の母の味とは?

私の母の味はミートソースです。吉田家のミートソースは本当に美味しくて、本当にシンプルな味付けなんですけど、誕生日などの記念日には必ず作ってくれました。トマトソースから作って、ひき肉たっぷりの、たまねぎも…決してみじんにはなっていないざく切りで、でもそれがまたたまねぎの甘味が溶けて美味しくて。父と一緒に母が持ってきてくれた手作りのミートソースが今も冷凍庫の奥にあります(笑)。自分でもその味を、かなり近く表現できるようになっていると思います。

吉田さんにとって“料理”って、どういう意味合いを持ちますか?

最近、自炊が増えたんですけど、自分のために作るお料理って本当に何でもよくて、何ならお菓子で済ませちゃう人なんです私は(笑)。でも、誰かが遊びに来るとなると、やっぱりその人を喜ばせたい、美味しいと言ってほしい、お腹いっぱいにさせたいと思って作るわけです。なので、お料理は人のためにするものかな、と思います。

吉田さんが料理で心を動かされた経験はありますか?

今回、歌川さんご自身が実際に劇中のまぜごはんを作ってくださいましたし、差し入れといって手作りのケーキを持ってきてくださって。やはり、ご本人が作ったもの、そしてこれが本当のその味なんだって思ったときに、私はお話の中盤でそれをぶちまけるシーンがあるんです。そのぶちまけるときの心の痛みというのはやっぱりいつもと違ったというか、あれには大きく助けられたなと思います。

先程、光子さんについて伺いましたが、女優・吉田羊さんの強みやいいところは?

ないです。全くないです。どの役も難しいですし、毎回あれでよかったんだろうかと思います。いつも反省してばっかりで、満足することはないです。

ずいぶんさわやかに言い切られますね。

でも、それでいいと思っていて。やっぱり「これでいい」と思ったら終わりだと思っていますし、俳優は、何者にも見えないこと、そして何者にも見えること、それが醍醐味だと思うので、私はこの先もずっと、無色透明な俳優でありたいなと思っています。なので、これが強みと言い切ってしまいますと、そういう役が増えますし、じゃあやってみろってなりますから(笑)。自分の保険でもありますけど、敢えてそれは言わないというか、思ったことがないです。

劇中のタイジは周囲の人に支えられ母と向き合いますが、吉田さんを支えてくれる人はいますか?

もちろんたくさんいます。この業界に入ってからもたくさんいますけど、私の根幹はやっぱり母の言葉で。私が中学でいじめられていたときに、学校から帰ってくると、察した母が「何かあったの?」って聞いてくれて。それで「こういうことを言われたよ」というと、「なるほどね、つらかったね。でもその子はもしかしたら、今のあなたに必要なことを教えてくれているのかもしれない。だから明日はあなたのほうから『あれはどういう意味だったの?』と話しかけてみたらどう?」って。そのひとつの出来事の視点を変えるというやり方を教えてくれたのが母でしたので、それは未だに私の根底に根付いています。今、本当につらいことがあっても「これは試練だ」と思ったり、「今の私に必要なことなんだ」と考えたりする、その根幹にあるのは母の言葉だったなと思いますね。

吉田さんの理想の母親像は、ご自身のお母様ですか?

うーん、そうですね。ただ、共働きでしたので、その…完璧な母ではもちろんなかったです。掃除も下手でしたし(笑)、お料理も結構適当なところもありましたけれど、でも今思えば、やっぱり子どもたちのことを考えて自然食にしてくれたりとか、何かのときには必ず駆けつけてくれたりとか、そういうことを厭わない母でしたので、何だかんだ反発をした時期もありましたけど、母は自分を愛してくれていたんだなというのはあらためて感じることがあります。

Profile

よしだ・よう/福岡県出身。1997年より舞台での活動を経て、映画・ドラマで活躍中。主な主演作に映画『嫌な女』、『ラブ×ドック』など。今秋は出演映画『コーヒーが冷めないうちに』、『ハナレイ・ベイ』(10月19日)が公開。10月スタートのTBSドラマ「中学聖日記」に出演。

Information

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』

11月16日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、イオンシネマほか全国公開

タイジ(太賀)は幼い頃から美しい母・光子(吉田)が大好きだった。だが、外面のいい彼女は家では常に情緒不安定で暴力的。タイジは17歳で限界を感じて家出、努力して一流企業に勤めながらもどこか卑屈で壁を作る大人になっていた。しかし、新たに出来た友人たちの後押しで、再び母と向き合う決意をする。

監督:御法川修

脚本:大谷洋介

原作:歌川たいじ「母さんが僕をどんなに僕を嫌いでも」(KADOKAWA刊)

出演:太賀、吉田 羊 他

(C)2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

撮影:渡部孝弘 スタイリング:梅山弘子(KiKi inc.) ヘア&メイク:paku☆chan(ThreePEACE) 衣装協力:ワンピース47,000円(ヴェ ドゥ ヴァンステール/ジャーナル スタンダード ラックス クォータリー 銀座店/03-5159-7450)、ピアス32,000円、リング16,000円(シンパシー オブ ソウル スタイル/フラッパーズ/03-5456-6866) 取材・文:坂戸希和美

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<応募方法>
以下のメールアドレスまでご応募ください。
■応募用メールアドレス:nexistyle@nexi.jp

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応募用クイズ

映画「母さんがどんなに僕を嫌いでも」で吉田 羊さんが
演じる役柄の名前(二文字)は?

<応募締切>
2018年11月5日(月)23時59分

<当選発表>
2018年11月6日(火)

厳正なる抽選の上、当選者の方にはメールにてご連絡させて頂きます。 またご連絡の際に、発送に必要なお届け先情報を別途、お伺いしますので当選メール内に記載される期限までにご回答ください。

※迷惑メール防止などでメールの受信設定をされている場合は、nexiSTYLEからの当選メールが届きません。「@nexi.jp」からのメールが受信できるように設定を行ってください。

<注意事項>

※応募は1アドレスにつき1回までとなります。
※抽選結果に関するお問合せにはお答えできませんので、予めご了承ください。
※ご応募いただきましたメールアドレスは、当選のご連絡のみに使用させていたします。抽選後は速やかに消去いたします。

吉田 羊さんの作品をdTVで観る!

「ボクの妻と結婚してください。」

(C)2016映画「ボクの妻と結婚してください。」製作委員会

「コウノドリ(2017)」

(C)TBS

「連続ドラマW コールドケース〜真実の扉〜」

(C)WOWOW/Warner Bros. International Television Production

「SCOOP!」

(C)2016映画「SCOOP!」製作委員会

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