0)はじ
 

先日,子供たちの学芸会の後,こんな話をしました


パパ 「パパ,今日は学会発表の準備をしていたんだ~」

てんら「それって何?」

パパ 「こんなお勉強(研究)をしていますよ~ってみんなの前でお話しするんだよ」

かいら「(学芸会みたいに)劇をするの?」


なるほど!と思いました
学会発表っていうのはある意味,物語を聴いてもらう場なのだ!
人に正しく伝え,覚えてもらえなければ,どんなに良い研究をしてもその研究は台無しになってしまいます
そして,聴衆は物語を聴きに来ているのです!

研究内容を発表する上で必要なものは
・その研究の大切さ(なぜ研究する必要があるのか?)を伝える
・方法とその正確さ(再現性があるか)を伝える
・研究でわかったこと(結果)を伝える
・そこから考えられること(可能性と応用性,まだわからないこと)を伝える
などが挙げられます
これらを正確に伝える(かつ内容を覚えてもらう)ということのために何が必要なのか?
そして何をしてはいけない(しないほうが良い)のかを考えていきたいと思います

このコーナーではいろいろな例を挙げながら,
今まで私がしてきたこと,さらに私が見てきた発表の中で「これは見辛いなぁ」と思ったことを示しながら,どういう発表がわかりやすい(伝わりやすい)のかを探っていきたいと思います
実際に書かれていることを全て実行するのはかなり骨が折れますし,
「お前が全然できてへんやん!!」
と突っ込みをいれられそうで,恐ろしいのですが・・・
学会とは,研究者の卵(学生や就職前の人)にとって,就職のための面接の場でもあります
ここで,すばらしい発表ができれば,自分の知らない研究者(将来あなたを雇ってくれるかもしれません!)にも覚えてもらえますし,そこから研究が広がっていく可能性があります
また,発表というのは,大学の授業や,学会発表だけでなく,研究職以外の職に就職したとしても,ほぼ必ずすることになるものです
せっかく,自分のやっていることを発表するならば,論文を書く時と同様(それ以上に!)準備をしっかりとした(洗練された)発表をするべきです
発表には,上手い,下手,がどうしてもあります
おそらく,理想の発表は,
目をつぶっていても,話を聞くだけで理解ができる
(これが最も上手い人たちは“落語家”でしょうか?)
または,
話をまったく聞かなくても,映像だけで理解ができる
(これが上手い人たちは“映画監督”ですかね?)
このどちらかを完璧にするなんてことは僕らにはほとんど不可能です
でも,見て,分かりやすいスライドは,努力することである程度作ることができるようになりますし,上手に話すことも,練習をすれば向上する余地があります
話すこと,見せること,両方を少しでも上手にすれば,きっと発表のウケも良くなるはず!
考えて,準備して,発表する
必ず研究以外の場でも役に立つ能力だと思いませんか?
マニュアルではありませんが,少なくとも「見やすい聴きやすい発表」にする参考になれば,と思います
今後も学会の発表を聴いて,気がついた点や,自分が失敗したなぁと思った点を追加していく予定です

*基本的にこのコーナーは,学会発表でよく使われるPower Pointを例に用いていますバージョンはいろいろとありますが,機能を限定しない工夫の仕方を示してあります



1)発表の準備 時間配分誰が聴くのか?練習をする

発表用のスライドを作る前に,ちょっとチェックしておくと,スライド作成をしていくのに役に立つことがいくつかあります

1-1)時間配分を考える

よく言われることですが,スライド1枚に対して,説明時間は1分程度にしましょう
同じスライドで延々と話されると,聴衆は飽きます!寝てしまいます!
発表15分・質疑応答5分ならば,タイトル1枚,目次1枚,その他15枚くらいで合計20枚弱くらいが目安になります
慣れてくると,スライドを作りながら,そのスライドではどのようなことを話すのか(スライド1枚当たり1分間で話せる内容にまとめる)を決めていくと,おおよそかかる時間が分かるようになります
一番気をつけなくてはいけないのが,時間が足りなくなって,最後のほう(つまり研究の一番大事な部分!)を早口でまくし立てて,何を言っているのか伝わらなくなってしまうことです
どんなにすばらしい内容でも,それでは台無しです

1-2)聴衆の調査をする

自分の専門分野の学会などであれば,ある程度専門用語を使っても問題はありません
しかし,広い研究分野を対象とした学会や研究集会の場合,
あなたの講演がその分野に関して聴く初めての発表になる人もいます
ですので,初めて参加する学会や研究室(時には面接)の場合は必ずその学会(研究室など)のホームページを見て,どのような聴衆が来るのかを予想しましょう
分野が違う聴衆がたくさん来ることが見込まれるのであれば,発表を理解するのに必要な基礎的な知識をイントロダクションに入れるようにしましょう
あなたの常識が,聴衆の常識では無い」場合がたくさんあります!
研究対象が近い人でさえ,知らない専門用語はいくらでもあります!

1-3)練習をする

プレゼンテーションにはうまい下手がどうしてもありますが,練習は可能な限りしておいたほうが良いです
基本はゆっくり,はっきりと,シンプル,そして元気よく!!
話すのが苦手な人は,周りの人に練習を聞いてもらうと良いでしょう聞き取りにくい部分や,理解し辛い部分を指摘してもらって,それらを中心に改善していきましょうできれば,専門外の人に聞いてもらうのがベストです
学会会場には自分の研究分野ではない人がたくさんいますその人たちにも理解できる発表になっているか確認しましょう

また,緊張して自分の力が50%も出せない,というのなら,200%の練習をしましょう.話が通じない,聞こえなかったということは,その発表をする意味がありませんし,自分の研究が無かったことと同じです.



2)スライドの作成 文の見せ方図の見せ方パワーポイントの使い方

学会発表の前に,時間をかけてスライドを準備したいものです

派手な研究発表でなくても,印象に残る,美しいスライド作成はできます

私の発表は「派手だね」とよく評価されるのですが(半分,趣味みたいな部分もあるので否定はしませんし,褒め言葉と受け取っています)ここでは,私が気をつけている細かい(努力と注意で改善できると信じている)部分を例示していきます

小さな努力でぐっと見やすい,わかりやすいスライドは作れます!!

2-1)文の見せ方(文章を読ませない)

とにかくスライドに表示される文字は少なくしましょう
長い文章が書いてあるだけで,うんざりします
さらに,その文章をそのまま読み上げられると,もっとうんざりします(「僕は日本語を読めるよ!」「自分で集中して読むから黙っていて!」と言いたくなる)

スライド1枚あたり1分で内容を説明することを考えると,短い文章で(できれば単語で)すぐに理解できるようにする必要があります.何度も文章を読み直して,無駄な部分を省いていくことが大事です
聴衆は文章を読んでいる間,いくら良い発表していても,集中して聴くことができません
長い文章を示すということは,聴衆の集中力を読むほうに奪われてしまうということ
スライドでは単語や短い文章で示して,詳しい内容は口頭で説明すると,聴衆の「聴く」集中力を保てます
伝わらないなら文章が無いほうがマシ

2-2)文字のサイズにも工夫を!

文字の大きさにも気を配りましょう
文章が長くて文字が小さくなると,後ろのほうから見ている人には読めません
文字のサイズは24 pointくらいか,それ以上が読みやすいでしょう
引用文献の表示など,それほど重要でないものは18 pointなど少し小さめにしてスペースを節約するのも良いかもしれません
各スライドのタイトルはいつも同じ位置で同じ大きさの文字で示されていると良いでしょう
そのスライドが何を示しているのか,一目瞭然でわかるように工夫しましょう
文章を短くして文字を大きくしましょう

2-3)フォントを揃える

フォントがばらばらだったり,一つの文章中に違った表記が混ざっていたりする発表が良くあります
例えば,引用文献の表示で
須藤(2006)が,須藤2006)(括弧のフォントが“(” -全角-“)”-半角- になっている)とか,
(Suto et al. 2006)が,(Suto et al. 2006) だったり,(Suto et al., 2006)だったり・・・
細かいことかもしれませんが,(少なくとも私は)発表中に一度目につくと気になって仕方がないです(集中力が削がれる)
こういう細かい部分に気を配れる(ちゃんと一貫している)ということは,研究やその他に対して「きちんと仕事ができる」印象を持ちます
逆に言えば,
こういうところに気が配れない人は,研究も適当なんじゃない?
という評価をされてしまう可能性があります
引用文献を示す場合もそうですが,論文の投稿や,学会講演要旨の提出の場合にも同じことが言えます

2-4)見やすい字は?

スライド表示をすると,見やすい色と,見えにくい色が存在します
特に白地の背景の場合,水色や黄色,薄い緑色などは読みづらくなります
また,私も第7回ニューイヤースクールでの伊賀公一さんによる「バリアフリープレゼンテーション」を聞くまで知らなかったことなのですが,
色を感じる能力には個人差がある!
ということです.いわゆる色盲とか色弱とか言っている能力の多様性ですが,人によっては,強調できていると思っている色使いが強調になっていないことがたくさんあるようです 詳しくはこちらこちら

現在,色盲や色弱の人に,どのように見えているのか?ということをシュミレーションできる機能がAdobe Illustrator CS4やPhotoshop CS4に搭載されています
また,こちらには,色盲シミュレーション画像を作成することができるフリーソフトが掲載されています
これらをうまく活用して,より多くの人が見やすいスライドを作成していきましょう
いわゆる色盲とか色弱の人は一般生活の中でも数十人に一人はいるそうです
つまり,あなたの研究に興味を持ってくれて,発表会場に来ている聴衆の中に数人はいる計算になります
そういう人たちにも伝わりやすい発表をできるように努力していきたいものですね

2-5)覚えるのが大変なことはスライドに書いておく

ここまで,「なるべく文字を少なく」ということを強調してきましたが,
場合によっては文章をスライド内に書いてしまうということも「あり」です
例えば,暗記することが大変な数値データなど(重要でなければ小さな文字で)は書いておいたほうが間違えないでしょうし,
海外の学会で英語発表するとき,(私は特にそうなのですが)頭が真っ白になってしまい,言葉がすらすら出てこない場合,
上手に表現できない場合を想定して,簡潔な(ここでもこれは重要!)文章をあえて書いておいて,英会話を理解してもらえなかったとしても,どのような研究をしているか,どういう結果が出たか,を分かってもらえるようにしておくのも一つの手?
どのようなシチュエーションでも,何かひとつでも研究について覚えてもらう努力は常に必要でしょう

2-6)図の見せ方(論文の図を使わない)

研究発表には当然,研究成果を示した図を見せる必要があります
しかし,論文の図をそのまま使っている発表が多々見受けられます
論文用に作成した図は基本的に,文字が非常に小さく見づらいことが多いです
発表では,その図が何を表しているのか?そのグラフの縦軸・横軸が何を示しているのか?といった情報を素早く読み取ってもらう必要があります
面倒くさがらずに,論文の図を用いる場合は,見て欲しい部分を強調した図を新たに作成しましょう
また,人の図を用いる場合も,そのグラフの単位など,読み取り辛い部分を書き足しておきましょう

2-7)スライド1枚に図は1~2枚

スライドの中にいくつもの図表があると,表示が小さくなるだけでなく,データを読み取るのが大変になります
なるべく,関連する図を一気に示す場合はスライド1枚に対して,図を1~2枚程度にして,本当に見て欲しい部分を強調しましょう
逆に,たくさんのデータが載っている図を示す場合もあります
その研究に対して,どれだけデータを集めたか(より信頼できる平均値が出せている)ということや,どれだけ努力(苦労)したか,ということをアピールする上では非常に有用です
しかし,細かいデータを見せたまま,説明するのはいただけません

しかも,「見にくい図で(細かい図で)申し訳ございません」と謝るくらいなら,見やすい図を見せるべきでしょう

たくさんデータを集めたというアピールのための細かい図の表示はなるべく短い時間で済ませましょう

そのデータの中のエッセンスをまとめた分かりやすい図を使って説明をすること
そうしないと,結局よく分からないまま話が進んでしまいます
本当に必要な図のみを厳選して説明する!

2-8)スライドをめくる(アニメーションは極力少なく!)

スライドをめくっていくのも時間が必要です
前に表示した図を説明するために,スライドを逆に回していくようなことはやめましょう.これも時間のムダですし,聴衆からすればスライドを行ったり来たりされるとイライラします
同じ図をまた説明するのであれば,必要なところに同じスライドを入れましょう
スライドめくりは計画的に!
また,アニメーションを凝っている人や,多用している人に見受けられるのですが,効果的でないアニメーションはやめて時間を節約しましょう
例えば,
・サンプリングポイントを一ヶ所ずつアニメーションで表示していく
これは,一回で十分です(アニメーションにしなくても良い)
・一文ずつ,アニメーションで表示していく
聴衆の読むスピードが表示よりも速い場合,イラっとします
最初に示したくない(あくまでも強調したい)重要な部分のみを後からアニメーションで表示するようにしましょう
・スライドをめくったら,そこには何も表示されておらず,そこからアニメーションで最初の文や図が表示される
最高に時間をムダ使いしています.最低限,スライドをめくったら,次の内容の一部が見えるようにしておきましょう
どのようなアニメーションの使い方が効果的か,考えて作成しましょう
派手な動きをするアニメーションは,インパクトはありますが,集中力を削がれ,あまり効果があるとは思えません
シンプルなアニメーションで充分です
(あまり推奨しないアニメーション)
・画面からわざわざ移動してくるもの(時間のムダ!)
  スライドイン・マグニファイ・スピンなど
・アニメーションが短すぎるもの(聴衆が見逃す可能性がある!)
  フラッシュなど
(推奨したいシンプルなアニメーション)
・動きが目立つ割に時間も食わないもの(重要性をアピールできる)
  ブラインド・ボックスなど
アニメーションの多用は時間のムダ!可能な限り,アニメーションは無くすこと!

2-9)背景はシンプルに

背景に写真を入れたり,PowerPointについている背景(テンプレート)を多用したりする人が多いですが,見やすいか?聴衆の集中力を阻害していないか?を考えて使用しましょう
確かに,テンプレートはおしゃれなものも多く(いろいろなところから無料でダウンロードできます),一見スマートな発表に見えますが,背景に目が行って,研究内容が印象に残らない場合があります
テンプレートの枠から文字や図表がはみ出している場合,あまり美しいとはいえません
だからといって,枠の中に全てを収めようとすると,文字や図表を小さくせざるを得ません
つまり,聴衆にとって読み取りづらい表示になるわけです
そこまでして,テンプレートを使う必要がありますか?
テンプレートの使用をするなとは言いませんが,少なくとも,その表示が見る側にとって邪魔になっていないか?美しい表示であるかどうか?を意識して使いましょう
また,大学や研究施設のロゴマークを常に入れている場合がよくありますが,図がロゴの上に重なっているのは見苦しいです
ロゴがきちんと見えるようにすると,図や文章を表示するスペースが減ってしまい,「研究を発表する」という最大の目的が達成されられないことになります
研究所の宣伝ももちろん大切ですが,本末転倒ですよね?
個人的には「そこまでして全スライドにのせなくてはいけないの?」と思います.タイトルと結論のスライドだけで充分ではないですか?
スライドの背景にグラデーションや写真を使っている発表も良く見ますが,これは文字の色に気をつけないと,かえって見にくい(読み取りにくい)ものになってしまいます
文字の色に気をつけるという作業は,スライドの準備をしていると結構大変なものです
発表準備のエネルギーを注ぐ余裕と時間があるのであればよいですが,明らかに準備時間が足りなかったなという発表は得てして読みにくい状態になっているものです
スライドの背景は無駄なく,美しく,見やすいものを!

2-10)スライド番号を入れておく

全てのスライドの右下などに,(図表の邪魔にならないように)スライド番号(通し番号)を入れておくと良いでしょう
質疑応答のときに質問者から
「あの8番のスライドの図だけれど・・・」
と,指示してもらえれば,スライドを探す時間が省けます
しかし,これは聴衆が注意していて,気がついてくれないと意味がありません
私も何回かこの方法でスライドを作成しましたが,番号を指示して質問してくれることはあまりありません
ですので,発表の前にスライドに番号が振ってあることをあらかじめ言うのが良いのですが,それはそれで,発表時間をロスすることになります
また,場合によってはX枚中のY枚目のスライドということで「Y/X」という表示をする方法もあります.
これも,図表の邪魔(スペースのムダ)にならないのであれば,あと何枚くらいでこの発表は終わる(重要な部分に近づく)という目安(安心感?)になって,聴衆には聞きやすくなるかもしれません
どの程度効果があるのか分からないけれど,あっても良い?


3)会場での準備 スライドの確認発表機器の確認

学会会場でも,自分の発表のためにできることはいろいろとあります

まずは,会場(特に休憩室のお菓子と飲み物)のチェック!

リラックスできる場所を見つけることも大事です.ひとまず,コーヒーでも飲んで,落ち着いたら発表をする会場に行ってみましょう

そこにある機材のチェックも発表を失敗させないための重要な活動です

3-1)会場で使われるパソコンでスライドを確認

会場には発表用のファイルを受け付けているブースがあります.そこでパワーポイントファイルを(USBスティックなどで)コンピュータに移し,学会運営者に渡すのですが,
必ず自分のプレゼンテーションファイルが予定通りに動作するか確認しましょう

・写真がちゃんと見えているか?

スライドに示す写真や図が見えなくなっている,というトラブルがよくあります
必ず正確に図が見えているかを確認すること
図や動画をスライドに挿入している場合は良いのですが,別の場所から「関連付けている」場合は同じフォルダに入れて,フォルダごと提出しましょう
また,発表にはそれぞれの発表や会場で「発表番号」(例えばB会場の発表番号15)がふられていることがほとんどですので,自分のファイルのタイトルを,「発表番号_発表者名(ここではB-15_発表者名)」にしておくと良いでしょう

・文字が変わっていないか?

よくあることですが会場で使われるパソコンによっては同じフォント(文字の形)が使えない場合があります
そういうときに行数が増えてしまったりしていて,スライドが非常に見にくくなったり,文字が読み取れない場合があります
会場のパソコンで確認して,フォントが変わっている場合は,文字の大きさを小さくしたり,文字の場所を変更したりして,問題が無いようにしましょう
また,文字化けしていないかもチェックしましょう
ファイルの受付場所に行列が出来ていても,必ず動作確認をすること!

3-2)会場で使われる発表機器を確認

・マイクのつけ方

会場では手持ちのマイクを渡される場合もありますが,ピンマイクを渡される場合が多いですピンマイクは本体と,コードで繋がった小さなマイクを装着する必要があります
女性の場合(男性でもTシャツで発表するときに),よくあるのが胸ポケットや襟が無い服を着ていて,本体を入れられず,本体もマイクも手で持って発表することになって,パソコンを操作するのが難しくなってしまう状態
そのような場合はジャケットを羽織るなどして対応しましょう
また,本体はポケットに入れるので良いのですが,よく見られる失敗がマイクの装着位置
ピンマイクはたいてい襟元に装着することになるのですが,聴衆の方を向いているときと,スライドの方を向いているときで,マイクに声が入るかどうか変わってしまいます
声が聞こえない発表は発表をする意味がありません(発表にすらなっていない)
また,突然ボリュームが上がったり下がったりする発表は非常に聴き辛いです
発表をしながら,自分の声がスピーカーから大きく出ているか,確認しましょう
どの程度,頭を動かしてもマイクが声を拾ってくれるか,気をつけること
場合によってはピンマイク自体を手に持って発表したほうが良いときもあります

・レーザポインタの使い方を確認

発表中にレーザポインタを用いて(場合によっては差し棒などで)スライドに移した図などを指し示すことができます
しかし,いざ使おうとして,どこにポインタをつけるスイッチがあるか戸惑う発表者がけっこういます
発表前にどこにスイッチがあるのか,ポインタの出力の強さ(弱いなどは電池をいれかえてもらいましょう)をチェックしておきましょう
レーザポインタはできれば赤色のものではなく,緑色の光が出るものがベターです
これは人間のもつ色覚には個人差があり(いわゆる色弱・色盲の人は日本人男性20人に一人,いるそうです つまり会場に数人はいるということ その数人があなたの将来に関わってくるかもしれません たくさんの人に自分の発表をより正確に理解してもらうためには,そういう方々のことも考慮する必要があります 詳しくはこちら)赤色よりも緑色の光のほうが認識しやすいそうです
しかし,会場には赤色のポインタしか無い場合があるので,自前のポインタを持ち歩くのも一つの方法でしょう
使い慣れた自前の(できれば緑色)レーザーポインタを使用するとスマート?

・プロジェクタの輝度を確認(ほとんど不可能ですが・・・)

パソコンでスライドを作っていたときははっきりと読めた文字(見えた図)が,会場でプロジェクタを使ってスクリーンに表示された場合,とても見えにくくなる場合があります
プロジェクタ本体のコントロールパネルに輝度調整やコントラスト調整の項目があるので,見やすい明るさに調整してもらいましょう
実際には発表前どころか,会場設営の段階でチェックをしなくてはいけないので,かなり難しいですが・・・


4)発表の心得 時間を大切にイントロ目次方法結果考察結論質問の準備質疑応答

さあ,スライドも完成して,発表の準備も万端!と,安心するのはまだ早い

一番の難所,「発表」がいよいよ始まります

ここでのあなたの発表で,多くの人の「あなたの印象」として残ります

元気良く,そして(研究を)楽しんでいるという姿を見せましょう!!

4-1)時間を大切にする ― タイトルを読み上げない

座長がタイトルを読んで講演者を紹介してくれることがあります
そのときは,もう一度タイトルを読み上げることはしないほうが良いでしょう(時間のムダです)
また,発表中に制限時間が迫ってきても,「時間が無いので・・・」とは言わないようにしましょう(これも時間のムダですよね)
最も,気をつけなくては,時間が無くなって,早口で説明をすること
たいてい,時間が足りなさそうだなと気がつくのは,発表の終盤.つまり,研究の最も重要な内容や考察を話している部分です
そこで,早口になってしまうと,何を言っているのかだけでなく,研究成果の中で何が重要なのか,聞き取れなくなってしまいます
発表前に制限時間が分かっているのだから,その時間に合わせた発表内容をしっかりと計画することが大切です
また,時間をオーバーした場合は,素早く終わらせることも重要です
それまで発表した研究内容をまとめたスライドを読み上げるようなことや,繰り返しになることをまた発言せず,「これが本研究のまとめです」と言って,すばやく質疑応答に移れるようにしましょう
10秒でも発表時間をオーバーした場合,聴衆の全員が会場から出て行っても文句は言えません
聴衆は貴重な時間を割いて,あなたの発表を聴きに来てくれているのです!

4-2)イントロ ― 高校生でもわかるイントロダクション

研究の成果を伝えることはもちろんですが,研究の意義を伝えることが何よりも大切なことになります
なぜその研究が必要で,なぜその研究を行ったのか?それを理解してもらうためにはなによりも「わかりやすい」イントロダクションが必要となります
ここで失敗すると,そこで聴衆は聴くことをあきらめてしまい,その後どんなにすばらしい研究成果を話しても何も伝わりません
専門分野が異なる研究者が会場にはたくさんいます
研究の全てを理解してもらうことは困難ですが,自分の研究の大切さをアピールすることができれば,その発表の半分は成功した!と言えるのではないでしょうか
イントロ以降はどうしても専門的になってしまい,詳しく理解してもらうのはとても難しくなります
聴衆にどのように伝えるのか,どのように研究の一部でも楽しんでもらうのか,つまりどのようにイントロダクションだけでも理解してもらうのか,ということを考えると,
高校生でもわかるイントロダクション
を心がけると良いでしょう

4-3)目次 ― 結果を最初に述べてしまう

タイトルの後に,発表の手順(目次)を示すのは(どういう内容で話が進むのかわかるので)聴衆を安心させるのに有用です
また,時間を越えてしまって研究の結果を大急ぎで発表するということにならないように,
「○○の研究を行って,××という結果が得られ,△△ということが考えられますので,それらについて発表します」
と言って,最初の段階で研究成果の一番アピールしたい部分を述べてしまうことも良いでしょう
つまり,美味しいところ(ここでは△△)を先に聴衆につまみ食いさせてしまう!
そうすることによって,メインディッシュをまた食べたくなって,発表を集中して聴いてくれます

4-4)材料・方法 ― 説明はシンプルに

研究対象とした試料・材料のサンプリング場所・方法は簡単に説明しましょう
また,この場合,サンプリングの方法の説明も重要ですが(その方法が新しい手法でないのならば),なぜその試料を用いることが適切でかつ重要なのか,を説明するほうに重点を置いたほうが,研究の正当性を説明するのに役に立つでしょう
たいてい,専門分野がちょっとでも違うと研究をしたときの方法の説明を理解するのは,非常に難しいものです
一番重要な部分をしっかり説明するのはもちろん大切ですが,可能な限り分かりやすく,少なくともどういう処理をしたのかイメージがつくくらいのレベルにして話したほうが良いでしょう

4-5)結果 ― 聴衆を飽きさせない

結果の報告が複雑,もしくは多種多様な内容の報告であると,どれが重要な結果なのか読み取りにくくなります
全体的な結果を述べるのは短時間におさめて(細かいことはあまり言わずに),最も重要な部分(考察に繋がる部分)をしっかりと説明しましょう
目で見てどういう結果が出たのか一目瞭然のスライドを用意するのが重要です
また,結果の報告に入るころ,聴衆はそろそろ飽きてきます
何か,聴衆を新たに惹きつけるものが必要になってきます
人によっては,スライドの合間にウィットに富んだジョークを織り交ぜて場を和ませたりしますが,それもなかなか難しいものです
そんな場合は,ちょっとわき道にそれて,それまでの話とは別に研究結果から考察に導くために必要な知識・情報を説明するスライドを入れると良いでしょう
その新たな情報を元に,考察を進めていく(本筋に戻っていく)と,発表にメリハリがついて,聴衆の集中力を持続させられます
できれば,間に笑いをとるスライドを用意するもしくは,メリハリの利いた発表にする

4-6)考察 ― 何か一つでも新しい情報を覚えてもらう

考察を話していくことが研究発表の最も重要な部分の一つとなりますが,その考察や,研究結果を覚えてもらえなければあまり意味がありません
しかし,研究の内容の全てを覚えてもらうことは不可能に近いでしょう
そこで,何か一つでも新しいことを覚えてもらえるような工夫をしましょう
もちろん,これには最高の研究発表を行う,ということが最善の道ですが,それはなかなか難しいことです
そこで,スライド中のわかりやすい場所に示したり,(しつこくならない程度に)発表中に繰り返したりして,何か一つでよいので,キーワードとなる言葉や事象(研究成果)を示しておきましょう
どんなテーマの発表だったのか,記憶の片隅にでもとどめてもらえれば,聴衆が研究室に帰ってから何かの拍子に思い出してもらえて,それについてコメントを求めてくるなど,研究の場が広がっていくかもしれません

4-7)結論 ― 繰り返さない 

たいていの場合,結論をまとめるスライドは,それまでの発表ですでに述べたことの繰り返しとなります
結論をまとめて,箇条書きにしたスライドを示すのは良いですが,それを読み上げるのはあまりスマートな発表とはいえません
「繰り返しだな」と判断されたとたんに(質問が無ければ)その発表を聴き続けることを放棄されたり,場合によっては会場から出て行ってしまったりすることさえ考えられます
聴衆は時間を割いてあなたの発表を聴きに来ているのですから,最後まで聞いてもらう工夫が必要です
まったく同じことを繰り返すのであれば,その時間を質疑応答に回したほうが,議論ができて発表の意義が上がります
それまでの結果と考察をまとめた分かりやすい図を示して,
(時間が余っていれば)研究の成果を覚えてもらうために,ものすごくシンプルに話を繰り返すか,
(時間が無ければ)「こういうことが考えられます」と言って,発表を終えるのが良いでしょう
結論がわかりやすい,思い出しやすい印象に残る図を作りましょう

4-8)質問への準備 ― ワナをしかける

学会発表で,一番緊張する時間がこの時間という人も多いと思います
しかし,この時間が最も重要な時間でもあります
学会発表が,就職のための面接の場であるとするならば,ここで質問された質問にいかにうまく答えられるか,ということが大切になるということは分かっていただけるかと思います
学会での質疑応答は「Defense(防御;擁護のための弁論・行動)」と呼ばれます
聴衆の質問にうまく答え,自分の研究に対しての理解を示すことによって,他の研究(者)からの別意見に対して,新たな(別の)答えを示し,納得させられるか?
まさに,面接の場,ディフェンスの場なのです
的外れな答えをしたり,しどろもどろになって質問に答えられなかったり,黙ってしまったりするのは最悪です
そのために,どのような質問が来るのか,発表準備の段階から考えていましょう
一番,されるであろう質問を見つけるのが簡単なのは,発表練習を他の人に聞いてもらっているときです.分野が同じでも違っていても,そういう場で出てくる質問というのは,当然学会発表の場で聴衆が感じる疑問と同じです
ですので,その質問が出ないように,準備を進めておくのも大事ですが,まだ研究途中の内容を発表している場合など,明確な回答を答えられない場合も多々あります
少なくとも練習で聞かれた質問に答えるために別のスライドを用意しておきましょう
また,質問をされるように,発表中のスライドに「ワナ」をしかけることも一つの手です
これで,「質問が出ない」という(往々にして)最悪の事態を避けることができます
「ワナ」をかけるとは,聴衆者に「あれ?」と思わせる部分をあえて入れておく,ということです
でも,これは発表内容をあいまいにしてしまえということではなく(それでは発表の質が下がるし,評価も低くなってしまいます),あくまでも考える余地を残しておく,という意味の「ワナ」です
「質問が無い」ということは,その発表が万人に認められ,理解された「完璧な発表」であったか(そんなことはまずないと思いますが), 質問できるほど(もしくは,まったくもって)理解できなかった,ということです
完璧な発表などありません.むしろ,質問が出る発表というのは,その研究に興味を持ってもらえたという証しでもあります
興味を持ってもらい,議論を重ねる,ということが学会発表の目的であるならば,良い発表をし,かつ良い議論が重ねられる場を作るということが大切になります
どうやったら質問をしてもらえるか?常に考えましょう

4-9)質問に答える ― 素早く答える

質問に答えるときは,回答に必要で適切なスライドを,素早く表示することも大事です
スライドを探して,いつまでもマウスをカチカチさせているのは良くありません
ましてや,スライドやアニメーションを逆に回して探すのは時間のムダですし,非常に見苦しい印象を受けます
PowerPointには,スライドの一覧を表示させる機能があります
その中から,素早く必要なスライドを表示させられるようにしておきましょう
また,どのような図がスライドに表示されていたか(または質問用に用意していたか)しっかりと把握しておきましょう
スライドの表示には,画面上の「スライドショー」というところをクリックして,「スライドショーの開始」を選択する,という方法もありますが,この方法は2アクション(2回のクリック)が必要です
画面下のスライドショーボタンをクリックすれば,1アクションで始められ,時間の節約ができます
小さなことですが,質問を一つでもたくさんしてもらえるのであれば,決してムダな努力では無いでしょう


5)発表の後 ― まだまだ議論は続く
発表が無事終了し,質疑応答もそつなくこなせた!さぁ,安心!と思って,スライドを閉じるとき,ちょっとだけ気をつかってください
あなたの次に発表者はいませんか?
スライドを閉じるとき,次の発表者が使いやすいようにレーザーポインタやマイクを置いておきましょう
結構ピンマイクをポケットに入れたまま,席に戻ってしまうことがありますよ!
そして,あなたの発表のセクション終了後や,学会終了後には,質問してくれた人や,興味のある発表をしていた人と交流を持ちましょう(詳しくはこちら
せっかく研究者と直接議論できる場所にいるのだから,そこから研究を広げていく努力をしましょう!
飲み会は学会の中で最も大事な場である
学会から帰ったら,発表や議論を元に,さらに研究を進めていきましょう!!

研究発表の心得
-何を聴かせ,何を覚えてもらうか-

Be excellent lecturer!!

はじめに発表の準備スライドの作成会場での準備発表の心得発表後