日米首脳会談で日本が得た「見た目以上に大きな成果」の中身

米中の狭間で漁夫の利を得る可能性

やっぱりマスコミが見誤っていること

先週の9月26日、日米首脳会談が行われ、「日米物品貿易協定(TAG:Trade Agreement on Goods)」の締結に向けた新たな通商交渉を行うことで合意した。

本コラムの読者であれば、筆者が「日米は二国間自由貿易体制にすればよく、その際TPP(環太平洋パートナーシップ協定)で合意されたことをベースにして協議すればいい」という意見を持っていることをご存じだろう(2017年11月6日の記事を参照いただきたい→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/53416)。

この背景として、トランプ大統領は保護主義というより自由貿易主義を志向していること、TPPに反対したのは多国間協議であったからであると指摘してきた。筆者の見解は安倍政権とはまったく関係ないが、米国の関係者は、筆者の見解に興味があったようだ。実際、在日米国大使館の要人からも筆者は意見を聞かれたこともある。

 

結局、今回の日米協議では「日米二国間自由貿易の枠組み」が打ち出された。しかも、保険や医療などのサービスなどを含んだFTAや、さらに資本取引も含む包括的なEPA(経済連携協定)ではなく、サービスは含まず、物品に限定したTAG、ということになった。

これは、日本にとっては大きな成果だ。TPPはEPAの一種であり、対象が広い。アメリカ抜きのTPPでは先進国の日本は相対的に参加国の中のトップとなるので、日本のメリットは大きい。しかし、日米両国間の協定では、日本に必ずしも有利とはならない。そこで、日米では、アメリカに有利となる「サービス」を対象としないTAGにした。しかも、関税でもTPP交渉のときに日本も認めた範囲内に収まっている。

さらに、日米の交渉中は自動車関税を上げないという「おまけ」までついてきた。農産物関税はTPPでも交渉をしていた「範囲内」なので、それが日本経済に与える影響については、日本側は既に準備済みだ。

この一連の「取引」について、日本のマスコミ報道では「日本はこれで大丈夫なのか」というトーンのものが多い。しかし、筆者の正直な感想としては「これで、アメリカがよく納得したなあ」というものだ。それぐらい、アメリカが日本に譲歩した中身だと言える。おそらく、安倍ートランプの人間関係が影響したか、日本のそれまでの準備がよかったために生まれた成果であろう。

日米貿易交渉で、日本はいわゆる「三段重ね」方式をとった。これが功を奏したと思う。総理・大統領の下に大臣間交渉があるという「二段」ではなく、その間に副総理・副大統領の交渉をかませて「三段重ね」にしたのだ。これは当時のトランプ政権の準備不足(交渉担当の役人の任命が遅れて絶対数が不足してた)をつき、アメリカとしても時間を稼ぎたい時に三段重ね方式を提案するというナイスプレーだった。

もっとも、この「三段重ね」にはデメリットがある。それは、交渉に時間がかかることだ。アメリカが対中貿易戦争で忙しかったため、日本との交渉をするための準備も、実質的な交渉時間も、実質的にあまりなかった。そんな中で今回の日米首脳会談となったため、11月の中間選挙を控えて早く成果の欲しいアメリカは、結果として交渉範囲を物品に絞らざるを得なかったのだろう。

これは、日本にとっては「サービス」を除外できたという点で、対米交渉の成果としては願ってもないことだ。しかも、自動車関税が当分なく、農産物関税がTPPの範囲内なら、日本にとっては十分な中身だろう。