悟とモモンガ   作:ももちょこ
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感想、評価ありがとうございます。
闘技場での忠誠を誓うとこまでやるつもりでしたが、一万超える勢いだったので割ります。
感想で能力の確認は今回としましたが、書ききれなかったのでさらに次に回します。

また、今回は設定を出せるように書いてみました。
セリフについてはもう少し区切れば良かったです。

追記

今日はエイプリルフールでした。
ので、最終話にしようと思っていたけど批判が来そうだったので没にしたものを載せます。


第三話 至高の二人

「ぎゃあっ!」

 

「いや、自分に驚いてどうする……。」

 

 

 

急に現れたモモンガに対して、驚いて悟は悲鳴を上げる。モモンガは意識していなかったことだが、現在の見た目は完全に髑髏。それが急に現れたのだから悟が飛び上がるのも無理はなかった。

その声を扉の向こうで聞いていた、ユリは大急ぎで武器を構え部屋に入ってくる。

 

「悟様!大丈夫です……か?」

 

ユリが見たものは腰を抜かしてしまった悟と、何とも言えない感じで頭を掻くモモンガであった。ユリは戦闘の構えを解き、モモンガに話しかける。

 

「あの……、一体何が?」

「いや、大丈夫だ。ただ、悟がだな……、私を見てだな、そのビックリしてしまって……。ほら、悟もいつまでも座っていないでしっかり立て! 」

「は、はい!」

「もう大丈夫だ、うん。だから、ユリも元の場所に戻るのだ。」

 

モモンガの指示に対してユリは、訝し気な眼差しのまま部屋を出ていく。

 

出ていくのを確認したモモンガは、強い口調で悟に語り掛ける。

「ふぅ……何とかなったな。悟よ、大事なことだから初めに言っておくが、このナザリック内ではあまり怪しまれるような言動は避けるのだ。私やさっきのユリ、セバスなど一部の者を除き、ほとんどの者が人間に対して良い感情を持ってはいない。一応、手は出させないように申しつけてはいるが、どこまで遵守するかは分からない。くれぐれも私とお前の関係を怪しまれるようなことはするなよ、分かったか。」

 

「わ、分かった……。まさか、俺達自身が作り上げたナザリックに殺されそうになるなんて……。」

 

悟は今の自身の現状に渋い顔をする。

その表情をみたモモンガはさっきまでとは違い、優しい声で話す。

 

「まあ、私が側にいるときは守ってやる。さて、改めて名乗るほどでもないが私はモモンガ。見ての通りユグドラシルで私達が使っていたオーバーロードの姿のままでいる。それと、他の者達や私自身が呼びやすいように、モモンガと悟と呼ばせているが良かったか?」

 

「ああ、全然構わないよ。正直現実の体でモモンガって呼ばれるのは、何か少し恥ずかしい感じがするしな。それじゃあ、俺はこれまでと同じ鈴木悟。俺達が現実の世界にいた時の人間の姿をしている。」

 

 

 

悟とモモンガが自らを確認した後、少しの沈黙が訪れる。

二人が互いを見つめあう。姿形はまったく違うものの、心の中では同じことを考えていた。他人の気がしない、まるで鏡に写った自分を見ているような、そんな思いであった。

幾許かの時間、互いの存在を確認しあっていた二人だったが、悟が先に一番の疑問であった

ことを問いかける。

 

 

 

「俺が死にかけていた時。呼びかけてくれたのは……お前なのか、モモンガ?」

 

 

 

モモンガは頷き答える

「そうだ。あの苦痛の中、まあ、私自身は痛みを感じていなかったが……。死にかけていたお前に呼び掛けたのは私だ。お前にはあのまま死んで欲しくなかった。お前が死んでしまうと私の中の大切な「何か」が消えていってしまうような感じがした。それに、お前の最後の思いを聞いていたら見捨てておく分けにはいかなかったのでな。」

 

モモンガの言葉に少し恥ずかしくなる悟であったが、正直嬉しかった。

 

「さっきも言ったが自分に照れるな……。話を続けるぞ。そうしてお前に語り掛けている内に、私の中からお前が分裂しようとしていた。何故、分裂しようとしたのか、転移と何か関係があるのかは今のところまったく分かってないがな。ただ、何とかお前が死ぬ前に分裂することが出来て、こうして向かい合っているというわけだ。」

 

「そうか……。本当にありがとう。モモンガがいなかったら俺は今頃……。ちょっとまって、転移って何?」 

 

モモンガはため息一つに、返答する。

 

「まずはそこからか……。」

 

 

 

 

モモンガの自室の中、中央にあるテーブルに向かい合うように座るモモンガと悟。

余裕をもって座るモモンガに対して、悟はメイドに持ってきて貰ったオレンジジュースを、片手に飲みながら座っている。

これはモモンガが持ってこさせたものであった。

というのも、ユグドラシルではある職業を取得した者の作る料理には様々な効果を付与することが出来た。そして、悟が飲んでいるこのオレンジジュースはナザリックの副料理長が作成したものであり、低ランクの沈静効果がある。

これ以上驚いては、悟の心臓が持たないのではというモモンガの計らいであった。

またモモンガ自身の、感情の抑制やポーション類についての実験の意味もあるが、それは悟には黙っている。

 

モモンガはいくつかの紙にこれまで自分が調べたことなどをまとめ、悟に説明していた。

 

アルベドが殺そうとした理由。

セバスの調査により、現在ナザリックはまったく違う場所に転移されたこと。

自分達の身を守るための、ナザリック内の設備、ゴーレム、アイテム、魔法……それらが機能するか否かの確認の結果。

実は3時間も寝ていたこと、などなど。

 

沈静化の効果もあって、割とすんなりと受け入れる悟。

モモンガは悟に対して最も重要なことを問いかける。

「さて、ここからが本題だ。お前の今の性格、カルマ値、強さについてだ。私自身は転移の影響による弱体化はほとんどないように感じる。性格やカルマ値はたぶんだが見ての通りだ。」

 

モモンガにユグドラシルからの変化がないのは見た目からも分かっていた。何よりも悟自身で《絶望のオーラ》を見たばかりであった。

 

「お前は目を覚ましてから、何か気づいたことはあるか?」

「う、うーん……これといって、何も。」

冷静な行動をするモモンガに対して、自分の情けない振る舞いを思い出し言いたくない悟。

 

「何でもいい。思ったことを言ってくれ。何が手掛かりになるかわからない。」

 

モモンガの言葉に悟は渋々口を開く。

 

「といってもなあ。目が覚めた後、ユリが料理を持ってきてくれてそれが美味しすぎてちょっと泣いちゃったりして。そのあと、誰もいなくなった部屋でアルベドを思い出して怖くなった所に、モモンガが急に現れてビックリした。あと、さっきトイレに行ったらめちゃくちゃ高そうなトイレットペーパーがあった。」

 

それを聞いたモモンガは肩を落とす。

「寝て、飯を食って。便所に行った。だけか……。」

 

「だから、特に何もしてないって言っただろう。」

 

 

 

モモンガは頭の中を整理するように、深く考えに入る。

(手詰まりか……。あとは、実際に悟が魔法やスキルを使って確かめるしかないのか。低階位のモノはここで良いとして、他はやはり闘技場で試したほうが良いな。悟もつれていくべきか?また、他のNPCに殺されかける可能性もあるな。何かしら装備をつけさせるか。まったく、私達が原因とはいえアルベドにも困ったも……ん?アルベド……?)

 

 

 

思考の中で出た違和感を悟に伝える。

「悟よ……。アルベドについてどう考える?お前は殺されかけたにしてはアルベドを憎んでいないようだが。」

 

 

 

悟は思った通りのままに答える。

 

「どうって……。確かにアルベドには殺されかけたけどさ、元はといえば俺達が設定を変えたことも影響あるみたいじゃないか。人間への軽蔑もナザリックが作り上げたものだ。アルベドだけを責めることは出来ないんじゃないかな。」

 

 

 

悟の話を聞いた瞬間、モモンガはふいに立ち上がり声をだす。

「それだ!」

「え?」

「だから、お前自身の内の変化だ。」

 

モモンガは持ってきた紙に図を描いて説明する。

「現実の時の私はもっと用心深いはずだった。それなのに殺されかけたはずのお前は、割とスッキリとアルベドを許している。それと料理がいくら上手いからと言って涙するのもよく考えたらおかしい。お前は現実にいた頃よりも、潔く感受性豊かになっている。逆に、私は見ての通り沈静化により常に冷静だ。それと、人間であるお前に言うのは少し憚られるが、お前以外の人間種は正直どうでもいいと思っている。ロールプレイでやっていた残酷な魔王のような性格になってしまっている。まるで私達は「真逆」だ。」

 

矢継ぎ早のモモンガの推測に考える悟。

「真逆か……。わかった。続けてくれ。」

 

「……いいだろう。今の私は食欲も睡眠欲もない。排便もしない。疲れや恐怖も抑制されている。逆にそれらをお前は持っている。性格も正反対。つまりは、私達はどちらかから生まれたのではなく、現実の私からそれぞれの特徴を持って分裂したのではないか。実際にはどの程度か分からないが私の反対だとするならお前のカルマ値はかなりの善、性格も魔王の逆ならばお人好しになったと言える。」

 

さっきまで持っていたグラスをテーブルに置き、あごに手を当てて考える悟。

どこか納得がいっていない様子である。

 

「自分ではまったく分らなかったな。確かにモモンガにできない行動を俺がしている。逆もまたしかりだ。言われてみれば性格も甘くなっているかもな。でも、それはあくまで推測だろ。全部が全部そうとは限らない。」

 

「どういうことだ?」

 

「今のモモンガの性格が俺の逆だとするなら極悪だ。それなのに俺に対してすごく優しい。髑髏なことを抜けばどう見ても、悪そうには見えない。」

 

「……それはお前だからだ。これから先、人間種や他のプレイヤーと出会うかもしれないがお前のように優しくすることは出来ないかもしれない。」

 

モモンガの話を聞いた悟は少し、悲しそうな顔をする。

自分が、自分だけが人間性を持って行ってしまったことに申し訳ない気持ちであった。

そのことを察したモモンガは、話を変えるために切り出す。

 

「辛気臭い顔をするな。性格やカルマ値はこの仮定で進めていこう。次は、お前のレベルに関しての把握だ。早速魔法を試していくぞ」

 

「ああ。」

 

 

 

何かあってはまずいということで、クローゼットから予備の装備を取り出し悟に着せる。

正直ローブを着る姿は、あまりに似合わないがとりあえず誉めておくモモンガ。

耐性付与の指輪やリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも装備する。

その後室内で使える低階位の魔法を、悟が試したところ問題なく使えた。

残るは戦闘用の魔法だけであり、それの確認のためには闘技場に向かわなければならない。

 

「悟よ、これから闘技場に向かうが、私が先に様子を見てこようか?」

 

「何か、俺の真逆というより過保護な親みたいだな……。いや、一緒に行こう。アウラとマーレならダークエルフだし、異形種よりは嫌われてない……はず。」

 

二人は指輪を使う。すると、周囲は薄暗い通路へと変貌する。

通路を抜け、闘技場に出るとこれまで感じたこのない匂い——自然の匂いがした。

思わず声をもらすモモンガ。

 

「これが自然の香りか。」

「鼻がないのに、どこで嗅いでいるんだよ。」

 

二人は自然の香りをそこそこに周囲に目をやる。

すると、自分達に向かって小走りで近づいてくる二人の子供のダークエルフが見えた。

 

アウラ・ベラ・フィオーレ——第六階層の守護者でありマーレの姉である。

マーレ・ベラ・フィオーレ——同じく第六階層の守護者でありアウラの弟である。

 

二人の近くに来たアウラは、眩しい笑顔を向け挨拶をする。それに続いてマーレもアウラの影に隠れながら挨拶をする。

 

「いらっしゃいませ、モモンガ様、悟様。あたしの守護階層までようこそ!」

「い、いらっしゃいませ……、モモンガ様、悟様……。」

 

その無邪気な挨拶に感動し、つい笑顔になってしまう悟。何だかんだでストレスが溜まっていた悟にとって子供の笑顔は癒しだった。

「よろしくアウラ、マーレ!」

「……よろしく頼む。それと、悟に対しては私と同じように接してもらって構わない。悟はリアルでの私だ。お前達を作ったぶくぶく茶釜さんやその弟のペロロンチーノさんのことも知っている。」

 

 

 

「えっ!」「ほ、本当ですか!?」

アウラとマーレは、自分たちの創造主の名前を出されたことに驚いていた。

「ああ、本当だよ。ぶくぶく茶釜さんにはお世話になっていたからね。……色んな、意味で。」

 

悟の含みのある言い方にモモンガが慌てて咳払いをする。

 

「んんっ!あー、なんだったら聞きたいことがあれば聞いておけ。時間にも余裕もあるしな。うん、そうしよう。」

 

モモンガの不自然な演技に悟は考える

 

(モモンガの説が正しければ演技力は俺の方に来たか……。とりあえずは、レベルの確認よりも好感度の方だな。)

 

「いいんですか!?」「ぼ、僕、ぶくぶく茶釜様のことで気になることあります!」

 

 

 

実はNPC達が自らの創造主に対して敬意と興味を持っているのは、前もって調べがついていた。というのもセバスが帰還した際に、モモンガがNPCへの意識調査として気になることなど質問して分かったことだ。そのため、アウラとマーレの下に向かう前に話す内容をある程度決めていた。

 

双子は悟に詰め寄っていく。悟と双子のコミュニケーションが思っていたよりも、スムーズにいったことにモモンガは内心ほくそ笑んでいた。

4人は闘技場の端に腰を掛けて談笑する。

最初は簡単な質問、それこそ子供同士がしあうような質問であった。

好きな食べ物。

好きな物。

好きなこと。

リアルの世界の仕組み。

悟だけでなくモモンガも一緒に話していたため、双子は話を疑うことはなかった。

ぶくぶく茶釜のことはもちろん、モモンガや悟自身のことを聞かれることもあった。

 

 

 

その途中、マーレが下を向いて黙り込んでしまう。

それに気が付いた悟は穏やかに尋ねる。

 

 

 

「マーレ?どうかしたか?」

 

顔を上げたマーレは震える声で意を決したように話し始める。

 

「あ、あの!リアルってそんなに遠い場所なんですか?僕やお姉ちゃんは、も、もうぶくぶく茶釜様には会えないんですか?」

 

 

 

思ってもいなかった答えに悟の顔は凍り付く——。

 

 

 








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