前回の話を読み直し、文字数を増やしてみました。
また実験として、コミカルな表現も増やしました。
とりあえずはアニメ一期を目途に書いていきます。
「やっと分かったか。その通りだ。私はお前だ。」
その一言に生身のモモンガは一瞬安堵の吐息をもらすが、すぐに異変に気が付く。
自分の置かれている現在の状況を確認するように辺りを見回す。
いつの間にか自分の体は人間なっていた。そして正面には何故か、自分が今まで使っていた骸骨のアバターが座り込んでいる。さらに、不思議なのはその二人を囲むようにしてNPCが周囲に立っていたことだ。
(何でアバターと分裂しているんだよ!聞いたこともないエラーだぞ……。それにさっきまでマネキンのように動かなかったNPC達も動いている。一体、何が起きたんだ?ユグドラシルⅡが始まったとか?それとも、終了に失敗したとか?いや、それにしたってこの状況は異様すぎる。)
玉座に居る一同が驚愕の沈黙で固まっていた。
その中で人間のモモンガが周囲の者に問いかけようとした瞬間——
「えーと、誰か今の状況わか——っっ!!」
純白のドレスを着た悪魔「アルベド」がモモンガの着ていたYシャツの襟に掴みかかる。
「このかぁとうせいぶつがぁああ!!脆弱なる人間如きがぁああ!私の愛するモモンガ様を苦しめるとは!殺すぅ!至高の御方に誓って殺してやる!!」
「ひぃ!!」
あまりの迫力に情けない声を上げてしまう生身のモモンガ。その光景を見ていた骸骨のモモンガが慌てて助けようとする。
「止せ、アルベド。」
「ご安心下さい、モモンガ様。今すぐに、この者の息の根を止めて差し上げますので。」
「いや、だから……、彼は殺しちゃだめだと……」
「これ以上至高の御方々をナザリックから立ち去らせるわけには……!!モモンガ様を苦しめるものは許さない!絶対に!!」
セバスやメイド達も動かないでいる。至高の御方を苦しめ傷つけたということで、アルベドの制裁に同調しているのだろう。
何度か呼びかけるが骨のモモンガの声は、アルベドの絶叫により届かない。そして、遂に襟をつかんでいた方とは逆のアルベドの細くしなやかな腕がモモンガの首にかかろうとしていた。
しかしその瞬間、圧倒的な黒いをオーラを吹き出しながら骨のモモンガの声が玉座に響き渡る。
「やめろと言うのが聞こえんのか!!この大馬鹿者がぁ!!」
自分の半身を殺されそうになった骨のモモンガは、無意識のうちにスキル《絶望のオーラ》を発動させアルベドを怒鳴りつけていた。それまで状況を窺っていたメイド達はその黒いオーラにひれ伏していく。
ただ一人、セバスは人間のモモンガが敵ではないと判断しアルベドの腕から奪い取る。その反対に叱り飛ばされたアルベドは、一瞬のうちに震える頭を絨毯の上に擦り付け土下座の恰好をとっていた。
「も、申し訳あり……ませんモモンガ様……」
アルベドは《絶望のオーラ》により固まりついた肺から、何とか一言謝罪の言葉を絞り出す。頭の中には謝罪の言葉が星の数程浮かんでくるが、それを口に出すことは出来なかった。謝罪の言葉を発しようとするが、それをモモンガに伝えることが出来ない。その耐えがたい罪悪感にアルベドは耐えきれなかった——
「この…命で……どうか——」
そう声を引き絞ると持ってい世界級アイテム《真なる無/ギンヌンガガプ》の槍で、自らの腹部を貫こうとした。これが今の自分に出来る精一杯の謝罪であると考えたのだろう。悲叫な顔を浮かべモモンガを見る。
最後は愛しのモモンガ様を心に焼き付けるために……。
だが、アルベドの自害行為はモモンガによって止められる。モモンガの骨の腕がアルベドの槍を押さえつける。
「止すのだアルベドよ……、今回のお前の暴挙、全てを許そう。唐突な緊急事態に対して、私の身を守ろうとしてくれた?のだろう。ただ、よく状況を確認してから行動に移すべきであった。そして、何より人間というだけですぐに殺しに行くのは良くない。これからの働きでは、これらのことに配慮していってもらいたい。だから命を粗末にするな!」
「うぅ……、うううう……。モモンガ様ぁぁあああ!!本当に申し訳ありませんでした!!」
骨のモモンガの咄嗟の言葉に感動した、アルベドが涙を流しなら骨のモモンガの胸に飛ついて行く。モモンガは渋い骨持ちでそれ受け入れる。
その光景を眺めていたセバスが、冷静な声で骨のモモンガに話しかける。
「モモンガ様」
「何だ、セバスよ」
「話を逸らして申し訳ないのですが……。こちらの方は一体?」
「あっ!」
すっかり忘れていた骨のモモンガであった。セバスにお姫様抱っこされている生身のモモンガの方も、あまりの衝撃の展開に精神的にやられ気絶してしまっている。
モモンガはアルベドとセバス、そしてメイド達に向けて軽い説明をする
「彼は私の現実世界《リアル》での分身である「鈴木悟」だ。私はユグドラシルではオーバーロードとして活動していたが、《リアル》では人間種として戦っていた。だが今回何かしらの事故が起こり、《リアル》に存在していた「鈴木悟」が私の体を通してこちらの世界に迷い込んでしまった。これについては先ほど見てもらっていた通りだ。」
もちろんこれらのことは推測に過ぎないが、信ぴょう性を持たせるため隠さず話す。
さらに、モモンガは話を続けていく。
「ここにいる「鈴木悟」は先ほども言ったように私自身の分身である。ゆえに彼の扱いは私と同等……、いや、それ以上の地位とする。「鈴木悟」に剣を向けることはこのモモンガ延いてはナザリックへの謀叛だと知れ。」
この発言に緊張が高まる。
アルベドは自らの行いの重さを理解し、モモンガに更なる謝罪しようとする。
「至高の御方の分身たる存在を手にかけようとしていたなどと……。この身で償えることがあれば何でも致します。どうか罰を。」
それに続いてセバス、メイド達と傍観していただけ者達も、罪に対する謝意示そうとしたが、モモンガによって遮られる。
「あー、大丈夫だ。先ほども言ったように、今回の件は不問とする。緊急事態だったし仕方がない。それだけ反省しているのなら良いだろう。」
そのモモンガの言葉に、アルベド達は深く礼をする。
自らの発言とは裏腹に、骨のモモンガは大きく混乱していた。
(とりあえず悟は生きているし、良しとするか。それにしても、すごい忠誠心だな……。アルベドが真っ先に悟を殺しにかかったのはカルマ値が関係しているのか?いや、たぶん、あの設定のせいだろうな。こんなことならビッチのままにしとけば良かった。それはそれで問題ありだけど。まあ、今回のことに関しては私もだが悟にも非がある。悟には悪いが、設定や忠誠を測るいい機会だったな。)
「状況を把握するため、これからお前たちに命令する。セバスよ。」
「はい。」
「大墳墓を出て、周辺地理を確認せよ。もし、知的な生物がいた場合はその見た目など覚えておく。また、話が通じる相手だった場合には友好的に接し情報を引き出せ。交渉の際は相手の条件をほぼ聞き入れても構わない。行動範囲は周囲一キロに限定。戦闘は極力避けナザリックへ戻るのだ。それと、鈴木悟を私の部屋のベッドに寝かせておいてくれ。護衛としてプレアデスより一人つけさせろ。誰が適任かはお前に任せる。」
「了解いたしました。モモンガ様。直ちに行動を開始します。」
「……まて、やはり一人では心配だ。セバスもプレアデスから一人連れていけ。二人で連携して情報を収集するのだ。」
セバスに向いていた体を、メイド達の方へ向ける
「プレアデスよ。お前たちにはセバスに着いて行く者と、悟の護衛の者。二人を除いた四人で九階層に上がり八階層から侵入者が来ないか警戒に当たれ。」
「畏まりました、モモンガ様」
「直ちに行動を開始せよ」
「承知致しました。我らが主よ!」
「アルベド、お前にも命じたいことがある。」
「私は御方の忠実な僕。なんなりとお命じください。」
「各階層の守護者に連絡を取れ。私が人間の悟とオーバーロードのモモンガに分裂したこと。悟が目を覚まし落ちついたら、六階層のアンフィテアトルムに集合しそこで詳しく説明する。また、目を覚ましたという報告は後ほど私が確認してから送る。これらのことを伝えて貰いたい。」
「畏まりました。」
「よし、行け」
「はっ!」
誰もいなくなった玉座で、モモンガは一人ごちている。
「何とかそれらしく振舞えたか……。多分だがスキルの《精神安定化》のおかげでこれだけ冷静な対応が出来たのだろう。もしこれが無かったら、すぐにボロが出てしまっていただろうな。さて、悟が起きる前にできるだけ情報を集めておくか。」
モモンガはギルドの指輪を使い玉座を移動する。
♦
夢を見ている。自分がこれまで全てを捧げていたゲームが終了する。
けど、実は終わらず何故か分身する自分。
そして何故かブチギレたNPCに首を絞められそうになる。
それ見ていた分身した自分の謎オーラによって気絶する。
そんな夢だ。
まったく、ユグドラシルの最後に寝落ちするとは情けない。
だが所詮悪夢。
時間は分からないが会社に遅刻してはまずいと体を起こし目を開ける。
しかし、見えてきたものは狭いアパートではなく、高級ホテルのような様式の部屋だった。
お約束のように頬をつねる。
「そんな……、これまでのことは夢じゃなかったのか!」
少しして部屋の扉からノックをする音が聞こえる。
「は、入っていいですよ。」
とりあえず入室の許可をする。悟の声に反応して、メイド服に眼鏡付けた女性がティーカートを押しながら入ってくる。
「失礼します。」
そして、悟が横になっているベッドの側に立ち自己紹介を始める。
「戦闘メイドプレアデスが長女、ユリ・アルファです。悟様の警護及びお世話を承っています。」
「初めまして……というのは、可笑しいよな。俺はモモンガです。……というか、な、何で俺の本名を知っているんですか?」
悟自身は個人情報の漏洩にビビる。
「それは先ほどモモンガ様……いえ、オーバーロードのモモンガ様から説明を受けました。」
そのことを聞いた悟は頭を抱える。
(やっぱり俺は増えていたのか!漫画でしか見たことないぞ……。というか本当にゲームの世界に来てしまったのか。一体どうなってしまうんだ俺は!)
「悟様と呼ばれるのはお嫌でしたか?」
ユリが困惑した表情で問いかけてくる。
「すいません、いつもユグドラシルではモモンガで呼ばれていましたから。悟でいいです。」
「分かりました。それと、畏まった話し方をなさらなくても構いませんよ。私達は至高の御方々の僕ですので。」
「はぁ……。」
そのことを聞いた悟は至高の御方と呼ばれたことに違和感を覚えていた。
(他のNPCも皆こんな感じなのか?とりあえず、もう一人の俺と合わないと……)
「お茶と軽いお食事をご用意したのですが、いかがしますか?」
「えっ、ご飯?ぜひ、お願い……頼む。」
悟は正直なところお腹が空いていた。それに、現実の世界ではハッキリ言ってまともな食生活をしていなかったためこちらの食事は非常に気になる。もう一人の自分と合うのは食事を済ませた後でいいだろう。
ベッドから部屋の中央にあるテーブルの席に着く。
ユリは手際よく、紅茶、お茶菓子、軽食などをテーブルの上に用意していく。
「どうぞ、召し上がってくださいませ。」
「いただきます!」
悟はすごい勢いで飲み食いしていく。準備の段階からその香りにかなりつられていた。
「ああ、美味い!美味すぎる!こんなの食べたことがないぞ!現実の食料とは比べ物にならない。いや、比べるのもおこがましい出来だ!生きていて良かった、本当に良かった……。ううぅ……ユグドラシル万歳、ナザリック万歳!」
現実の食事との差に泣きながら紅茶を飲み、菓子や軽食を食べていく悟。
そのあんまりな光景を見たユリは一歩引いていた。
「ありがとうユリ!さすが、やまいこさんが作ったNPC……。いや、娘だ!」
ものすごい勢いで感謝する悟。
「ボ……私には、勿体ないお言葉です。」
(ぼ?ああ、やまいこさんはぼくっ娘だからその影響か。にしても上手い。本当は毒を盛られることなどを警戒したほうが良いのだろうが……。杞憂だったか)
ひとしきり食べ、茶を何杯か飲んだ後に手を合わせる。
「ご馳走様。美味しかったよ。」
「喜んで頂けて何よりです。副料理長も今の言葉できっと喜ばしく思うでしょう。そろそろモモンガ様に連絡を致したいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わない。だが、連絡というのはどのようにして取るのだ?」
「《伝言/メッセージ》の魔法を使います。」
ユリの返答に驚く。
(そうか、魔法もあるのか。だとすればスキルもあるはず。確認しなければならないことが多いな。ん……?まてよ、もし俺の体が人間になったとするなら種族レベルはどうなる?それに装備だって今は現実のままの恰好だ。結構まずくないか!?料理に万歳している場合じゃないんじゃないか!?)
心臓の鼓動が早くなるが、出来るだけ平静を装いながら話す。
「な、な、なるほど、分かった。骨の俺を呼んでくれ。それと、出来るだけ急いで来るようにとも伝えてもらえるか。」
「はい。」
ユリは指を耳に当て、宙に向かって誰かと話す仕草をする。
「モモンガ様……はい、目を覚まされたあと軽食を大量に……それは、軽食ではない?……失礼しました……はい、至急会いに来てほしいとのことでしたので……分かりました。お伝えします。」
「あと少しで向かうとのことです。また、内密な話をしたいとのことでしたので、私は部屋の前に控えさせて頂きます。」
「わ、分かった。」
一礼した後、部屋を去るユリ。
部屋に誰もいなくなった瞬間急に怖くなる。
(急に怖くなってきたな。よく考えればさっきアルベドに殺されかけたんだった。まあ、気絶したのはモモンガのオーラのせいだけど。ナザリックは異形種ばかりだし、これじゃあお化け屋敷じゃないか。こんなことならもう少し人間種も作っておくべきだったか……)
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……
部屋の中は沈黙、いや悟だけは自分の心臓の音が聞こえていた。
しかしその静寂はすぐに破られる——
「待たせたな。」
自分の悲鳴によって——。
「ぎゃあっ!」
急に目の前に現れた骸骨に飛び上がる悟、それを見たモモンガは呆れたように話しかける。
「いや、自分に驚いてどうする……。」