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〈地球温暖化という概念は、アメリカの製造業から競争力を奪うために、中国によって中国のために作り出されたものだ〉
ネットに書き散らされている安っぽい陰謀論の一つだと思われたかもしれない。だがこれは、ドナルド・トランプによる2012年のツイートだ。アメリカという国は、このような考え方の人物を大統領に選んだのである。
アメリカではもともと、地球温暖化懐疑論・否定論が根強い。米国ピュー・リサーチセンターが2016年におこなった世論調査によれば、51%もの人々が「温暖化はおもに自然変動によるもの」、あるいは「温暖化しているという確たる証拠はない」と回答した。
「地球温暖化はおもに人間の活動によるもの(本稿では以下「人為的温暖化」と記す)」と考えているアメリカ人の割合は48%にとどまっている。世論はまさに二分しているとみていいだろう。
人為的温暖化を否定しようとする組織的な動きが始まったのは、1988年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設立された直後のこと。先頭で旗を振ったのは、前回(<理科のテストで小学3年生がガリレオと同じ仕打ちを受けた深刻な理由>https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57443)も登場したフレデリック・サイツらジョージ・C・マーシャル研究所の面々である。
サイツらはまず、温暖化を化石燃料ではなく、太陽のせいにしようとした。19世紀以降に見られる太陽活動の活発化が、地球の気温を上昇させているという主張である。この議論自体は、科学的に検討する価値があるものだ。
事実、IPCCは第一次評価報告書の中で太陽変動についても言及している。「太陽エネルギーの増加が気温にもたらす影響は、温室効果ガスに比べて十分小さい」と、それが主因である可能性をはっきり否定しているのだが、この冷静なトーンの反論が広く世間の目に触れることはなかった。
一方の人為的温暖化否定派はこれを皮切りに、メディアを使ったキャンペーンと金にあかせたロビー活動を繰り広げていく。いわく、温暖化の科学的基盤はあまりにもお粗末だ。その原因を人為的なものだとするコンセンサスは科学界にない。IPCCの報告書は極めて独断的で、都合の悪いことを故意に無視している――。
いうまでもなく、こうした主張はすべて事実に反している。人為的温暖化も一つの仮説だということは否定できないが、それは、特定の研究グループや一派が提唱しているというようなレベルのものではない。世界中のほぼすべての気象・気候研究者が同意している考えなのだ。
このことは、人々が思う以上に重みがある。科学者というのは生来、他人の粗探しが大好きな人種だからだ。誰かが何か言い出せば、必ずそれを疑ってかかる。反例を探す。議論に一石を投じようとする。そんな科学者が何百人も集まり、互いに批判的に検討し合った結果がIPCCの報告書であるということを忘れてはならない。
急激な温暖化が進行していることは、膨大な観測データから疑いようがない。大気に蓄積しているCO2が化石燃料に由来することも証明済み。温室効果ガスと温暖化の物理も確立しているし、それに基づく数値シミュレーションは観測事実を非常によく説明する。逆に、人為的温暖化に疑念を抱かせるようなデータは今のところ皆無に等しい。