急増する株式併合 その目的は? 株価と株主への影響は?
2017年9月27日の朝、シャープ<6753>の株価が10倍になっていた! 「あのシャープが、まさかのテンバガー?」とびっくりした方もいるかもしれません。もちろん、違います。株価が10倍になったのは、10株を1株にする「株式併合」が行われたからです。
2018年10月までに、株式の取引単位は100株に統一されます。現在1000株単位の銘柄も、すべて100株に変更になります。すでに各社が変更を進めており、シャープと同じ9月27日には、計357銘柄が単元株の変更を行いました。そして、その全銘柄で同時に実施されたのが、株式併合です。
一般的に、株式併合は株価にマイナスの影響があるといわれていますが、それは本当でしょうか?
株式併合とは
企業が「発行済株式数を減らすために、複数の株式を1株に統一する」ことが株式併合です。
たとえば「2株→1株」の株式併合ならば、株主の保有株数は半分になります。1000株保有していたのであれば、「2株→1株」の併合によって500株保有となります。
一方で、理論上の株価は上昇します。1株500円の株価が「2株→1株」で株式併合されたら、500円×2で1000円に、「10株→1株」の併合ならば、500円×10で5000円に上昇します。シャープの場合、まさにこの計算によって株価が10倍になりました。
株式併合しても資産価値は変わらない
株価は上昇しますが、その企業の株を保有している投資家の保有資産は変わりません。なぜなら併合により、投資家が保有している株式数が減少するからです。
- 併合前の保有資産(2株を保有):500円×2株=1000円
- 併合後の保有資産(2株→1株):1000円×1株=1000円
企業価値という点でも、併合前と併合後では変更はありません。企業価値を表す「時価総額」は「株価×発行済株数」で算出されます。併合によって「株価」は上昇しますが、「発行済株数」は減少するため、両者をかけて算出される時価総額=企業価値は変わらないことになります。
【参考記事】時価総額から見えてくる意外な事実 プロは常にここを意識している
企業が株式併合を行う目的
このように理論上は、株式併合では株式の価値には影響を及ぼしません。では、企業が株式併合を行う目的は何でしょう?
ひとつめの目的としては、「株価の引き上げ効果」があげられます。長期間にわたり業績低迷が続く企業は、株価も下落し、株価が200円以下のいわゆる「低位株」となります。そうなると、投機の対象になりやすくなります。
そこで企業は株式併合を実施して、株価の引き上げを図ります。1株50円の銘柄を「10株→1株」で併合して、株価を500円にするのです。このように、いわば「見せかけの株価」を上昇させるための手段として、これまで株式併合は多く使われてきました。
最近増えている株式併合の目的
しかし最近の株式併合の急増は、冒頭に述べたように、東京証券取引所や全国の取引所における「売買単位の統一」に伴うものです。そして、「売買単位100株統一」の推進と同時に、東京証券取引所では、必要最低投資金額を「5万円以上50万円未満」にすることを推奨しています。
この基準をクリアするには、株価は最低でも500円以上(500円×100株=5万円)で、かつ5000円以下(5000円×100株=50万円)に収める必要があります。そのため、売買単位の変更と同時に株式併合を活用して、必要最低投資金額の調整を行う企業が増えているのです。
【参考記事】売買単位が100株に統一! 株式併合されると株価への影響はどうなの?
経営再建やM&Aの調整という目的も
その他の目的としては、過去に実施した第三者割り当て増資や大幅な株式分割などにより、過剰に膨れ上がった発行済株式数を、適正な水準に戻すために株式併合を実施する場合があります。
また、業績不振の企業が、経営再建のために欠損金を埋める目的で、減資とセットで株主併合を実施することもあります。その場合、減資とほぼ同時期に第三者割当増資も実施します。結果的に、1株あたりの利益が低下することから、既存株主にとってはマイナスとなる場合が多くあります。
合併などを行う際には、合併比率を調整する目的で株式併合が行われることがあります。また、株式併合を実施することで、企業は株主の管理コストを大幅に圧縮することができます。
ネガティブなイメージがある理由
2001年の商法改正以前は、原則として株式併合は禁止されており、例外的に資本減少など一定の場合でのみ認められていました。
商法改正後も、減資を伴う株式併合が多かったこと、業績が低迷している企業が、株価水準を高めるためや株主管理コストの低減化のために行っていたことなどから、一般的に、株式併合はネガティブなイメージがあります。
しかしながら、現在、株式併合の目的は多様化してきています。
株式併合が株主に与える影響
では、株主に与える影響はどうでしょうか?
株主併合は、株主総会の特別決議によって決まります。特別決議は出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。普通決議で決まる「株式分割」より厳格な手続きが規定されています。
【参考記事】株式分割は本当にプラス効果? あの“高嶺の花”にも手が届くけれど
株主の地位を失う可能性もある
なぜ分割よりも手続き規定が厳しいかと言うと、株主に与える影響が大きいからです。株式併合の場合、少数の株しか保有していない株主は、株主としての地位を失うか、併合によって端数や単元未満が生じない大株主との間で、不平等が生じる可能性が高くなります。
ある銘柄が売買単位の変更(1000株→100株)と同時に「4株→1株」で株式併合を行った場合、もともと4株未満しか保有していなかった株主は、株主の地位を失います。たとえば3株保有の場合、併合後は0.75株の端株になってしまうからです。
1000株保有(単元株)の場合なら、併合後は250株保有となりますが、つまり単元株200株と単元未満株50株です。単元未満株は取引所で売却することはできません。
株主の権利は保護されているが
株式併合で発生した端株や単元未満株は、企業に買取請求して換金するか、単元株になるまで株を買い増し請求することができます。端株は企業によって一括処理され、端数割合に応じて配分されることになります。
このように株主としての権利は保護されていますが、「いつの間にか株主ではなくなっていた!」と慌てないためにも、併合後に自分の保有株がどうなるのか確認しておく必要があります。
実際の株価に与える影響
株式併合自体は、理論上は、株価には「中立」です。ただ、これまでの株式併合は、業績が低迷している企業が株価水準を高めるために実施したケースが多く、併合の株価も下落傾向の銘柄が多くありました(調整後株価で比較した場合)。
しかしながら、いま次々と行われている売買単位の変更に伴う株式併合は、投資家の利便性を高めて、国際競争力を向上させようという取り組みに対応したものであり、これまでの株式併合とは目的が異なります。
流動性が向上して株価も上昇
森永製菓<2201>は、2016年9月28日に売買単位の変更(1000株→100株)と、「5株→1株」の株式併合を行いました。併合前は、森永製菓株を買うには80万円以上の資金が必要でしたが、株式併合によって半分の資金で買えるようになりました。
必要最低投資金額が下がったことで流動性が向上したことに加えて、好調な業績も後押しして、株式併合後の株価は大きく上昇しています。
銘柄ごとの「いま」を見極めよう
一方で、売買単位の変更に伴う株式併合であっても、業績が低迷している低位株の企業の場合は、株式併合を行うことで、経営者の将来の株価に対する不安のシグナル(将来の株価の成長に自信がない)とマーケットが受け取る可能性もあり、注視していく必要があります。
つまり、いずれにしても株式投資においては、個々の企業の目的や業績動向などを総合的に判断することが最も大切なのです。また、かつて行われていたものと最近の株式併合とでは目的が異なるため、過去のネガティブイメージに囚われず、「いま」をしっかりと見極めるようにしましょう。
【おすすめ】明日上がる銘柄3つの条件——元手30万円を数億円に変えた株の秘密とは?