まるで巨大な赤ん坊…中国人が北欧で起こした「外交問題級わがまま」

官製メディアも悪乗り扇動したが…
古畑 康雄 プロフィール

あおったメディアにも厳しい批判

今回の事件ではさらに、曾一家の言い分だけで事件を一方的に報じ、前述したような読者の憤激を買ったとして、環球時報への批判も強まった。

「本来はルールを守らない客の個人的な問題だったのに、国と国の問題へと騒ぎを大きくした」「事実に基づかない主観的な報道で、ポピュリズムをあおった」「中国にこのようなメディアがあることは中国にとって災難」――ネットではこのような批判があったという。

中国青年報のコラムニスト、曹林も事件が報じられた直後の16日、「憎しみ扇動するのは効果がない」との文章を発表。

「ニュース業界のプロとしての自分の信条は、感情が激烈な情報源ほど、疑ってかかるべきだということだ」と述べ、この報道には次のような問題があると指摘した。

曹は以前東京や北京で会って話をしたことがあるが、環球時報をたびたび批判するなど、政府系メディアの中では理性的なジャーナリストだ。

「(1)情報源が単一で、一方的な言い分であり、スウェーデンのホテルや警察の見解による裏付けも反証もなく、現地の報道も引用していない。(2)常識に合わない。自分は全く無実で、相手が悪魔のように言う二項対立的な叙述には警戒すべきだ。一体どのような原因があり、どのような誤解があったのか、なぜ警察がこれほど道理に合わないことをしたのか、重要な事実が隠されているのではないか。(3)あまりにも感情的で、事実が少ない、怒りに任せて訴えたようで、客観的な叙述がない」

そして環球時報の報道に対しても、「当事者の側に立って報道するのは、正常なことだが、プロとしての精神がなければならず、ニュースを『ネットの書き込み』のレベルにしてはならない。メディアの役割とは事件全体の真相を伝え、調査を尽くした客観的事実によって世論の圧力を形成し、問題を解決することであって、義憤にかられて権利擁護をすることではない、それは弁護士がやることだ。メディアの社会的な役割は客観的報道により事実の非対称性(一方的であること)をなくし、大衆に十分な情報を提供し、理知的な判断をできるよう手助けすることだ」などと指摘した。

そしてこのグローバルなネット時代に、一方的な情報で世論の感情をあおるやり方はもはや効果がなく、真相が明らかになった時に世論をあおったメディアは非常に苦しい立場に陥るのだ、としている。曹のこのような指摘は、西側のジャーナリズムにも通じる考え方で、全く正しいと思う。

微信に掲載された文章によればその後、曾が一部の事実を隠していたと認めた。

具体的には当初ホテル側は曾一家に協力的で、ホテルのロビーで休憩することに同意し、BGMの音量を下げるなどしたが、曾がホテルの外にいた中国人留学生を自称する若い女性を連れてきて、彼女も一緒に休ませてほしいと言ったところホテル側が拒否、トラブルに発展したことが明らかになった。

さらにこの女性は曾の妻で、曾はもともと4人で旅行したのだが、ホテル側には3人で宿泊するとごまかし、後から妻をこっそり部屋に入れようとしたが、ホテル側に見破られたことでトラブルになったという。

また曾は中国企業のナイジェリア現地法人の責任者だといった情報も流れているが、確認はできていない。

 

中国政府もトーンダウン

事件を受け、中国の外交部門は14日、スウェーデンに対し「驚きと怒りを覚える」「スウェーデン警察による、中国国民の生命と基本的人権を侵害する行為を厳しく非難する」「スウェーデンに対し、当事者である中国国民が求めている処罰、謝罪、賠償などの要求に応じるよう求める」と非常に厳しい口調で申し入れた。

ところがスウェーデン側の報道により事実が明らかになった17日には「大使館と外務省はスウェーデン側に申し入れ、事件を調査し、当事者の合理的な要求に答えるよう求めた」と急激にトーンダウンした。

海外メディアは、スウェーデン国籍で中国政府を批判する書籍を販売していた香港の書店関係者、桂民海氏が中国当局に拘束されたことで、スウェーデン政府が中国を人権侵害と批判していることや、中国政府が「チベット独立勢力」とみなすチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世がこのほどスウェーデンを訪問したことへ不快感を強めていたことが背景にあったとみている。

いい加減なニュースに便乗して批判をしたため、引っ込みがつかなくなった形だ。中国国際放送(北京放送)の日本語サイトには「中国人観光客を荒々しく排除 スウェーデン警察の人権意識は何処に」という日本語の評論が掲載されているが、事実関係が分かった今は取り下げたほうがいいと思う。