週刊文春の名物編集長・新谷学さんが7月に昇格し、編集局長に就任した。週刊文春の編集、デジタル、出版の3部門を統括する新しいポジションだ。
6年にわたる長期間の編集長在任時に、芸能から政治スキャンダルまで数々のスクープを放った。「文春砲」の異名をここまで有名にした立役者が次に挑むのは、雑誌メディアの生き残りだ。
だが、その前には大きく2つの課題が立ちふさがっている。
政治から芸能まで幅広いスクープで「文春砲」の地位を確立
まずは、新谷編集長のもとでの主なスクープを列挙してみる。
政治関係では「小沢一郎 妻からの離縁状」「甘利大臣 金銭授受疑惑」、芸能ではAKBやジャニーズの恋愛や不倫報道、ショーンKさんの経歴詐称報道などが並ぶ。
不倫などのスキャンダルの印象が強いが、政治や社会的なスクープも幅広く取り扱っていることがわかる。
2017年3月には編集長自ら『「週刊文春」編集長の仕事術』を出版。その中では「スクープを連発して部数を伸ばし、世の中の注目を集める」と語った。
だが、その言葉の一方で、実は週刊文春の部数はジリジリと下がり続けていた。
新谷編集長時代にも週刊文春の部数は下がっていた
これは週刊文春の人気が低下していることを意味しない。雑誌全体の売り上げが急速に落ちている中では、むしろ健闘していると言える。
スクープを連発しても部数は下がる。その中で新谷編集長が取り組んできたことの一つが、収入の多角化だった。
雑誌を売るだけでなく、デジタル版でも記事や動画を公開。ドワンゴ、ヤフー、LINEと組んで課金モデルにも取り組んでいる。
「週刊文春」は様々なプラットフォームで流通している
編集長から編集局長に昇格した新谷さんが今後取り組むのは「週刊文春のコンテンツ力を雑誌、デジタル、出版で多角的に活用する」ことだ。
前述の「編集長の仕事術」では次のように書いていた。
これまでは雑誌の売上と広告収入が二本柱だったが、本書で述べてきたように、週刊文春のコンテンツビジネスは一気に多様化が進んでいる。雑誌の売上を中心に「週刊文春デジタル」「LINEアカウントメディア」などの課金ビジネス、「eブックス」などの記事のバラ売り、テレビやネットメディアの「記事使用料」、さらには記者のマネージメントや他企業とのコラボビジネスまで、ぐるりと360度、トータルで週刊文春が生み出す収益、社会的な影響力を示す指標が欲しい。
部数が減り、雑誌の売上と広告収入が減る中で、新たな収入源でその分を満たし、収益を伸ばせるのか。これが一つめの大きな課題だ。
もう一つの課題とは、文春砲の在り方だ。
小室報道きっかけに広がった文春への批判
芸能人の恋愛や不倫など私生活を報じることに「プライバシーを暴いて商売をしている」という批判は根強い。
特に、2018年1月に小室哲哉氏の不倫を報じ、それを受けて小室氏が引退会見を開くと、文春への批判が広がった。
新谷編集局長は当時、トークイベントでこう語っている。
「人間のいろんな面を伝えていきたい。KEIKOさんの介護をしているという『表の顔』の裏で、女性との息抜きを求めていた。大変な介護の中で息抜きもしたくなるよなという、介護の理想と現実というものを伝えたかった」
「こちら側の意図するものと、伝わり方に大きなギャップが出てきている。予想できなかった」
週刊文春のスクープをテレビやネットメディアが一斉に追いかけ、それが次々とリツイートされ、シェアされ、週刊文春読者に止まらない影響力を持つ。
そのような時代において、雑誌報道はどうあるべきなのか。BuzzFeed Newsが新谷編集局長にこの点について質問したところ、答えの一つとして提示されたのが、編集長として最後に担当したスクープだった。
「170日目の真実」と題したその記事では、小室氏が1月の会見で語った言葉は「ほとんど嘘」「介護らしいことは何もしていない」という親族の言葉を詳細に報じている。
文春への批判が広がるきっかけとなった小室氏の会見では、真実は語られていなかったと指摘する記事を編集長としての最後の号で出した。
新谷編集局長はBuzzFeed Newsにそれを「ケジメだった」と語る。
「会見で語られる言葉が本当とは限らない。その裏側にあるものを取材し、明らかにするのが私たちの仕事」
紙媒体が衰退していく中で、メディアはどうやって生き残るのか。生き残って、何をなすべきなのか。
この2つの課題は、文春だけでなく全てのメディア運営者に突きつけられている。
バズフィード・ジャパン 創刊編集長
Daisuke Furutaに連絡する メールアドレス:daisuke.furuta@buzzfeed.com.
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