麻生太郎財務相が福田淳一元財務事務次官のセクシュアルハラスメント問題について「男の番(記者)にすれば解決する話なんだよ」などと発言していたことが報じられている(『週刊新潮』(新潮社)4月26日号掲載)。
記事によると、4月12日に開かれたパーティーで次のようなやりとりが交わされたそうだ。
記者 次官のセクハラ、さすがに辞職なんじゃないですかね。
麻生 (にやつきながら)だったらすぐに男の番(記者)に替えればいいだけじゃないか。なあそうだろ? だってさ、(週刊新潮に話した担当女性記者は)ネタをもらえるかもってそれでついていったんだろ。触られてもいないんじゃないの。
記者 それもセクハラ発言です。
麻生 だから、次官の番をみんな男にすれば解決する話なんだよ。
「ネタをもらえるかもってそれでついていったんだろ」「触られてもいないんじゃないの」という発言については、さすがにおかしいと感じる人がほとんどだろう。絶対に許される発言ではない。
しかし、「次官の番をみんな男にすれば解決する話」という発言については、「女性をセクハラから守るために、まぁそれもありなのかな」と思っている人も少なくないのではないだろうか。実際、ネット上でも「異性であれば1対1で会食に行くべきではない」などの意見が散見された。
一見、女性をセクハラから守るための対策のようにみえるかもしれない。しかし、この発言は「男性の政治家はセクハラをする可能性があり」「女性に対するセクハラは仕方のないことである」という前提にたっている。「セクハラは男女がそれなりの環境に置かれれば起こってしまっても仕方のないものだ」と言っているようなもので、セクハラの存在を仕方のないものとして容認してしまっている。根本的な解決には全くなっていない。
女性記者がまともに働けなくなる
健康・教育・政治参画・経済参画の4つの基準を元に算出される「ジェンダーギャップ指数ランキング」で2017年、日本は144カ国中114位の位置につけている。日本の順位がこんなにも低いのは政治参画・経済参画の指数が圧倒的に低いことが主な原因であり、それぞれ123位、114位となっている(ちなみに、健康の分野では1位)。
衆議院議員に占める女性の割合は29年1月現在で9.3%(44人)、参議院では、29年1月現在で20.7%(50人)となっている。内閣についても、野田聖子総務大臣、上川陽子法務大臣の2人以外あとは全員男性だ。地方議会では3割以上の町村議会ではいまだに女性議員がひとりもいない。
この状況下で「男の官僚・政治家には男の記者をつける」「異性で会食にいかないようにする」を実施してしまったら、女性の記者がまともに働けなくなってしまう。
ちなみに、政治分野については、国政選挙などで男女の候補者ができる限り同数となるよう政党に“努力義務”を課す「政治分野における男女共同参画推進法案」法律が今国会で成立する予定だ。しかし、あくまで努力義務であって罰則規定はない。
女性の排除による解決は全く現実的ではない
セクハラは記者やメディア関係だけに起こる問題ではない。先月27日、介護職員らの労働組合「日本介護クラフトユニオン」が、介護現場で働く人のうち約3割が利用者やその家族からセクハラを受けた経験があるとの調査結果を公表した。朝日新聞の報道によると、アンケートへの回答者1,054人(女性908人、男性146人)のうち29%にあたる304人(女性286人、男性18人)が「セクハラを受けた」と答えたそうだ。
公益財団法人『介護労働安定センター』の2013年の調査では、訪問介護員の男女比は男性7.6%、女性92.4%、介護職員の男女比は男性24.8%、女性75.2%だ。麻生氏の考えを採用するのであれば、この場合はどうするのだろうか。女性の介護者は男性を介護できないようにするべきということなのだろうか。
セクハラは仕事の場だけに限らず、学校や就活の場でも起こってる。女子大学生が男性教授にひとりで話をききにいってセクハラに遭ったら、ひとりで会いに行く大学生が悪い、ひとりで会いに行くべきではないというのか。それは全く現実的な解決方法ではないだろう。女性を排除しても、問題の根本的な解決にはならない。必要なのは、セクハラを社会からなくすための法整備ではないか。
福田氏によるセクハラ被害を訴えたテレビ朝日の女性社員が望んだのは、「全ての女性が働きやすい社会になること」だ。女性を排除して解決するという方法は性差別を撤廃する歴史の後退でしかなく、性別間の格差をひろげるだけで、これまで女性たちが必死で築き上げてきてくれたものを一気にぶち壊そうとする発言だ。
(もにか)