筆者は今年4月、福祉国家として名高いデンマークを訪れた。そして、デンマークの若いカップルの子育て家庭を訪問し、日本以上にシェアの考え方が暮らしに浸透していることに驚かされた。
シェア文化は日本でもずいぶんと浸透してきたように感じる。24歳の筆者も、1年半前からシェアオフィスに入居し、海外旅行はすべてAirbnbで宿を予約する。
一方で、結婚した夫婦がシェアハウスに入居する事例や、ベビーシッター以外の子どもに関するシェアリングサービスはいまだに目にする機会が少ないし、私自身も抵抗感を感じるものが多い。子育て世帯のよりパーソナルな環境におけるシェアが、一般的に受け入れられるようになるまでには、もうしばらく時間が必要かもしれない。
そんな私がデンマーク子育て家庭を2つ訪問する中で驚かされた、暮らしに浸透するシェア文化に迫る。
まず訪れたのは、生まれたばかりの3カ月の赤ちゃんがいる20代の夫婦の家。コペンハーゲンの中心部からバスで30分ほど離れた場所にあるアパートメントだ。
2人はカオスパイロットと呼ばれる、ビジネススクールとデザインスクールの考えを統合したビジネスデザインスクールで出会った。デザインを学んだというだけあって、中に入ると白を基調としたセンスあふれる空間が広がる。こだわりを感じさせる小物たち、窓からの光の入り方も絶妙だ。
そんなおしゃれな夫婦は一体どんな仕事をしているのか。旦那さんのロビンは、最近までデザイン系の事業を自ら営んでいたそうだ。
子ども生まれてシェア生活
「会社経営はストレスも多かったし、子どもが生まれることが分かって、子育てに時間をかけたいと思って」
事業をたたみ、いまは週3回の子どもと関わるアルバイトに切り替えたそうだ。妻のヤスミンも、現在は仕事を辞め子育てに専念している。もう少ししたら仕事を探そうと思っているらしい。
たった週3回のアルバイトで、二人の生活は成り立つのか。勝手ながら金銭面の心配が湧き上がってくる。そんな時、同世代の女性が一人、隣の部屋から現れた。そして、軽くあいさつをしてまた出かけていく。果たして彼女は何者なのか。
二人に尋ねると「“今だけ”家をシェアしている」と教えてくれた。フルタイムで働ける時は家賃を自分たちで全額、支払える。しかし、子育てに専念するために、働き方を変えたら、それに合わせて家賃の支払い方も変える。
その時期だけ友人にも一緒に住んでもらって、金銭的負担をシェアするのだ。
日本だと「若いうちはお金がないから、子どもが産めない」という話をよく耳にする。しかし、お金がないなら、お金がかからないやりかたを見つけるという道もあるようだ。
できない理由を探すのではなく、シェアという考え方をつかって、できるやり方を探る。自分の時間・お金・家の使い方をこんなにも柔軟に組み合わせて変えていく、その考え方に衝撃を受けた。
ベビー服のシェアは終わったら返却
次に訪れたのは30代のマーティン一家の自宅だ。マーティンは大学の先生をしている。夫婦ともデンマーク出身ではないが、子育て環境が整っていることを理由にデンマークでの生活を選択した。福祉国家デンマークでの子育ては良い面も多いが、二人にとっては親戚などの近い関係性の人が周囲にいない孤独な環境。初めての子育てで分からないことも多い中、負担も大きい。
そんな二人に子育てをする上で助かったサービスについて聞くと、日本では聞いたこともない名前が上がった。「Vigga」と呼ばれるこのサービスは、ベビー服のサブスクリプションサービスだった。生まれた直後から、月齢に合わせて、適切なサイズの洋服が送られてくる。
特に第一子の時は、ママ友も少なく、お下がりをもらう機会もない。そして、何カ月の頃にどんなサイズの洋服が必要になるのかも分からない。
そんなママに向けて、定期的にベビー服を届けてくれるのだ。何より驚きなのが、ベビー服は使い終わったら返却するシステムになっている。料金に保険が含まれており、もし汚したり、着られなくなってしまったりした場合は、それで対応してくれるそうだ。
思わず「ほしい!」と言ってしまった。自分が出産したあと、月齢に合わせて洋服やらベビーグッズを随時調達する手間を考えると気が遠くなりそうだ。勝手に届けてくれるなら、多少サイズにずれがあっても必要コストとして許せる気がする。
サービス頼り子育て不安もシェア
一方で、日本に帰国して、子育て中の女性たちにViggaについて話をしたところ、驚きをもって受け止められた。現在小学2年生と6歳の保育園児、2人の子育て中のゆりさん(仮名)はこう言う。
「服に穴あけたり、汚したりしょっちゅうするから、レンタルだと気を遣うかも」。とはいえ「今も一年ごとにサイズが大きくなるから、そのサービスはいいね。うちもめっちゃ服が家にたまってるよ」と教えてくれた。
Viggaはすべてオーガニック。安いものを買って使い捨てるよりも、いいものを長く使いたいという環境意識の高いデンマークならではかもしれない。
一方で、特に周りに頼れる人のいない環境における、第一子の子育ての負担は計り知れない。そんな時、ママだけで頑張るのではなく、サービスに頼り、同じような不安を抱えているママたちと、世代を超えて洋服をシェアする。それも、環境に負荷のない形で、だ。
自分たちも、地球環境もハッピーなこの仕組みの広がりに、また強い感銘を受けた。
商社妻でも第二子難しい?
国立社会保障・人口問題研究所が行った出生動向基本調査によると、結婚のハードルとして「結婚資金が足りない」ことを挙げた人が最も多かった。若いうちはお金もないし、非正規雇用で働き続ける人も多い中、いつまでたっても十分な収入が得られていない状況は確かにあるだろう。それに、デンマークに比べて日本の方が、社会保障が手薄なことは間違いない。
しかし、足りないことを言い訳にしていては、いつになっても、足りる時はこない。旦那さんは商社で働いており十分な収入を得ているように見える30代の女性が「お金がないから、2人目は難しいかも」と話すのを見て、いつも違和感を感じていた。彼女たちが足りないなら、もう日本中ほとんどの人たちは、お金がなくて産めないではないか。
日本では子どもは親のものという意識が根強い。親ができるだけ多くのお金を稼ぎ、できるだけ多くの時間を使い、できるだけいい教育を受けさせなければならないと、日々奮闘しているように見える。その結果、いつまでもどこか足りない感じを抱えながら生きている。
しかし、お金がないなら家をシェアすればいい、子育てに関する知識がなければサービスを使って服や、必要なものをシェアすればいい。自分だけで抱え込まないで、みんなで共有して支え合う仕組みさえあれば、きっと不可能に思える子育ても、自分にもできそうな気がしてくる。
新居日南恵(manma代表): 株式会社manma代表取締役。1994年生まれ。 2014年に「manma」を設立。“家族をひろげ、一人一人を幸せに。”をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」・文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」有識者委員 / 慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科在学。