法務省は無戸籍者の解消を目指した研究会を10月にも発足させる。「嫡出推定」の規定を見直し、否認する訴えを夫だけでなく、妻や子も起こせるよう拡大する方向で検討するという。
民法には「嫡出推定」の規定がある。
女性が婚姻中に妊娠した子は夫の子、離婚後300日以内に生まれた子は元夫の子とする。女性が夫と別居したり、離婚直後に別の男性と子を産んだりした場合も、戸籍には夫(元夫)の子として記載されるのである。
記載を避けるには生まれた子の父であることを否定する「嫡出否認」の訴えをしなければならないが、夫(元夫)にしか権利を認めていない。
夫のドメスティックバイオレンス(DV)などから逃れた妻が別の男性と子ができても夫の戸籍に記載されるため出生届を出さないケースが多い。法務省が把握している無戸籍者は今年8月時点で715人で、その半数近くが就学前の児童といわれる。総数は、もっと多いとみられる。
住民票がつくれないため、乳幼児検診が受けられず、就学通知も届かない。旅券もできず海外旅行や留学がかなわない。婚姻の届け出、相続の登記もできない。銀行口座もつくれない。人権上大きな不利益を被っているのである。
研究会が法改正が必要と判断すれば、法相が法制審議会に諮問する段取りだ。
DNA鑑定を活用して親子関係を判定していることを考えれば、規定は時代に逆行しているというほかない。
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夫にのみ「嫡出否認」の権利を認めた民法の規定は男女同権を定めた憲法に違反する。神戸市の女性らがこう訴えて国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で大阪高裁は今年8月、控訴を棄却した。
原告は60代の女性、30代の娘、8、4歳の孫2人の計4人。女性は暴力を振るう当時の夫と別居し、離婚成立前に別の男性との間に娘を出産。夫が法律上の父となることを避けるため出生届を出さなかった。そのため娘、娘が産んだ孫2人も無戸籍となった。判決は「規定は早期に父子関係を確定させ、子に利益がある」と合憲とする一方、「嫡出推定」について「伝統や国民感情を踏まえ立法裁量に委ねられるべきだ」と指摘した。
自民党の司法制度調査会は今年6月、否認の訴えを妻や子も起こせるよう制度の見直しを提言。国会は法改正に向け動きを加速させるべきだ。
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民法の「嫡出否認」「嫡出推定」「女性の再婚禁止期間」は無戸籍問題の背景として指摘されて久しい。だが「再婚禁止期間」は短縮されたが、残り二つは何も変わっていない。明治時代の規定が今に引き継がれているのである。
結婚全体のうち夫婦両方または一方が再婚の割合は約3割に上る。伝統的な家制度に縛られていた時代と現在とでは家族のありようは大きく変わっている。
かつて夫だけの「嫡出否認」を認めていたドイツや韓国、台湾でも法改正がなされ、妻や子、あるいは妻の否認権が認められている。世界の動きからも遅れている。