骸骨道中膝栗毛   作:おt
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前回のあらすじ

レメ「カルカ様はコキュートスLOVE やな!間違いないわ!」

カルカ「皆でハグしよ!」

オルランド「あれ?俺は?」

からのヤルタバオトさん(偽)ドーン!!


15#それぞれの苦悩

エ・ランテル郊外の墓地。この場所の地下では夜な夜な、ある男の計画が進行されていた。そして、その計画も大詰めに差し迫っていた…その時に、その男は現れた。

 

「カジット・デイル・バダンテール。はじめましてと言っておきましょう。私の名はヤルダバオトと申します。」

 

その場には、カジットとその弟子数名、そして協力者であるクレマンティーヌ。これだけの人間――それも実力者が揃いながらも、その男が喋りかけるまでだれもその存在に気づくことは出来なかった。

 

「何物だぁ!!貴様!!」

 

弟子の一人の掛け声と共に、全員臨戦態勢にはいる。

クレマンティーヌ、カジットはその声の前にすでに攻撃を仕掛けることもできたが、逃走の間を少しでも稼ぐことを視野に入れているため動かない。

ここまで、気づかれずに侵入してきた実力者だ。不測の事態も十分にありうる。

そこまで、頭の働かない弟子の一人は魔法を放つ。いや、放とうとした。

 

「『全員、ひざまづきたまえ』」

 

その瞬間、全員がその場でひざをつく。侵入してきた男には造作もないことであったのであろう。腕を後ろに組みながら、その光景を平然と眺めている。

しかし、その男に相対するもの達は違う。明らかな恐怖。そして、どうすることもできない焦燥が心の底から湧き上がる。混乱している間に男は話を始める。

 

「うむ…確か、この都市エ・ランテルでしたか?をアンデットを使い多くの死を築き上げる。という計画でしたね。首謀者はカジット。君という認識で間違いないのかな?」

 

人の心にスッと入るような、聞いていて心地の良い声である。しかし、その要素すらかえって不気味と感じる。

 

「そうだ。私がその計画の首謀者…お前は何物なんだ…?」

 

「つくづく、頭の悪い動物ですね…まあ、そこが人間の良いところでもありますが。

私は自己紹介をしたはずですよ?それ以上のことをお答えする必要は私には、感じられません。私は今、機嫌があまり良くないので…無駄なことは喋らないでいただけますか?」

 

まさしく、慇懃無礼。そんな、彼にいら立ったのか。それともこの状況に焦りを感じたのか弟子の一人が声を張り上げる。

 

「結局、貴様の目的はなんなんだ!俺達をどうするつもりだ!!」

 

その言葉を言い放つと同時に、彼の首が胴体から離れる。目の前の男から繰り出された蹴りが原因である。

カジットはその蹴りが目で追えなかったことに、驚愕する。そして、隣でひざまづく人類最上位クラスの身体能力をもつ女(負けるはずかねぇーんだよ!)に視線を送る。

彼女は、明らかな恐怖を顔に張り付けながら、顔を横に振る。つまり、この男の実力は人類最高峰を軽く凌駕するということが確定した。

 

「私の質問の答え以外を口にする愚者は、もういないことを祈るばかりです。では、本題に入りましょう。私もその計画をお手伝しようと思っています。私の使役する悪魔をあなたのアンデットと共に進軍させるということですね。まあ、他に細かい指示はありますがね。どうでしょうか?」

 

カジットは舌で悪魔という単語を転がす。銀のうねるしっぽをもつ男はどうやら悪魔であったようだ。そんな彼の提案は、願ってもないことである。カジットの計画の成功率は上がることは間違いない。

そもそも、提案という形を目の前の悪魔はとっているが断れるはずがない。

 

「それは、願ってもない…是非ともお願いします。」

 

「ふふふ、交渉成立ですね。あなたは今まで通り計画を進めて、問題ないので…。ああ、それと…。」

 

言い終わると同時に、生き残っていた弟子の頭が爆発する。

 

「私の存在を知るものは、少ない方がいいですからね…。利用価値ももうないですし。そうそう、クレマンティーヌ。君は、まだ利用価値がある。『私についてきたまえ』…では、カジット、計画の時にまた会うとしよう。『自由にしてよい』」

 

「えっ!?わ、私!?」

目に見えて困惑するクレマンティーヌを視界の端にいれつつ、カジットは茫然とその場を動かない。

いや、動けなかった。一瞬で色々なことがおこりすぎた。とっくに理解しているはずのことをカジットは頭のなかで整理していた。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

圧倒的な力の塊。その存在をみたカジットの感想はこの一言に尽きた。

いや、他にも多くあったのだがその印象があまりにも強く他の言葉が抜けたのかもしれない。

全身に炎を纏い、顔には怒りの表情。襲われないという説明がなければカジットは脇目もふらず逃げだしていただろう。

 

「こ、この悪魔は貴方様の部下ですか?」

 

「部下…ふむ、その悪魔は私が召喚したものなので部下ではありませんね」

 

この一言にカジットの恐怖の対象が魔将と呼ばれる悪魔から、涼し気に佇む銀の尾をもつ悪魔ヤルダバオトに移る。

召喚の魔法を少しでもかじっているものなら分かることだが、召喚モンスターは通常、召喚主より弱い。

つまり…

 

(この悪魔たちの強さを考察していては頭がおかしくなる…わしはわしの目的を果たすためならアンデットだろうが悪魔だろうが魂は売るわい)

 

「この魔将をわしのアンデットと一緒に侵攻していただけるんですよね?」

 

「いえいえ、それだけではありませんよ。クレマンティーヌ!」

 

ヤルダバオトがかつての同僚の名を呼ぶと、その人物は顔をだす。

見た目は大して変わっていはいない。ただ、全体から疲労の色が感じ取れる。

 

「悪魔を召喚後、指示を出すのでそこの荷物を避けなさい」

 

「かしこまりました!」

 

血反吐を吐くように必死なハキハキとした返答だ。

以前のクレマンティーヌを知っているものがみたら驚愕するだろう。

それ故にクレマンティーヌがどの様な待遇であの悪魔のもとにいるのか予想がつく。

 

「片付きました!」

 

流石は人類最高峰の能力の持ち主。重量のある荷物も多い中、とんでもないスピードで仕事を終える。こいつが必死になれば、こんなにもすごいのかと感心するレベルだ。

 

クレマンティーヌが開けたスペースにヤルダバオトが悪魔を召喚する。見た限り、大した強さではないが数が多い。流石に死の宝珠と長い年月を使い、作り出した自らのアンデットよりは数が少ないが、その半数くらいはあるかもしれない。

 

悪魔を召喚したヤルダバオトは微笑みながら、クレマンティーヌを手招きする。

と同時にクレマンティーヌの左腕が飛ぶ。

 

「あがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「想像以上ののろまでしたね…おっといけない。すこし罰を与えるつもりが力を入れすぎたようだ。いつものように拷問の悪魔に直してもらうといい。」

 

腕が異様に長い悪魔に引きずられたクレマンティーヌは、幼子の様に悲鳴を上げながら悪魔の群れの中に消えていった。

 

「さて、カジット。君には最初に提案した通りこの悪魔と共にアンデットを進軍させるわけだがね。その前に細かな条件が3つある。なーに心配する必要はないとも。君の計画の本筋に影響はないはずだ」

 

① この作戦開始以降は魔将をヤルダバオトとし、表面上は手を組んでいるとする

② 本物のヤルダバオトのことを口外しない

③ 悪魔が物品を強奪することを認める

 

「全く、問題ないです。いや、むしろこれだけの少ないデメリットでこれだけの力を持つ方にバックアップを取ってもらえることは光栄の極みです!」

 

(プレッシャーで胃はやられそうだがな…)

 

「理解しているのであればいいでしょう。私はあなたに期待していますよ」

 

ヤルダバオトは仕事は終えたといわんばかりの足取りで召喚した悪魔の群れの中に消えていった。

しかし、カジットの胃の痛みはまだ治まらない。

 

「それでは、早くアンデットを進軍させろ。お前たちが猛威を振るってから、私達は姿をみせろと主に命令されている」

 

静かに話しているつもりなのだろうが、力のこもった声は腹に響く。

 

「かしこまりました。魔将…ヤルダバオト様」

 

アンデットを保管している部屋に向かいながら、カジットは思った。

 

(早く、死者の大魔法使いになって胃痛を忘れたいものだ…)

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

上手くいっている。

デミウルゴスは自分で書き上げた計画書の束を横目にそう考える。

ちなみにデミウルゴスの頭脳をもってすれば考えを紙にまとめる必要はない。

しかし、そんな必要のない作業をしなければならいほど、彼の思考には雑念がはいっていた。

 

自分が全く知らない場所に飛ばされたことに気づいたのは、二十日ほど前の話になる。

街道沿いの森林に倒れていた。最初は自分が倒れていたことよりも、大切な創造主から頂いた衣装を汚す行為に驚愕し気が動転した。しかし、時がたつにつれて冷静になる。

ここはどこで…

私はなぜここにいる…

 

デミウルゴスはまず、ここがどこであるかを特定することにした。悪魔を使用し周辺地理、居住する種族――まさか、悪魔がいるとは思っていないので敵となるであろう種族の脅威度。

 

悪魔を効率的に使用した結果、この場所はリエスティーゼ王国とバハルス帝国間の街道らしいということは分かった。

さっぱり聞き覚えがない。

さらに周辺の大半が人間の居住地であった。そして、呆れるほどに弱い。

自分たちの居住するヘルヘイムとはレベルも環境も大きく違うため、遠く離れたフィールドということだろう。

 

ならば、戻ればいい。あの栄光の地へ。

どんなに離れていようと、どんな壁があろうとナザリックに帰還し、自分の忠義を至高の御方々にお見せすればよい。

 

ふと、よぎったーー捨てられたのではないかという考えは、考えないようにした。

それを考えては、なにもできなくなる。

もし、これが不慮の事故で至高の御方がお困りしていた場合、何もしていないという状況に陥ることだけは避けなければならない。

そう自分に言い聞かせ、デミウルゴスは行動を開始した。

 

そして、現在に至る。情報を収集し、王国の方が帝国よりも身を隠しやすいという結論をだし侵入。

しばらくは基礎となる情報…そして、何よりも大切な至高の御方々に関する情報の収集を第一に行動した。

結果、至高の御方々の情報は手に入らなかった。

しかし、デミウルゴスは周辺人間国家の一般的な情報であればほぼ取得しているという状態にまで至った――王都を除いて。

王都は意外だが、送った悪魔が尽く消滅させられている。理由は王都にいるアダマンタイト冒険者という輩によるものらしい。クレマンティーヌが情報源なので裏をとる必要があるが…

 

王都の情報はあてにならないが…法国の情報を多く持っているクレマンティーヌを捕らえられたのは、僥倖であったとデミウルゴスは考えている。

おかげでプレイヤー…かつてナザリックに攻め込んだ下賤な者たち…そして、その者たちが残したものワールドアイテム等を警戒する必要を確認することもできた。

 

今回のカジットを利用した作戦には、デミウルゴスが今あたっている問題の解決――もしくは解決のきっかけになる可能性は非常に高い。

 

① 憤怒の魔将はこの周辺ではレベルが圧倒的に高い。そこに違和感を覚え、至高の御方々がお見えになる可能性がある

② もし、憤怒の魔将が倒された場合、まだ手に入っていないその強者の情報が手に入る。

プレイヤーが釣れる可能性もあり

③ 都市内のアイテムを強奪し、今後の活動の足しにする

 

「今回の作戦が終われば、拠点を南に移してもいいかもしれませんね…聖王国またはアベリオン丘陵あたりでしょうかね」

 

優雅に紅茶――ナザリック製にははるかに劣るものを飲みながら、デミウルゴスは思考を巡らせる。

近くで響く人間たちの悲鳴を聞きながら。

 

◆◆◆◆◆◆◆

「何!!大悪魔ヤルダバオトだと!?」

 

法国の幹部会議。司会の土の神官長レイモンの出した情報に会議出席者の驚愕の声が重なる。

 

「ふむ…エ・ランテルの騒動はカジット・デイル・バダンテールによるものだと予期していたが…初めて聞く名の悪魔だな…」

 

風の神官長の発言に出席者が頷く。これは、強がっているのではなく本当にこの事件が起こることが予期されていたための反応である。

しかし、想定よりも被害が大きすぎた。このままではエ・ランテルだけでなく周辺の都市も危ういと聞く。

 

「その、ヤルダバオト…どのくらいの強さなのだ?場合によっては漆黒聖典の幾人か、または陽光聖典を送らなければなるまい」

 

火の神官長の質問は基本的なことで、誰かが確実に質問するであろう事項だ。しかし、その答えにレイモンは口ごもる。そして少し、時間をおき答える

 

「占星千里の目にした内容を元に申し上げますと…最低でも漆黒聖典の隊長レベルはあると考えられるということです…」

 

「なっ!!」

 

驚愕の喘ぎがどこかから聞こえる。声に出したのは自分かも知れないし、他の誰かかもしれないと各々、考える。

 

「…破滅の竜王の支配は完了したはずじゃが、まだいたのか…?。破滅の竜王とほぼ同じ脅威が存在するとなると…対策を考えなければ王国は異形種の国になるぞ」

 

カイレが危機感を声色に表し発言する。

 

「破滅の竜王をぶつけるというのは?」

 

「悪くない提案じゃ。しかし、ケイセケ・コゥクを使用しているワシには分かるのじゃが、知性が伴わない存在に、そこまで細かい指示は出せない…残念ながらな」

 

「全く、ただえさえ忙しい時期に…」

 

闇の神官長がグチを呟く。会議には相応しくない発言だが誰も彼を責めない。ここ数日、闇の神官長は、偶然遭遇したある者の相手をさせられていた。そのことに皆が同情しているからともいえる。

そう、彼の相手は疲れるのだ…非常に。

一緒に遭遇した彼女はそうでもないのだが…

 

「しかし、漆黒聖典隊長級の強者にアンデット、悪魔が多数…。戦力を一つに使うのは…この状況でどうかと思うが、やはり漆黒聖典、陽光聖典を派遣すべきだろう!状況によっては火滅聖典もな!!」

 

人類の守り手である法国には、やらなければならないことが山ほどある。本来、貴重な戦力を集中してはいられないのだ。しかし、世界を滅ぼせる魔樹――破滅の竜王と同程度の脅威を放置することはできない。

 

「んっーーーふっふっ!!みぃ~~~なさん!!お困りのようですねぇ!!」

 

そんな、息の詰まるような会議所にまるで、舞台役者の如き名乗りと共に、ある男が登場する。

その後、滞っていた会議はすぐに結論をだすことができた。これもひとえに会議を盗聴し、乱入した彼のおかげであろう。

会議終了後、参加者は非常に疲労していたが…

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

エ・ランテルから王都に早馬が到着する。王都の連絡係の顔に緊張が走る。なぜなら、その早馬は数日前に周辺国最強の剣士ガゼフ・ストロノーフの死亡を伝えた早馬と同じ種類。

つまり、最重要の情報を伝える最速の馬であったからである。

 

「おいおい、戦士長の死から数日だぞ。今度はどんな大問題なんだ…」

 

手紙に目を通した連絡係の男は、読み終わるやいなや王室に全力で向かう。

そして、憔悴しきった王にこの緊急事態を告げるのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

(ヤルタバオト…?あれはどう見ても憤怒の魔将だよな?この世界の固有の種なのか?おっと!まずい!)

 

いきなり現れた憤怒の魔将――本人曰くヤルタバオトの分析を止めナーベラルを馬車に押し込む。

 

(俺とコキュートスはまだしもナーベラルをターゲティングされた非常にまずいからな…)

 

ヤルタバオトは、宣言をしに来ただけなのか、それだけ言うと元来たであろう場所に飛び去っていた。

 

「モモンガ様、イカカガ致シマスカ?」

 

コキュートスがモモンガに今後の方針を聞く。あれだけの強者はこの地にきて初の遭遇であり、いろいろ情報を聞き出したい気もするが…

 

「いや、面倒ごとはもうごめんだな。ここは通り抜け、帝国に向かうぞ」

 

(ヤルダバオトって本人が言ってるし、ユグドラシルの憤怒の魔将と違う現地産なのだろうな…。完璧なる戦士(パーフェクト・ウォーリア)ももう使えない…危ない橋はわたるべきではないな…うん!)

 

炎の柱が上がる街をバックにモモンガ達の馬車は帝国に進んでいった。

 

 




というわけで、今回はモモンガ様一行以外は胃が痛い(某NPC を除く)という話でした。

録画で貯めてたアニメ見ました…やっと4話ですけど笑
ルプーのできる女モードの声、めっちゃエロい!!
推しのキャラが動いてるの見るのは、いいっすね~







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