気になる彼(モモンガ)とダンスで急接近☆
恋は順調に思われたが…
親友の乱入!この恋はどうなちゃうの!?
(カルカ視点)
――レメディオス・カストディオ。言わずと知れた聖王国の最強戦力である。そんな彼女の声は良く通る。声がでかいのもあるが、人間種最上位のたくましい腹筋が声に力を持たせているのであろう。
片づけに追われていた城内の人間の視線が渦中のモモンガとレメディオスに刺さる。食器を片付ける音やテーブルを拭く音は止まり、生まれる一瞬の静寂。最初に口を開いたのは、困惑したカルカであった。
「どうしたの?レメディオス?モモンさんになにか用事?」
カルカの口からモモンの名前が出たからだろうか。目が吊り上がり、不機嫌な顔にレメディオスの表情が歪む。
「モモン殿!!いや今は救国の英雄殿というべきかな?お前に決闘を申し込む!!」
レメディオスが勢いよく口上を述べ、モモンガに伝説の聖剣の切っ先を向ける。
その場に居合わせた聖王国の人間――カルカは困惑した表情を、ケラルトは頭を片手で抱えている。
二人の心を代弁するならば「勘弁してくれ」だろうか。
それ以外の人間は二つに分かれた。人間界最強クラスの闘いを生で見れると興奮するもの。そして、カルカ達と同じくパーティー後という空気で決闘をするという状況に陥ることに困惑するものであった。
そして、ナザリックサイドはというと…ブチ切れである。まず、モモンガをお前呼ばわりで1つ、切っ先を向けて二つのキレポイントである。
もし、あとひとつ溜まっていたらどこかの山羊王のごとく丸焦げになっていた可能性すらある。
あの温和(ナザリック視点)なコキュートスですら割と切れていた。
肝心の当事者モモンガはと言うと…
(まったかぁ!また戦闘狂かよ!こっちはもうそういうのはオルランドでおなか一杯なんだよ!なんなのこの国!怖いですけどぉ!)
ドン引きであった。オルランド初対面時なみに引いていた。まず、鈴木悟の価値観からして遊びで命を賭けるのはあり得ないというのもあるが、オルランドの時と違い、今回は決闘を行うメリットもない。
(断る!もうこれ以上、変な連中に絡まれてたまるか!)
決して、ナーベラルの方向からボソッと「やぶ蚊がぁ」とか言ってるのが聞こえて萎えたわけではない。まあ、それもちょっとあるが。
しかし、現実は無慈悲である。
「キサマ!ドナタニ向カッテモノヲ言ッテイル!…モモンサーーーン!アノ小娘ニ御方ノ偉大サヲ思イ知ラセタ方ガヨロシイカト…」
(ファ!!コキュートス!?)
「モモンガ様、御方の手を煩わすあのやぶ蚊は、非常に不愉快ですが…私達があのナメクジを殺すとこちらの隠している実力が悟られてしまうかと…。ですが、我らが絶対の主人を愚弄するあのベニコメツキは生かしておけません!どうか殺す許可を戴けないでしょうか!?」
(ナーベラル!!相変わらず物騒だな!あっ…でも今回はちゃんと行動に移る前に報告してる!ナーベラルにもホウレンソウの基礎が身についてきてる…教育の賜物だな!…いや、殺しの許可ってなんだよ…?)
ちゃんと、相手に聞こえないであろう声量で罵倒したナーベラルを褒めるべきか。ただ、内容自体は褒められたものではないし…。とモモンガが現実逃避している間にもことは進んでいく。
「レメディオス…。あなたがどうしてモモンさんと戦う必要があるの?」
「カルカ様!それは…カルカ様のため…というよりも何というか、あれなんです!気にくわない!…わけではなく、そうそう!見送りの儀式!強いものを見送る時に決闘をするとかなんとか…なんですよ!」
理由は考えてなかったのか、それとも教えてもらったのに頭から情報が抜けてしまったのか。
決闘の理由をレメディオスに考えろと命令されたであろう副長の顔を思い浮かべて、ケラルトは手を心の中で合わした。
(
「モモンさん…。レメディオスとの決闘を受けてくださらないでしょうか?」
((ん?))
ケラルトとモモンは自分と同じく困惑していると考えてた人物の言葉に驚く。
「えっ!?いや…あの」
「カルカ様!!ありがとうございます!!ふーはははは!モモン!剣を構えろぉ!」
「モモンさん。最近レメディオスの様子がおかしいんですよ。きっと、モモンさんに対抗意識を持っているんだと思うんです…。本人が納得できるように戦っていただけませんか?勿論、報酬も差し上げますので…。」
少し間をあけモモンが答える。
「女王陛下…みなまで言わなくても大丈夫です。分かりました!ただ、真剣ではなく(ドン引きなので)模擬刀でという条件でお願いしますね。」
(この人も部下の尻ぬぐいが大変なんだな。なんだか、初めてこの世界の人間に感情移入出来た気がするよ…。)
ナーベラル、コキュートスに振り回された数々の日々(まだ数日)がモモンの頭を駆け巡る。
カルカ・ベサーレス。彼女の思いやりは人間ではない不死の王となったモモンガの心を動かしたのだった。
「カルカ様…。姉様の要求をお願いするということは、モモン側の好感度が下がる可能性もありましたのに…よく決断為されましたね?」
「…そうね、でもここでレメディオスの鬱憤は晴らしておいた方が後にメリットが大きいはずですよ。」
カルカの歯切れの悪い回答に違和感を覚えたケラルトであったが、それ以上の追求は行うことはなかった。
カルカは聖王国のトップ、彼女がそう判断したのであれば国の為になると考えた結果であろうから。
(ふふふふ…これでもう一度モモン様の雄姿が見られるわ!想像しただけでよだれがとまりません!)
そんな、彼女がかなり残念になっているのを誰も気づけなかったのは幸運であったというべきだろう。
その後、両者の決闘の準備が進められる。
(モモンガサイド)
「モモンガ様、アノ人間ノレベルハ33レベルヨリ上カト思ワレマス。」
模擬刀を興味深げに眺めるモモンガにコキュートスが声を掛ける。
コキュートス!!とナーベラルが抗議の声を挙げるが、モモンガが片手でナーベラルを制す。
「今回ノ闘イニオイテモモンガ様ハ、何カ策ヲオ持チニナッテイルのデショウカ?普通ニ戦ッテイテハ勝機ハ薄イノデハナイカト考エラレルノデスガ…」
緊張しているのか、言い切った後にフシューと冷気の息を吐きだすコキュートス。
それに対し、モモンガはフッと笑う。
「案ずるなコキュートス。お前に伝授された剣術に私自身の戦闘の経験。それを発揮すれば相手の強さなど関係がない。奴には踏み台になってもらおう…私が剣士としてレベルをあげるためのな」
これは最高に格好良かった。いやむしろ格好良すぎた。敬愛する至高の41人の雄姿にコキュートスはおもわず膝をつき忠誠の儀のポーズをナーベラルはそれもままならず鼻血を出して倒れてしまった。
「…あれ?やりすぎた…」
格好つけるのは、ロクなことにならないとモモンガは心のメモ帳に書き込んだ。
(レメディオスサイド)
(ついに…ついにこの時が来た!レメディオス・カストディオが有能であるとアピールし、あの時の失敗を払拭するチャンスが!長かった…)
模擬刀の状態をチェックしながら、レメディオスはにやけることを止められない。ここまで彼女が勝利を確信しているのは彼女が俗にいう馬鹿だからという理由…も少しあるがそれだけではない。
モモンの闘いを全てではないにしても見ているレメディオスにとって、モモンの動きが剣士として自分に勝っていると考えられないのである。
確かに獣王を倒したのかもしれないが…相性の問題であろう。というのが彼女の自信につながっているのだ。
戦闘に関する観察眼はやはり、一級品であった。
…
レメディオスとモモンが向き合う。
レメディオスは、かの聖剣サファルリシアーーではなくサイズの近い模擬刀を構える。
対して、モモンは人間の身長ほどの丈を誇るグレートソードーーではなく一般的なサイズの双剣を両手に持ち、戦闘の開始を待っている。
「おいおい、聖王国最強と言われている相手を前にして…力抜けすぎだろ。棒立ちに近いぞ…」
「いや、あれは無の境地に至っている人間の構えとも見れるがね。班長閣下の時とは違って装備も軽量化されている。前の戦いとは違う戦法で行くのかもな。」
噂を聞いたギャラリーも集まりだした。そのなかにはオルランドの部下も混ざっているらしく、前回の戦を含めた批評もちらほら聞こえてくる。
「コキュートスの旦那は、この勝負をどうみますか?」
ヒートアップしたオルランド班の一人が比較的喋りやすいコキュートスに問いかける。コキュートスは腕を組んだ姿勢から動かずにそれに答える。
「モモンサーーンハ、圧倒的ナパワーガ剣士トシテノ持チ味ダ。ソレヲドウ活カセルカガ勝敗ヲワケルダロウ。」
多くは語らなかったが、圧倒的強者であると先の戦いで認識されているコキュートスの言にオルランド班から歓声があがる。
彼らにとって強い人物とはアイドルと言っても過言ではないのかもしれない。
そんな、彼らが離れたのを見計らってからナーベラルがコキュートスに問いかける。
「さっきはあまり分析を語らなかったのね、コキュートスらしくもない。戦闘マニアのあなたなら頼んでもないのに、濁流のように解説するかと思ったのに。…なにか語るとまずいことでもあるのかしら?」
「ソウイウコトハナイゾ。私ハ感動シテイルノダ。我ラガ主人デアルモモンガ様ノ御雄姿ヲ見ラレルコト。ソシテ、ソンナモモンガ様ガドノヨウニ戦ウツモリナノカ、私ニハ見当ガツカナイトイウコト。ソシテソンナ偉大ナ主人ニ仕エルコトガデキテイルトイウコトニナ…」
「当たり前のことじゃない。至高の41人の方々に仕える以上の喜びはないわ…ん!?ナザリックの下僕で物理戦闘力上位のあなたをもってしても、モモンガ様がどの様に戦うおつもりなのか読めないというの!」
多くを語らなかったのは感動しているから。というよりも少しでも多く情報が欲しいから、人に語るのに労力を割くのではなく、観察に集中していた。ということ。
つまりナザリック階層守護者コキュートスをもってしてもモモンガという男を計り知れないということにほかならない。
そのことを理解したナーベラルは至高の御方モモンガへの忠誠心を爆上げしていた。
鼻血を拭きながら。
「両者準備はいいでしょうか?今回は模擬刀を使用した決闘であるため、場外に押し出された場合、真剣であれば即死の箇所にヒットした場合または、本人のギブアップをもって勝敗を決めます!…それでは始め!!」
審判の掛け声が終わるやいなやレメディオスが踏み出す。人類最高峰の体から繰り出されるスピードは常人には目に追えないものであり、会場中でその動きを捉えたものは片手で数えられるほどであった。そして、相対するモモンガは勿論そのなかに入る。
間合いに入った、レメディオスが剣を横に振るう。それをモモンは左の剣で防ぎ、場内に鉄と鉄の衝撃音が響く。
これは、レメディオスの予想通りである。
その後すぐにモモンが右に構えた剣を使い、レメディオスに攻撃する。
これもレメディオスの予想通りである。
しかし、この時レメディオスの体に悪寒が走り、動きが鈍る。
間一髪でモモンの剣戟を避け、肩で受け止める。体が自由になったと同時にモモンから距離をとる。安全圏に入ったと確信したとき、全身鎧のなかで冷や汗が背中をつたう。
(なんだ?今のプレッシャーは…。これは奴から放出している殺気ともいえるというのか?なんにしても厄介だ)
両者ともその一撃の後、にらみ合いが続き動こうとしない。それは、レメディオスだけでなくモモンガも困惑していたからだった。
(絶望のオーラの効きが悪いぞ!なんでだ!?)
今回のモモンガの作戦は絶望のオーラⅠを小出しにすることにより、剣術の拙さを誤魔化す。というものであり、コキュートス達に見せた自信もここに起因する。
しかし、思っていたよりも効きが悪い。
(神官戦士とかは、獅子のごとき心とか多用してるイメージあるし精神攻撃系のスキルに耐性があるのか?単純にあいつのレベルが高いのか?それともこの世界に来て仕様が変わったのか?…実験時は問題なかったはずだけどな。)
かといって、レベルⅡはまずい。このレベル帯の相手では失禁では済まない可能性もある。
しかし、長い時間の絶望のオーラ使用は危険である。下手すると観客レベルでは死者が出る可能性もある。
「フッ、おとなしく剣を使って勝負しろということか…魔法詠唱者にはきつい試練だな」
モモンガは気合をいれるため、自分に言い聞かせるようにボソッと呟く。
呟くと同時に踏み出す。こちらも目にもとまらぬスピードでレメディオスに肉薄し剣の打ち合いが始まる。
両手に剣を持ち、手数が多いモモンの剣の多くは防御に回されている。しかし、一瞬だけレメディオスが怯んだと思うと、モモンが攻勢にまわり剣を振るう。
試合はその流れの繰り返しであった。
しかし、試合の状況は思わぬところで転換する。
モモンガがこの試合何度目かも分からない、絶望のオーラⅠを発動した時であった。
「<
レメディオスが恐怖心を打ち消す魔法を発動したのだ。これは、並大抵のことではない。
なぜなら、モモンガの絶望のオーラⅠにはモーションがない。
つまり、発動のタイミングはつかめないのだ。
原因も分からない状況でこの一手を、発動と同時に行えたのはレメディオスが超一流の戦士であることの証明でもあり、とんでもない勘の持ち主であることもあらわしている。
これに焦ったのはモモンガである。レメディオスの剣はモモンの兜に迫り、ぶつかる間近であり、このままではモモンガの敗退は濃厚である。
普段のモモンガであれば、試合に負けてもデメリットは少ないこの勝負を捨て、悪あがきせず負けを認めたかもしれない。
しかし、モモンガ…鈴木悟は不測の事態に弱い人間であった。プレゼンは大の苦手であるし、PVPもあらゆる可能性を視野にいれなければ気が済まない。
そんな、彼が予想だにしていなかったスキルへの対抗。早い話、彼はテンパった。
レメディオスの剣がモモンに触れる前に…モモンの拳がレメディオスの体を場外に吹き飛ばした。
「…えーと、モモン殿の勝ち?」
あまりの急展開に審判は着いていけず、語尾は疑問形になる。
そして、会場にも微妙な空気が流れる。少なくともモモンガはそう感じた。しかし、それもそうであろう。剣術の試合ともいえる決闘で勝因が拳による押し出しである。反則ではないが観客の気持ちは微妙であろうとモモンガは考える。モモンガが色々考えフリーズしていると…
「くそぉぉ!結局、私はモモンに勝てないのか!!このままではカルカ様に見限られてしまう!!」
レメディオスの悲痛かつ鬼気迫る叫びが聞こえる。
あー、そんな大事な一戦だったんだね…別に負けてあげても良かったなー。なんて思っていたモモンガに名案が浮かぶ。これなら、この白けた空気もなんとかなる!と考えモモンガは早速行動に移る。
「えーゴホン。これは、誤審ですね。この試合はどう考えても私の負けでした。」
「貴様!!私に同情でもしているのか!!勝ちを譲られても、気持ちが悪いだけだ!!」
「いえいえ、そういうわけではないのですよ。なぜなら私の拳がレメディオス殿に当たる前に、あなたの剣が私の兜に到達していました。あなたの本来の装備であれば、わたしは致命傷を負い、敗北していたでしょう。…わたしだってこの様な形で勝利と言われても気持ちが悪いので、ちゃんとした結果をお伝えしたまでです。」
モモンガの言葉を聞き、少しは落ち着いたレメディオスにコキュートスが拍手しながら、話しかける。
「今回ノ試合、素晴ラシイモノデアッタ!モモンサーーンノ試合運ビハ勿論ノコト、オ前ノ対応モ目ヲミハルモノガアッタ。主君ヘノ忠誠ヲ力ニ変エル…下僕ノアルベキ姿ヲ再認識デキタイイ試合デアッタ。」
「本当か?私の思いはカルカ様に伝わっただろうか…?」
「戦闘ノ節々カラモ読ミ取レタ…主君ノタメニ戦ッテイルコトハナ」
「そうですよ!レメディオスは私の立派な友人であり仲間です!見捨てるだなんて悲しい想像はしないで!!」
そこにカルカが駆け寄り、レメディオスに抱き着く。王としては相応しくない行為かもしれないが、その場にいた聖王国民の忠誠心は爆上げであったし、レメディオスも憑き物がとれたように無邪気に喜んでいたので王として印象が下がることはないだろう。
むしろ、レメディオスに抱き着きながらもモモンに恍惚の表情を向けていることのほうが王には相応しくないし、ばれたら王の威厳に傷がつくことは間違いない。
(運動後の佇むモモンさんまじかっけー!!)
とか思ってるだろうなとその表情を唯一見ていたケラルトは思っていたが。
…
試合も終わり、レメディオスは家に帰っていた。カルカからの言葉で心のひっかかりも取れた。シャワーも浴びスッキリした。しかし、何かがひっかかる。
そのモヤモヤは寝る時間になっても収まらずレメディオスはベッドの中でその小さな脳みそをフル回転させ、その解決を図っていたが全く分からない。
諦めて、寝ようとしたとき、そのモヤモヤの正体は自分が勘違いをしていることがあるのでは?という結論に至った。
そして、その勘違いの内容を思い立った時、レメディオスを電流が走ったような衝撃が襲った。
(カルカ様が好意を向けているのはモモンではなく、コキュートスではないのか?)
(今までカルカ様はモモンに気があると考えていた。しかし、モモンの近くにはいつもコキュートスがいたので、その結果自分が勘違いしていた可能性は高い!)
(まず、どう考えてもコキュートスの方がモモンよりもいい男だ!武術の学もあるし、相手方であろうと気配りもできる!それに、私のカルカ様への忠誠心が高いことも読み取れるほどの観察眼!!間違いない!!)
客観的に見れば、論理破綻もいいところであるが、彼女の中では自分が出した結論が真実になってしまった。思いこみでものを決めてしまうことは往々にしてあるが、こういうのは他人に指摘されないとわかるものではない。
彼女の場合は、「コキュートスに惚れたから、そう見えるだけ」と言われないとこの妄想が矯正されることはないだろう。
…
「本当に行ってしまわれるのですね。」
「ええ、この国にもなにかあれば、またお世話になると思います。その時は力を貸して下さると嬉しいです。」
聖王国の出国門。聖王国から王国に繋がる出入口である。モモンの要望もあり、見送りは数人程度である。ちなみにオルランドは色々あり、コキュートスに凹られた結果、見送りには参加していない。
別れの雰囲気が強くなるなか、カルカが意を決したように言う。
「モ、モ、モモンサーーン。聖王国では長い別れの際にはだだだ、だ、抱き合って、お互いの無事を祈るふ、風習があるんです。」
レメゼンがヒューと口笛を鳴らしニヤニヤするが、ケラルトの睨みですぐにそれを引っ込める。
「そうなのですか。ではお互いの無事を祈って」
モモンがカルカを抱き寄せる。鈴木悟の日本人的思考では少し緊張するが、文化と言われてしまえばやるほかない。郷に入っては郷に従えもまた、日本人的思考なのである。
「それじゃあ、俺もナーベちゃんの無事を祈ろうかなー」
「風習といえども、お前のようなナメクジと抱き合うなどありえない。身の程をわきまえてものをいいなさい」
「ちょ!!」
相変わらずナーベラルの毒舌の切れ味は抜群である。モモンだったらとてもじゃないが耐えられないだろうが、レメゼンは明らかに喜んでいるので、これ以上ナーベに何かいうのをモモンは辞めた。心臓に悪いし。ないけど。
「2人以上はやったほうがいいだろう。ほら!カルカ様!コキュートス殿と抱き合ってください!」
「??そうね、それならコキュートス様とはレメディオスがやってくれる?あまり多くの人とやるのも時間かかってしまいますしね。」
「わ、私がですか!しかし…。カルカ様がいいというのであれば」
コキュートスとレメディオスが抱き合う。身長差がすごいのでコキュートスの態勢が少しおかしくなっているが。
「オ前ニハ、戦士トシテノ輝キヲミルコトガデキタ。コレカラモ忠義ノ徒トシテオ互イ精進シテイカネバナ」
「そっ、そうだな。お互いにな!うん!」
微笑ましい雰囲気の中、モモンガ一行は王国から帝国に向かうため交易都市エ・ランテルを馬車で目指すのだった。
馬車で目指すこと十数日。一行はついに第一の目的地であるエ・ランテルに到着した。
道中、何人かの野党・盗賊がこの世からいなくなっているが運が悪かったというほかないだろう。とにかく、襲われる側としては驚異ではないので、順調な旅だったとモモンガは感じていた。
「ここがエ・ランテルか…」
貫禄たっぷりにモモンガが言い放つ。一見、落ち着いている様に見えるが内心はリアルに見る歴史的建造物にテンションが上がりっぱなしである。
(間近でみると大きいな!リアルの世界にはもうないような情緒?趣?があるなーー!)
時刻はもう夜であるが、夜目のきくモモンガには関係ないため感動が萎えることはない。できれば、ひとりでこの世界を回ってみたいという感情もないわけではないが…。
(それは、仲間を見つけられたらの楽しみというやつだな!!一人よりも気心の知れた仲間がいたほうが絶対いいに決まっている!!)
ウキウキの妄想に浸るモモンガであるが、外の喧噪が彼を現実に戻す。
「騒がしいな…ナーベよ。確認を頼むぞ」
「はっ!お任せください!」
ナーベラルの口元がだらしなくゆがむ。目はきりっとしているのでギャップが甚だしい。
モモンガは最近知ったのだが、命令口調でお願いするとナーベラルは機嫌がよくなるようだ。なぜかは知らないが…
(メイドだからか?それともMなのか?でもどっちかというとナーベラルはSキャラだしなぁ。でもSとMは表裏一体ともいうし…。うーん童貞にはわからん!もしや、コキュートスも命令されたら喜ぶのか?)
モモンガの脳内でコキュートスが責められて恍惚とした表情になる姿が想像される。いろいろと辛いのですぐに断ち切ったが。
そんなことを考えているうちにナーベラルが馬車に帰ってくる。
「モモンサーーン。門番のやぶ蚊によるとアンデッドや悪魔が大量発生してるみたいですね。どういたしますか?」
「また、トラブルか…。この世界は本当に騒がしいな。名声は今は十分だ。このまま帝国に向かうべきだろう。巻き込まれるのも面倒だしな…ただ、状況は気になるな。不可視化して確認するとしよう」
モモンガ、コキュートスがナーベラルのいる外に行くために馬車を降りたその時。
大きな衝撃音と共に周りの温度が上昇する。
その発生元と思われる場所には、炎を全身にまとい憤怒の形相を浮かべた巨躯が佇んでいた。
「我が名はヤルタバオト。この国を蹂躙するものだ」
本編に入らなかった人達を補足
1、オルランド
レメディオスが自分の獲物をとったと激怒
⬇
難癖をつけて、渋るモモンガを説得。コキュートスとの手合わせを実現
⬇
ボコボコ
(コキュートス曰く、かなり手加減した。殺さずにすんだことを褒めてほしいくらい)
2、ヤルタバオト?それにエ・ランテルにアンデットと悪魔が大量発生?
一体、なにウルゴスが裏で糸を引いているんだ…
対艦ヘリ骸龍さん、miikoさん誤字報告ありがとうございます