Masahiro “Godspeed” Aoki 青木征洋 インタビュー

Masahiro “Godspeed” Aoki 青木征洋 インタビュー

Masahiro “Godspeed” Aoki 青木征洋(読み方 : まさひろ”ごっどすぴーど”あおき/ あおきまさひろ)
HP : http://www.vivix.info/
Twitter : https://twitter.com/godspeed_vivix
YouTube : https://www.youtube.com/user/Godspeed8040

近年、機材やSNSの発展により、数多くのテクニカルギタリストが日の目を浴びる機会が増えてきた。そして、ここ日本でも同様の現象が起こっている。そんな中、日本のテクニカルギターシーンにおいて、Masahiro “Godspeed” Aokiこと青木征洋氏が立ち上げたG5 Project及びG.O.D.(GUITARISTS ON DEMAND)の存在は金字塔として大きく聳え立っている。

青木氏はギタリスト・コンポーザー・プロデューサーの3面性を持ったマルチプレイヤー。過去、株式会社カプコンに所属し、『戦国BASARA』シリーズや『ストリートファイターⅤ』の作編曲を手がけ、近年はTVアニメ『メイドインアビス』のOPテーマ「Deep in Abyss」(※KanadeYUKと共作)の作曲や、音楽ゲーム『CHUNITHM』『GITADORA』等への楽曲提供を行なっている。そして、自身のレーベルViViXを2018年株式会社ViViXに改変し、代表取締役として活動している。

今回、青木氏は、2018年8月8日に待望の新作『THE GAME CHANGER』をリリースする。本作は『GITADORA』全国大会の最終決勝曲となった「Blaze」等、青木氏の音楽ゲーム参加作品を余す所なく収録したマスターピースとなっている。『THE GAME CHANGER』をリリースする青木氏に対し、改めて彼の生い立ちや音楽的ルーツ、本作の聴きどころ、彼自身の思考を紐解くべく、メールインタビューにて話を伺った。

文 / Masahiro “Godspeed” Aoki 青木征洋  編集 / 宮久保仁貴


 

 

TOPPA!!初登場という事で、改めまして青木様の自己紹介をお願い致します。

 

青木 : 初めまして、青木です。簡単に僕の音楽遍歴をご説明すると、まず物心付く前にクラシックピアノを習い始めました。その後、14歳でギターに転向し、16でDTMでの作曲に目覚め、17でそれをパッケージにして販売することの楽しさを知りました。大学では信号処理やエレクトロニクスについて勉強して、23で株式会社カプコンに入社し、29歳で独立して今に至る、という感じです。

DTMの導入は日々の練習のリズムトラックを作ったり、バンドの同期を作ることが目的だったんです。ただ、バンドスコアを見ながら打ち込みに慣れていく過程で自然と自分でも曲を作ってみたいと思うようになりました。今となっては信じられないことですが、最初は歌モノのデモばかり作ってました。

大学に入った当時はシラバスを隅々までみて、音楽に関わる授業が無いことに愕然としました。ただ、今となっては信号処理や半導体を齧っていたことが多少なりとも仕事に役立っているので世の中無駄なことなんて無いものだなと思います。ちなみに僕が大学1〜2年生の間だけ開講されていた授業でゲーム業界から著名なクリエイターを招聘してゲーム制作の現場について語って頂くというものがあったのですが、僕がゲーム業界に行きたいと思った一番のきっかけはそれだったかもしれません。

 

それでは、青木様の音楽的ルーツを教えて下さい。

 

青木 : クラシックピアノを習っていたので自然とクラシックピアノの音楽を聴く時間が多かったです。オーケストラよりは圧倒的にピアノでした。あとはファミコン、スーファミ、プレイステーション…とゲームをやりながら育ったのでゲームのサウンドトラックはとにかくよく聴きました。当時のスクウェアの音楽はほとんどサントラを買い揃えてましたね。

インスト音楽ばかりを聴いていた僕が歌モノを聴くようになったきっかけはB’zでした。B’z The Best “Pleasure”発売当時中学二年生だったのですが、あまりにも周囲が盛り上がっていたので興味があってTreasureを買ってみたところどハマりして。それで松本さんがかっこいいと思ってギターに傾倒する中でYOUNG GUITAR等のギター雑誌に出会い、洋楽ギターヒーロー(Yngwie Malmsteen、Paul Gilbert、Chris Impellitteri、Steve Vaiなどシュラプネル系のアイコニックなヒーロー)の音楽を好んで聴くようになりました。クリエイターとして影響を受けた音楽もまさしくこういった好きで聴いていた音楽じゃないかと思います。

 

改めまして、この度はソロアルバム『The Game Changer』のリリースおめでとうございます!青木様が参加された音楽ゲームの数々の名曲が収録されていらっしゃいますが、今回のリリースのきっかけを教えて下さい。


【リリース情報】

【タイトル名】
『The Game Changer』

【発売日】
2018/8/15 (※配信は8/8よりスタート)
Amazon 予約URL : http://amzn.asia/gKF11vW
iTunes : https://itunes.apple.com/jp/album/the-game-changer/1415601090

【価格】
1,800円(※税抜)

【収録曲】
1.The Game Changer
2.Blaze
3.busy come, busy go!! -instrumental version-
4.Surge -alternative groove version-
5.Atmonsphere
6.Eruption
7.Lost in the maze
8.Gate of Fate
9.Like the Wind ~ The wheel to the right (インド人をメタルに)
10.Gate of Doom
11.Gate of Fate – extended version-


 

青木 : 2015年にSEGAのCHUNITHMに参加させて頂いて以来音楽ゲーム関連の話を頂けるようになりまして。楽曲の数が溜まったところに、黒沢さんからの同時リリースのお誘い頂いたのがきっかけでした。

 

それでは、本作の聴きどころを青木様視点で語って下さい。

 

青木 : 今回は何と言っても密度の高さです。「Surge」のように後から音ゲーに収録して頂けることになった曲やタイトルトラックは別として「音ゲーに実装された時に楽しく遊べる楽曲」というコンセプトから逆算して、音楽的なことよりも音の多さ、密度、リズムを優先して作るスタイルのものが多かったのが特徴です。元々がゲームの劇伴、演出を考える立場に居た僕だから出来る曲作りというのは強く意識しました。

 

 

あとはタイトルトラックのギターの音ですね。ここ4年ほどディストーションギターの音を生々しく録ることに執念を燃やしてきたので。リードギターはBognerのHELIOSとOXで録って、バッキングは生前の藤岡幹大さんと一緒に収録したENGLのKemperリグで録っています。Gate of Fate -extended version-も同じ組み合わせかな。

 

聴きどころというより見どころなのですが、ブックレットのライナーノーツに色々と曲の内容やゲームに関する僕の考えや思いをたっぷりと書いたので、音ゲーマーには特にCDで手にとってみて欲しいです。

 

本作はSEGAのアーケードゲーム『CHUNITHM』収録の「Gate of Fate」や「Gate of Doom」、KONAMIの『GITADORA』全国大会最終決勝曲の「Blaze」が収録される等、近年の青木様のゲーム音楽における集大成的な1枚になったかと思われます。選曲の基準はございますか?

 

 

青木 : コンセプトに合致するものは何もかも入れました(笑)。 ゲーム音楽の作曲家としてはゲームに入ったものを完成形として捉えているので後からロングバージョンを作るというのは難しいのですが、「Gate of Fate」だけは今の解釈で再構築したいという想いがあり、結果少しだけ尺が伸びました。

 

制作期間はどのぐらいかけられたのでしょうか?

 

青木 : タイトルトラックの制作とその他全曲のミキシングなので実質3〜4週間程度ではないかなと思います。仕事の合間に進めて行ったので実際の期間としてはその数倍はかかっています。

 

話は変わりまして、改めてG5 Project及びG.O.D.の概要について教えて下さい。

 

青木 : この2つの違いって結局何?というのはよく聞かれるのですが、ギターオリエンテッドな音楽(特にギターインスト)の楽しさを伝えるという主旨は共通しています。その上でG5はより完成度を追求する成熟したメンバーの集まり、G.O.D.は若さ、進化をテーマに色んな試み、チャレンジを恐れず敢行するプロジェクト、といった違いが僕の中にはあります。

 

テクニカルギターキッズにとって、上記プロジェクトの名は避けては通れない道だと思われますが、これらのプロジェクトの立ち上がりのきっかけを教えて下さい。

 

青木 : G5 Projectについては、2005年当時宅録文化が未成熟だったインディーマーケットに対して度肝を抜くもの、ある種の基準になるものを出したかったという動機でスタートしました。コンセプトは「最高の音楽、最高の装丁、最低の価格」で、当時取引のあった最も高価で品質の高い印刷所にきれいに仕上げて頂いたのを覚えています。価格も500円という今思えば驚きの低価格で(笑)。

 

G.O.D.は発足当時の飲み仲間が皆凄腕ギタリストだったのでアルバム作ろうぜという軽いノリから始まって、最初は誰もこんな勢力になるとは思っていなかったと思います。中にはG.O.D.収録曲が初めての作曲というメンバーもいたのですが、全くそれを感じさせないものになってるので飲み仲間って大事ですね。

 

青木様はコンポーザー・プレイヤーであると同時にレーベル運営者の側面をお持ちですが、レーベルを運営される上で良かった点・苦労する点を教えて下さい。

 

青木 : レーベルと銘打つことによって僕や僕の仲間たちがギターを中心に扱っていることが記号化、明示出来てそれがギターレーベルとしてのブランドに繋がったことが大きいですね。「ViViXの作品ならどれを買ってもいい感じのギターが聴ける」と認知される所まで行ければ良いのですが。

 

苦労しているのは、うちにしか出来ないことを常に考え続けることでしょうか。根源に「度肝を抜きたい」「正気の沙汰で無いことをやりたい」みたいな欲求が常にあって、そのために何をすれば新しいか、驚かれるかを探すのが一番難儀します。その上で採算をある程度良いところに着地させるのもまたオーナーとしての責務であり楽しみであり苦しみですね。

 

話は変わりまして、最近青木様が触れたor聴いた中で感銘を受けた物or者を教えて下さい。

 

青木 : 凄まじく今更な話なのですがMichael Jacksonをこの年になって初めてまともに聴いてそのかっこよさに打ちのめされてます。Michaelと当時仕事をしていたエンジニアさんが先日来日してMichaelの活動やレコーディングの中身を紹介してくれるイベントがあり行ってみたのですが、そこで聴いた「Bad」が作編曲、歌唱、演奏、エンジニアリングいずれもパーフェクトでした。当時はPCM3348等もまだ使わずアナログレコーディングだったというところも含めて80年代は音楽の完成度に最も集中出来ていた時代だったんだろうなあと想像してしまいます。

アナログつながりで、昨年末Bernie Grundman Masteringの前田さんに聴かせて頂いたLee Ritenourの「ON THE LINE」のダイレクトカッティングのアナログレコードが本当に凄かったです。ダイレクトカッティングというのはすべての楽器の演奏、録音、ミキシング、カッティングがリアルタイムに行われる恐ろしくスリリングな制作手法なのですが、その分スタジオの緊張感、空気感が余すこと無く収録されていて、「ステレオ録音作品でここまでの臨場感を味わえるのか!」という驚きがありました。それと同時に、目指すべきゴール、基準が自分の中に生まれたという自信や使命感みたいなものもありました。

 

青木様が今まで活動されて来た中で、一番印象深かった出来事を教えて下さい。

 

G5 Projectの4thアルバム『G5 2013』がオリコンアルバムデイリーで8位を獲得したことでしょうか。僕は音楽を作っている瞬間も好きなのですが、その価値がリスナーに届いた瞬間の喜びが最も大きい人種なんだなと思います。

 

近年機材やインターネットの発達から、昔に比べてコンポーザーやアレンジャーが爆発的に増えたと思います。現在の作編曲シーンについて感じる事を教えて下さい。

 

青木 : 良くも悪くもツールへのアクセスが容易になった時代だなと感じます。良い面は、作編曲を始めることへの設備面のハードルが凄く下がったことで、誰でも割と容易にプロと同じ音が出る機材を入手出来るようになったと思います。ネガティブな面は、ツールと情報が氾濫したことで取捨選択の判断が難しくなっていったこと。

ツール、機材の研究は凄く楽しいし良いことなのですが、自分一人で研究が完結してしまうのは非常に危険だと思います。DTM、シーケンサー以前は良い音楽を生み出すために必ず誰かの手を借りなければならなかったので必然的に対人での情報交換がなされていたのですが、今はPCと自分の対話で終わっている人が多いと思います。PC完結が容易だからこそ、外に出て人と音楽を作ることに投資して自分自身をアップデートし続ける方が良いというのが僕の考えです。

あとはツールの発達と共にYouTubeやSNSという発表の場も発展したので音楽ジャンルを個人が定義出来るチャンスの時代になったと思います。無茶苦茶な打ち込みを人間が再現出来るように努力したことがDjentの流行の一因だと思っていますし、ichika君のようにSNSに最適化された音楽の見せ方が生まれてきているのも面白いと思います。

 

青木様の今後の展望を教えて下さい。

 

青木 : これからも変わらずギタリストを増やす活動をしていきたいです。日本国内に限らず海外、特にアジア圏の若年層にもギターの面白さを感じてもらえるようにしたいですね。

あとは海外の制作手法、クオリティを吸収して日本人のテイストの楽曲に反映させていくことも積極的にやりたいです。具体的には打ち込みオーケストラやミキシングで、日本の文化にない音を日本人向けにどんどん打ち出して行きたいですね。

 

それでは、今後の予定を教えて下さい。

 

青木 : 8月5日に池袋のSpace emoで、8月10日に秋葉原のゲーマーズでそれぞれ黒沢ダイスケさんと合同リリースイベント「こうして僕らはゲーム音楽作曲家になった」を実施する予定です。当日は黒沢さんと自分がゲーム音楽作曲家として活動するに至るまでの経緯を語ったり、ミニライブや特典会を予定しています。なお、Vol.1はギタリスト、音楽制作者に向けて技術面に光を当てた内容で、Vol.2は音楽ゲーマーやリスナーさんに向けて、二人の音楽的バックグラウンドやゲーム音楽作曲家の生態を掘り下げる内容を予定しています。それぞれの回で、ギタリストと音ゲーマーには楽しんでもらえるものになると思います。


【イベントタイトル】
「こうして僕らはゲーム音楽作曲家になった Vol.1 / Vol.2」

【出演】
黒沢ダイスケ / Masahiro “Godspeed” Aoki

【日時場所】
【2018年8月5日(日)Space emo池袋】
OPEN 12:00 / START 12:30 (※既に終了しているイベントとなります。)
詳細 : http://space-emo.com/?ai1ec_event=ai1ec_event-1323

【2018年8月10日(金)AKIHABARAゲーマーズ本店】
OPEN 19:00 / START 19:30
詳細 : https://www.gamers.co.jp/event/96530/


 

それでは最後に、これからコンポーザー・アレンジャーを目指される方に対してメッセージをどうぞ。

 

青木 : 作編曲シーンへのコメントでだいぶ言ってしまったのですが、機材ではなく経験に投資して欲しいし、僕自身もして行きたいです。あとこれからコンポーザー、アレンジャーを目指すのであれば良いメロディを書く、良い譜面が起こせるだけでは当然厳しく、DTMを修めていることが前提条件になると思うので、英語と物理を勉強して欲しいです。

日本語と英語ではWEBでも書籍でも得られる情報の質と量が桁違いです。また、音楽は音や電気という物理現象を制御する芸術なので、それらがどういったものか把握することは非常に大きな手がかりになります。特にミキシングにおいて最低限の物理を修めた人はいわば強くてニューゲーム状態になります。ミキシングで何をすべきかを知識としては理解しているからです。

最後に一番大事なことが、作編曲の技能はあくまで自分が提供できるサービスの一つに過ぎないという意識を持つことです。それがアーティスト稼業であれクライアントワークであれ、金銭を受け取るのであれば何かしらの価値を提供しなければなりません。試しに他人に絵を描いてもらったり動画を作ってもらうみたいな依頼をしてみてもらえれば実感出来ると思いますが、良いものを作ってくれた時以外に、レスポンスが早かったり文体が丁寧だったり報連相がマメだったり、告知に協力してくれたり、ネームバリューがあったり、若かったり、単価が安かったり、色んなポイントでありがたみを感じることと思います。

そのありがたみポイント全てが制作能力と同様に価値を持つサービスだということに気付ければ、自分も良いサービスを提供出来るようになるんじゃないかと思います。

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