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MoguraVR

2018.09.28

【徹底レポ】PC不要でハイエンドVR、しかも399ドル 衝撃のOculus Quest

2018年9月26日、Oculusは新たなVRヘッドセットOculus Questを発表しました。PCやスマートフォンを使わない「一体型」ながら、身体を動かしたり手を動かしたりといった体験ができるVRヘッドセットです。これまでPC無しでは難しかった、没入感の深い“ハイエンド”な体験が可能です。

価格はなんと399ドル。大きなサプライズでした。高価なゲーミングPCとVRヘッドセットを揃えないとできなかった「VRで身体を動かす」体験が、Oculus Questではこれまでの3分の1程度の価格で体験できるようになります。価格発表の際には世界中のVR開発者が集まった会場から大きな歓声が上がったことからも、そのインパクトの大きさがうかがえます。

筆者はOculus Questが発表されたイベント・Oculus Connectの会場にて、実機でいくつかのデモを体験し、プロダクトマネージャーのシェーン・リュー氏にインタビューを行いました。Mogura VRでは、全3回にわたりOculus Questの全貌に迫ります。Part1となる本記事は、主にデバイスの性能や使用感などを中心に考察します。


(Oculus本社、プロダクトマネージャーのシェーン・リュー氏)

Quest=「手軽なRift」

Oculus Questは、開発期間中「Santa Cruz」というコードネームで呼ばれていたデバイスです。「Oculus Riftの体験からケーブルやPCを廃し自由にする」という目的でスタートしたプロジェクトで、2016年のOculus Connect 3で初めて開発が明らかになり、2年の時を経て製品版として発表されました。

https://www.youtube.com/watch?v=4AvXOlcFmPU

性能はSanta Cruzと呼ばれていた時点でもある程度は明らかになっていましたが、399ドルという価格はまさしくサプライズそのものであり、製品版の使用感も今回が初の体験となります。圧倒的な手軽さと没入感を実現しつつ、これまでのデバイスと一線を画す低価格で登場したOculus Quest。違和感のない非常に自然なトラッキングを備えており、Oculus Rift(以下Rift)で体験したものが一体型で実現しています。「手軽なRift」という印象です。

何よりもケーブルに接続されず、歩こうと思えば広い範囲を(現地では10m程度まで確認)歩けてしまう「自由なVR体験」のできるデバイスです。グラフィックの美麗なVR体験や長時間のVR体験を追求しないのであれば、非常に有力な選択肢となるデバイスでしょう。


(Oculus Questの使用イメージ画像。一切ケーブルを使用せずに体験している)

Oculus Go並のコンパクトさ

まずはOculus Questの外観から紹介していきましょう。2018年5月に発売された一体型VRデバイスOculus Go(以下Go)と比べてみると、できることは多くなっていますが、サイズはほとんど変わりません。前面のフロントパネルは四隅にカメラ(センサー)を搭載しているため、やや丸みを帯びています。この丸みの影響もあってか、Goよりも前面は小さく見えるほど。リュー氏によればデザインは「まだ最終版ではない」とのことで、何を搭載するかは決まっているものの、場所はまだ最終決定に至っていないそうです(したがって、本記事でのレポート・考察は発表時点でのボタン配置であることをご了承ください)。


(前面はプラスチックのパネル。外周はファブリック素材で、全体的に柔らかな印象)

重量に関しては詳細不明ですが、「1ポンド(約453g)以下」という情報も。実際に手で持ったり装着してみても、Goと比べていくらか重いものの、重すぎるという印象はありませんでした。バッテリーやプロセッサが集中する前面に重心を感じるという点も変わりません。

本体の左側面には充電・通信用のUSB Type Cの端子とイヤホン用のジャックがあります。スピーカーは内蔵されているため、音質にこだわる場合、音漏れを避けたい場合、遮音性を高めたい以外はイヤホン・ヘッドホンを自分で用意する必要はありません。

本体の右側面には電源ボタンがあります。イヤホンジャックは右側にもありますが「左右どちらにつけるかを検証するため、製品版ではいずれかに統一される」(リュー氏)とのこと。

また、本体底部には瞳孔間距離(IPD)調整用のスライダーと音量ボタンがあります。スライダーを動かすことで左右のレンズの距離が変わり、個人差のある左右目の距離と合わせることでぼやけを防止し、過度に負担のかからない適切なVR体験ができます。

頭部に固定するためのストラップはGoのようなゴムバンドではなく、PC向けのRiftのようにやや硬くしなる素材です。硬すぎることはなく、感触としては柔らかい素材が使われていますが、寝転がり横になって使用することは難しいと思われます。

固定方法はRiftと同様にサイドのベルクロを外してちょうどいいところまで引っ張り、再度止めるというもの。固定をしっかりしないと動く際にズレやすくなり、視界がぼやけてしまうのでしっかりと固定する必要があります。

続いてヘッドセットの内側です。Oculus社の製品といえば、PC用のRiftは装着部が狭く、眼鏡を使っているユーザーが使いにくいということがありました。Questでは、Riftと比べれば装着部が幾分広くなりましたが、Goほどは広くない、といったところ。筆者が使っている標準サイズの眼鏡がちょうど入るくらい。幅広の眼鏡を使用しているユーザーは苦労するかもしれません。

また、こちらもOculus社のデバイスで懸念となる「鼻の下が空いているため外界の光が見える問題」に関して、Riftよりは改善している印象があるものの、空いているため外の光が見えて没入感は削がれます。Goのように鼻の低いユーザー向けの交換アクセサリに期待したいところです。

コントローラーはRift向けのTouchコントローラーと似ています。人差し指や中指を使う背面のボタンが特徴的です。Touchと比べて重さは軽くなっています。

使用感として、手が開いている状態なども再現できたTouchと比べて、棒を握っている感覚はあり、コントローラーを比較した場合はTouchのほうがより自然という印象を受けました。

また、バッテリーに関して、USB Type-C経由で充電をすることができるということは外見から分かりましたが、バッテリーの持続時間に関しては「起動するソフトによって大きく異なる」(リュー氏)との情報のみで詳細は明らかにされませんでした。デモブースでは、ブースにQuestが2台用意されており、一人あたり10〜15分の体験時間で2,3名連続で使っていたことがわかったのみ。「アプリケーションが揃ってきたところで平均の持続時間を算出し、提示することになる」とのことで、発売直前まで情報は公開されない可能性が高いと考えられます。

最高レベルの解像度の実力

実際に性能の部分を考察していきます。解像度は1600×1440の有機ELパネルが搭載されていることが明らかになっています。リフレッシュレートは72Hz。解像度は2560×1440のパネルが1枚のみ(片目1280×1440)のGoよりも高い一方、リフレッシュレートはGoと変わらないということになります。視野角は数値こそ不明ですが、RiftやGoと同程度に感じられます。

なお、この片目の解像度が1600×1440の有機ELパネルはHTCのVIVE ProやサムスンのMRヘッドセット・Odysseyに搭載されているものと同等の解像度です。描画は非常に綺麗で、展示されていたデモを体験していて気になる要素はありませんでした。

“魔法のような”トラッキング技術

Questを体験したときに最も驚くのは自然なトラッキングです。現実で動き回るのと全く変わらず、自由に動き回ることができます。床との距離感なども正確です。

ヘッドセットの前面にあるカメラで空間をセンシングしてポジション・トラッキングを行う方式はインサイドアウト方式と呼ばれます。一方、PC向けのRiftやHTC Viveなどのように外部のセンサー等を使用する方式はアウトサイドイン方式と呼ばれています。

インサイドアウト方式は、外部機器を使用しないことからアウトサイドイン方式よりも手軽。一体型VRヘッドセットでポジション・トラッキングを実現するためには必須の機能です。一方、精度がアウトサイドイン方式に比べて劣ることが多く、明るさなど環境により精度が左右される不安定なことが欠点です。Mirgae SoloやVIVE Focusなどのインサイドアウト方式のVRヘッドセットは徐々に数が増えてきていますが、Questのトラッキング精度の高さは2年前の初期プロトタイプの時点から随一でした。

Questのインサイドアウト・トラッキングは「Ouclus Insight」と呼ばれており、ヘッドセットの前面四角に搭載された4つのカメラで空間のセンシングを行っています。トラッキングには、方式は異なりますがOculus Riftのポジショントラッキング技術も応用しているとのこと。コンピュータビジョンによる処理を行い、現実空間の点群を生成して空間構造を3Dマッピング。自身の位置を推定します。

https://www.youtube.com/watch?v=clnjWqqPPfE

手にもったコントローラーも、同じカメラによって赤外線(IR LED)トラッキングを行うことで位置を特定しています。リュー氏は「同じカメラで高精度のポジショントラッキングとハンドトラッキングを行っています。この仕組みがQuestを支えている“魔法のような技術”の一部です」とし、トラッキング技術には相当の自信を持っていることをうかがわせています。

違和感のないトラッキング+一体型=自由

筆者がプレイしたテニスのデモは、VRの中でラケットを振って実際のテニスと同じように遊ぶというものでした。ラケットを速く振りすぎると残像が現れていました。手のトラッキング範囲はほぼ180度で、視界よりもトラッキング範囲は広いため、その範囲を意識するのは後ろに手を回したときくらいでしょうか。後ろに手を伸ばした場合は境界から手が消えて、別の位置から手を戻すとVRでもその位置からしっかりと手が現れるなど、違和感なく設計されています。

なお、トラッキングを精度の高い状態で維持するためにはプレイする環境の明るさが重要になります。リュー氏によれば「コンピュータの目も人の目と似ていると考えていただくと分かりやすい。本が読めるくらいの明るさが必要」とのこと。屋内でも暗すぎる部屋では動作しないことが分かります。また、屋外では直射日光などもあるため使用を想定しておらず、屋内での使用を想定しているそうです。屋外で使用すると安全面で屋内以上に気をつけなければいけないことも増えることが予想されます。リュー氏も「現在は屋内でユーザーが安全に体験できるようにすることに注力している段階」と語っていました。

2名で対戦するテニスのデモは非常に秀逸で、実際にテニスをしている感覚とほぼ変わらない状態でVR内でテニスをプレイすることができました。ネットの上には特殊なアイコンが浮かんでおり、ボールが当たると特殊効果が発生します。筆者の場合は、ラケットが野球のバットに変わる効果が発生し、当てるのが難しくなった代わりに当たれば魔球となって勢いよく相手のコートに飛んでいきます。ほかにもバスケットボールに変化したり、ピンポンになったりと様々な効果があるようです。

テニスはボールの動きに合わせて激しく動くことになりますが、Questを装着しながら激しい動きをしても全く違和感はなく、ケーブルを気にしなくてもいいため、おそらく同じゲームをRiftでやるよりも「自由に・楽しく・自然に」テニスを遊ぶことができました。

自由度は間違いなくRift以上

同じくプレイした「SUPERHOT VR」はRift向けにもすでに提供されているコンテンツです。敵を倒していくアクション・シューティングゲームですが、自分が動いているときだけ敵も動けるというユニークな設定。敵の動きを予想しながら攻撃を交わして相手を倒していきます。

一定の広いエリアを歩き、しゃがみ、激しく身体を動かしながらプレイしている感覚はRiftでプレイするときよりも圧倒的に「自由」になりました。Riftで体験するときはPCと接続するケーブルがあります。動きすぎるとケーブルに引っ張られたり、回りすぎるとケーブルが絡まったり、といったことが起きます。徐々に慣れてくると、ケーブルがあることを頭の片隅に置きながら、動きすぎないようにコンパクトな動きになります。

実質、ケーブルという制約に縛られたVR体験になっていました。Questはその制約がなくなり、文字通り自由に動けることで「思い切り」遊ぶことができるようになりました。

Questを体験していると、「ケーブルがないと自由に動けて楽しい」という感想がまず出てきます。

https://www.youtube.com/watch?v=iykvGskgx7s

(SUPERHOT VRをプレイしている様子。ケーブルを気にせずに思い切りプレイしている)

また、6DoFの位置トラッキングがあると「動き回る」点にフォーカスをしがちですが、座ってプレイしているときに身じろぎしても自然というメリットがあります。人間のちょっとした身体の動きや揺れがVR内にしっかり反映されることでVR内にいる実在感を崩すことなく体験を続けられることに繋がります。さりげないことではありますが非常に重要です。

プレイエリアはユーザーの環境次第

なお、今回の体験では非常に広いエリアを歩き回ったりするようなデモが多いことが印象的でした。しかし、実際にQuestを購入した場合、ユーザーのプレイエリアは一定ではなく、それぞれ異なるプレイエリアを設定することになります。家庭での体験と考えるとあまり広くないエリアになることが想定されます。

リュー氏によれば「QuestにはRiftと同じように3つのプレイモードがある」とのこと。

・座ってプレイするSittingモード
・立ってプレイするStandingモード
・動き回るRoomscaleモード

ソフトウェアごとに、開発者はユーザーに対してどのモードでプレイできるかを提示することになります。ルームスケールの場合も基本的にはRiftと同じ最低限のプレイエリアが確保できていれば広い部屋がなくても遊べるとのこと。「Superhot VR」のスペースは「デモ用に広くしている」とのことで、プレイ前に設定するGuardianと呼ばれるプレイエリアの範囲内で楽しむことになります。広いエリアが確保出来ている方がQuestの特長を活かしてのびのびと遊べることは間違いないでしょう。


(Riftのソフトウェアページにはどのモードに対応しているかが明記されている)

続くページではQuestにおいて想定される課題や発売時に予定されているコンテンツ、発売対象となる国、そして総評をお届けします。

(→次のページへ)

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この記事を書いた人

すんくぼ(久保田 瞬)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。VRジャーナリスト。
VRが人の知覚する現実を認識を進化させ、社会を変えていく無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。VR/AR業界の情報集約、コンサルティングが専門。また、国外の主要イベントには必ず足を運んで取材を行っているほか、国内外の業界の中心に身を置きネットワーク構築を行っている。Boothにて書籍「寝転んでNetflixを観ると、 VRの未来が見える」販売中

Twitter:@tyranusii