50歳を過ぎて残り時間や自分の選択肢の少なさに絶望する人も多い。写真はイメージ=PIXTA 内閣府が8月に発表した「平成30年度 国民生活に関する世論調査」によれば、日常生活で悩みや不安を感じている人は、50歳代が69.5%と、どの世代よりも多い結果になっています。しかし、不安が顕在化してから打開策を考えても、手遅れになる可能性は否めません。早い段階から定年後の人生に備えるために、40歳になったタイミングで、生涯を通じたキャリアの準備を始めることをお勧めします。転職に限らず、起業や現在の会社で活躍する選択肢も含め、具体的な方法を見ていきましょう。
■50歳で「不透明な未来」に気づく衝撃
ここ数年、「人生100年時代」というキーワードが一気に世の中に広まりました。100年という尺からすると40歳はまだ前半戦、50歳でようやく折り返し地点という印象かもしれませんが、実際に50歳という節目を迎えてみると、ぼんやりと思っていた以上に「残り時間の少なさ」「選べる選択肢の狭さ」に気づき、衝撃を受ける方はたくさんおられます。
定年は昔に比べて延長される傾向にあるとはいえ、65歳前後で現実に「その日」はやってくるわけで、会社員としては折り返しどころか「終盤戦」といってもよいほどの状況になります。
40代のうちは、自分の出世に限界があることは見えていたのですが、うっすらと「まだ巻き返せる」と思っていました。しかし、50歳を超えるとそんな考えも一気にしぼみました。会社員人生をどう終え、「会社を辞めた後」の人生をどう設計するかについて、がぜんリアリティーが高まってきたのは事実です(54歳、電機メーカー海外事業部担当部長)
働き盛りの40歳代までは、自分の「可能性」を疑う余裕もないかもしれません。しかし、M&A(合併・買収)や経営者の世代交代による会社の方針転換についていけないままに不本意な異動や転職を余儀なくされる方、目標達成のプレッシャーの中で自分の健康や家族の介護の問題を抱え将来に不安を覚える方……順風満帆という人は一握りで、多くの方は50歳を迎えて、未来の不透明さに立ちすくんでしまいます。
しかし、この状況を予測できるとすれば、会社に依存せず、自分自身で考え、道を切り開いていく大きなチャンスでもあります。40歳を過ぎたら、来るべき時に備えて「生まれ変わる準備を始める」適齢期なのかもしれません。
■「起業なんてありえない」という思考停止の拒絶
40歳以上の方々の転職相談を受けている際、ごくまれに「いっそのこと会社を創って起業されるか、フリーランスとして働いたほうが、やりがいも収入も増えるのではないですか」という提案をさせていただくことがあります。
●専門領域が明確でスキルや能力が秀でている
●顧客や仲間などの豊富なネットワークを持っている
特に上記2点のいずれか、または両方を持っている方は、現実性が高い話なので、こちらとしてもかなり真剣な提案となります。さらに、
●起業するために必要な手持ち資金がある
という条件が加わると、より一層、起業という選択肢のリアリティーは高まるのですが、ほとんどの方は、当初はかなり強い拒絶反応を示します。
会社員生活が長くなると、それだけ「雇用されていること」が常態化し、雇用される以外の働き方の想像がつかなくなります。また、「雇用されていないこと=不安定さ」という確信的な恐怖に直結するバイアスができあがってしまうようです。さらに、日本的な同調のカルチャーも、一匹おおかみ的な生き方や働き方を警戒させるのかもしれません。
起業という選択肢も視野に入れておきたい。写真はイメージ=PIXTA しかし、その方が持つ実力の客観的なレベルの高さや、「定年がなく、健康と精神力が続く限り死ぬまで仕事を続けられる」という起業のメリットをお伝えすると、しだいに顔つきが変わって、具体的な選択肢として検討を始められる方もいます。
起業といっても、法人として会社組織を作るケースもあれば、まずは小さく個人事業主としてフリーランスから始めるという方法もあります。また、2020年までに労働人口の50%がフリーランスになると予測されている米国ほどではないにせよ、シェアオフィスの広がりやフリーランス向けのプラットフォームサービス、政府系金融機関からの融資など、起業しやすい環境は日本でも徐々に整ってきています。
「雇われないで生きていく」働き方は、ハイリスクなだけのとんでもない選択肢ではなく、最初から除外するのは惜しい時代が来たといえるでしょう。
■増加するミドルの起業、成功のポイントは?
ミドル世代で起業する方には、
●世の中に役立つことで貢献したい
●1人で身軽に起業したい
●細くても長く働き続けたい
と考える傾向が強いようです。事業成長や組織拡大の意欲にあふれた20歳代、30歳代前半の起業と異なり、豊富な経験に裏打ちされた知識やスキルがあるぶん、リスクが低いともいえます。
とはいえ、当然ながらミドル世代が起業すれば誰もが成功するわけではありません。成否を左右する重要なポイントは、手持ちの経験値に依存せず、起業後も継続的に自分を磨き続けること、自分の専門領域において「世の中でどのような経験やスキルが求められているのか」というマーケット感覚を常に養い続けることです。
家族や友人・知人からのサポートがあるかどうかも大きなポイントです。自身の今後のキャリアについて家族にしっかり説明し、メリットやリスクを含めて理解を得た上でサポートしてもらえれば、精神的な余裕に大きな違いが生まれます。もし法人化や雇用、設備投資が必要な場合でも、リスクを最小限にするために小さめの規模でスタートし、軌道に乗り始めたら徐々に投資を増やしていく方法をお勧めします。
起業を検討したものの結果的に起業に至らず、社内に残る選択や、転職という選択を決断したとしても、起業する覚悟で準備することで、キャリアや人間関係の棚卸しができたり、選択肢が増えることによって心理的余裕につながるなど、プラスになる面はたくさんあります。いったんは起業するタイミングが先になったとしても、情報収集やネットワークづくりを早く開始できるというメリットも見逃せません。
■会社に必要とされるシニア人材を目指す
会社に必要とされる「レア人材」を目指す手も。写真はイメージ=PIXTA リクルート出身で東京都初の民間人校長となった藤原和博さんは、「45歳の教科書」という著書の中で、100人に1人レベルの技量を3つ持つと、100万人に1人の「レア人材」になれるというメッセージを伝えています。1つの分野で100万人の頂点に立つには計り知れない努力と才能が必要だが、100人中で1位が取れる分野を3つ持つことで、希少な高付加価値人材を目指そうという発想です。
起業や転職といった選択ではなく、現在の会社で希少価値を発揮するシニア人材として長く働き続けるという意思決定をした場合、専門分野でのスキルレベルを高めながら、できれば複数のスキルを磨けるミッションにも手を挙げるなどして、複合的なレア人材を目指すという戦略が考えられます。
ミドル世代以上の方が、自分の意思だけで部署異動や役割を変えるのは容易ではありませんし、リスクも少なからずあります。たとえば自分の役割と隣接する部署や、経験はないが身に付けたい技術を持っている人に声をかけ、自分の業務の閑散期や空き時間を活用して少しだけ仕事を手伝わせてもらうなど、スキルのエッセンスを学ばせてもらいながら、少しずつ複合的なスキルを身に付けていくような方法を探ってください。
現在の職場で頑張り続けるか、転職するか、起業するかという選択は、自分自身の生き方を問う作業と近いものがあります。どんな意思決定をするにせよ、自分の人生の後半で働ける残り時間を試算して、ぜひ悔いのない道を歩んでいただければと思います。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。この連載は3人が交代で執筆します。
黒田真行 ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。14年ルーセントドアーズを設立。著書に本連載を書籍化した「転職に向いている人 転職してはいけない人」(【関連情報】参照)など。「Career Release40」http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。