デミウルゴスですが至高の御方のフットワークが軽すぎます 作:たれっと
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シモベ達を後ろに控えさせて、至高の御方に報告をする為に俺は前方の村へと向かっていた。遠くからのぞく村からは、所々煙が立ち上り今が平常ではないのが見て取れる。
きっと本来ならば、村の外にある畑で作業する村人が見えるのだろう。例えガゼフという戦士を殺すためとはいえ、ここまでする理由など有るのだろうか……。
やはり、この世界の情報が少なすぎるな。このままでは何も判断することができない。
昔の偉い人も言っていた。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。いつの時代も情報が全てを制すのだ。
なまじナザリックの面子は強いから、力で全てを制そうとしないよう気をつけないとな。
――流石に人間にこの姿を見られるのはまずいか。
俺は、村の住人に見つからないようある程度近づくと、変身能力を持つシェイプシフターのスキルを使い、黒い猫へと変わっていく。
視界が一気に低くなるが、ドッペルゲンガーと違い身体能力は変わらない。流れるようにモモンガ様を探すべく建物の影へと潜んでいく。
人間だった頃は猫になって寝ていたいと思っていたが、いざ猫になっても気ままに過ごせず働くしかないとは、皮肉なものだ。
村の中心を覗いてみたが、人の姿は見えない。ぐるりとそのまま辺り回ると、辺りを警戒している全身鎧のアルベドを見かけたのと、村外れに人だかりが出来ていた。
近くにある家屋の屋根の上に飛び上がり、高い所から村人たちの様子を見る。アルベドに取り次いでもらおうかとも思ったが、警護の邪魔はしたくないし話しかけないでおく。別にアルベドが怖いわけじゃないぞ。
簡素な柵に囲まれたその場所は、所々大きめの石が点在していた。目を凝らすと、その石には文字らしきものが刻まれているように見える。
そんな場所に、犠牲者なのだろう、多くの遺体が並べられていて、代表者なのだろうか、初老の男性が前に出て集まった人たちに語りかけている。
少し前に、モモンガ様の自室の鏡に映っていた姉妹も、その男性の話を聴いているようだった。
――どうやら娘たちは無事のようだな。少なくとも、アンデッドになっている様子は無いようだ。
我が命を助けたんだからお前の命は我のもんだグハハハハとか言いながら眷属にする見た目してるからな至高の御方は。
それにしても、セバスから言われた後も何かの冗談だと思っていたが、マジで人間を助ける為にモモンガ様は出て行ったのか……。
単純に助けたとは思えないから、何か娘たちに秘密でもあるのか?後で調べてみようかな。
そう思いながら様子を見ていると、どうやら村では犠牲者の埋葬中らしい事が分かった。……こうした習慣があるという事は、宗教が身近に存在するという事になるのだろう。
たとえ異世界でも、宗教とは自然発生するもんなんだな。まあ、この世界には天使も悪魔も居る位だし無理もないか。
せめて神とは出会いたくないものだ。そういうの常識外れなのはうちの上司だけで十分だからな。
そして、目的の人物は少し離れた所から傍らにアンデッドのシモベである
流石にあの骸骨顔を人間に晒すのは問題が有ると思ったのか、至高の御方は赤い仮面と手甲で素性を隠している。
さっきスレイン法国の奴らも俺らをモンスターとか言って問答無用で攻撃してきたし。
それにしても、仮面を被っていても墓場が似合う御方だ。現代でこんなのと墓地で会ったら心臓止まるね。
おっと、いつまでもこんな所に居られないな。至高の御方を見下ろすとか、アルベドに見つかったら何と言われるか。
音を立てずにそっと地面へと降りると、モモンガ様の側へと駆けていく。
「モモンガ様、報告があります」
直接村人からは見えないように物の影に移動すると、立ち上がって器用に臣下の礼をしてから声をかけた。
人間のような動きをする猫の姿はさぞかしシュールな事だろう。もしくはファンシーかな?
「む……この声。まさかお前はデミウルゴスか?」
目の前の至高の御方は一度こちらを見てから、少し考えた後に俺が変身して来ていることを察する。
――猫はデミウルゴスらしくなかったか?でも山羊は目立つし、犬は心情的に嫌なんだよな。俺はナザリックの犬じゃないし。
「はっ……隠密の為とはいえ、このような姿で御身の前に現れる無作法をお許しください」
「よい……面をあげよ。それよりも報告の方を早く聴きたい」
「はい、ナザリックからマーレ、コキュートス、シャルティアとアウラ指揮のシモベたち六百を辺りに伏せさせています。また、シモベに関してはナザリック周辺を警備しながら更に集合するようになっています。ナザリック内の防衛に関しては我が親衛隊とセバスが警備中です。ただし、ナザリックに反応があった場合はシャルティアの
アウラに足の速い奴で取り敢えず向かってもらい、後で逐次現地で合流するように言ったせいで、未だ足の遅いシモベは集合できてないようなんだが、それをナザリック周辺の警備を兼ねてるってことにしていいよな。ナザリックから出発してるわけだし。
俺もニグンと戦ったお陰で、流石にこの辺りの人間があまり強くない可能性が有ることはわかっている。お陰で今の後詰が過剰戦力だということも。
結果的に戦力が離れた為に防衛力が薄くなってしまったのだが……突っ込まれたらマズいので、さり気なく遅れたシモベをダシにして誤魔化す事に決めた。
「……ナザリックの戦力に不安があるな。こちらの状況は既に解決した。これ以上数がいても邪魔なだけだから、アウラとマーレを除き急ぎ帰還せよ……それと、隠密能力に長けたシモベは何名来ている?」
やはりシモベや守護者達を出しすぎてしまったか……まあ、怒ってないからいいだろう。ていうか、そもそもアンタが勝手に出ていかなければここまでナザリックを留守にすることは無かったんだけどな。
それにしても、隠密特化のシモベ……?えっ……何人居たっけ。隠密型のシモベならさっき話した
「
まあ、六百体もシモベが居たら
もし居なかったら……急いでナザリックから呼んでこよう。
「ならば、その
「畏まりました」
モモンガ様の話を受けて、再び頭を下げると、モモンガ様が助けた少女たちの声だろうか、墓地の方向から泣き声が聞こえてくる。
泣きたいのはこっちも同じだよ。せっかく至高の御方を守るために必死になってナザリックから出て来たと思ったら、殆ど必要無くて上司から要らんから帰れって言われるんだもんな。これだったら部屋で寝てたほうがマシだったわ。
っと、落ち込んでる場合じゃない。ニグンの事も報告しなくてはいけないな。
「それと、村を襲った首謀者の一人を既に捕縛しております」
「なんだと?」
おっ、至高の御方にしては中々無さそうな反応だな。素で驚いてるような声だ。これはポイント高そうだぜ。
「どうやらスレイン法国の者がこの辺りの村を襲ったようです……それにつきましては、捕虜に更なる尋問と、その為のナザリックへの移送の許可を頂きたいと思います」
「わかった、許可する……必要ならばニューロニストの所へ引き渡してもよい。それにしても法国か。と、なると襲った者が帝国の紋章を付けていたのは偽装工作だったのだな」
ニューロニストというのは第五階層に居るナザリック地下大墳墓特別情報収集官という長ったらしい役職を持った拷問、尋問を受け持つシモベのことだ。
……出来れば彼女?には会いたくないんだよな。同僚に対してこんなこと言っちゃいけないのは分かるんだけど、気持ち悪いんだよ。
水死体にタコが乗っかったような姿なんだが、見た目もそうなんだけど、話し方も癖が有ってな……うえ、思い出したら吐きそうになってきた。
特に言われない限り彼女には会いたくないし、陽光聖典のみんなには普通に牢獄に入ってもらうことにしよう。あ、でもナザリックの牢獄って特殊な奴しか無いんだったか?
しかし、正直持て余していた情報だったけど流石は至高の御方、綺麗に処理してくれそうだ。
俺はたまたまラッキーに恵まれたから良いが、モモンガ様が法国を知っているということは、この周辺の地理を既に把握しているということになる。魔法で村人から情報を得たのか?
やっぱり魔法詠唱者って羨ましいなあ。いや、俺にも支配の呪言あるけどさ、記憶が残っちゃうみたいだからこっそり情報を得るには向かないんだよね。
それにしても、結果的に至高の御方が出ていったのは周辺の情報を得るためと考えたら正解だったのか?あの時セバスだけ
もしセバスだけだったならばセバスは助けることのみを優先してついでに周辺の情報を調べようと思わなかったはずだし、俺もモモンガ様を追わずニグンと出会うことは無かっただろう。
――そう考えると至高の御方は運が良いな。いや、まさかここまで計算だったのか?そうだとしたら恐ろしいな。
「それにしても、流石だデミウルゴスよ。まさか、もう主犯格を捕らえてくるとはな」
「恐れ入ります……しかし、至高の御方ならばこの程度のこと造作も無いかと」
ナザリックからモモンガ様の居る所に向かって直進していったら出会っただけなんだよな。正直誰でも捕まえられると思うぞ。
恐らくシモベ達も気付いていただろう。ただ、ナザリックから離れていた場所に居た人物だったから至高の御方を護衛すべくアウラと合流することを優先したのだろうな。
俺もノリノリで走って飛び出していなかったら、無視してモモンガ様の所に向かってたわ。
「ふふふ……やはりそう思うか」
「ええ、さほど難しい問題では御座いません――後、もうしばらくするとガゼフ・ストロノーフという戦士が来るかもしれません。彼は王国最強の戦士なので、この辺りの人物の強さを知るのに役立つと思います」
王国最強の戦士といっても相変わらず全く事情がわからないが、それとなく言っておくことにする。
至高の御方は既に周辺の地理に関して知っているが、俺は全く理解してないからな。王国とかどんな政治形態なのかとか、詳しい所がさっぱりだ。
しかし、恐らくはそのまま判断するならば、王国と言う場所で強い者なのは間違いないはずだ。この辺りのレベルを知るのに役に立つはず。
「ふむ……それに関しては今から考慮しておこう……大義であった」
一礼してから、そっと至高の御方の元から離れる。今回も生き延びることができたようだな……。
ホッ、どうすれば良い?とか聞かれないで良かったわ。それにしても、具体的な強さはわからなかったから伝えなかったが、モモンガ様、王国最強という肩書だからってガゼフとかいう奴を張り切って殺しちゃわないかな……ニグンレベルだったりしたら魔法を唱えたら瞬殺だろうし、心配だなあ。
まあ、なんとか無事に至高の御方をキレさせず報告ができて良かった。軽く歌でも歌いたい気分だぜ。
早くモモンガ様の言葉を伝えてから帰って、久しぶりに絵でも書こうかね。
ニグンさんを早めに処理してしまったので、やはり盛り上がりと見せ場に欠けちゃいますね。
二章からはもっと緊張感が出る展開になると思います。