デミウルゴスですが至高の御方のフットワークが軽すぎます   作:たれっと
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邪悪な誤算

「情報を手に入れる必要が有ります。守護者たちは召喚主を殺さないでください」

 

白銀の翼を翻し突貫する天使たち。手に持つ剣は赤熱し色が変わり、激しく燃え上がる。

召喚者からの命令を愚直に執行する使い魔。その表情はなにも浮かぶことは無く、目の前の者の命を奪う事のみに命を捧げているのが感じられた。

 

しかし、そんな気迫を一身に受けながらも、階層守護者は身構える事もなく佇んでいる。

炎の天使たちに対して、守護者達は氷のようだった。今にも襲い掛かる者が目の前にいるにも関わらず、まるで視界に入っていないように先を見つめている。

例えるなら、小さな石ころが風に吹かれて転がってきたような、取るに足らない存在を相手にしているように感じられた。

 

危険な傾向だ。階層守護者達はプライドが高く、ナザリックに属さない者を見下すのはこれまでの様子から予想はしていた。

如何にも慢心している様子の皆に焦っていく。まだ相手は本気を出しているわけではないんだぞ。

油断した所を見て、急に力を出してスッといってドス!っていう展開も無いわけじゃないんだ。

 

 

 

一体の天使が、ようやくナザリックの守護者達の元へとたどり着き――そして、見えない壁にぶつかったかのように消し飛んでいく。

前に出ていた二人、シャルティアは彼女にしては緩慢に、そして無造作にスポイトランスを横薙ぎにして。コキュートスは白い息を吐きながら持っていたハルバードで鋭く一閃すると、その度にまとめて溶けるように天使たちが居なくなる。

俺は呆然とその光景を、マーレは特に何もする必要を感じなかったのか、じっと前を見つめていた。

 

階層守護者達と炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)とは地力が違いすぎるのだ――特に魔法もスキルも使う必要は無い。持っている武器を振るうだけで十分だ。

再度召喚された天使達がまた突撃していくが、先程の繰り返しだった。先が崖だと分からないかのように集団自殺していく動物のように思えてくる。

時折時間差で攻撃を仕掛けたり、同時に突撃していく姿も見られたが、死ぬ時間が変わる程度で全く変化は無かった。

 

<炎の雨>(ファイヤーレイン)!」

 

天使たちを援護すべく、男たちから魔法が唱えられる。

小さな炎が降り注ぎ、小雨が肩に当たったような感触を感じた。炎に耐性の有る俺はもちろん、どの階層守護者達も気にも留めない。

風が身体を撫でたからと意識する者は居ないだろう。その程度の雨だった。

 

<束縛>(ホールド)!」

 

前衛を止めれば良いと思ったのか、動きを止める魔法が二人に飛んでいく。

シャルティアが口元に手を当ててあくびをすると、槍を操って再度近付いた天使たちを吹き飛ばす。守護者達は行動阻害の耐性を持っている、僅かな時間も稼ぐ事は出来ない。

――いや、戦乙女が退屈して少し動きが遅くなったか。結果は変わらないが。

 

 

ならば、と天使は大きく回り込んで、後衛である俺とマーレを狙っていく。

本来ならば前衛のコキュートスとシャルティアが邪魔をするのだろうが、その必要も無いと思ったのかそのまま通すことを許して前を見ていた。

もっとも、それも愚かな判断なのだが――

 

マーレは両手で持っていた杖の石突で、軽く地面を叩く。

 

<集団標的>(マス・ターゲティング)<石拳の束縛>(ストーン・ホールド)

 

地面が盛り上がったかと思えば、勢い良く灰色の石の腕が飛び出す。それも、一つや二つではない、シャルティア達を通り過ぎていった天使たち全ての数の手が現れると、握り込むように召喚生物を捕縛する。

捕捉され、動けなくなったのを理解した天使は、数少ない身体が動く所で石腕を叩くが、拘束から逃れることはもちろん、石を削る事も叶わなかった。

そして、そのまま石拳が捕まえていたモノの身体を握り潰し圧殺すると、召喚物は還っていく。マーレもこの魔法一つ撃って消耗したとは言えない。後ろに回った天使は全くの無駄だった。

 

マーレは範囲系魔法のエキスパートだ。例えこの数倍の敵の数でもマーレに触れることはできないだろう。

今の魔法も先程相手が使った束縛系統の魔法では有るのだが、破壊力が有り、範囲も違いすぎる。

流石マーレだ。後衛寄りにも関わらず、強さでは守護者の間で上位に入るということはある。羨ましいぜ。

 

しかし、本当はもっと派手な魔法も有るのだが、俺たちや向こうの人に当たってしまうのを気にしているようだったな。

そう考えると、連れてくるのはちょっと失敗だったか。

 

「ば……ばかな……」

「化物が!」

 

声を上げて俺たちの事を恐れながらも、すでに炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が通用しないのが分かっているのにも関わらず、前の人物たちは一向に召喚するのを止めない。

いつか召喚したモノが相手に運良く傷をつけてくれる、そんな祈りが悲鳴を上げつつある向こうの男から感じられた。

撃ってくる魔法はどれも弱く欠片も俺たちを傷つけることはない。正に一方的な展開だ。

 

 

 

そして、俺は目の前の光景に頰に汗が伝っていくのを感じた。ここに来て、俺はようやく誤算に気付きつつあった。

 

こいつら、もしかして素で弱いのでは――

先程の不安は一体なんだったのか、俺は全くこの戦闘で動いてはいないが、どっと疲れが湧いて出てくるようだった。

こんな奴らでは至高の御方を傷つけるのは不可能だ。さっきまで不安に思っていた自分に腹が立つ、この程度の相手に足を止めさせられるとは。

相手の力がわからなかったので様子を見ていたが、もういいだろう。さっさと捕縛して情報を吐いてもらってから、モモンガ様と合流しよう。

 

「ふう……相手の能力は測る事が出来ました。もういいでしょう――」

 

「……!監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)!」

 

マーレに頼んで捕縛する魔法を唱えてもらおうと思った矢先、俺の言葉が切っ掛けになったのか、隊長格の男が側に控えさせていた天使を突撃させる。

先程まで戦っていたものとは異なり豪華な装備で、動きも速い――しかし、劇的に大きな差があるわけではない。

炎の天使と同じように、ある一定の見えないラインに踏み込んだ途端、一撃で鎧がはじけ飛んで消える。

無駄なんだよ、無駄無駄。

 

「ひっ」

「一撃でやられるなんて……」

「ありえるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

絶叫が辺りに響いていく。ありえないのはむしろこっちのセリフなんだけどな。

普通ノリノリで向かってこられたら同格だと思うじゃん。さっきまでの緊張が馬鹿みたいじゃないか。

これでいけるかもって炎の天使と似たようなレベルの持ってこられて、そんなこと言われてもこっちが困惑する。

 

「ありえない!上位天使が一撃で滅ぼされるなど!貴様らは一体何者だ!?一体どこからやって来た!」

 

出会った時の落ち着いた感じは見る影もない、顔を歪ませ叫ぶ姿は指揮する者とは思えない様子だった。

ちょっと小突きすぎちゃったかなあ……色々聞きたいことが有ったんだけど。

 

「貴方の質問の前に、先にこちらの質問に答えてください」

 

前に出て、隊長格へと近づく。こっちが先に質問したんだからな、お前らに無視されちゃったけど。

格付けは済んだんだから答えてもらうぞ。さっさと、絶対にだ。

 

「最高位天使を召喚する!時間を稼ぐんだ!」

 

金髪の男が懐からクリスタルを取り出して叫ぶと、周りに居て取り乱していた者が落ち着きだす。

最高位天使?あいつらの切り札か。正直さっきまでの様子だとあまり期待出来ないが、本当に最高位天使だと困るな。

それに、いかんせん時間が掛かりすぎた。俺は早く仕事を終わらせて帰りたいし、ここで手間取って至高の御方から怒られるのも嫌だ。

 

「マーレ、捕縛を」

 

<集団標的>(マス・ターゲティング)<植物の絡みつき>(トワイン・プラント)

 

男たちの足元に有った雑草がそれぞれ急に伸びだし、太くなると身体に絡みついて拘束する。

バランスを崩した者はそのまま転倒し、なんとか留まった者も身じろぎすることもできなくなる。

これが女の子なら俺も興奮したのだろうが、野郎に触手プレイとか誰得だった。

 

隊長の人物はなんとか転ばずにいられたようだが、先程まで持っていたクリスタルは手元から離れ、地面に転がっていた。

俺は全員が大人しくなったのを確認すると、近づいて結晶を手にとってまじまじと眺める。

中身はよくわからないが、金髪の言っている事が正しければ、このクリスタルに最高位天使が封じられているのだろう。

至高の御方への良い土産になるな。

 

さて、今度こそこいつらの目的を聞かなくては……と思ったが伸びた植物が顔に傷がついた男の口まで入っていて話せそうにない状況だった。

恐怖に見開かれた目がこちらを見つめている。大丈夫だよ、聞きたいことが有るだけでそんな怖いことしないよ。

 

「すまないマーレ、この者だけ魔法を解いてくれないか」

 

「は、はいっ」

 

男に絡んでいた植物が消えていく。やっとコレで対話が出来るな……。

 

「ひっ、ひいいいいいぃぃぃ」

 

あっコラ逃げるな!

まあ、走って逃げるとしても俺たちからすれば亀のようなスピードなんだけど、こっちは早く仕事を済ませたいんだよ!

仕方ない、ちょっとボコボコにして足を止めてもらうか。今回の戦闘俺は何もしてなかったからな、せめて情報収集くらいは頑張らないと。

 

軽く力を入れて、金髪の男の身体を狙って殴りつける。特にスキルとかは使わない。うっかり殺したら大変だからな。

 

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ」

 

ヒッ、いかん、力が強すぎたか。

今回みたいな戦闘は『デミウルゴス』はともかく、俺には初めてだったせいか力配分が間違っていた上にちょっと狙いが逸れて腕に当たってしまった。

柔らかいものを殴ったような感触と共に、破裂音がして男の片腕が離れて飛んで行く。うおお、スマン!ここまでやるつもりは無かったんだ!だから逃げないでちょっと大人しくしてくれ……!

 

「逃げられるとは思わないで下さい」

 

早く諦めてくれ!目的を話すだけで良いんだから!

これ以上遠くに行かないように、俺は脚を足先で薙いで転ばそうとする。

 

「あ゛あ゛あ゛あぁぁ」

 

アッ……こ、こんな筈では……。

相手が脆すぎる……いや、デミウルゴスが強すぎるのか?別にスキル使ってないんだけど。

 

「アハハハハハ、流石はデミウルゴス、まるで芋虫のようでありんす!」

 

シャルティアのサディスティックな笑いが辺りに響いていく。既に走るための脚を失った男は、身体を痙攣させて草原に横たわっていた。

いや、シャルティア勘違いしてるよ!これ別にいたぶってるわけじゃないからね!どっちかと言えば『デミウルゴス』ならこんな直接的に痛めつけるんじゃなくて、逃げる相手なら精神的に追い詰めていくから!

 

「……さて、早く貴方の目的を話す事をオススメしますよ?」

 

「は、は゛な゛しま゛すだ、だから、命だけは……」

 

やっとか……手こずらせやがって……って、今気づいたけど<支配の呪言>使えば良かったじゃん!俺の馬鹿!

やっちまったなあ……ぶん殴るとか『デミウルゴス』らしくないし、守護者違和感持ってなければ良いけど……。

俺はマーレに治療をお願いしてから、前の男からの話を聴き始めた。

 

 

 

………

……

 

 

 

 

そして、男――ニグン、という者から所属と、何故この地に居たのかの説明を受けた。

男は、「スレイン法国」という国の陽光聖典という特殊部隊で、ガゼフ・ストロノーフという王国最強の戦士を殺すためにこの地にやってきて、部下はそのガゼフを誘い出すために村を襲っていたらしい。

 

――全く理解出来なかった。

まず、いきなりスレイン法国と言われても良く分からなかった。何処にその地があり、どんな国なのか想像も出来ない。

ただ何となく特殊部隊の名前が「陽光聖典」なので指導者は厨二病だろうな、と現代人目線で思っただけだった。

 

それに、ガゼフ・ストロノーフ。王国の戦士らしい。王国がどの王国なのか分からないが。それに、最強の戦士と言われてもそいつを殺そうとしていたコイツの実力から考えてお察しである。

あ、一応切り札で戦おうとしていた可能性もあるか。それだと最高位天使並の強さもあるかもしれないな。

そして、そのガゼフを呼び出すために村を襲っていた理由も不明だった。ガゼフは弱い者を助けるヒーローみたいな者なのか?

 

「ふむ、なるほど。やはり、これは重要な情報のようですね」

 

これはモモンガ様案件だと即座に判断する。きっと至高の御方ならこの情報を元に最善手を打ってくれるはずだ。

少なくとも、俺の手に負える話ではない。しかし、『デミウルゴス』ならばこう答えるだろう。

 

「わ、わかったんでありんすか!?デミウルゴス!?」

 

ニグン達の話を聞いて首を傾げていた守護者達の内、シャルティアが声を上げてこっちを見つめてくる。

他の守護者達も驚いたかのようにこちらを見つめていた。

 

「ドウイウコトナノダ?」

 

説明を求められても困る。俺がよく分からなくてもモモンガ様なら重要な情報と判断してくれると思っただけだ。

一応至高の御方が外に出ていったのと全く関係ないことは無いだろう。どうやらこのニグンの計画により襲われた娘を助けに行ったみたいだし。

 

「モモンガ様の今の状況と関係しているかも知れません。一刻も早く伝える必要があります」

 

更に追求される前に一刻も早くこの情報を至高の御方に処理してもらわなくては――

 

「こ、これで以上です。なので、どうか命は……」

 

「元々私は貴方の命は奪うつもりは有りません、ただ、ちょっと捕虜にはなって貰いますが」

 

話が一段落したのでニグンが再び命乞いをする。

俺は命は奪うつもりは無いがね、これからに関してはモモンガ様次第かな。

 

「さて、後は事が済むまで眠っていたまえ」

 

<支配の呪言>でニグン達陽光聖典の皆さんに眠ってもらう。後はシモベ達に任せる事にしよう。

本当は面倒だから直接ナザリックに送りたいが、勝手に送ると栄光あるナザリックに人間など云々って騒がれそうだからな。

 

 

辺りに控えていたシモベを見かけると、数体呼び寄せる。

戦闘やらで結構時間が掛かってしまったせいで、もうこの辺りにまでアウラの手が回っていたようだ。

 

「状況はどうなっている?」

 

「はっ、アウラ様指揮の元、現在600のシモベがモモンガ様が居られるこの先の村を襲撃すべく、準備しております」

 

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が軽くこちらに礼をしてから、現状を説明する。

ん?一体どうなっているんだ?モモンガ様はこのあたりの娘を助けるために出ていったのだろう?

なのに村を襲撃するとか矛盾している。それに、陽光聖典の面子の能力考えたらモモンガ様とアルベドで既に滅ぼされてるっつーの!

 

――いや、モモンガ様なら娘を助けた後に、直接その娘に村を襲撃させるところを見せて愉悦に走る事もあり得るのか?

一体何故こうなったんだ……やっぱりナザリックの連絡網には欠陥が有るな。話が全く信用できねえ。

 

「……それはモモンガ様の指示かい?」

 

「いえ……その件でこれからモモンガ様に報告しに行くところです」

 

危ねえ……まだ正確に至高の御方の気持ちが分からないのに、守ろうとしたかもしれないところを襲撃しますとか言ったら殺されるわ。

ニグンの件も連絡して貰おうかと思ったけど、この分だと変に伝わって大変なことになりそうだな。

クソ、正直気が進まないが、俺が行くしかないか……。

 

「シャルティア、マーレ、コキュートスは村の側で待機していてくれ……私が直接至高の御方に報告しよう。お前たちはこの捕虜を見張っていてくれ。貴重な情報源だ、殺さないようにね」

 

「わ、分かりました!」

「はっ」

 

マーレが頷く。守護者達も特に反対は無いようだ。

シモベ達にニグンらを見張ってもらうように頼む。

 

 

さて、至高の御方との会話か……さっきの戦闘より大変そうだ――

 

 

 

 




土の巫女姫「うわあ……(ドン引き)」


Q,ニグンさんが原作と違ってヘタレじゃない?
A,原作モモンガ様は人間の振りしてたんで対話が出来ると思っていたけど、この作品の相手は見た目が化物なので……(cv子安の影響が無いとは言っていない)


Q,マーレの魔法はオリジナル?
A,<集団標的>(マス・ターゲティング)は流石に範囲系特化の魔法詠唱者なら覚えているのではないかと思い採用しました。もし原作で矛盾が出たら消します。
<石拳の束縛>(ストーン・ホールド)に関してはD&Dのドルイドが習得する魔法を自分なりにアレンジしています。

マーレに限らない事ですが、守護者の情報が少ない状況で魔法を使う時はD&Dを参考に書こうと思っています(もちろん、オバロ寄りにアレンジはしますが)
オバロも参考にしているみたいですしね。
原作設定に忠実で無い所が出てしまい申し訳ないです。







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