デミウルゴスですが至高の御方のフットワークが軽すぎます 作:たれっと
<< 前の話 次の話 >>
後、独自設定のタグ追加しました。
でも、出来るだけ書籍の設定に準拠して書いていきたいと思います。
せめて、シャルティアくらいデミえもんの使うスキルの詳細が分かればなあ。
あのモモンガ様の世界征服発言から後、ベッドに横になりながら、俺はこれからのことを考えていた。
早く征服活動を始めるために、守護者と情報を共有すべきか……しかし、伝えてしまったら最後、後戻りすることはできない。
また、世界征服を達成出来るビジョンが浮かばないが、支配者の言動を無視したままなのもまずい。
「やはり、世界征服なんて夢のまた夢。なんとか諦めてもらうしかありませんか」
角が立たないようにモモンガ様に説明して、世界征服を諦めてもらう。それが一番だ。
正直上手く説得出来るとは思えなかったが、今までの言動から至高の御方は恐ろしいが理不尽ではないはず。
世界征服での統治の手間や、向こうの戦力の不透明さと、それにより起こるこちらの被害を伝えれば、少なくともこの世界の情報を手に入れるまでと、保留にはしてくれるはずだ。
そして、保留している内に未来の俺がきっとなんとかしてくれるだろう。
それに、世界征服をするにあたって俺の立場は責任者としてナザリックの軍を回すことになる。
できる自信が無い征服行為をして失敗し責任を取るようになるより、多少印象を悪くしてもベターな選択肢を選ぶべきだ。
そうと決まれば、モモンガ様のところに行かなくては――
………
……
…
「失礼します」
入り口の護衛から許可を取ると、ナザリック地下九階層、モモンガ様の自室へと入る。
この場所に限った事ではないが、モモンガ様の居住は地下であるにも関わらず、中はかなりの高さを持ちゴシック建築でデザインされたかのような室内が広がっていた。
玉座に居ない間はこの場所で至高の御方が過ごし、仕事をする事になっている。故に少しでも埃が落ちているようなことが無いようにしているのは分かるが、床から家具まで光が反射する程の輝きを放っているのがこの場所を掃除したメイドの努力が垣間見える。
そういえば、このナザリック、基本異形の者が住む場所なんだけれど、時折人間のメイドの姿をしたドッペルゲンガーとか妙に趣味が強い部分が目に入る時が有るんだよな……このメイド達を造った至高の御方と話してみたいぜ。俺と絶対気が合うと思う。
正面を見ると、テーブルには居るはずの人物が居らず、大きな鏡とモモンガ様が座る玉座と言っても差し支えないほどに装飾された普段使いの椅子の傍らに、黒い燕尾服を着た白い髭と髪の男が居た。
彼はセバス・チャンといい、如何にもな名前だが、名は身体を表すという言葉そのままに執事としてナザリックの至高の四十一人に仕えている男だ。
その立場から、今はモモンガ様の側仕えとして活動することが多い。しかし、戦闘力は階層守護者にも匹敵する人物なのでその戦力を当てにした仕事をすることもある。
それにしても、もし至高の御方が居ないならば護衛から話が有るはず。どこへ消えたんだ?
「……セバス、モモンガ様は何処へ行かれたのだ?」
「つい今、
外だと!?何故モモンガ様が行く必要がある!?
偵察ならばモモンガ様より向いているシモベが居るし……セバスも適任なはずだ。何か緊急事態が有ったのか?いや、そんなことより――
「待て、モモンガ様は今お一人か?」
「ええ、しかし……アルベドに今から護衛を任せるようになっています」
そうセバスは言うと、隣室の扉へ向かいノックする。恐らくアルベドが控えているのだろう。
馬鹿な……もう至高の御方は出てしまっているのだろう?今から呼ぶなど遅すぎる……そもそも、何故セバスは止めなかった!?
そういえば、セバスは最初に偵察の為に外に向かっていたのだったな……そこで特に危険は感じなかったから、モモンガ様なら大丈夫だと思ったのか?
しかし、護衛を連れずに外出する必要は無いはずだ。
それにモモンガ様は魔法使いのはず……今の前衛の居ない状況は、同じレベルの相手だと苦戦するのは確実だろう。ましてや敵が複数居たとしたら……!
ほどなく戦斧を持ったアルベドが部屋から出てくる。
普段の白いドレス姿が全く面影が無い、黒い鎧に身を包み恐怖こそ感じないが、気迫に満ちているのか背後が陽炎のように揺らめいていた。
「アルベド……急いで偉大なる御方の玉体をお守りしてくれ」
「言われなくても分かっているわ。……ああ、モモンガ様から頼りにされるなんて……うふふ、うふふふふふふ」
音程が狂った声が部屋に響く。兜によって表情は見ることは叶わないが、きっと恍惚に歪んでいる事だろう。
そんな様子のまま、アルベドは凄い速さで部屋を後にする。デミウルゴスの身体の俺でも目に追えないほどのスピードだ。
これならば直ぐに至高の御方にたどり着くだろう……それにしても、アルベドはモモンガ様とは別ベクトルに怖いな……。絶対怒らせないようにしよう。
ふと鏡を見ると、ここではないどこかの景色が映っていた。
遠巻きにモモンガ様のマント姿と、しゃがみ込む小さな女の子達が見える。これは……?外の景色か?鏡から外界を覗くことができるのか。
――理由はわからないが、この鏡の景色を見てモモンガ様は外に出てしまったのか?
「セバス。何故モモンガ様を止めなかったのだ?」
「あの娘たちを助けるのが至高の御方のお望みでした。そして、
人間の娘たちを助ける?あのアンデットの支配者であるモモンガ様が?
何かの冗談ではないのか?死体になってから仲間に入れるならわかるが、とてもそんなことするような見た目じゃないよな。
だって善か悪かと聞かれたら、間違いなく後者に振れまくっているこのナザリックの面々すら恐怖を呼び起こす御方なんだぜ?あれが人助けとか絵面が冒涜的でしょ。
……しかし、少しモモンガ様のイメージが変わったな。もっと残酷な方だと思ったのだが……。不良が捨て犬を見捨てられず世話しているのを見つけてしまった気分だ。
まあ、仮に至高の御方が何をしようが関係ない。取り敢えずセバスに一度注意しなければな。
次も同じような事が有っては俺の寿命が縮む。悪魔に寿命有るのか分からないが。
「モモンガ様の申言に従うのもいいがね、あの娘と至高の御身、どちらが大切なのかは君も分かるだろう?……例え不興を買おうとも、王をたしなめるのも臣下の務めではないか?」
先日俺は神経減らしたんだからな!お前ばっかりイエスマンしてずるいぞ!俺も責任がある立場じゃなければ至高の御方の御心のままに…とか言いながら仕事したいんだからな!
って……今気づいたが、この距離思いっきりセバスの間合いじゃん。うお、セバスなら無いと思うけど逆ギレされたら俺死ぬわ。ちょっと離れよう。
「――モモンガ様の行動に、たっち・みー様のお姿が重なったのです。我が創造主ならば、あの者たちを助けて必ず戻ってきます。ならば、モモンガ様も同じことかと」
クッ……堂々とそんな事言われてもモモンガ様はモモンガ様でしかないだろうに……それにたっち様はガチガチの戦士じゃねえか、同僚以外に全然モモンガ様と共通点無いだろ。
しかし、セバスが言うと超精神論なのに渋くてカッコいいのが腹立つぜ……。
「それは君の感傷でしかないな――もういい、アルベド以外にも後詰が必要だ。君には留守を任せる」
踵を返して俺はモモンガ様の自室を後にする。
急いでシモベ達を編成しなくては――取り敢えず足の速い奴を先遣隊にして向かってもらい、徐々に増やして脇を固めるようにしてもらおう。指揮は俺が出来る気がしないからアウラで良いか……。
後、階層守護者も連れて行かないとな……どうせマーレ、シャルティアが居ればナザリックが襲われた際に
マーレに
ナザリックから出るまでの道を走っていると、非常に焦れったく感じてしまう。思ったより時間が掛かりそうだな……モモンガ様が無事だと良いが。
しかし、怒ってはいないようだったけれど、セバスには言いすぎてしまったかもしれないな。見た目が人間なせいだろうか?つい言わなくても良いことまで言ってしまった。相手が他の人ならここまでキツい物言いはしなかっただろうし、もともとこのような事態になったのは、勝手に飛び出していったモモンガ様のせいだからセバスはあまり悪くないじゃないか。
うーん…まいったな。コキュートス辺りなら後でバーにでも誘って謝るんだが、セバスとはあまり交流が無かったせいでフォローの仕方がわからん。次会った時に気まずいの嫌だな……。
それにしても、先日は未遂だったが今回も至高の御方は外に一人で行ってしまうとは……王様なのにフットワークが軽すぎなんだけど。
あの人組織のトップの自覚あるんかね……率先してカチコミに行くヤクザの親分とか怖すぎるでしょ。
ナザリックのみんなやる気凄いんだから、任せてあげても良いと思うんだけどね……。
あ、勿論俺は例外な。外に出て襲われたら死にそうだし。アルベドかシャルティア辺りがオススメですよ、モモンガ様。
「デミウルゴス、アウラは先に行ったでありんすよ」
「ああ、先に行ってもらうように頼んだからね……どうやら皆揃っているようだね」
ナザリック地表部、中央霊廟前に着くと、全身赤い鎧に身を包んだシャルティアから早速声をかけられる。
コキュートス、マーレもこちらに気付いたのか、三組の双眸がお前遅いんだよ、と言っているようでちょっと萎縮しそうになる。
転移出来るマーレはともかく、もう三人揃ってるのかよ。いや、俺が遅すぎるのか……なんか他の階層守護者と身体能力違いすぎて虚しくなってくるな。
「モモンガ様が向かわれたことは知っているね?アルベドも側に居るし、決して至高の御方の偉大なる力を疑っているわけでは無いが、この世に絶対という言葉は無い。よって私たちも後詰として侍衛に向かうことにする。大丈夫かい?」
何か気になることが有ったら言ってね?正直これでいいのか自信無いし、言ってもらえれば今からでも融通するから。失敗して俺だけ責任負うのも嫌だし。
今君たちが各人意見を言ってくれたら責任が四分の一になるのだよ。
「え、えっと、がんばります!」
「コノ剣ヲ守護ニ使ウノニ、躊躇イナドアルハズガナイ」
「王を護る事こそ、シャルティア・ブラッドフォールンの華麗なる役目でありんす」
違う!俺は段取りはこれで良いのか聞いてるんだ!決意表明なんて聞いてない!
一応、場合によっては命を賭けて戦闘する事になるんだけど、なんて綺麗な目をしているんだこいつらは……俺には眩しすぎるぞ。
げんなりしてくるが、先に話を振ってしまったのは俺だからな。そんな守護者達の姿に満足するように、微笑んで頷いておいた。
「……それでは、急いで向かうとしよう」
俺の言葉を皮切りに、皆が動き出す。あまりにも速い動きに身体が伸びているような錯覚が起きた。
速い!速すぎるって!とてもじゃないけどついていけないんだけど!マーレ俺と同じ後衛だよね?なんでシャルティアコキュートスについていけるのさ!
急いでるのはわかるけどさ!ちょっともやしボディの俺のことも考えてよ!
「悪魔の諸相:八肢の迅速」
このままだと置いて行かれそうだったので、たまらず俺はスキルを使う事にした。
足が膨れ上がり、爪が鋭く異形のカタチに変わると、今まで離されつつあった距離が縮まっていき、三人を抜き去っていく。
ふはは!これが本気の俺だ!他の守護者など何するものぞ!
「デミウルゴス!前ニ人間ガ居ルゾ!」
脚で木を蹴り飛ばし加速しながら動くと、森林を抜けて開けた平原へと出てしまう。同時に、コキュートスの警告が俺の耳に入った。
前の小高い丘には、布で作られた虚無僧の笠のようなもので顔を完全に隠した人間達が、遠くを眺めて見ているようだった――俺が飛び出してしまうまでは。
「何者!エルフと……モンスターか!?」
その奇妙な服装の人たちの中、唯一傷の付いた顔を隠してない、金髪の男がいち早くこちらに気付いたのか、周りの味方に声をかけてこちらに対峙する。
うおお……やってしまった。まさかモモンガ様と合流する前に現地人と会ってしまうとは。しかも何か殺気立ってるし。
いや、コキュートスとかどう見ても化物だし注意するのはわかるんだけどさ。
「見たことが無いモンスターだな。警戒しながら狩りをするのだ。目的の前に消耗してしまうのは仕方がないが、大勢に影響はあるまい」
金髪の男が指示をすると、顔を隠した人たちが散開していく。あの男が指揮官か。
それにしても不気味な連中だ。正直出会ってしまったのはミスだったが、モモンガ様とかち合う前に対面出来たのは幸運だったか。
こういう変な連中は大体強いんだよ。ナザリックがそうだからな。
「狩り?何かの間違いじゃないでありんすかえ?どっちかと言えば、ぬしがウサギではござりんしょう?」
コラ、シャルティア、喧嘩売らないの!まだ対話出来る段階でしょ!
っとと、俺も今の状態で喋るとまずいんだったな。どうせ低レベル相手にしか効かないスキルだし、使って警戒される位なら<支配の呪言>切った方が良いか。
しかし、さっきあの指揮官、目的と言ったよな?あんな変な恰好で一体何しようとしていたんだ?
……モモンガ様を追って向かう途中にこの変な男が出てきたんだ。まさか、偶然では無かった?
――まさか、至高の御方を殺すために来たのでは?
「失礼、先程目的と言いましたね、できれば――」
話終わるより先に、男の一人からヒュウという風切音と共に、鉄の球が俺の方に飛んでくる。
だが、コキュートスが素早く持っていたハルバードを振るうと、破裂音と共に鉄球が消滅した。会話中に攻撃しようとするとは卑怯だぞ!驚いたじゃないか!
マーレはおどおどと、困ったように辺りを見回していたが、あちらが攻撃したことがわかると、顎を引いて見つめ返していた。かわいい。
シャルティアも先程の向こうの発言に怒っているのか、見下したように睨んでいる。一触即発の雰囲気とはこの事だろう。
「その目的を――」
「全員、天使を呼べ。
「「
金髪の男を筆頭に、白銀の翼を持った天使が辺りに展開される。どの天使も武器を持ち、剣先をこちらに向けていた。
それにしても、もう、話が通じない奴らにはうんざりだ――
次回
シャルティア、コキュートス、マーレ、デミウルゴス
VS
金髪の謎の男+変な恰好の人たち
勝つのはどっちだ!?