デミウルゴスですが至高の御方のフットワークが軽すぎます   作:たれっと
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闇の戦士、ダークウォーリアー現る

――ナザリック地下大墳墓入り口。

俺と親衛隊達は冷涼な空気に満ちた霊廟の、ナザリック第一階層へと続く階段の前に立っていた。辺りには石棺が並びいかにも何かが出そうな雰囲気だ。

 

 

アルベドとシャルティアの喧嘩に巻き込まれないように去った後、アルベドから簡単にこれからの計画が伝えられた。

他の守護者にはあの喧嘩の後に伝えたようで、アルベドに二度手間を取らせてしまったか、とあの場ですぐ帰ってしまったことを反省したが、表向き何か用事があるのを装って去ったので黙っているしかなかった。

 

しかし、説明の後にデミウルゴスは何か有るかしら?と言われた際は焦ったが。……結局、アルベドも私と同じ考えでしたね、これ以上は無いでしょう。で流してしまったが不審に思われなかっただろうか。

結局、普通に生活する分には疲労しないデミウルゴスの身体を最大限利用し三日間寝ずに考えたが、アルベド以上の意見は俺からは出なかったんだよな。

 

「それにしても、デミウルゴス様。私達はなぜナザリックの入り口に?」

 

親衛隊の一人、いかにも女王様と言った出で立ちに、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んだ理想的なナイスバディの嫉妬の魔将(イビルロード・ラスト)が尋ねる。

相変わらず目のやりどころに困る格好だ。これで首から上だけカラスじゃなかったらもっと受け入れられたんだが、この世界は残酷だった。

 

「今までナザリックの第一階層は弱いシモベしか居なかったからね、この世界の侵入者が来た際には不足だろうと君たちに白羽の矢が立ったんだよ。弱すぎると威力偵察にもならないからね」

 

まあ、実際どのような意図なのかはこの指示を出したアルベドしか知らないのだが。それっぽいことを言っておく。

 

「私達もナザリックへの奉仕を行うことが出来るとは……デミウルゴス様に感謝致します」

 

前に開かれた鎧を着ているせいで、胸から腹筋にかけて身体を露出させた強欲の魔将(イビルロード・グリード)がこちらに礼をする。

服装は親衛隊の中でもトップクラスに変態だが、グリード君は親衛隊の中で一番人間に近く、角が生えたりはしているが顔がかなりイケメンなので残念臭がしないズルい奴だ。

地球だとそんな恰好雑誌に載ってるモデルの男性か、春先から出てくる変態しか居ないぞ。もちろんグリード君は前者の見た目だった。

後、この配置を考えたのは俺じゃないので感謝されても困る。表向き俺も考えついてたことになってるからそう言えないけど。

 

「まあ、ひとまず君たちはここに待機していてくれ。侵入者が来たらすぐに連絡、そして可能ならば無傷で捕らえてほしい」

 

入り口から少し離れ、横に並ぶように親衛隊たちを待機させる。

 

「ハッ」

 

「君たちはナザリックの直接的な有事の際に一番始めに動くシモベだ。君たちの行動いかんでナザリックの未来が決まる、そのことを忘れないようにね」

 

そう俺が言うと、三人が息を合わせてこちらに頭を下げた。

三人共真剣な目でこちらの話を聞いてくれる。きっと、命をかけて命令を実行してくれるのだろう。それがナザリックに住む者の存在意義なのだろうから。

 

『デミウルゴス』の知識が、ナザリックに住む者の在るべき姿を告げていた。もっとも、俺にはそれに従うべきとは思わなかったが。

 

(でも、侵入者が来てもできれば三人には無事でいてほしいんだよな)

 

同じ七階層で生活している都合上、この三将は一番交流する機会の多い相手だ。デミウルゴスになってから数年、地球へのホームシックを癒やしてくれた相手でもある。

正直、『シモベ』と言ってしまうのも心苦しい。俺にとって目の前の三人は、見た目は化物でも親友みたいなものなんだよ。

 

「……そうだ、何でも良い。なにか希望は無いかい?私から――機会さえ有ればだが、掛け合ってみよう」

 

「ナザリックに奉仕することこそ何よりの喜びです」

 

……お前ら本当に仕事人間だな!人間じゃないけど!ちょっとくらい頑張ってる部下に褒美をあげたい上司の気持ちを察してくれよ!

まあ、褒美をねだること自体が不敬と扱われそうなこの場所じゃ、中々難しいかもしれないけどね。

 

「それでは、何か君たちから防衛に関して意見は無いかな?案外、私の見落としもあるかもしれないからね」

 

もし何か有った場合、上奏した際に売り込んどこう。仕事人間の君たちはきっと上司に評価されるのが幸せだろうからな。

 

「デミウルゴス様が見落とすなど、まず有り得ぬと思いますが……」

 

『デミウルゴス』ならな!悪いけど今の俺に過剰な期待をされても困るんだよ!

 

「それでしたら……デミウルゴス様の住居にある、悪魔の像を配置してみるのは如何でしょう」

 

悪魔の像?俺の部屋には美少女フィギュア代わりの彫刻と二次絵位しか飾ってないんだけど……。

芸術はここに来てからの俺の趣味だが、いかんせん趣味に走りすぎて表現がアニメキャラ関係しか無いのだ。

 

「それは良いですね。きっと侵入者はその悪魔の姿と大きな瞳に畏怖し、本来の力を発揮できなくなる事でしょう」

 

ラストさんの言葉にグリード君も賛同する。ラースも頷いて賛成のようだった。俺にはその悪魔が分からなかったが。

……俺の部屋には天使しか居ない筈だぞ、かわいい的な意味で。

 

「悪魔の像ですか……私の部屋には様々な像が有りますが、どれが一番良いでしょうか」

 

「以前部屋に訪れた際に話して下さった、別世界を破滅に導いた触手の悪魔など如何でしょう」

 

「……その時私は何と言っていました?」

 

「この像を彫刻する時は詠唱しなくてはいけないと。ふんぐるい――」

 

あの時俺が言っていた言葉をラストさんが呟きそうになったので、手をかざして止める。

 

「いえ、もう結構です……あれは気軽に表に出してはいけないものなので、残念ですが置くことはできませんね」

 

結構前に俺が彫った、地球の創作物で出てきた邪神の像だ――大型のタコのような造形だが、ギミックが仕込んであり触手を動かすと中にかわいい女の子が見えるようになっている。

デミウルゴスの力を最大限に使った、ここ数年でも渾身の作だった。俺の中では擬人化みたいなものだったので余り怖いイメージは無かったが、たしかに当時は恐ろしい悪魔の像だとラストさんに説明してはいたな。

 

「そうですか……こちらこそできない提案をしてしまい、失礼いたしました」

 

「いえ、どんな意見でも大切なものです。知恵はいくつ有ってもプラスにはなれどマイナスにはなりませんからね」

 

しかし、親衛隊の話を参考にして俺も防衛計画に関して思いつこうと思ったけど、このままだとアルベドの立案したものをそのまま通すことになりそうだな……。

まあ、変に穴がある発言をしてはアルベドに不審がられるかもしれないから、無理にひねり出すことはないか。

 

 

 

――ん?

急に背筋に悪寒が走る。思わず反射的に影に隠れるように移動してしまう。

よく見ると親衛隊も先程の様子から一転、緊張しているかのように姿勢を正しナザリックへ降りる階段の方を凝視していた。

視線の先には、見慣れぬ黒い鎧を着た偉丈夫が立っている。しかし、見慣れぬだけで雰囲気は知っていた。

 

――なんで。

見間違えではないか、と目を見開いて確認してしまう。本来ここに居るはずのない御方だ。

想像以上に驚いてしまっていたのか心臓が一気に跳ねると、デミウルゴスの力が作用し精神が沈静化していく。

しかも、何事もないかのようにそのまま直進――外の方向に向かおうとするではないか。

 

俺の勘違いではないかと親衛隊の方を見るが、その漆黒の鎧を着た戦士風の人物が近くに来ると、臣下の礼を行っている。

ここまでする必要のある相手はやはり一人しか居ない。

 

「これはモモンガ様、此方にいらっしゃるとは、何かあったのでしょうか?」

 

流石にそのまま外に出してしまうのはマズいと、遮るように前に出てから胸に手を当てて礼をする。

鎧に関しては触れた方が良いのか?至高の御方の行動が全くわからない。せめて正体を隠すつもりならその支配者の雰囲気をなんとかしてくれよ。

――ナザリックで産まれた者は同じナザリック出身の者と繋がりが生じ、例え姿形が変わろうとも何者なのかわかるのだ。

故に例えナザリックに大量に居るスケルトンを真似た者が現れようとも敵だとわかり駆除出来る。これはナザリックの防衛機構の一つにもなっている。

 

「ああ……色々な事情があってな。その事情に関しては、デミウルゴスであれば分かるだろう?」

 

至高の御方はデミウルゴスを何だと思っているんですかね……。

数日前に緊急事態という話を受けたばかりなのに、舌の根も乾かぬうちに変装して護衛も連れず危険な筈の外に出ようとする王の気持ちを理解するなんて、いくら『デミウルゴス』でも荷が重いと思うんだけど。

 

「なるほど……そういうことですか」

 

しかし悲しいかな。至高の御方に分かるはずだと言われてしまっては、分からないと返す事が小市民の俺には出来ないのです。

 

「モモンガ様の深――」

 

「ダークウォーリアーと呼べ」

 

なんで!?確かに見た目は戦士っぽいし黒いけど!鎧に関して聞いていれば良かったか……しかし、もう全て理解している演技をしてしまったから今更聞く事は出来ない。

 

「……ダ、ダークウォーリアー様の深淵なる考え、流石はこの地の支配者と言わざるを得ません。そのような思考を一端でも触れる事に喜びを感じます」

 

「う、うむ」

 

……それにしても、外へ向かって歩いていたということは、外出する用事が有ったって事で良いんだよな?

恐らく間違っていないと思うが、モモンガ様の思考は欠片も読めないので自信が無くなってくる。下手したらいきなり九十度曲がって壁を掘る必要が有る用事かも知れないし。

 

「しかし、供を連れず外へ行かれるのは見過ごす事は出来ません。モ……ダークウォーリアー様の手筈を乱してしまうのは心苦しいですが、どうか供を連れて行かれる懇情を」

 

正直これは賭けだった。まず外に出る用事じゃなかったらさっきの知ったかぶりがバレてしまうし、恐らく今居ないことを察するに護衛が居ること自体がモモンガ様の邪魔になってしまうのだろう。

なので、護衛を付けるようにと発言した事で不興を買い処刑されてしまうかもしれない。

 

しかし、ここで危険なのが分かっているのに、外に出してしまうのも問題ではあった。

ナザリックという組織は至高の御方ありきで回っている。もし万が一モモンガ様に何かがあったら――ナザリックが崩壊するのももちろんだが、階層守護者を見てみると責任を感じて集団自決に走らないかと不安になる。そんな狂気の現場に巻き込まれるのはまっぴらだぞ。

蘇生の魔法が有るのは知っているが、ナザリックが転移した後に使ったことは無いみたいだからな。もし蘇生出来なかったらナザリックは終わりだ。

それに、アルベドや他の階層守護者もモモンガ様を危険に晒したとして良い思いはしないだろう。同僚とは気まずい関係になりたくない。

 

「……仕方ない、ならば一人だけ、供を許そう」

 

ホッ。そもそも何で一人で行こうとするのかわからないが、何事もなく許可してくれて助かった。

しかし、誰が護衛をするべきか……決まってるよな。この中で一番レベルが高いのは俺だし。三人なら許すと言われたら親衛隊に押し付けてたんだが。

彼らなら俺より遥かにやる気を出して護衛してくれると思うし。

 

「……ダークウォーリアー様の寛大なる判断感謝致します。では私がダークウォーリアー様の供回りを致しましょう。」

 

「……ダークウォーリアーと呼び捨てで構わないのだが?」

 

呼び捨て出来るワケないだろが!

いや、至高の御方の命令なのは分かるが、もしモモンガと言っているところをアルベド辺りに見られたら殺されるの!問答無用で!

後でモモンガ様に取り成してもらい蘇生は試してもらえるかも知れないが、わざわざ崖から飛び降りる趣味は無いわ!

それに、試されてる可能性もあるからな。じゃあ、と呼び捨てした途端魔法撃ち込まれるのも嫌だぞ。

 

「いえ、至高の御方を呼び捨てするなど、とてもとても……外で任務に必要ならばともかく、このナザリックでダークウォーリアー様の御名前をそのまま言うなど畏れ多いことです!」

 

どうか無理強いしてくれませんように、と懇願するように俺は言うと、分かってくれたのか数度ダークウォーリアー様が頷いてくれる。

怒ってはいないようだが……やはり良くは思っていないか。まあ、仕方がない。

 

「それではお前たちはここで待機してほしい、私か……ダークウォーリアー様に連絡が有った際の対応は任せる」

 

「畏まりました。デミウルゴス様」

 

できればダークウォーリアー様相手への対応も任せたいところだけどね。

 

親衛隊との打ち合わせが終わったと判断したのか、至高の御方が横を抜けて外へ出ようとする。

ちょっと待って!出入り口の安全確認してないから!

 

 

 

………

……

 

 

 

モモンガ様と一緒に外に出ると、既に夜になっていた。どうも地下に住んでいると今が何時だか感覚が狂ってしまうな。ただでさえ睡眠や食事を摂る事が少ない身体という事もあるし。

地上は大墳墓の地表ということもあり、朽ちた墓石などが転がっていて今にも幽霊が出そうな雰囲気だが、管理はされているようで雑草が無造作に生えているような事は無い。

きっとナザリックではボロボロの墓石や風化したオブジェも含めて、このナザリック地表の正しい姿なのだろう。

 

(おお……こんな星空なんて久し振りだなあ)

 

顔を上げると、星々の大海が目の前に入っていく。視線の遥か先にはこんなにも星があったのか、と感動する程に一面に煌めきが敷き詰められていた。

もちろん、俺の元居た世界でも空は有ったし、夜は星を見ることも出来た。だが、俺の住んでいた所では車の排気ガスなどが邪魔をしてここまで綺麗に映る事など無かったのだ。

今の目の前に広がる光景は、それこそ地球では遠出をしてキャンプ地や田舎にまで足を運ばなくては見えないような景色だった。

 

ユグドラシルでも外に出てみた事は有るが、ナザリックの外は危険な沼地であり、天気は常に悪くとてもじゃないがこのような空を見ることは出来ない。本当に……懐かしい夜空だった。

 

暫く感慨深く空を眺めていたが、ふと横を見ると、至高の御方も星々をじっと見つめていた。口元が僅かに動いた気はしたが、残念ながら何か言っていたかはわからなかった。

 

――モモンガ様も俺と同じ光景を見て感動したのだろうか。それならば、感性は人間である俺と変わらない事になる。

今まで恐ろしさしか感じない方ではあったが、もしそうならば仲良くなれるかも知れないな。

 

 

そう思っていたら、おもむろにダークウォーリアー様が中空に手を差し出すと、指の先から見えなくなっていく。

一体何をやってるんだ?と今日何度抱いたか分からない気持ちをよそに、至高の御方は何もない所から鳥の翼のようなネックレスを取り出して、自分自身の首に掛けはじめた。

 

<飛行>(フライ)

 

なんということでしょう。空を飛ぶことが出来る魔法を唱えたかと思えば、至高の御方はどんどん小さくなってしまうではありませんか。

まさか、星に感動して欲しくなったから飛んで取ってこようとか思ったわけじゃないよな。今時絵本でしか見ないシチュエーションだぞ。

いや、驚いている場合じゃない。いくらなんでも至高の御方が単独で空を飛んでいるなんて、敵が居たら的になるだけだ。しかし、この姿だと空を飛ぶことができないんだよな。

 

――悩む暇は無いか。俺は『デミウルゴス』の本来の姿に少し近付くために、頭の中のスイッチを切り替えるように意識を集中する。

スーツの背中から、緑色のコウモリのような羽が生える。新しい感覚器官が生え、気色悪さと同時に高揚感を覚えた。

視界が一気に広がり、本来人間ならば見えないはずの真横まで見渡すことができるようになる。視力もこの暗さにも関わらず、遥か先の木の枝まで視認できるようになった。

 

嵌めていた黒い手袋は破れ、緑色の皮膚が目に入る。きっと、俺は今散々ナザリックの者たちを指して言っていた「化物」そのものの見た目になったのだろう。

ああ、元の姿に戻りたい。この姿は、美的感覚が人間の俺とズレてしまっている。もう人間で在ることに拘ってはいないが、どうにもカエルそのものな見た目が気に入らない。

と、言っても完全に悪魔の姿になるのは問題がある。悪魔だが人間である俺だけが感じるジレンマだった。もし『デミウルゴス』なら何も躊躇もなくこの姿になったのだろうが……。

 

 

翼を広げると、身体が一気に軽くなり一瞬の浮遊感の後、風を切りながら至高の御方へと向かっていく。流石は半分とは言え悪魔の身体だ、先に行ってしまったモモンガ様の身体がどんどん大きくなった。

流石に、そのまま宇宙に出ようとは思っていなかったのか、途中で止まると上司は再び辺りを見回しはじめる。あまり遠くまで行く用事でなくて良かった。宇宙まで飛ばれたら流石に悪魔の俺でも生きてついていけるか分からなかったからな。

 

「星と月の明かりだけでものが見えるなんて……本当に現実の世界とは思えませんよ、ブルー・プラネットさん。……キラキラと輝いて宝石箱みたいです」

 

俺は星より動く骸骨の姿の時点で現実の世界とは思えないんですけどね、モモンガさん。

――しかし、ブルー・プラネット様か。確か第六階層を作ったとされる至高の御方だった筈だよな。「プラネット」という言葉は、地球では惑星を意味する言葉だった筈だ。

ユグドラシルでは違う意味なのかも知れないが、そのような単語が名前になっているということは、もしかしたらブルー・プラネット様は宇宙に関して知識が有るのかも知れない。

地球では宇宙の神秘は未だわからない事も多く、人類が宇宙に出たのもごく最近だ。如何にもなファンタジー世界のユグドラシルで、ブルー・プラネット様はどこでそんな知識を得たのだろうな。

 

……それにしても、モモンガ様は同格には敬語を使うんだな。

あのアクの強そうどころじゃない見た目の至高の四十一人のまとめ役と聞いていたから、普段の俺らに接するような感じでいるのだろうと思っていたのだけど。

 

 

「その通りだと思います。きっと、あの星々もダークウォーリアー様を飾り立てる為に生まれ、宝石のようにここまで光を届けてきたのでしょう」

 

俺はモモンガ様の言葉に同意する。上司の言葉に対する賛同は好感度を上げる手っ取り早い手段の一つだ。

だが、至高の御方は目の前の光景に夢中で俺の言葉はそのまま夜空に吸い込まれるだけだった。クッ……もうちょっと詳しければ星のウンチク辺り披露してモモンガ様の興味を引けたんだがな。

ていうか、兜外して放り投げてますけど全身鎧を着なくちゃいけない用事はどうしたんですかね。

 

「この星たちが私の身を飾るために生まれたのか――確かにそうかもしれないな。私がこの地に来たのは、輝く宝石を手にするためやもしれないか」

 

モモンガ様、ユグドラシルでは魔法で隕石を落としていたりするので、貴方は実感が無いと思いますが、今見ている星は光の速さで数万年も向こうなのですよ。

至高の御方は宇宙空間でも生存できるかも知れませんが、あまりにも目的地まで遠くて考えるのをやめる事になりかねませんよ。

 

「……いや、あの輝きは私一人で独占すべきものではないな――我が友たちアインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかも知れないな」

 

いや、ナザリックの人たちを巻き込まないで!ほとんどの人は宇宙出たら死んじゃうから!

確かに光る星たちは綺麗だけど、持ってきて飾るのは大変だからね!星取ってこいとか命令するのはやめてね!守護者達全力で宇宙に旅立っちゃうから!

 

「それは素晴らしいですね!もしご命令を頂けたなら、(宇宙空間でも生きていけそうな、意志が無いスケルトン辺りを取り敢えず飛ばして数百万年後に)手に入れて参りましょう。そしてナザリックに並べた際には、きっと世界はナザリックにひれ伏し、ダークウォーリアー様を王と称えることだと思います」

 

本当に星を手に入れる程の技術力をナザリックが持つなら、間違いなく世界はひれ伏すだろうね。

 

「ふふ……まだこの世界の情報も無いというのに、その発言は愚かとしか言いようがないがな。もしかすると私達はこの世界ではちっぽけな存在かもしれないぞ?ただ……そうだな。世界征服なんていいかもしれないな」

 

ん?何で世界征服なんて話になったんだ?――も、もしかして勘違いしてた?

宝石箱って比喩だったのか!?てっきり純粋に星に感動して子供みたいな夢を話しているのかと思ってた――。

ま、マズいぞ。世界征服なんてとてもじゃないがお断りだ。素人の俺でも世界を征服するにあたって、色々な壁が有ることは分かっている。

俺の住んでいた地球でも長い人類史で世界征服が達成されたことが無いのだ。力は有るのかも知れないが、恐らく世界で見たらナザリックは小さい組織だろう。

そして、人肉を好む種族も生活しているナザリックが人間と共存出来るとは思えない。人間の文明と外交で統一するのはまず難しく、ほぼ軍事に頼ることになるだろう。

いくらなんでも、無傷で世界征服なんて甘い展開になるはずがない。きっと犠牲者が出てしまうはずだ。

 

し、しかし――至高の御方が「世界征服をしたい」と発言してしまった。夕食はカレーが良いというような軽いノリで!

モモンガ様はナザリックの支配者であり、王だ――そんな王が発言する戦略目標を翻すことは、一介の階層守護者にはできない。

よりにもよって、星を見て世界征服なんて思いつくなんて……やはり人間と怪物の考えの壁は俺の想像していたより遥かに高かったようだ。

 

 

 

ナザリックへ戻ったら、守護者に今回の件を伝えてこれからの対策を練らなくては。アルベドが楽で犠牲が出ない良い案を出してくれれば良いが……。

余りの衝撃に、結局マーレにモモンガ様が接触するまで、俺は呆然としたままで居るしかなかった。

 




感想が嬉しくてノリノリで書いて調子に乗って投稿したら誤字多すぎでしたね。申し訳ないです。
しかし、誤字報告のシステム便利ですね……。







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