【シリコンバレー=中西豊紀】米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が8月に株式非公開化の計画をツイッターでつぶやきその後撤回した問題について、米証券取引委員会(SEC)は27日、同氏を証券詐欺罪で提訴した。実際には無かった計画を公表し投資家を混乱させた疑い。米国を代表するスター起業家はキャリアの大きな転機を迎えた。
ニューヨーク南部地区連邦地裁にSECが出した訴状で明らかになった。被告人はマスク氏個人で、同氏による8月7日のツイートを問題視。ツイートでは1株あたり420ドルでの非公開化計画を示し「資金は確保した」としていたが、SECは価格や原資について「議論も確定もしていなかった」と結論づけた。
2200万人がフォローする同氏のツイートは株式市場で材料になり、7日のテスラ株は場中のツイート直前から6%以上上昇した。SECはマスク氏の誤解を与えるツイートが原因で、金銭的な被害が生じた投資家もいると見ており、米証券取引法に反すると判断した。
訴状ではマスク氏に民事上の罰金のほか公開企業の経営に関わることを禁じるよう求めている。テスラは上場しており、裁判の行方しだいではマスク氏の進退につながる可能性がある。テスラ広報は27日現時点で日本経済新聞社の問い合わせに回答していない。
SEC執行部局のスティーブン・パイキン共同ディレクターは声明で「企業のトップは市場の信認の担い手であり投資家に対し重要な責任を負っている」とコメント。その上で「(トップの)セレブリティーとしての地位やテクノロジーイノベーターとしての名声が、その責任を軽んじることの免罪符にはならない」と厳しく断じた。
マスク氏は1999年にペイパルの前身会社を共同で設立し、02年にはロケット開発製造会社のスペースエックスを創業した。04年には前年にできたばかりの電気自動車(EV)ベンチャー、テスラの経営に参画してCEOとなっており、今では米国を代表する起業家として知られている。
EV市場を一気に広げた功績や、政府主導のロケット開発を民間に引き寄せた熱意などが評価され、同氏はシリコンバレーの投資家や他の起業家から熱狂的な支持を集めてきた。自動車業界の中にも「彼がいたことでEV界に優れた人材が流れた」(独メーカー幹部)といった声がある。
一方で直近はマリフアナ(大麻)の吸引場面がネットで流れたり、4月1日のエープリルフールにテスラ破綻の「ウソ」ツイートを流したりするなど不規則な行動も目立った。それでも常に議論を醸す派手な行動は、結果的に同氏にセレブリティー経営者としての風格を与えていた。
8月7日の株式非公開化のツイートもそうした行動の一環として、シリコンバレーでは容認論も強かった。今回のSECの対応は、人気者の有名人であっても罪は許さずとの当局の是々非々の姿勢を示したもの。裁判はこれからだが、成功と名声にあふれたマスク氏の物語に別の章が書き加えられる可能性は高い。
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