2018-09-28

キモイと言われる僕の友人

桜が気が早く散ってしまった頃に、電話が来た。

「暖かくなったし、飲まないか?」

「うーん、今週は予定があるから、来週はどうかな?」

いつも通りそう答えつつ、また何かあったのかなと思う。

仲間と会う時やこちから気分が乗った時でも一緒に飲んだりするが、彼から誘われる時は大抵そうだから

予定を合わせて、それじゃ、と電話を切り、付き合い長くなったなぁと思った。

彼とは高校時代からの友人だ。

入学式の時、母と少し早めのバスに乗ると彼と彼の母がいた。

同じ制服だったので、話もしやすかったのだろう。母は彼の母とすぐ打ち解けていた。

彼と僕とは、必ずしもそうではなかった。

話はしていたが、どうも上滑りしているところがある。そんな感触があった。

背は小さく、小太りで、話す度にキョロキョロする。けれども話す時は圧迫を感じる程こちらを見つめる。

話す度に身体を動かすものから距離感をどうしたものかと考えたことを覚えている。

そんな初対面だったが、クラスが同じだったこともあり、すぐに打ち解けていった。

部活などは一緒ではなかったが、昼食は弁当だったこともあり、よく一緒に食べていた。

彼は食事中よく話し、ほとんど僕が聞き役だった気がする。

正直食事マナーは余りよいものではなかった。

ただ、箸の使い方や食べる音のさせ方は育ちの良さを感じさせた。

そういう所に彼のアンバランスさを感じてはいたが、その時はさほど重要だとは思っていなかった。

彼が気持ち悪いと言われているのを聞いたのは、オリエンテーションが済んだあたりだったと思う。

女子が何の気はなしに男子評価をしている中で聞こえてきた言葉だった。

まだ当時はキモイという言葉一般的ではなかった。

それでも後から考えれば同様の感触彼女たちの言葉から感じ取っていた。

聞いた私は苦笑いしながら、話を流していた。

彼が小中といじめとまではいかなくとも、女子から嫌われていたことを聞いた。

彼はその頃から小太りで、背は女子よりも小さく、運動神経も良くはなかった。

そして出っ歯気味で、唇が厚いために、いつも唇を突き出しているように見えたのもあまり良くなかったようだ。

実際、有り体に言って、容貌としては良くはなかった。

よく心ない言葉を言われ続けたという。

そのせいで、女子に対する態度がおどおどしてしまうとも言っていた。

どうしても目を合わせられないと。

自信を持って話をすることができないと。

それがまた、気持ち悪いと言われてしまうようになっていったとも。

高校卒業し、大学になっても付き合いは変わらなかった。

ちょうど大学へいく為の路線が同じだったこともあるのだろう。

時間が空いた時、良く一緒に遊んだり話したりしたものだった。

彼は文化系サークルでそこそこ楽しくやっていたそうだ。

キモイという言葉はその頃流行り始めていたようだった。

彼は女子の先輩からキモイキモイと言われながらも、かわいがられているようだった。

ただ、彼自身はその言葉に対して思うことはたくさんあったのだろう。

時折、泣きながら愚痴を私に言っていた。

多分、大学の友人達には話せなかったのだろう。そういう対話関係性ができてしまっていたから。

から大学とは無関係の私にだけ、いつも愚痴を言っていた。

卒業して彼はそこそこの商社入社した。

それから2,3年は関係が遠ざかっていた。

お互い新人と言うこともあって、忙しかったのもあるし、会社が別方面だったと言うこともあるだろう。

ただ携帯を買った時、最初登録した友人は彼の名前だったのは覚えている。

付き合いもまた戻り始めて4,5年たち、彼から愚痴を聞いた。

セクハラ講習会で先輩としての講師をした時の愚痴だった。

後で後輩の女子が「あの先輩キモイよね、セクハラとか本当にしそう」と言っていたのを聞いたという。

その頃には彼はそれなりの貫禄も出ており、服装もそれなりのものをしていて、立ち振る舞いも商社マンとしてしっかりしていたものだった。

その分、背は小さくとも、おじさん風味が早めに来ていたのは事実だった。

彼はそれ以来、講師は断っているそうだ。

大なり小なり、彼はそういうことで愚痴を言っていて、僕はいつも聞き役だった。

やりきれなくなれば、一緒に酒を飲みにいく。

もちろん高校時代の友人ともいくが、二人きりで飲むのはもっと多かった。

彼の電話を受けて、私は最近見つけた新しいイタリアンの店に誘った。

店長一人で回している、普段使いするのにちょうど良い店だった。

開店当初から通っていることもあり、店長も店の常連も僕を仲間として扱ってくれていた。

彼と訪れた日、名前は知らない顔見知りの女性常連が酔っていた。

「あー、久し振りですー。あ、男二人ですか? キモーイ」と陽気に笑っていた。

僕は苦笑しながら、適当挨拶を交わし、店長に注文をすると「どうもすいません」と言われた。

僕は笑いながら、「よくあることですから」と答えた。

彼にワインを注ぐと、彼はじっと僕の方を見ながら、ぽつりと「だから俺、セクハラ反対なんだよ」と言った。

僕は何も言わず、ただ黙って、また愚痴を聞き始めた。

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