西田宗千佳のトレンドノート:厳しいが自由な会社、世界最大の映像配信企業・Netflixの働き方
- 2018/09/27
- 西田宗千佳
9月末、筆者は米カリフォルニア州ロスガトスにある、Netflix本社を訪れていた。Netflixは全世界で1億2000万人を超える有料会員を抱える、世界最大の映像配信事業者だ。
日本参入から3年、国内での利用者も増えてきて、先日はKDDIでの携帯電話回線契約とのバンドルプランも発表された。
オリジナルドラマ・アニメなどの制作に対する積極的な投資を行っており、「ネトフリ」の名前を聞くことも、以前に比べれば増えているはずだ。
ロスガトスのNetflix本社。1年を通じて良好な気候に恵まれた土地にある。筆者は何度か同社を訪れ、取材しているが、非常に面白い会社だ。世界最大の映像配信事業者がどんな会社で、どんな働き方をしているか、ちょっとご紹介してみたいと思う。
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社員の半分はエンジニア、実はテクノロジーカンパニー
Netflixの本社は、ロスガトスという街にある。いわゆるシリコンバレーの一角なのだが、非常に静かで落ち着いた場所である。
ある人は「電車の駅のない田園調布」と称した。東京に土地勘のない方はちょっとわかりづらいかも知れないが、要は「高級な住宅街であり、上品な場所」ということだ。
とはいえ、ここもシリコンバレー。テック系企業の多い場所である。ちなみに、アップルやGoogleの本社までは車で30分ほどもかからない。
Netflixといえばオリジナルコンテンツ、映像作品のイメージがあるので、シリコンバレーにあるテック企業……というと、ちょっと意外に思われるかもしれない。
実際、オリジナルコンテンツの調達のために、ロサンゼルスにも拠点があり、ロスガトスと機能をわけあっているような形になっている。
現在の社員は5,000名だそうなのだが、そのうち2,141人がロスガトスで働いている。そして、そのほとんどが「エンジニア」や「研究者」だ。
なんでそんなにエンジニアが必要なのか? それは、最新の技術で快適な配信を支えるためだ。
例えば映像圧縮。スマートフォンで映像を見るなら、データ容量を小さくする必要がある。
2011年には標準画質で十分な画質を実現するのに「1050kbps(1時間で約500MB)」かかっていたものが、2015年には「アニメなら640Kbps(同・約280MB)、アクション映画で910Kbps(同・約400MB)」に減り、2018年には「どんな作品でも270kbps(同・約118MB)」にまで下がっている。なんと4分の1だ。
そのため現在は、4GB分のデータがあればドラマが2シーズン(26話)見れてしまうほどになった。
しかも来年以降、さらなる新技術が導入されると、「ハイビジョン(720P)の映像でありつつ、約200kbps(同・約90MB)」にまで下がるというのだ。画質が上がって容量が下がるのは信じられない。
同様に、レコメンデーションも重要な技術だ。視聴されている内容に合わせてその人にあったコンテンツを表示するだけなく、現在は、いわゆる「サムネイル」に使われる画像を、その人の趣向に合わせて切り換えることまでしている。
通常は映画会社がポスターやDVDのパッケージを流用する形で作るのだが、Netflixでは自社で作り、さらに「レコメンデーション」を使って、その人がもっとも「見たい」と思う可能性が高いものを表示する仕組みになっている。
マーケティング会社が作った映像作品「アート」は2.8%の支持しか得られていないが、実はアートの内容で、クリックして視聴に至る可能性は大きく違う。そのため、レコメンドの情報を活かし、「人によって違うアートを出す」ようになっている。こうした技術開発はNetflix独自のものであり、他社に先駆けている部分でもある。だから、世界的なIT技術の中心地であるシリコンバレーに本拠地を構え、大量のエンジニアと研究者を雇用しているのだ。
仕事をする場所も休暇も自由、でも「自律と責任」が必要
そんなNetflixの社内は、わりと「雑然」としている。といっても汚いわけではない。むしろ逆だ。非常に美しく維持されているのに、人々がいろいろな場所にいて、活発に動きながら働いているのだ。
Netflixでは、社内のどこで仕事をしてもいい。一応自分の「席」はあるが、そこにいる必然性はない。
そこかしこにあるミーティングデスクでも、カフェテリアでも、外のベンチでも(ロスガトスはほとんど雨が降らない)、どこでも仕事ができる。電源は至るところにあるし、Wi-Fiも広い社屋のどこにいても仕事ができる。
多くの企業では、「フリーアドレス」といっても役職者になると個室が与えられるものだが、Netflixの場合、副社長クラスの役職者でも個室はなく、ちょっと広い席がある程度だ。
トップであるCEOのリード・ヘイスティングス氏に至っては、自分の席がない。ほんとうに社内のどこにでもいるし、どこでも仕事をしているのだ。
そうした仕事のスタイルを支えるため、当然ながら、文書の管理は徹底的にオンライン化されているし、ミーティングスペースも多く設けられている。
電話やビデオ会議を落ち着いてやりたい人のために、「防音ブース」も用意されている。会議室も非常に多数あり、それぞれの部屋を予約して使う形式になっている。
Netflix社内の一角。好きな場所に座ってミーティングしつつ仕事ができるが、静かに電話をするための「防音ブース」もある。実はそもそも、社員は会社に出てくる必要はない。出勤のコアタイムもない。休暇を管理されることもない。
社員証のようなものもあるにはあるが、それはあくまで「会社に入るための鍵代わり」に過ぎない。会社に自分が飼っている犬を連れてくることも推奨されている。
備品管理もシンプルだ。社内の各所には自販機のようなものがあり、ケーブルやバッテリー、ACアダプターなどが常備されている。
だが、これらは「売っている」わけではない。値段は書いてあるが、請求されることもない。社員は誰もが開けることができて、好きに備品を持っていけばいい。
社内の「備品ボックス」。一見自販機のようだが、社員は好きに中身を利用できる。管理するのではなく、「責任をもって使う」ルールにした方が働きやすく、コストも下がるからだ。なんて自由な! 楽がし放題じゃないか!
そう思った方、そうでもないのだ。
Netflixは「自律と責任」を重んじている。働き方についてできる限り拘束しない代わりに、しっかりと結果を求められる。成功・失敗はあるが、「やらない」ことは選択肢にないし、評価も厳しい。
「Netflixのエンジニアの年収は、周囲のシリコンバレーの企業よりも上」という説もある。そのくらい恵まれた環境だが、その分の能力と結果は求められる。
自由で拘束されない仕事環境であるのも、あくまで「仕事と生活の上で、最大のパフォーマンスを発揮するためにはこうすべきだ」と、トップであるヘイスティングス氏が強く考えているからなのだ。
すべての会議室は「映画やドラマの名前」になっている
オフィス内はかなりアーティスティックな雰囲気が漂っている。働く人々ができるかぎり創造的に働けるように、という配慮からだろうか。
建物内にはNetflixの作品群をモチーフにした巨大な壁画が描かれているが、描いたのは社内のアーティストであるという。
そして、映画に関連する企業だけに、多数ある会議室・電話会議スペースの名前は、すべて「映画やドラマの名前」になっている。そして、それらはフロアや建物毎に地域がわかれている。
写真は、ある建物にある「AKIRA」という会議室。もちろん、モチーフはごらんのとおり、あの「AKIRA」。ドーンと描かれた金田がかっこいい。
「AKIRA」という名前の会議室。もちろん、あのアニメ作品「AKIRA」がモチーフ。その隣にあるのは、「COWBOY BEBOP」という部屋。日本でもアメリカでも人気のあるアニメ「COWBOY BEBOP」がモチーフで、ドアにはメインキャラクターの4人が並んでいる。
AKIRAの隣は「COWBOY BEBOP」。そこからちょっと角を曲がると、小さめの会議室が並んだ場所が。そこは、「Spirited Away(千と千尋の神隠し)」に「My Neighbor Totoro(となりのトトロ)」、「The Princess MONONOKE(もののけ姫)」、「Kiki's Delivery Service(魔女の宅急便)」。スタジオ・ジブリ作品コーナーである。
ジブリ作品をモチーフにした部屋が4つ並んでいる。ドアにも作品の絵が。じゃあアニメばかりかというとそうではなく、ジブリの向かいにある部屋は「Lost in Translation」。ソフィア・コッポラ監督による、東京を舞台にした映画である。
もちろん、アメリカをテーマにしたフロアもある。「Ferris Bueller's Day Off(フェリスはある朝突然に)」に「Flied of Dreams」、「Taxi Driver」、「The Wizard of OZ」と、誰もが知るアメリカ映画のタイトルが並ぶ。
アメリカ映画の名作タイトルの会議室がズラリ。アメリカをテーマとしたフロアの見取り図。気になる方は、拡大してチェックを。ぜんぶ見たことがある人は相当な映画マニアのはず。(筆者は残念ながら2つ見ていなかった)オーストラリアから南極をテーマにしたフロアには、「Mad Max」と「Alien vs. Predator」という部屋があった。なぜ? と思われそうだが、映画好きなら「当然」と納得するはず。
マッド。マックスシリーズはハリウッド映画と思われがちだが、オーストラリア制作の映画で、メル・ギブソンもオーストラリア育ち。「エイリアン vs. プレデター」は、舞台が南極だ。
ちなみに、Netflix本社でもっとも大きい、300人収容のシアターの名前は「KABUKI」。外には日本の浮世絵などが飾られている。
そしてさらに余談だが、ロサンゼルスの拠点のカメラテストルームの名前は、スタートレックに出てくる「HOLODECK」である。
Netflix本社でもっとも大きいシアターの名前は「KABUKI」。こうした遊びも活かした社屋の中で、人々は自由だが厳しい環境で働いているのである。
社内には至るところにポップコーンマシーンが。作品の試写が始まると、周囲にバターのいい匂いが漂いはじめる。U-NOTEのおすすめ①:第二新卒、フリーターからの就職なら「転職エージェントneo」
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