図表1は、家計調査における実質可処分所得と実質消費支出の関係を図示したものである。
消費税率の引き上げは小売価格(消費者物価)の上昇を通じて実質の可処分所得を引き下げることになる。従って、消費税率引き上げの悪影響を語る場合には、往々にして、「(実質)可処分所得の減少によって消費支出を増加させることができなくなる」という一種の「所得制約」の議論になりがちである。
これは今回も例外ではなく、多くの論者が「(実質)可処分所得の事実上の減少が消費支出を制約する」という議論をしている。
確かに2016年第1四半期までは可処分所得と消費の間にはそれなりに高い相関関係が存在したのは事実である。だが、その後は現在に至るまで状況は異なってきている。つまり、雇用環境の改善によって可処分所得は増加トレンドに転じた一方、消費支出は依然としてほぼ横ばいで推移しているのである。
このことは、特に2016年以降は消費性向(可処分所得に占める消費の割合)が低下していることが問題であり、これは裏を返せば、家計は可処分所得の増分の多くを貯蓄に回す傾向をより強めていることが問題であることを意味する。
ところで、この消費性向の低下(もしくは貯蓄率の上昇)は、消費税率引き上げから約半年が経過した2015年初め頃から本格化したことがわかる(図表2)。
途中(特に2017年後半)、株価の上昇で一時的に消費性向が上昇したこともあったが、その後、2018年に入り、株価の伸びが鈍ると消費性向は加速度的に低下している。
これについては以前の当コラムにおいても言及したことがあるが、デフレの完全克服がなかなか実現せぬまま中途半端な回復がだらだらと続く中、今後も政府の増税路線は続かざるを得ないと予想する家計がそれなりに多ければ、雇用の回復も一時的であるかもしれないという予想が台頭する。その結果、多くの家計の間で、将来に備え、貯蓄を増強する動きが強まっても不思議なことではない。
このような状況下で、消費税率引き上げを数年先送りし、目先の可処分所得の減少を回避できたとしても、将来不安が払拭されなければ、家計の貯蓄増強・消費抑制という行動パターンは変らないだろう。
したがって、今回、単純に消費税率引き上げを先送りしたところで家計消費が回復するとは思えない(一部に消費減税を実施すべきとの声もあるが、目先の消費減税が逆に将来の大幅増税を懸念させてしまえば消費増の効果はないだろう。それどころか逆効果であることも想定される)。
そこで、筆者が考えるに、家計消費の回復を実現させるためには、
1) まず最初に「デフレ脱却の最後の総仕上げを最優先させる」ことを明示すること、
2) デフレ脱却にコミットするために、デフレを完全に克服するまでは増税は行わないことを明言し、その上で必要な財政措置(災害対策としての公共投資や子育て支援などの財政支出拡大、もちろん、減税でもよい)を講じること、
3) 財政支出拡大分は国債増発で行い、これを日銀がファイナンスできるような枠組み(現行であればイールドカーブコントロール政策であろう)を維持すること、
が必要ではなかろうか(この場合、金融緩和は自動的、受動的に拡大することになる)。要は政府が一体となって、デフレの完全克服にコミットすることが最も重要であると考える。