2018年9月24日、「ベイビーレイズJAPAN」が解散した。

「ベイビーレイズJAPAN」は、2012年「ベイビーレイズ」としてデビューした、5人組女性アイドルグループ。当初は「2年以内に武道館公演ができなければ解散」という公約を掲げて活動。
2013年にはNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」内で「アメ横女学園芸能コース」が歌う「暦の上ではディセンバー」へ歌唱参加、グループよりも歌声が先行して世に広く知られるという、珍しいブレイクを果たす。
そして2014年、1万人の署名を集めて日本武道館公演を実現、その舞台上で日本を代表するアイドルを目指す意を新たにすべく「ベイビーレイズJAPAN」へ改名することを発表。
2015年のシングル「栄光サンライズ」はオリコン5位、2016年のシングル「走れ、走れ」はオリコン3位と、コンスタントにスマッシュヒットを連発。ロックバンドやシンガーソングライターに作成依頼した質の高い楽曲を、高度な歌唱力とパフォーマンスで実演するスタイルを確立している。

贔屓目なしに見ても、アイドル戦国時代のなかで着実に地位を築き、足跡を残しているが、
贔屓目なしに見れば、そこから明らかに抜きんでて日本を代表するアイドルになったとまでは言い難い現状である。

公式サイトによる解散の理由は、『何度も話し合いを重ねた結果、
この先、全員で同じ方向を向いて活動することが出来ないという結論に至り、
メンバー・スタッフ全員で「解散」という選択を致しました。』とのこと。

6年あまりの活動の間、5人のメンバーは卒業も新加入も休養もスキャンダルもなく、変わらぬ編成で挑み続けて来たが、それがパフォーマンスの連携の上では強みであると共に、話題性や新し物好きのアイドルファン受けを考えるとある意味弱みでもあったはず。
その「強み」の部分が損なわれるのであれば、確かにアイドルとしての「答え」は一つなのかもしれない。
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子役時代に劇団四季の舞台を踏んだ経験もある逸材で、その歌唱力・表現力はアイドルの域を遥かに超えている。
しかし学業専念で芸能活動を休止していた期間があったせいか、芸歴が長いことで"すれた"印象は全くなく、むしろあまりに純粋無垢。よくある「ビジネス天然」ではなく、周囲も引くほどの「天然物の天然」だ。

これだけの歌唱力があって、これだけの美貌を誇っていて、なおかつ性格も計算が全くなく素直。一見アイドル界に敵なしと思わせる素材だが、現状のメディアが求める「アイドル像」は、もっと扱いやすい欠点があったり、計算ができる天然キャラの方になってしまっているので、苦労することの方が多かったように思える。そういう意味では、今後アイドルという肩書が取れることを味方にできる一人なのかもしれない。

グループでは不動のセンターとして、メンバーもファンも認める存在だが、そこに至るまでにはかなり紆余曲折はあったはず。実際デビュー直後は周囲と調和したアイドルらしい歌い方を試みており、他メンバーの成長を待ってからそのヴォーカリストとしての全能力を解放したように見える。
2015年のとあるワンマンライブのMCで「ベイビーレイズJAPANになってから、たくさんのハードルを越えることを要求されて辛い思いもあったけど、メンバーや家族や関係者、そしてファンの皆さんの助けがあって乗り越えられた」という主旨のことを話していたように、林愛夏にとっての他メンバーは「同じハードルを越える仲間」ではなく「一人でハードルを越えるのを助けてくれる存在」になっていた時期もあったのだろう。センターゆえの孤独を噛みしめる時間も長かったはずだが、戦っている最中は絶対に弱音を吐かない、その姿勢は神々しくさえ感じさせた。

個人的には、これだけ能力がある表現者なのに、アイドルという立場に縛られ過ぎているとさえ感じていたので、これからはもっと自分本位に振舞って欲しい。接触で私がTwitterのアカウント名を変えたのを向こうから言ってきてくれたり、ファンのことを気にし過ぎてくれているのを申し訳なく思っていたので…。

まなっちゃん、ありがとう。これからはもっとワガママに、自分の為に走ってください。

大矢梨華子、MC担当「りこぴん」

メンバー全体を「回して」いて、考えすぎる天然や度を越した真面目や常軌を逸した不思議ちゃんや勢いだけの切り込み隊長が思い思いに振舞うのを、パッケージとして成立させていたのは常に彼女だった。メンバー全員でなく5人のうち一部がメディアに出演する場合、大矢梨香子が含まれているかどうかがその成否を一義的に決めていた、と言っても過言ではないほどに。
「漢字読めない・都道府県知らない」という浅学キャラ(というか事実だが)からは考えられないほど、対応の瞬発力が抜きん出ている。他メンバーの失言になりかねない発言を、誤魔化すのではなく上手く別の文脈にすり替えて成立させてしまう、そんな魔法のような場面を何度も見せて来た。芸歴が長く、そのぶん多くのオーディションに落ち続けた経験もあるので、自分の立ち位置と周囲への見え方を瞬時に見極める術を身に付けているのだろう。

ベイビーレイズJAPAN最大の武器である、楽曲とライブパフォーマンスに於いても、彼女の役割は極めて大きかった。
圧倒的な歌唱力・表現力を持つ林愛夏一人では「アイドルグループ」のそれとしては不十分で、キーが高くアイドルっぽい甘い声質でかつ十分な歌唱力を持つ大矢梨華子がいてこそ、その表現は無限に拡がった。センターが優れているからこそ、2番目にソロパートを歌うことが多い大矢梨華子がその歌唱力・表現力を上げて付いていけたのはグループとして重要で、逆に言えば彼女の存在があったから林愛夏は全能力を解放できたと断言できる。

ラストライブでも、本当は万感の溢れる想いがありながら「楽しかった~!」と能天気で明るいコメントで締めたように、常にエンターテインメントの成立を意識できるプロ。しかし時折感情が漏れ出すところが、人間的な魅力を溢れさせている。

個人的には、良くも悪くも自分を「見切って」いる部分があるので、もっと無謀な挑戦をして欲しい。最近仕事ぶりが極端に女子受けにシフトしたのも、自分の好きなことをやっている姿がしなやかでセクシーではあるのだが、ただ無意識に「タレントして生き残るには男子受けより女子受け」と自分を律している部分も感じてしまう。特に、身近に林愛夏というモンスターがいたので自分は歌い続ける意味がないと思っているようだが、無二の表現力を持っているので、どこかのタイミングで何らかの形で(ロックバンドのヴォーカルとかが特に嬉しい)また歌って欲しい。

りこぴん、ありがとう。自由に楽しく、心の底からの笑顔を見せ続けてください。

容姿端麗、歌にダンスにトークにバラエティと何をやってもソツなくできる、メンバーもファンも信頼を寄せるリーダー。活動のなかで歌唱力・表現力も成長を遂げており、アイドルとしては稀な領域。林愛夏・大矢梨華子に次ぐ3番目のヴォーカリスト、に留まらず、今では歌でも唯一の存在感を示すようになっている。

しかし「何でもできる」は、よほど一芸に圧倒的に秀でていない限り、魑魅魍魎が跋扈する芸能界にあっては「何もできない」と同義語になりかねない。
そんな彼女がベイビーレイズJAPANに於いて徹底したのは、ファンサービスだった。

握手会を始めとする接触で、誰よりもファンの顔や名前を覚え、呼び掛ける。大きなライブやイベントの後のブログで、他のメンバーが来場したファンへのお礼を書き記すなかで、傳谷英里香だけは「会場に来られなかったファン」へのメッセージを常々発信していた。グループやファンを含めた全体図を俯瞰で見ているからこそ、誰にも分からない悩みを抱えることが多かったのは想像に難くない。

当初は志望していなかったというアイドルをやることになって、ある意味最もアイドルらしい側面を担当することになったのは、彼女の真摯で自分に厳しい性格をよく表したものだろう。
その立場のせいで、グループの在り方への批判の矢面に立つことも少なくなかったように思うが、その役割を進んで引き受ける凛々しい姿は常に美しかった。

個人的には、常にリーダーの気遣いに救われていた側なので、本当に自分が欲しいものを手に入れて欲しい。接触でも推しより先に認知してくれて、札幌公演で楽屋花を一部有志と送った時も唯一お礼を言ってくれて、何よりも自己都合やトラブルで現場を干しまくっていたダメなファンである私にとって「会場に来られなかったファン」への言葉は常にモチベーションを保ってくれるものだった。

でんちゃん、ありがとう。これからはその優しさを少しだけ自分にも向けてあげつつ、納得のいく活動を続けてください。

渡邊璃生最年少「りおトン」

ハーフと間違われるほどに、エキゾチックで整った容姿。ロック・漫画・生き物など多岐にわたるオタク趣味を持ち、文章を書くのも得意。近年はアルバム曲を作詞したり、ライブの物販購入の特典として彼女が書いた短編小説が付いて来るようになったが、内容はどれも本格的かつオリジナリティに溢れている。ロックチューンのサビの頭に「縋れ」なんてワードを使うセンスの作詞家、そうはいないだろう。

グループ結成初期から突拍子もない行動ばかりがクローズアップされて、周囲の予定調和を崩す「破壊神」としていじられる方向でバラエティ番組などにも出ていたが、本来はそれよりも感性の独特さを表現する術を自身も周囲も探っていた、というところだろう。それがようやく形になって来てから、渡邊璃生は真の意味でアイドルとしての自分を愛し始めたような気がする。

他メンバーとは唯一年齢が離れている上に、アイドルとしての自分への肯定感がどこか薄かったとすれば、恐らくグループ内での軋轢がある時期もあったはず。そんななかで、最初は歌もダンスも明らかに苦手だった最年少が、いつの間にか周囲としっかりパフォーマンスでやり合える域にまで達してきた。本人的にもこれからグループに還元できるものが大きくなっていくのを自覚していただろうから、解散の時点でやり残した想いが最も強かったのは事実だろう。従来はファンとのコミュニケーションも苦手なタイプだったが、感情をしっかり発信することが徐々に多くなり、ラストライブではその想いを強く伝えていたのが印象的だ。

個人的には、「『アンチヒーロー』の『東京12』と『東京03』はそれぞれ時間と空間を表しているの?」とか「短編小説の人称視点の切り替え方がサイコホラー的な恐怖感を演出するのに効果的で良かった」とか、接触でもっとじっくり話したかった。こちらとしてもやり残した気持ちが強いので、何としても今後も表現したものを手に取ってみたい。

りおトン、ありがとう。感性の赴くままに、世界を言葉に落とし込んでいってください。

高見奈央、切り込み隊長「なおすけ」

「女子受け抜群のイケメン短髪帽子キャラ」という外向けの顔と、「料理好きミーハーうじうじ乙女」という内側の顔を併せ持つ、天性のアイドルタレント…と言いつつ、結局それが全部バレている不器用さも込みで愛すべきキャラクター。

大矢梨華子と同じく数々のオーディションで負けて来たが、それによって制作・運営サイドの意図をよく読むようになったのだろう。当初は「切り込むだけの切り込み隊長」といった勢い先行の部分もあったが、地上波レギュラー番組「浅草ベビ9」などで一線級の芸人さんと絡んだのが自信になったのか、どんどんバラエティ能力が向上していった。
ベイビーレイズJAPANに於いては、あらゆるワンマンライブやイベント出演時のセットリスト作成を一手に任されていて、その手腕はメンバーにもファンにも全幅の信頼を置かれている。"お約束”の遵守と破壊とのバランスが厳しく問われる現代の地上波バラエティでは、演出サイドの発想もしっかり実地で勉強しているのは大きな財産になりそうだ。

個人的には…高見奈央は「推し」なので、とにかく幸せになってくれればいいのだが、やはり本人は一番地上波で楽しく暴れたいと思っている(と思う)ので、まずはそこを見据えてじっくりやって欲しい。
今やポテンシャルとしては掛け値なしにゴールデンのバラエティでも通用するはずだが、まずはアイドルではほとんどできなかったエピソードを蓄えて表現の引き出しを増やして行けばより盤石か。女優としても存在感を出せると思うし、演技の仕事自体も大切にしつつ、同時にその現場での異性との関りも上手く蓄積して行って欲しい。実は彼女もアイドルという肩書が取れることで、不自由な部分はあるが伸びしろも大きく見込めるのではないか。

奈央ちゃん、ありがとう。どんな仕事も楽しんで、必ず何かに繋げることができると信じて、焦らず歩み続けよう。

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正直、タレントさんという仕事自体が難しい時代で、それでもファンが一定数いれば定期的に収入を得る活動ができるアイドルと違って、メディアを拠点とする活動はより不安定になりがち。しかも「元アイドル」というのは一部にフィルターを通して見られるので、活動が制限される可能性も否めない。
しかし、これだけのポテンシャルを持った素材に、6年間も一つのことをやり続け、愛された実績が加われば、その前途は拓かれていくべきだ。

林愛夏・傳谷英里香・大矢梨華子・高見奈央・渡邊璃生。彼女たち5人の輝かしい前途を信じて。
(あと、未来の再結成を少しだけ祈って)

ベイビーレイズJAPAN、本当にありがとう。