彼らのルネサンス   作:ノイラーテム
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霧の中を進む未来

●五十歩百歩の新技術

 街道を外れて荒野に進むと途端に人外魔境が訪れる。

 道は繰り返して踏みしめることで通り易くなり、同時に獣やモンスターも警戒するからだ。

 そこから離れるということは危険を承知で進むということである。

 

「順調なことは順調なんだが……」

 起伏で視覚が寸断され風は臭いを吹き消して行く。

 モモンガは何も無い荒野を実験場に選び、巣穴からノコノコ出てきた妖魔どもを標的に選んだ。

「もうちょっとやれると思うんだけどなあ」

 テスト中のストーンゴーレムは順調で、大剣を振るってゴブリンを蹴散らしオーガと正面から打ち合う。

 雑魚にも囲まれて居る為に最初こそ苦戦するものの、お互いの累積ダメージが増えて行くにつれ優勢になって行った。痛みで能力が下がらず恐れを知らぬ、魔法生物の利点が如実に表れて行った結果だろう。

 

 クリエイト・サーバントで素材を石に選ぶと、そこそこの性能を持ったストーンゴーレムになる。このゴーレムはオーガとほぼ同じ性能であり、改良型だというならばもっと強くても良いと思うのだが……。

 

『シズ。二体目を通すが、周辺の雑魚を片付けろ。一対一だった場合を見て見たい』

 最初のオーガを片付けたところでモモンガは<メッセージ/伝言>を飛ばし、後方のシズに指令を与えた。先ほどはゴブリンに囲まれながらオーガと戦っていたが、同等の条件ならばどこまで戦えるかを知りたかったからだ。

「お前だけ通っていいぞ……という訳にはいかないよな。シズに言っといて良かった」

 モモンガはマジックキャスターにも使える小剣を操りながら、オーガだけを後方に通そうとして失敗した。

 威圧したり遮って居た集団が残らず移動してしまい、シズがクロスボウで始末して行くのを横目で見守ることになる。最初の様に範囲魔法で薙ぎ払えば残りも含めて一瞬なのだが、それでは怯えて逃げ出してしまうのが問題だからだ。

 

「おっ。武器が大きいからダイナミックなスイングが当たるとデカイな。……うんうん、こうなると独壇場だなぁ」

 性能が発揮し始めると、ジックリと見たくなるのが偶に傷。

 本職の戦士ではないのでゴブリンに刺されることもあるが、60レベルのゴブリンなんか居ないので気にする事も無い。どちらかといえば見られて居たら怪我を心配される方が面倒なくらいだ。

「魔法の武器じゃないし武装の差はリーチくらい? もうちょっと重い武器だとどうなんだろ」

 そんな事を言っている間に二体目のオーガを倒してしまったので、残りの雑魚を殲滅する速度を見ることにした。<フライ/飛行>を唱えて敵の集団を抑えるのを止めて、ゴーレムが後方の指示通りに戦うのを眺める。

 

 三体目・四体目のオーガも居るのだが、ぶつかりあったところでゴブリンの残りを叩き潰すと群の大半が倒されたことになる。

 黙々と剣を振るうゴーレムは疲れた様子も無く、流石に不利だと気が付いたオーガが逃げ出し始めた。これに追いついて三体目を簡単に倒すのだが、効率の良い移動をして居なかったので四体目には逃げられてしまった。

 

「今日の戦いを総括しますと、良くも悪くも魔法生物の特徴が出たと言えるでしょう。言いたくは無いのですが……」

「このゴーレムで無くても良いということね?」

 後方で戦闘を見て居たこともあり、研究者でもある女魔法使いのガブリエッラはモモンガの言葉を素直に受け入れた。

「大剣の威力が活かされれば強力な一撃になりましたが、正直なところ、クリエイト・サーバントで作った普通のストーンゴーレムもあのくらいの威力を出せます」

「自分で作ったんだもの、そのことは知って居るわ」

 もっとハッキリ言えば、クリエイト・サーバントは材料さえあれば普通に発動する魔法なので凄く弱体化して居る。

 儀式魔法化したことで使用するMPも掛る時間も桁違いだ。利点は低レベルでも作成できるとか、その影響もあって複数の系統のマジックキャスターでも可能というくらいしかない(工房以外では教える筈も無いが)。

 

 正直なところ、何故造って居るのか判らないレベルであった。

 低レベルでも作れるが公開しないのでは量産できないし、レベルを上げようと頑張る者が居なくなるという意味では良くないのではないのだろうか?

 

「しかしこれだけの損傷でも直せるのは魅力的ですね」

「普通はここまで壊れたら捨てる。驚嘆」

 一方で目線を変えると別のモノが見えて来る。勝利こそ納めたもののストーンゴーレムはボロボロになっていたが……。

 <リペア/修復>の魔法を複数回掛ければ直せるし、大本の儀式魔法を使えば完全に直ると言う。ゲームだったころにナザリックの維持費を稼いでいたモモンガとしては、実に興味あるところであった。

「褒めてくれるのはありがたいけれど、それは始祖の手柄よ」

 話は戻るが今回の実験そのものはよろしくはない。

 モモンガ達が関心を持って居るのは、始祖……タブラが既に導いていた部分であるからだ。

 

「土木作業をするのでなければ、武装を変えてみるしかないですね。もう片方の工房ではどんな装備なんです?」

「あっちは最初に決めた武装から変更しないから、グラオ・リッターは斧と盾装備のはずよ。人型ゴーレムを専門に使う『人形遣い』に任せて意見を聞くのが定例かしら」

 幸いにも他所の工房にライバル意識を持って居ない様なので、比較例について尋ねて見た。

 色んな情報が聞ける方がモモンガとしても楽しいし、研究を続けるならば有益であろう。

「あー。拳で戦う延長線ですか。悪くはないですね」

「逆に言えば改良しても代わり映えしないって話だけどね」

 重量のある斧で戦うのはゴーレムの剛力を活かすなら良い選択肢だと言えた。

 それほど大きくはないが素手よりは長いし威力も大きくなる。盾を持てば防御力もあがり総合的な耐久力も向上するだろう。

 

 二つの工房を比べると、研究者としての視点が見えて来るから面白い。

 あちらの工房は戦力としての商品化を図っており、こちらはあくまで研究用に差別化を図って居るのだ。どちらが良いとは言えないが、完成度から言えばあちらの方が一歩先に行っているだろうか。

 

「参考までにウッドゴーレムはどうなんですか?」

「うちは完全な作業用にして居るから元の『樫の木の従僕(オーク)』と呼んでるけど、あっちはバイゲ・リッターと呼んでカタパルトやバリスタを運ばせてる筈よ」

「輸送用? 確かにその方がいいかも」

 クリエイト・サーバントで使用する素材は木からなので、ウッドゴーレムを造ることもできる。

 だが下級ゴーレムは素材が持つ魔力で性能が決まってしまう為、造っても単純な作業用にしかならない。材料が樫の木であるため樫の木の従僕(オーク)と呼ぶのは何処も変わらないのだろう。

「だから斧か槌が妥当なのは判ってるのよ。オーガより強ければ警備や街道整備も楽になるしね。だけどそれじゃあ何のために手で持てるのか判らない……」

「なるほど……変更する意味ですか」

 アックス類やメイス類をシールドと共に持てば普通に強くなる。

 だが極論を言えばゴーレムの手に棒を括りつけ、鉄板とは言わないが銅板でも張りつければ十分なのだ。それでは研究する意味が無いし、次の作品に掛ける情熱も失われよう。

 

 モモンガはユグドラシルを思い出し、色んな魔法での戦術を苦心して居た頃を懐かしく思う。

 初心者のころは苦労したが、たっち・みー達と出逢ってからは仲間が居ることにより方向性は絞られたが、パーティ戦闘の為に様々なバリエーションが生まれた。環境が戦術を選んだとも言えるが、マジックキャスターで行くという最初の頃の構想は変わることは無かったと言えるだろう。

 

「仲間……を前提に考えて見るのはどうです? 前衛を任されるのは当然にしても、単体で全てを蹴散らせって命令は無いでしょう」

「幾らなんでもそれはないけど……そうねえ。あっちのバイゲ・リッターなんか仲間前提だし……アリといえばアリかしら」

 大型武装であるカタパルトやバリスタを運び、人間では時間が掛る巻き上げを瞬時に行う。

 手のあるウッドゴーレムの使い道としては悪くない選択肢だろう。同じ様に何かしら相性の良い武装があれば、ソレをベースに色んな装備を使い回すという選択肢が生まれるかもしれない。

「仲間を守ると言う意味では盾? 斧や槌じゃないとしたら剣くらいかしらねえ」

「固定しちゃうと偏りますし、副装備は盾と何かを推奨するってことでいいんじゃないですか?」

 先ほどはモモンガが数を堰き止めて居たが、普通の戦いではそれこそゴーレムの役目だろう。

 だが現状では止めるのが精一杯で、戦果を期待する前に仲間がピンチになる可能性の方が高い。

 

 必要なのはむしろ長さで、出逢い頭にオーガを狙って確実に倒せることだ。

 雑魚に囲まれても二体目・三体目とオーガを倒せるならば戦況が逆転する事もあるだろう。

 

「その意味では大剣のリーチも効果あった気がしますね。もうちょっと有利に戦えれば理想的なんですが」

 先ほどの戦いを思い出すが、序盤はともかく二戦目は圧倒して居た。

 周囲に雑魚が群がって居なかったという前提に立つものの、振り回す事でリーチと威力を十全に発揮して居たと言えるだろう。

「長物ということかしら? 私は武器にあまり詳しくは無いんだけど……」

「大丈夫。ちょー得意っ」

 珍しいことにシズが自己主張を始めたので、モモンガさんは暖かく見守ることにした。

 解説を聞きながら自分の過去を思い出し、ちょっとしたアドバイスをしてあげる。

「シズ。せっかくだから絵でも描いてあげなさい……あー。一般的な武装のレベルでな」

「大丈夫。ちょー得意っ」

 もしかしたらシズにとって、ゴーレムは弟分や妹分で研究する人はその母親くらいの印象なのかもしれない。

 そんなことを想いながらモモンガは、シズの描く可愛らしいMADウェポンを楽しく見守るのであった。

 

●支えの無い天秤

 よくよく考えればサポートのモモンガが研究に口を出す必要は無いのだが、つい夢中になった。

 気が付けば夜が更けるまで相談に乗って居たのだが、他人のビルドで飯が美味いとも責任の無い討論は最高だとも言う。

 

「……余計な事を言う様なのですが、腕回りはもうちょっとシンプルで良いと思います。その分パワーを上げた魔法を開発できないのですか?」

 ここに来てモモンガはようやく本題を切り出す事にした。

 先ほどまでの討論は仲良くなる為の方便であり、ただの趣味である。本命はこの、『狙った魔法を開発できるのか』という質問をぶつける為に不自然で無い様にする為の前フリに過ぎない。

「言いたいことは判るけれど難しいわね。うちの工房は研究の意味や重さを追求しているの。そういう細かい調整はあっちの方が得意な筈よ」

「なるほど。どうしても研究分野で差が出ますよね」

 どんな制限があるのか、得意不得意による開発能力の差などが知りたかった。

 もちろん始祖が本当にタブラであるのならば、そんなことはとっくに知って居るだろう。だが彼が研究したことを追っていく上で、無条件にデータだけを聞くのと、自分なりに把握しておくのは意味が異なる。

 

 そしてタブラが研究に詰まった時に協力し、あるいは独自の動きを模索する為に重要な事だ。

 せっかく新しい世界に来たのだし、自分なりの目的を探すのも良いかもしれない。それが友人であるタブラの役に立つことならば理想的だろう。もしタブラが推測した様に、ナザリックもやってくることを考えれば打てる手はできるだけ多いにこしたことはないのだ。

 

(タブラさんがこの辺りでやろうとしたのはのはホムンクルス・ゴーレム・ビースト、そしてその使い手たち。てっとり速い戦力UPと……)

 モモンガはタブラの影を追っていく中で、それなりに彼の方針というものを掴んで居た。

 創造主とやらが居た場合に備えて戦力を拡充する為、様々なクリーチャーの創造に励んで居る。

(あとは並行して魔法の開発を確認ってとこか。……今のところ自分が強く望むことしか対象にできないみたいだな)

 ガブリエッラが所属する工房では形状を弄ることに終始しているそうだ。

 彼女が成功させた武装を所持できるモデルの他、下半身が四足の研究があるらしい。しかしながらその個体も八脚や蛇型を造るバリエーションはできたが、性能差を出す様な微調整は難しかったそうだ。どの個体もストーンゴーレムの性能を越えはしないとか。

 

「いずれ四本腕で大型武器と盾というのを試してもらうとして、ひとまずは斧槍か槌槍でも持たせましょうか」

「そうね。そのくらいならあり合わせの材料で製造できそうだし良いんじゃないかしら?」

「四本腕……つよそう」

 残念なことに武器の形状をしたゴーレムは既に失敗したことがあるそうなので、四本腕を提案してみた。これで簡単に完成する様ならば、自分が興味があれば成功し易いことになる。交流があった工房の情報を仕入れることが出来るならば、微調整のバリエーションと得意な者の性格を知れれば、参考資料としての比較が進むだろう。

 

(重要なのは目的か……。俺も覚えることができないか試すのに、何か目的でも探した方が良いのかな)

 現時点では魔法の開発をタブラがしたのか、洗脳したマジックキャスターにやらせたのかは判らない。

 仮にタブラが不可能であった場合でも、モモンガならば可能かもしれないし試してみる価値はあるだろう。それに何より、目的が無いよりは有った方が面白いのは確かだ。

(んじゃ暫くゴーレムの依頼に付き合いながら、何をしたいかを考えて見るか)

 付け焼き刃の剣技よりは魔法かなーとか思いながら、何を覚えるのが良いかとモモンガは皮算用。それが可能なのかは別として、久しぶりに良い夜を過ごすのであった。




 と言う訳で開発に絡むストーリーの第二話になります。
「性能実験だぜヒャッハー」 → 「なんだ変わらねーじゃねーか!」という内容なのですが、その過程で何を得たか? という話です。
まあ参考にしたのが『双竜牙突き』→『青竜牙突き』なので、性能が大きく変わる筈は無いのですけれどね。
モモンガさん的にはどうでも良い研究なのですが、魔法を任意に開発できるのか? もしかしても自分も? と思う為のエピソードです。

●ゴーレム魔法
 今回メインにした魔法は、『クリエイト・サーバント』という作業用のゴーレムを生み出す魔法です。
材料の持つ魔力で性能が向上し、ウッドよりもストーンは強く、アイアン、シルバーと徐々に強くなっていく良くあるゴーレム魔法になります。
この上のランクが『クリエイト・スタチュー』で、石+悪魔の形状でガーゴイル、木と宝箱の形状でミミック。という風に性能も目的も決まって居るけど、強力なゴーレム魔法。
最後に『クリエイト・ゴーレム』が来て、街や文明の守護者としてのゴーレム。素材は特性の差でしかなく、泥だと無現再生という感じの神話級になるのでしょうか。
モデルはソードワールド2:0になります。

/ゴーレム魔法開発
 参考にした双竜も騎士槍も本質を越えることの無いバリエーションでしたので、あくまで元の魔法を越えて居ません。
クリエイト・サーバントで作ったストーンゴーレム(ストーンサーバント)は、どこまで行ってもオーガと同レベル。怯えないし負傷ダメージで性能が変わらないのが良いところくらいの強さになります。
もちろん使い勝手が良くなるかは別なので、例えば四足にしても速度も蹴りの威力も代わりませんが、安定度は増すでしょう。
同様に四本腕にしても性能は変わらないのですが、大きな両手用武装を持っても、盾を同時に持てるという使い勝手は向上すると思います。

1:グリージョ・カバリエ
 灰色の騎士という名前で両手剣を試して居たが、次回は槌槍(というか重りを付けた槍)になる予定。
最終的には三本腕になって、二本の手で槍をバランス良く、太い腕で盾を構える形状になりそうです。
強さはオーガと同じくらいなのですが、リーチの問題と盾で防御できるという意味で、二・三体のオーガを蹴散らせるようになるのではないでしょうか。

2:グラオ・リッター
 灰色の騎士の工房違いのゴーレム。斧と盾を構えた重量級で、人型を専用に操る『人形遣い』という傭兵がテストをしている。
製造元の工房は微調整が得意で、人形遣いの意見を聞きながら使い勝手が良い様に微調整を行っていく。
最終的にはシールドにスパイクを、足には踏ん張る為のアイゼン、肩から胴に追加装甲という装備になる予定。
強さは同レベルであるものの、使い勝手はグリージョ・カバリエよりやや下、でも信頼性は遥かに上となります。
モデルはFE聖戦のグラオリッターと、FFSのアシュラ・テンプル。

3:樫の木の従僕(オーク)
 ウッドゴーレムではあるが戦闘には向かないので、完全な作業用に成っている。
腕も武装を持ち替える為ではなく、荷物を効率良く持つ為の可動範囲の差でしかない。
名称はマジックキャスターが荷物持ちに使用する事もある、樫の木を素材にした従僕の名前から。

3:バイゲ・リッター
 茶色の騎士という名前で、妖魔の多い森周辺を警備する茶色の家が発注したゴーレム。
カタパルトやバリスタといった大型の投射武器を運搬し、傭兵が射撃する為のアシストでしかない。
しかしながら重量物を容易に運搬し、人間では時間の掛る巻き上げ機を簡単に巻けるので重宝されている摸様(比較的に安価というのも理由)。
後に工房同士の仲が元に戻った時、四足になって馬状の背にバリスタを載せる形状に変更された(指揮官を載せる鞍のバージョンもある)。
モデルはFE聖戦のバイゲリッターと、聖刻シリーズのサルダフ。蜻蛉落としの悲劇は存在するかは不明。

/ガブリエッラとハンス
 前者は独特の研究成果を求める、どちらかといえば素っ頓狂でロマンチストな性格。
後者は地味な研究を旨とし、大胆さよりも確実な商品を求めるタイプ。
あまりにも性格が違うので喧嘩は良くしていたが、違うからこそ反発はしていない摸様。特に重要では無いエピソードなので本編では割愛。
モデルはスパロボOGのマリオン・ラドム博士とカーク・ハミル博士。







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