彼らのルネサンス 作:ノイラーテム
<< 前の話 次の話 >>
新しい着想
●新技術
モモンガ達は名前を上げたこともあって、時間こそ掛ったものの目的であるゴーレム工房の一つに呼び出されていた。
あちこちに並べられたゴーレムやその残骸に目を奪われながら、奥の間に通されて行く。
「今回お願いしたいのはゴーレム実験のサポートと言うことになるでしょうか」
「対戦相手……ではないですよね?」
工房長が頷くとモモンガは安堵を浮かべる。
ゴーレムなど恐ろしくも無いが、だからこそ適正な加減などできないからだ。
「むしろ適度な対戦相手を探していただく方ですね。都合の良い相手など早々見つかる物ではありませんから」
「探知魔法もありますので数を減らす形で良いのでしたら、まあ何とかなると思います」
数体のオーガかトロールか、上位種ならば一体でも良いかもしれない。
そんなニュアンスなのだろう。モモンガが戦力調整をして良いか尋ねると工房長はまたも頷いた。高名な傭兵……それも物判りの良い相手を雇う為か、肯定な反応以外を見たのは次の質問からだ。
「実験と言うと新型ですか? 遠方から来た我々からすると、汎用以外の魔法を掛けられるゴーレムというだけで十分に凄いのですけれど」
「まあそうなりますか……。普段ならば同じクラスのゴーレムを用意するのですけれどね。少し問題がありまして実戦データを急ぐのですよ」
ここに来て工房長は初めて言葉を濁した。
ハッキリと顔色を変えたと言っても良い。マズイことを聞いたとモモンガは察し、自分から言葉を撤回して見せた。
「あー。不都合があるなら構いませんよ。そんなにも付け加えるモノがあるのかと驚いただけですしね」
「いえいえ、あくまでこちらの都合です。……そうですね。どの道、見れば判りますので担当者と一緒に紹介しておきますか」
機嫌を損ねないようにしたのか、工房長は話題を変える様に急いで立ち上がった。
そのことをモモンガが不審に思うよりも早く、行く先が新しいゴーレム達が並ぶエリアということもあって興味が移る。
広さが必要なゴーレム工房の中で、決して外から見ることのできないエリア。
研究塔とでも言うべき場所には残骸などは無く、試作品や完成品ばかりが立ち並んでいる。
「この工房に限らずゴーレム作成魔法の基礎は、始祖であるソロモン・イーブン・ガアヴィロール様から伝わった大いなる魔法を改良して居ます。今回の新型はそれには及びませんが、久しぶりの新機軸なのですよ」
「ほう……。まったく新しい概念の導入とは驚きですね」
モモンガはタブラが口にしたことのある、ソロモン・イブン・ガビーロールらしき名前を思い出した。
ゴーレム関連の名前だったっけ? とか首を傾げならまあいいかと頷いておく。重要なのは名前では無く、新しい能力がどれだけ面白いかである。
「あすこに居る彼女らが作ったのが新型なのですが、違いが判りますか?」
「流石に門外漢なので直ぐには……って! これってもしかしてっ!」
モモンガは少しだけ工房長の言葉に妙なトーンを感じた物の、新しいゴーレムが自分から見ても異色であることに心が騒いだ。
この工房を始めとして周辺にあるゴーレムの能力は聞いている。<リペア/修復>とかいう対物魔法以外にも自己修復の魔法や、ゴーレム創造魔法で修理が効く。同じ様に幅の広い強化魔法が、人体であるかの如く効くのだとか。
しかしそれらの魔法も、自分達の使うレベルの上級魔法に及ばない。
あくまでそれらの代用として、下位に複数の魔法を設けたのだと思えば納得が出来た。しかしながら目に移るアレは、ユグドラシル基準でも大きな変更だったのである。
「やっぱりそうだ。下級ゴーレムなのに武装の携帯が可能になってる! 凄い改良ですね!」
「か……下級……。ははっまあ今から改良しますからね」
モモンガは喜声を上げるが、工房長は何故か苦笑してしまったようだ。
だがそれに気が付くこと無く、矢継ぎ早に言葉を連ねて聞き逃してしまった。
「聞き捨てならないわね」
「かっ、下級!? 最新型の傑作に対してどういう事ですか!」
「これってサーバント系の下級ゴーレムですよね。凄いやスタチュー系ですらない! 中級ゴーレムの中でも上位に位置するやつじゃないと、武装を保持はともかく真価を活かせないのに」
奥に居た研究者肌の魔法使い達が抗議の声を上げるのだが、モモンガは気が付かずにウンウンと頷いている。
怒りの声を上げようとするが、モモンガの勢いと聞き逃せない言葉に声が止まった。
「サーバント系? ……スタチューに中級? 何のことなの?」
「訳のわからない言葉で煙に巻こうと言うだけです! ケチを付ける為に他の工房から送られて来たに違い無い!」
「え? ここってゴーレム造ってる工房ですよね? 分類って知ってます?」
耳聡く言葉に注意する女魔法使いに対し、青年の男性魔法使いは猛然と抗議の言葉を続けた。
モモンガは訳も判らず目を白黒させるばかりだ(目など無いが)。その認識差に対して救い船を出したのは他ならぬシズであった。
「……モモンガ様は嘘を言って無い。スタチューというのはガーゴイルやミミックの事。それより強力なのが中級」
「それより弱いのが下級と思えば良いってことね? まあそれなら確かに下級ゴーレムだわ」
「何を言ってるんですか……。この新技術はそんな能力差なんかひっくり返しますよ!」
子供の言う言葉だからか、判り易い目安が添えられた為か強い言葉は続かなかった。
だが女魔法使いの方はともかく、男性魔法使いの方は収まらないようだ。
「言葉が過ぎました、申し訳ありません。ええと……我々の故郷では素材の使い方で分類を分けてたんですよ」
「外の方ならば仕方無いですね。それよりも素材の使い方について教えていただけますか?」
ようやく下級と言う言葉に対する抗議だと理解したモモンガは、シズの言葉を参考に判り易い目安を付けた。
謝罪を受け入れたのか、それとも異なる文化に目を付けたのか女魔法使いは軽く頷いている。
「こちらのモモンガさんがサポートについて下さるそうだよ。道中で必要なだけ聞くといい」
「こんな……」
「それは助かりますわ。ゆっくり聞かせてください」
なおも声を上げようとする男を無視して、担当者として女魔法使いは頷いた。
こうなってしまえば助手のできることなど多くはない。ゴーレム談義を行いながらどんな相手が訓練相手に良いかを話し合うことになったのである。
●不公平な技術開発
話を聞きながらモモンガは思わず首を傾げた。
今回の様にまったく新しい発見こそ少ないものの、細かい魔法開発が頻繁なことだ。
(どういうことだ? 凄い魔法は……というかレベルを越える様なのは全く無いのに……)
最初に100%の魔法を掛けたら、どうやっても100%になるのがユグドラシルのゴーレム創造魔法だ。これを25%ずつ地水火風の儀式魔法に分解し、より低いレベルの術者でも可能にしたのがこの周辺で使用されているゴーレム魔法であった。
(妙なマイナーチェンジが山ほどある。やはりこの世界の魔法のあり方とかスキルのあり方ってユグドラシルと根本的に違うのかもしれない。っていうかズルイぞ!)
最初は四つに分解しただけで、火は威力とか反応速度を決める要因らしい。という程度であった。これが時代が下るにつれて、ゆっくりしか動か無いが負担の軽い魔法だとか、高速で動けるけど他が弱くしないと儀式魔法が成立しないモノなど様々なバリエーションが開発されていた。
その殆どが元のゴーレム創造魔法を越えないレベルなのだが、これだけ新魔法が開発されて居ればモモンガとて羨ましくなる。
何しろユグドラシルでは新しくパッチが当てられるか、謎だったクラスチェンジ条件が判明する時くらいしか増えることは無いのだ。
(でも現地の人がこれだけできるなら、タブラさんが創造主が居るんじゃないかって疑うのも無理は無いよな。それに組み合わせを見るのは楽しいし)
例えば先ほどの『ゆっくりしか動けないが、負担の軽い魔法』を例に取ろう。
このバリエーションには子供並み、幼児並み、赤ん坊並みの細かい差で開発されている。
(戦闘には役に立たないからユグドラシルじゃあ無意味な魔法だ。でもこれがまさか、馬車型や船型ゴーレムに繋がるなんて!)
一件、赤ん坊並みの反応速度しか出せないゴーレムに意味は無いように見える。
だが船ならばそこまで高速で反応する必要はないし、サイズを決めるらしい地系の魔法に負担容量を避ける方が重要だ。これが馬車ならば中間で、子供並みくらいになる。
これらは戦闘には不向きな性能しか出せないのだが、輸送と言う意味では天と地の差があった。
<クイックマーチ/早足>とかいう魔法や、<ヘイスト/加速>の様な速度上昇系魔法で強化できるのだから、本当に戦闘に向かない訳でも無い。
色々な魔法とアイテムの組み合わせを考えるのはモモンガも大好きなので、自分も魔法が開発出来たらなあ。と思わざるを得無かったのだ。
「相方の人には悪いですが、こちらの主導でモンスターをおびき出す段取りで良いですか?」
「彼は開発者ではありませんので考慮する必要はありませんわ」
おや? とモモンガは内心で首を傾げた。
先ほどの男性魔法使いの反応は、到底そうは見えない熱心さが見えたからだ。
「しかし助手とはいえ食って掛る程の熱意です。そうとうにこのゴーレムに関心を持たれている様に見えましたが……」
「このゴーレムは比較的に仲の良かった他工房との共同開発なんです。あの人の後窯に座りたいんでしょうね」
そこまで聞けばモモンガも判って来るものがあった。
魔法の才能は男女関係ないが、工房の外にも幅を利かせている職員は外との折衝もあり男性が多い。共同開発者になれば、実質的なプロジェクトリーダーはあの男のモノになるだろう。
今はその工房とは仲が悪くなって、共同開発も打ち切られたことで尚更に発奮して居るのだろう。上手くやればこの時代に新型をもたらしたのは、自分の成果だと思えなくもない。
「なるほど。他のゴーレムと比較されるのを嫌うとか、急いで開発する理由はソレですか。しかし、その工房と方向性が違うのではありませんか? 急ぐ必要なんかなさそうですけれど」
「こちらのグリージョ・カバリエとあちらのグラオ・リッターの差はありません。装備の方向性の差くらいに見えますから、同じことを研究されたら困ると思ったのでしょう」
地区の差で言語が違う以外は、素体としての性能差はその工房との無いらしい。
この女性魔法使い……ガブリエッラの希望するのは大味な装備で、武具を入れ換える意味を持たせるほどの性能差を求めるゴーレムを目指している。
対して向こうの工房でハンスという共同開発者が考えて居るのは、地味な強化案を積み重ねるモノらしい。先ほどの男性魔法使いも、もしかしたら同じ構想で被っているのかもしれない。
「ともあれ了解しました。周囲を探知魔法で捜索する時に、一応はゴーレムの反応も見ておきましょう。お話を聞くと不要そうですが、先ほどの方たちを考えますとやっておいた方が良いでしょうからね」
「お手数をおかけしますわ。とはいえテスト相手の戦力を削る際は、程ほどで構いません。多少壊れるくらいの方が性能が見れますから」
求められている性能はストーンゴーレムながら、アイアンゴーレムに迫る能力らしい。
装備を使うことで匹敵できるならば、武装を持たせる意味はあるということらしい。ということはオーガ数体を問題居せず、時間さえかければトロールも十分に倒せる程度の能力が必要とのことだ。
「判りました。今回はそちらのゴーレムに前衛を任せられますからね。安心して対処出来ますから、多少の融通くらいは問題ありませんよ」
こうしてモモンガ達は性能試験の為、敵対的な亜人の棲む地域へ足を伸ばす事になった。
と言う訳で、ネタを思い付いたのでシリーズ第二期に成ります。
今回は武技・新魔法の閃きにからめて、『現地の成長パターンってユグドラシルと違うんじゃない?』ということに焦点を当てて見たいと思います。
中断もあって望まれているかは判りませんので、五回くらいで終了する予定になります。
●ネーミング
名前を付けるのが面倒なので、Gで始まる女性名、Hで始まる男性名となっています。
名前の無かった助手の人は、きっとIで始まる名前でしょう。
またゴーレムの素体名は灰色の家に所属して居るのでグリージョのカバリエ、意味は灰色騎士。共同開発した工房で造られているのも同じ性能ですが、他の国に近い場所で語源が違うので意味は同じものの、グラオ・リッターになります。
●この地域のゴーレムと、新型ゴーレムについて
ゴーレム創造魔法を儀式魔法にスペックダウンし、更に必要な能力を分割することで低い魔法の才能でも仕様可能にしたもの。11レベル以上の中級職業にならないと覚えられない魔法だとしたら、レベルが低くなって5レベルくらいでも覚えられるように成ったと思ってください。
なお修復以外の魔法で直るとか、早足の魔法で移動速度上がるも、単純にゴーレムとして本来の意味で完成して居ない為。購入相手に行き渡されて登録した段階で完成する為、登録相手が使う魔法を自分が使った魔法として認識して居る為である。
よって購入して居ない他者が魔法を掛けても、リィンフォースアーマーなど汎用性のある誰にでも強化できる魔法で無ければ掛けても強化されない。
また新型ゴーレムは手の動きが回収された物というか、腕や体の完成がまだだと認識して居るのが最も近いイメージ。
判り易く言うと、ゴーレム創造魔法を使用すれば100%の性能を発揮できるのだとしたら、70%~80%の性能のまま、装備品を付けて完成とする状態だと言える。
装備によって能力のバラ付きがもたせられるが、基本的にはゴーレム創造魔法の方が平均性能は高くなる。同じ様に反応速度やサイズを弄るバリーションも弄ればいじるほど弱くなり、総合的には普通のゴーレム創造魔法の方が性能が高い。
(ただし、船や馬車型など、考えようによっては便利になる)
●魔法のバリエーション化は簡単?
八巻に登場するパルパトラさんの考案した武技の竜牙突きが、青竜牙突き・白竜牙突きなどに分化したこと。
他にも最新刊でナスレネさんが白銀騎士槍の魔法から、炎焼騎士槍や氷葬騎士槍に分化したことから、思い付いてしまえば割りと簡単だとしています。
最初の発想と編みだ出す努力が一番重要で、バリエーション化は簡単だと言う判断ですね。
帝国編だったかWEB版だったかでも、アインズ様の知らない魔法が沢山あったらしいので、そおれほど不自然では無いと思われます。
それこそ香辛料を造る魔法をアレンジして、砂糖だけを造る魔法、胡椒だけを造る魔法も簡単なのでしょう。
もちろん性能そのものが普通に上がる訳でも無いので、そこでバリエーション魔法を覚えるのは無駄かもしれませんし、優れた先生が指導すれば最初のコストも下がるかもしれません。
そう言う意味ではフールーダさんの、師匠が居れば! という渇望はこのストーリーにおいては正しい認識だったとしています(レベル問題は別として)。