彼らのルネサンス 作:ノイラーテム
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シズは目を開けるとキョロキョロと周囲を見渡し、モモンガを見て小さく頷いた。
そしてテーブルの上に置かれたアクセサリー……
その表情にいつもの無表情さはなく、興味があるモノを追い掛けて居る時の様だった。
「…タブラさん…なのか?」
「どうやら上手く伝言を渡せたようだね。モモンガさん」
モモンガはシズに対して奇妙なことを尋ねた。
だがより一層奇妙なのは、タブラ・スマラグディナなのかという問いにシズが頷いたからだ。
声もまたいつもの抑揚の無い喋り方では無く、どこか面白がるようなトーンが窺える。
「タブラさんは今、何処に居るんですか?」
「私は必要に合わせて拠点も姿を変えて居る筈なので、何処に居るかを説明するのは難しいな。時間も無いしシズ・ベースで人格の再統合が始まる前に、私が何を考えて居たかの説明をしておこう」
必要ならばその情報を使って追って来いというのだろう。
そこまで言っておいて、シズの貌をしたタブラは改まった口調に改める。
「…ユグドラシルを知る者は幸いである。自分が何処から来たのかを知っているのだから。それゆえにタブラ・スマラグディナが考える、この世界のカタチを紐解こう」
(自分で時間が無いと言っておいて…。そういえばこういう人だった…)
確か異世界に召喚された勇者が関係する物語の序文だったろうか?
ゲーム時代に良く聞かされた語り口を聞いて、モモンガは少しだけくすりと笑った。
これから重大なことを聞くのだから一言も聞き逃せないが、楽しかった懐かしい日々を思い起こさせてくれるからだ。
●世界のカタチ
「一体、何者がこの世界に呼び寄せたのでしょう。そして何の為に……」
「手段は噂に聞くワイルドマジックだとは思う。だがタレントと言うモノがある以上、誰かは特定はできんな」
かつてタブラ・スマラグディナは人間社会に入り込み、時には亜人や異形種たちとも交流を果たして居た。
その旅も落ち着いたところでアルベドが発した質問に、タブラはつまらなさそうに答えた。
「目的に関しては絞ることができる。記録を遡る限り六大神とやらが最も古いプレイヤーの記録で、一地域とは言え彼らは人を平穏に導いた」
「……」
タブラが推論を重ねる間、アルベドは一切口を挟まなかった。
彼は思考を重ねて整理して居る間が一番楽しいのであり、その神聖な時間を邪魔する気は毛頭ない。
「あくまで仮説だが、『自分達を助けて欲しい』という願いが最初にあると思われる。そこで制御が途切れたのだとすれば、次に現われた八欲王や我々はそれに便乗した形だろう」
「我々は利用されておらず、道筋に乗っただけ……それならば報復は必要ない様ですね」
制御されておらず便乗したのだから命令などされていない、その後の混乱は制御不全による自業自得だし、自分達も操られていないのだから怒る必要はない。
その言葉にアルベドは頷き相槌を打つと、楽しげに窓辺に立つ主人を楽しませる為に続きをねだって見せた。
「大凡の世界創世神話に置いて、最初はいずれも『権能』と呼ばれる性質の押しつけ合いが始まる。だが時代が下り『神』に当たる者へ祈願する形式になると、グっと成功率も規模も小さくなっていくんだ」
「それが始原の魔法、ワイルドマジック。ドラゴンロードだけが……いえ彼らが主に使うと言う魔法……」
アルベドはこれまでのタブラの言葉を遡り、自らの解釈を訂正した。
ドラゴンロードだけではなく、タレントによってそれを可能とした者が居るかもしれないからだ。
またドラゴンロードと呼ばれていても、実際にはドラゴンではないモノも含まれるために、タブラは断定する事を好んで居なかった。
おそらくね。と頷きながらタブラは他の者には見分けにくい笑顔を浮かべた。
誰にも告げて居ない仮説だが、身内であり彼自身の分身とも言えるアルベドにだからこそ伝えても恥ずかしくは無い。
「もう一度さっきの仮定に戻るんだが、何らかの大事件が起きて対処を余儀なくされた。災害なりドラゴンロード同士の争いなり、あるいは単に亜人の侵攻……。そんな感じのピンチに対して、ワイルドマジックを使用して『助けてくれる事が可能な存在』を呼んだのだろう」
「その結果が六大神と呼ばれるプレイヤーであり、人類の守護者を自称する法国の建国ならば、確かにドラゴンロードの所業とは思えませんわね」
結果から逆算するのであれば、むしろタレントか何かでワイルドマジックを限定的に使用した人間の可能性が高い。
ドラゴンロードではなかったからこそ制御力が足りなかった。
そして好意的な存在だけでなく、次々に呼び寄せてしまい八欲王などの後続が現れた……。そう考えれば全ての辻褄は合うのだ。
「とはいえ、ソレは不測の事態であったならば……だ」
「えっ?」
タブラはこれまでと真逆の事を言い始めた。
一度付けた辻褄をひっくり返し、別の見方を付け加える。
「ドラゴンロード達の処分も兼ねて居ると見方を変えれば、この地の支配者が邪魔者を一気に片付けたと思えなくもない」
「その場合は速やかなる報復を。タブラ様を利用する者に思い知らせてやらねば! ご命じくだされば直ぐにでも探し出し相応の苦痛を与えて御覧に入れます!」
六大神を呼び寄せ人類の保護を行い、文化圏という新しい文物を作り出した。
そして力を付けた六大神もろとも、邪魔になったドラゴンロード達を片付ける為に八欲王を呼び寄せる。
次なるシーズンに訪れたタブラ達は、八欲王が倒せなかった時の保険であり、その後始末を任せる為かもしれない。
一瞬でそこまで理解してみせたアルベドは、溢れかえる怒りを制御しながらタブラの号令を待ち詫びる。
「その意気や良し。と、言うべきかな。しかし私はそこまで焦る気は無いんだ。こちらの世界に呼んでくれた恩が無いとも言えないし……やるなら確実に勝てるよう準備をすべきだと思う」
「短慮を申し上げました。お許しください」
怒りを無理やり抑えつけながら、アルベドは涼しげな顔を浮かべて見せた。
タブラが恨んで居ない・協力する気なのであれば、勝手に動くわけにはいかない。激情に任せて暴れるとしても、それは彼が言うように確実に勝てるようになってからだ。
それまでは万が一にでも監視が付いている可能性を考えて、不快さを抱いたことを悟らせる訳には行かない。
「ということは人間の学者たちに協力して居るのも、戦力調達の一環なのでしょうか?」
「そのつもりがない訳でもないけどね。アレは趣味の一環だし……最大の援軍であるモモンガさんの到着を待つまでの暇潰しだよ」
外面だけは冷静さを装ったアルベドの怒りが霧散して行くのが判る。
タブラに取ってモモンガはこの世界に来るために最大の協力をしてくれた友人であり恩人であるし、アルベドに取っても最後まで残ってくれた至高の41人はセカンドマスターと言うべき相手だ。
タブラが処分・捕獲せよと命じない限りは、敬意を持って迎える相手である。
「モモンガさんならば上位までのアンデッドを定期的に召喚できるし、こちらに来るための実験中は『強欲と無欲』を装備して居た筈なので、アンデッドの副官も準備可能だ」
「確か……アンデッドの副官は代償と引き換えに最上級の存在まで召喚できるのでしたね。それならば信頼面でも戦力面でも援軍としてこれ以上ない御方かと」
プレイヤーが一人増えるだけでは無く、それに準ずる護衛を増やせるのは何より心強い。
同じランクの勝負であれば潰し合いは避けられないし、それを製造可能なアンデッドで代用できるならば一気に優位に立てる。
仮に『支配者』とやらがレイドボス級の格上であった場合でも、それらを犠牲にして情報収集や消耗戦を行えるのだ。まさにモモンガと合流できるかどうかで戦略も大きく変わってくる。
「それで……モモンガ様はいつごろの御到着なのでしょうか? ゲートを潜る前に動き出す気配が見受けられましたが」
既に来ている筈などとはアルベドは口にしない。
何しろユグドラシル終了時に転移したのは同じなのに、六大神も八欲王もタブラも出現まで時間がずれて居るのだ。
ゲートを潜ったのは僅かな時間とはいえ、どれほどの誤差が出るかは判らない。
「おそらくは百年か二百年後……。だとは思うのだけど確証は無いな。ワールドアイテムの保有数が鍵だとは思うのだけど、こっちにはコレがあるからね」
「タブラ様が手に入れられた、『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』ですか……」
それは行った事の無い場所へ移動する際に、大きなボーナスが掛るという効果を持って居た。
またランダム転移してしまった場合、最寄りの安全地帯に軟着地させてくれるレスキュー効果も所持して居る。
それゆえに世界の謎を追い掛けるギルドたるワールド・サーチャーズにタブラが協力し続けて、ゲーム終了間際にようやく手に入れた物だった。
「最初に転移した者が、都合良く人類救済を考えるとは思えない。となれば、何らかの引力があるだろう」
「それが最初に祈願した者の条件、人々の救済……。そこで願いの引力を使い切った、あるいは次の望みとして六大神とドラゴンロードを始末できる八欲王を呼び寄せた」
法国を警戒して近寄って居ない為、正確な資料を確保できて無いが、サイクルは百年単位だと考察されている。
ワールドアイテムがキーならば、二つと三つの差でモモンガ達は百年後のはずだが……。
タブラが目的地へ移動する引力を持って居る場合は、百年分前倒しになっている可能性が高いのだ。
所持二つが百年後というのがデフォルトで、三つは二百年後なのかもしれない。
「まあどっちでも我々の寿命からすれば関係ないと思うけどね。問題は動くのが間にあわず、ナザリックごと転移する場合。いやそれは良いか……。その場合は戦力の確保が楽になる」
「更に時間は掛ることになりますが、他の守護者もやって来るのであれば、むしろその方がありがたいとすら思えますわ」
それほどまでにナザリックの戦力は充実して居るし、時間の経過が問題にならない以上はそちらの方が理想的な展開とも言える。
……もし100レベル複数人で『支配者』に勝つのが難しい場合は、ナザリックないし他の拠点持ちプレイヤーを味方に付ける必要があるだろう。
「いずれにせよ、支配者が居るかどうかの確認が最優先だ。そして
「はっ!」
こうしてタブラ・スマラグディナは人間社会に融け込みながら、やがて来る機会を窺ったのである。
●それが世界の選択である
タブラが目指したモノを語り終えた時、モモンガは茫然としていた。
この地の支配者。もし世界運営にまで関わっているのだとすれば、創造主と言っても良いかもしれない。
果たして、そんなものが存在するのだろうか?
「ちょっと待ってくださいよ。支配者が居ると思った根拠はなにかあるんですか? まさか居た方が自然だからとか言わないでしょうね!」
「武技の存在だよ。タレントに関してはそれほど違和感が無かったんだけどね」
驚きながらもソレを形にしようとしたモモンガに対し、タブラの残滓は他愛なく口にした。
「最初は魔法の様に誰かが『二十』なり、<
「た、確かに『二十』ほどのアイテムを消費すれば可能そうですね。魔法システム導入なんかも五行相克を使えば……。じゃなくて、どこが妙だったんです?」
モモンガは強力なワールドアイテムの中でも更に特別な、二十と呼ばれる存在を思い浮かべた。
それらの幾つかをアインズ・ウール・ゴウンも所持していたし、PKやギルド戦争などで使用された例を見たことがある。
モモンガが口にした五行相克は魔法システムへの介入要求権であり、それか類似するアイテムを使用すればこの世界でもユグドラシルの魔法を使用出来るだろう。
タブラの説明で『何故自分がユグドラシルの魔法を使えたか、現地民が使えたのか』という疑問を解消したものの、ソレと武技を比較しても特段に支配者だとか創造主の介入を思い付くことは無い。
「いいかいモモンガさん? ワールドアイテムでの干渉は『全員』に共通するんだ。もしかしたら言語の翻訳も二十かもしれないけれど、魔法習得ルールなんかは決定的だ」
タブラが実験したところによると、マジックキャスターを数人レベリングしたところユグドラシルと同じペースで魔法を覚えたと言う。
「ここからが重要なんだけど、モモンガさんは武技を習得できたかな? ちなみに私どころかアルベドも無理だったよ」
「そういえば……てっきり戦士職専用かと思ったんだけど」
タブラはモモンガの反応に頷きながら、八欲王も覚えて居ないだろうと教えてくれた。六大神のころには無かったらしいが……。
「使える者の記憶を奪ってみたところ、訓練しながら重要な気付きをした時にフっと覚えるようなんだ。聖刻RPGよろしくクリティカルとファンブル時に経験値を割り振れるのかもしれないけど……」
「あの、聖刻RPGなんて知らないんだけど……」
タブラはモモンガのツッコミを無視しながら、話の結論を急いだ。
シズをベースにした記憶整理が始まっており、意識が混濁し始めたのかもしれない。……まあ、タブラは好き勝手に喋るのが好きなので、自である可能性も高いが。
「才能や偶然もあるのかもしれないけれどね。『彼らは』クラスチェンジやレベルとか抜きで、望んでいる種類の武技を覚えれるんだ。タンクならば<要塞>や<シールドバッシュ>といったようにね」
「現地民だけが武技を覚える……そしてクラスチェンジとかレベルアップ関係無しに?」
とても都合が良過ぎる。
ワールドアイテムで介入したのであれば、プレイヤーやNPCも覚えることが可能な筈だ。
クリティカルやファンブルした時に覚えるにせよ、防御系や知覚系の武技くらいは覚えてもおかしくないのに。
「ここまで恣意的なシステムは<
ワイルドマジックならば可能だとしても、現地民だけが修行によって取得できるというのは難しい筈だ。
よほどのMP(魔力)なりLP(魂)が必要で、細かい調整を考えれば相当の負担だろう。
ドラゴンロード級の存在の中でも随一とされるような存在でもなければ無理だろうし、そんな奴が居るとしたら支配者でも創造主でも好きな名前を名乗ることが可能だ。
「この世界の住民は基本的にカンストレベルが低いが、絶対ではない。もしカンスト解除された人間が居れば、異形種だけでなく人間種を含んだユグドラシル棲人すべてより強いだろうね」
「ユグドラシルでは一定レベル以上になると人間種の方が異形種よりも強くなるけど、それでも武技が加わったら勝てない……か」
あくまで同ランク、特化型でも10レベル以内という制限は付くが、現地民の方が強い可能性が高い。
連続攻撃はともかく割り込んで来るリアクション行動などは、ワールドチャンピオンでも無理だからだ。もちろん100レベルになるまでの経過クラス・スキルの中に似たような技があれば話は別だが、それだって一度か二度、武技は精神力次第で何度も使えるのである。
それにしてもユグドラシル棲人は無いだろう、まるで宇宙人じゃないか……と思うモモンガであった。
「それでタブラさんは確信……はしてないのか。調査を先行って事は。次のデータはゴーレムかビーストマスターの遺産で回収できると思って良いんですか?」
「多分ね。途中で消されたり転生する方法でも見付ければ別だけど。ルベドを作る研究中なのに、ワザワザ他のクラスを先に育てようとは思わないよ」
支配者が居るという可能性が高いと踏んで、タブラは調査を開始する。
居るかどうかも判らない相手の調査は時間も掛るし、戦力として新クラスの育成をするのも時間が掛ると予想しているようだ。
それらの技術の成果をまとめてルベド作成に注ぎ込んでいるとのこと。
「判りました! 俺たちアインズ・ウ-ル・ゴウンの冒険は始まったばかりと言う事ですね!」
「ん。……時間か。再開の日を……楽しみにして……いるそうです」
語りたいという欲望をタブラの残滓が吐き出した為か、記録装置があるから何度でも修正できる強みがシズにあるためか。
記憶の整理と共に言葉はあやふやになって行く。
消えゆく友人にすがり付きそうになったが、シズの貌に戻って居ることと、タブラの残したデータは他にもあることは判っているのでモモンガは少女に抱きつく運命を回避する事が出来た。
こうしてモモンガに新たな目標が生まれたのである。
という訳で、第一章終了となります。
最初は一話からタブラさん視点で二・三話の短編で終わろうかと思ったのですが
捏造地域の設定とか、NPCと二人旅というネタを混ぜて、このショートキャンペーンを始めた感じです。
以下、勝手な考察に捏造設定を山盛りして居ます
●転移時間の順番
基本的に六大神・八欲王・その他という順番は公式通りなのですが
1:一番最初に、望んだ結果が来ている。引力が存在する
2:ワールドアイテムを呼ぶのは時間が掛る。斥力が発生する
という考察の元に、六大神は救世主として目標地点に呼ばれた。
次にワールド職持ち、ワールドアイテム一個持ちが来た。または始末屋として欲深な連中が来た。
みたいな考察を付け加えています。
●支配者あるいは創造主
最初にプレイヤーを呼んだのは、救済を求める何者の声。方法はワイルドマジック。
その後は単純に、余波で呼ばれているだけ……という考察が最初なのですが
八欲王が始末屋で、六大神とドラゴンロードを処分して、世界を平和にミニマムで安定化させようとしていないか?
武技は便利すぎるだろう! という考察の元に、支配者・創造者級のドラゴンロードが居るのではないかとしています。
タブラさん視点で語って無いことですが、ラノベにおける世界の創造方法は二種類あり
・植木型(移植・漂流)世界
・隔離型(内包・融合)世界
の二種類あって、後者に分類される世界感では
任意の能力・クラスなどを、気楽に取得・ランクアップすることができるので
怪しいと予想している。
と言う設定にして居ます。
その辺の検証も兼ねて、ゴーレムニストやビーストマスターという新クラスを育成。
まずは
いずれにせよ、第二章のストーリーを思い付くか次第なので
第一章で一応の完了。男坂エンドとなります。
(やるとしたら、新街以外の都市設定を思い付いて、オバロらしさを混ぜられると思ってからになります。
その時は多分、アルレッキーノとかパンタローネというゴーレムとかボスに出て来るのかもしれません)