彼らのルネサンス 作:ノイラーテム
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●地下遺跡へ
町中に侵入したレイスを見付け出すと言う名目で、モモンガは探知する為に探査魔法を公然と使う名目を得た。
当然ながらアンデッドの探知には魔法を使用する必要が無いので、無詠唱で隠し部屋の探査を行っていく。
「シズ。何種類かの探査魔法は使用するつもりだが、気が付いたことがあれば遠慮なく教えてくれ」
「はい」
探査魔法に寄る探知は万能ではない。
例えば隠し部屋を把握するのは、一定サイズの大きな仕掛けには反応しない。
また最奥の間まで安全に通れる道を把握するブレス・オブ・ティータニアや、ナザリックを攻略する時に使った類似の魔法も、条件が関わるので常に正解を導き出せるわけではない。
一つのダンジョン扱いならまだしも、別物扱いだと魔法が機能したとしても何度も掛ける必要があるし……。そもそも最奥の部屋では無く途中に隠された財宝部屋が目的だと意味が薄い。
「隠された遺産か…。本当に『大錬金術師』ラピス・フィロソロムがタブラさんなのかで、必死に捜索するのかが変わって来るんだけど…。既に出遅れてるしそのつもりの方が良いな」
タブラとアルベドが数十年前に訪れて居る場合、もう出えない可能性がある。
ゆえにその可能性を否定し続けてきた結果、遺産を巡る争いに関して出遅れてしまった。もし本当ならばこれ以上遅れて流出させる訳には行かないし、考察するにしても念頭に入れておかねば全体像を把握する事が難しくなるだろう。
(賢者の石ラピス・フィロソフォルムを手に入れたら叡智が授かる。そこは良い)
レイスを探し歩くフリをしながら、モモンガは幾つかのステータスUPアイテムを想い浮かべた。単独で強化するアイテム、複数が上がるアイテム、一点突破で大幅な上昇をするが他が下がってしまうアイテム。
そういった物を用意するだけで十分に可能だ。ここまでは問題が無い。
(だけど知性が上がるだけじゃなくて、自分の分野にも活かせるような知識や閃きを得ることが出来る。…そんな都合の良いことが可能なのか?)
可能だからこそ、『大錬金術師』ラピス・フィロソロムの遺産を巡って争いが起きている。
アイテムで能力を上昇させる場合、一定の有効性と限界が存在する。知性を上昇させるアイテムであれば賢くなりはするだろうし、研究者が元々研究して居る分野ならば確かに多くの成果を得ることが可能かもしれない。
だが…その時点を契機に、次々と開発に成功するほど劇的であるというのがどうにも解せない。
むしろ…他の状況になってしまったのだと思わなくもない。
(可能性の一つ目は本当にそんなアイテムがある…レベルが大幅に上がって今まで不可能だったことが可能になっただけとか。二つ目はタブラさんが『あの』スキルを使ったってことかな)
前者は耐火の魔法を炉に掛け続けることが可能になったり、炉の中の反応を数倍の速度で早めるなどだ。高レベルプレイヤーなら児儀でも現地の錬金術師では不可能なのならば、適当にレベリングするだけで済む。
そして後者…タブラ・スマラグディナの持つスキルの中でも、代名詞的なスキルが二つある。
それは他者の脳を吸って特定のスキルや魔法を奪うモノと、他者に自分のスキルや魔法を植えつけるモノ(汎用のスキル・魔法だけで、奪ったスキル・魔法は叉貸しできない)。
これらのコピースキルこそが彼の能力を幅広く、かつ特定分野に高めさせていた。
(違う可能性はあるけど、ここはあれを使ったと思って考えてみよう。そうだと仮定するなら今回の件に合致するからな)
叡智を授かるのは都合が良過ぎるが、タブラの一部を植えつけられているならば話は別だ。
そこに至るまでの体系的な知識を持った人物が訪れることは彼にとっても利益だし、その能力をコピーさせてもらう代わりに何らかの能力を授けて居るならば筋は通る。
ゲームの中でこそ知識はスキルや魔法のコピーに過ぎなかったが、現実化する事でタブラの知識や考え方までインストールできるのであれば、確かに様々な発明をすることが可能になるだろう。
(タブラさんはルベドの開発(?)に必要な知識を得られるし、現地民も知識やレベルが手に入るしウイン=ウインだよな)
まあそれはタブラ化するのであって、元の本人の自我が無くなっている様な気もするのだが…。
故人の遺産を使って自分の研究を進めようと言う奴に同情するつもりはなかった。
叡智を求めた結果が、叡智その物に成り果てるのならば本望だろうと思っておく。
「モモンガ様。そろそろ全部回る」
「すまない。考え事をしていた。報告に行くとするか」
歩いている間に色々考えが飛んだ気がするが、その分だけ整理する事ができた。
目的は一つにまとめられそうだし、今は地下遺跡の探索に専念するとしよう。
「もしかして
「ええ、そうですよ。この辺りは元もと砂州ですので、洪水や地震の影響で地面が下がっていったのと補強をし続けた結果みたいですね」
パトロールの報告ついでに反応があった場所を尋ねると、依頼人(使い走り)の男が説明してくれた。
頭の中にメモをしておいて重点的に調べる場所に決めておく。
そして余計とは思いつつも、更に一つ尋ねておくことにした。気が付かなくて失敗された場合、結果として自分の評判も落ちてしまうからだ。
「そういえば自分は探査魔法で広域を探知してますが、新しくやって来る奴対策はどうしてるんです? 町に入り込んでるのを殲滅しても新しいのが来たんじゃやり直しですけど」
「アンデッドの気配を調べられるタレント持ちをルート上に配置してますよ。そいつ自身は強く無いのと、特に広くも無いんで決め打ちするしかないですがね」
なんでも常時知覚できるのが売りらしく、町に来る為に必ず通る場所の警備を任せて居るとか。
そいつの護衛を兼ねてレイスに攻撃可能なマジックキャスターを付けているので、追加でレイスが増えることはないそうだ。
モモンガは普段から身に付けている探査防護の指輪を見ながら、あぶないあぶないと溜息を吐いた。
(タレントというのはクラスのパッシブ能力みたいなものかな。生まれ持っての才能みたいで選べない様だけど、他と併用できるのってズルイよな)
自分は現地の住人と違って100レベルという遥かに強大な能力を持っているのだが、そこのところを棚にあげてタレントを羨ましがるモモンガであった。
「レイスの移動は基本的に生前の常識に縛られてますから、その体制なら問題なさそうですね。自分は地下の巡回に加わってから、念の為にもう一周外を回ってみます」
「そうしてくださると助かります。既に何体化か撃破したというならもう大丈夫だと思うんですが」
タレントに付いてもう少し聞きたいが、今は
パパっと回ってレイスは既に倒してしまっているし、『じゃあここで終わりにしましょう』などを言われては困るからだ。
魔法知覚の眼を飛ばすにしても姿を隠してコッソリ回るにしても、出来る限り肉眼で回るにこしたことはない。
そうしてモモンガは旧市街地にある公会堂の中へ赴く。
そこに入口の一つがあるからなのだが、祭礼に使う場所だそうで案内板があるか案内人でも居ないか期待しているのもある。
●
以前に公会堂に訪れた時、シズが気が付いた隠し部屋は
言われてみれば祭礼を行うにしても、遺族が一時待機するにしても丁度良い。年月が経つ前は旧市街地の中心だったのだから尚更だろう。
普通に使う場合は墓地の入り口が見えるのは不景気なので、隠し部屋になっているというのも理解できた。
しかし、理解不能な事もある。
「最初の部屋こそ綺麗だったけど、これってまさか……」
「骨の柱」
そこに在ったのは地下階を支える壁を補強するかのように、ビッシリと積みあげられた骨たちだ。ダンジョンのように路が形作られてはいるが、それぞれに丈夫な壁と無数の骨が積まれていた。
建物の残骸が時々見えるのは当然のことながら、アンデッド化を妨げる為だろう聖属性を感じさせるアイテムが配置してある。
全体的にも荘厳なイメージになるように構成されており、骨の塊でありながら恐ろしさを感じはしなかった。しかし…。
「そりゃ災害の後だから余裕が無いのも判るけど…。これじゃあまるで死体を利用してるみたいじゃないか」
不思議と冒涜しているとか不敬ではないかと言う気もしなかった。
精神までアンデッドになっているのか、そういったことは倫理的には気になることはない。
「なんだ気に入らないのか? 人間、死ねば同じだぞ」
「いえ、効率的だな…とは思います。ただ、自分の家族がこうだったらと思うと、ちょっと考え込んだだけです」
不意に掛けられた声は以前に見た聖騎士崩れだ。
あの時に見た中で最も個人戦闘力が高く、アンデッド探知も可能なので
もっとも、ぶっきらぼうな皮肉屋で性質の合う小人数だけで固まったグループとのことから、単に隔離されていると言えなくもない。
「それはまともに向き合えた奴の言葉だな。戦禍に襲われたら自分が生き延びるので精いっぱいだ」
「判るつもりですよ。親と材料が区別付かなくなった友人が居ますから」
ちょっとした事故で親が死んだと聞かされ、死体はというと『あの中のどこかだ』と言われて回収も不可能だったそうだ。
モモンガが友人のことを思い浮かべて居ると、聖騎士崩れはそれ以上何も言わなかった。
もしかしたら彼の親もそんな風に死んで、死に目に会えない状況だったのかもしれない。
「俺たちもこの辺を巡回しますね。まだの場所とか…あと不埒なやつが穴を開けた場所があったら教えてください、簡単に塞いでおきますので」
「教えてやらんこともないが、余計なことは止めておけ。連中は知識を得る為ならば何をやっても許されると思っているからな」
実際に塞いだ壁を破り直して侵入した例もあるらしい。
モモンガは苦笑しつつも侵入者たちの事を笑えなかった。ユグドラシル時代はゲームだったとはいえ、今度は自分も手を染めるつもりだからだ。
「シズ。大丈夫か?」
「覚えた」
「ほう…随分と頭が良いお嬢ちゃんだな」
シズが珍しくアクセサリーを弄りながら記憶して居たので、なんとなく察する事が出来た。
おそらくアクセサリーに見えるが記録装置の類なのだろう。シズは人間に見えるが
「俺だと場所はともかくルートまでは無理ですからね。自慢の子ですよ」
「むふ~」
「……」
娘自慢には付き合えないのか聖騎士崩れは巡回に戻った。
まあ任務だから情報の交換をしただけで、本来は人付き合いの良い方では無いのだろう。モモンガの記憶ある聖騎士とは随分と違うなと思うのであった。
「さてと外郭…というよりは、もっと地下へ潜る場所を見つけないとな」
「ここ違う?」
シズの言葉に頷いてモモンガは明かりに照らされ荘厳に見える場所を指差した。
「ここはあくまで他人に見せる為の場所なんだ。公会堂から降りた場所にあったエントランスと変わらないよ。あっても監視装置の類かな」
遺族が降りて来て故人を偲ぶ為の場所である。
バチ当たりとは思わないが、第三者に見つかる可能性は高いし隠せる場所も限られてしまう。この層にあるのだとしたら、とっくに全て見付けられているだろう。
「だから本命は洪水や地震の度に埋まって行った町の方。遺族に紛れて地下に降り、コッソリそっちに入って研究する場所って感じかな」
「…と言うことは…こっち?」
一応は埋まってしまった町の方へ降りる場所もあるのだという。
そこを目指して整った墓所では無く、建物の残骸が多い場所を探して歩く。
何しろ上に建築する時は徐々にやっているわけだし、町全体の補修が一気に済むはずがない。更には地下で何か起きた時の為に確認できる方が良いわけだし、
「それらしくなって来たな。あとは本命が隠されている場合に備えて、時々探査魔法で探知して行こう。…もし本格的なダンジョンだったら要警戒だぞ」
「はい」
現時点では町の遺跡を利用して居る形だと思っているが、場合によっては<
その場合は本格的なダンジョンを作っている可能性があり、危険度は相当に高いと思われた。
結果としてはその中間であり、埋もれた町を発掘して再利用した疑似ダンジョンが待ち受けて居たのである。
●新たな生命
下層区画への路を発見したモモンガ達は場所を記録し、一度地上に引き揚げてから無駄とは知りつつも外の探査に赴いた。
そして一仕事終えてから、問題個所を何度か魔法で確認して居る。
「そろそろ良いか。戻ってくる気配も無い様だしな」
モモンガ達は念の為に意匠を変えてから記録した場所へと転移する。
下層区画の扉を越えて暫くは代わり映えの無い…残骸を補強したような光景だった。
それが変化していると理解できたのは、埃や砂が薄くつもった中で侵入者の痕跡を見付けてからだ。入って行く足跡と出て行く足跡の数が合わないらしい。
「モモンガ様。こっち」
「御苦労。だが気をつけろ。全員分の足跡が無いと言うことは、それなりの防御体制のはずだ」
シズがソレを見付けたのは、深い位置にある割と大きな建物痕だった。
外から見れば土砂で埋まって使えない様に見えるが、シズに言わせるとそう見えるだけで入り込めるとのことだ。
建物の構造材も頑健で、特に補強しなくても使えることから入り口として流用されたのだろう。
不謹慎だが犠牲者が出て居ることを知るとダンジョンらしさを感じる。
罠とモンスターによる防衛体制を警戒しながら潜りこむと、今までよりも圧迫感を感じる。同時に湧き起こる高揚感がゲーマーとしての気分を思い出させてくれた。
「…何か引きずった跡がある」
「奥へか? ならば邪魔になる侵入者を片付けたと考えるべきだな。となるとスライムやアンデッドよりも知性を与えたゴーレムや妖精・妖魔の類かな」
久々の冒険らしい冒険でモモンガは実に楽しくなっていた。
「錬金術師が関わるならホムンクルスという考えもあるか。全く…死体は情報を語ると言うが、一つ一つの情報から全体像を組み立てて行くのはゲーマー魂を刺激するな」
「モモンガ様…忘れたら駄目」
ちょいちょいとローブの袖をシズが引いていた。
忘れるなとちょっとした自己主張だが、最初は何のことか判らなかった。だが暫くしてシズの種族に思い至る。
「なるほど。
「ん」
過去の大錬金術師がタブラであるという予想をしなかったために、大いに後手に回っていた。
その反動か想定の殆どを、タブラが黒幕でありモモンガにメッセージを残しつつ研究を進めている物だと考慮してしまっている。もちろんそれ以外の考慮もする訳だが、どうしてもその方向に考えが流れてしまうのだ。
もっとも、タブラであるという前提に立てば話の筋が立つのも原因ではある。
倫理的に問題あるから新しい異形種の研究をするならば見つからない場所で行う必要性がある。…そこに不便と同居する形でロマンとしての秘密基地を楽しむのだ。
体系だった知識が欲しいから、定期的に自分の知識を餌さに賢者たちを呼び寄せてそれらを喰らう。…知識を交換した賢者は新しい餌さであり成果として世に研究を広める。
指を折りながらそう思考をまとめて居た所で、奥の方から近づいてくる影が見えた。
「…シズ。数を減らすまで魔力弾の使用を許可。後ろのガラクタは任せる」
「はい」
モモンガはどんな奴が近づいてくるのか確かめるのと、足を止める為に前に出た。
一撃は回を迷うだけの見た目と急接近するだけの性能を持ったのは一体、後は見た目からして研究途上だ。
「っ加速した? さっきのは様子見か、それとも時間制の強化か。<
モモンガは能力値を増大させる魔法と念の為に一定率で物理攻撃を軽減化する魔法を使用。
相手の加速状態に付き合うフリをしながら、ひとまず突破を中断させた。
まずは小剣を掲げて相手の手を防ぎ止め、防げない攻撃は籠手で勢いを反らせながら何者かを確認しておく。
「鉄爪? ホムンクルスや
なめらかな加速があった段階でモモンガはゴーレムであるという仮定を捨てる。
確かに高性能のゴーレムならば加速は簡単だが、もっと直線的で強力な加速であることが多い。
剣技や拳技を導入しようとしたこの動きは、直線的なゴーレムでは不可能だからだ。高度な知性を持たせたとしても得意傾向から違うだろう。
そして闇を照らす光弾が飛び交い、後続の異形が沈黙して行く。
数発飛んだところで前衛の敵は切り結ぶのを止め、一度距離を取って一撃離脱を繰り返す。
「それなりに学習能力があるようだが判断力がまだ甘いな。攻撃が通じてないならば情報を持ち帰るべきだ」
敵の数が減った段階でシズは貴重な魔力弾から、実体弾のフレショットに切り換えて居る。
彼女にはその判断ができるし、目の前に居る個体がホムンクルスにしても
完成品の極致であるNPCと比較するのも可哀想かもしれないが、開発途上の品を侵入者対策に当てただけと思われ貴重な資料とは思えない。これならば倒しても問題無いだろう。
「さて、防具と無効化の区別が付かない哀れな子よ。ここまでだ」
モモンガは籠手というよりは上位物理無効の力で防いでおり、今度は受け止めることを完全に止めた。
爪のモーションに合わせてカウンターを決め小剣を相手の肩にめり込ませる。すると硬質な感触の後、僅かに遅れてナニカを断つ反応がした。
しかし動きに急な変化は見られず、腕一本が動か無いことによるバランスの変化による能力の低下しか窺えない。
「肩が動か無いほどの裂傷を受けて躊躇どころかダメージによる能力劣化なし。決まりだな、シズが正解だったか」
格闘戦を教え込んだホムンクルスの場合、人間の戦闘を参考可能なので強くさせ易いが、攻撃を受けると出血や筋肉の断裂で能力が下がるところも同じだ。
それを考えれば
「さて、どの魔法で仕留めるかだが…。参ったな、崩すとマズイから強力な魔法が使えない。面白いシチュエーションだ…フフフ」
上位物理無効化Ⅲがあるため、相手の攻撃はレベル的にモモンガに届くことはない。
しかしこちらの攻撃は強力過ぎる物と、
強力な魔法を使ってこの地下遺跡が崩れても困るし、かといって白兵戦では格上を倒す程の能力を持って居ない。…正確には倒せるように『成る』魔法が無いでもないが、100レベル相応の戦士だとやはり一撃で地下遺跡を破壊しかねないのが難点だ。
「仕方無い、効率悪いけど魔法を収束化させて倒すとしよう。<
モモンガの腕に絡みついた白い光が、急速に小さくなって指先から閃光が生じる。その瞬間に一直線に閃光が迸って、
<
まさにこんな時の為の魔法だが、単体魔法と比較するならばMP効率的には最悪である。とはいえ他に方法は無いのでまさしく仕方の無いことではある。
「よし、撃破したな。この火力ならば壊れた体を調査できると思うんだが…」
「モモンガ様、少し先に上に空洞。…っ!」
破壊した
退避行動を行うよりも早い反応が、その空洞からやって来た。
こちらの行動に迅速な対応出来る当たり、落下物を仕掛ける罠などではありえない!
飛来した幾つかをシズが叩き落として、更に念の為に仕掛けておいた<
元のレベル差や遺産級である防具もあり、カスリ傷にまで留めて居た。
だが…これはモモンガが初めて受けた傷である。
「くおっ!? これが痛みか。ハハハ、素晴らしいな。上位物理無効化を突破できる作品ということだ。素直に称賛しようじゃないか」
神話級の防具に身を固めれば全く通じないレベルだが、遺産級ならばギリギリ突破できるレベル。先ほどの個体を囮に情報収集して待ち受け、シズが探知・報告した瞬間に行動する判断力を持っている。
敵として見るなら微妙だが、味方の研究成果として見るなら実に頼もしい作品であった。
「戦う前に尋ねるとしよう。君はラピス・フィロソロム…いや真なる大錬金術師タブラ・スマラグディナの作品なのかね?」
『相手が誰であれ、試す様に仰せつかっております』
その言葉をモモンガはタブラの伝言なのだと判断した。
実際にはラピス・フィロソロムという錬金術師の遺産がこの奥にあると思わせて置いて、洗脳するアイテムがあることを隠した言葉なのだと推測する。
誰がどう応えても奥に誘導する為の言葉であり…同時にモモンガならば、そのアイテムの真価を引き出せると信じた言葉なのだと、受け取っていた。
「では採点と行こう。…シズ、手を出すなよ」
「はい」
上位物理無効化Ⅲを突破した時点でレベル60を越えて居る。
シズは実力的に対抗しえないし、狙撃しようと待ち構えるにもこの状況では少々難しい。
また範囲攻撃でモモンガごとという手段を取ると、先ほど苦労した様に周囲を爆破してしまう可能性の方が高いだろう。
「大人げないとは思うがレベルが60台で70目指してるならこれだよな。<
モモンガは時間の停止した中で後方に移動しつつ、楽しげに先ほどの
時間解除した瞬間に直撃する筈なのだが…。
そして即座に反撃に打って出ておりナニカが飛来して来る。
「やるなあタブラさん。時間対策が不可能と悟った時点で、知覚系だけ先行して実装したのか。それと…こいつは銀糸みたいだな、面白い武器だ」
見えない筈の攻撃を避けたということは、時間が止まった中でも見ることだけは出来たということだ。
もちろん四方八方に目があるだけの可能性もあるが、何らかの手段で停止中の時間を見て居ると言う方が対処し易いだろう。
自身に絡みつくミスリル銀製の糸ノコギリを掴みながら、痛い痛いと感心して居た。
「格納型の腕が四本で足は最初から四本。腕は奇襲用かな? ここに来る奴はシーフやマジックキャスターの可能性が高いだろうし、それで十分なんだろうけど」
ミスリル銀製の糸ノコは
指一本一本から生えて無いのは、腕の筋力依存なので指ではダメージを出しきれないと判断したのだろう。
とはいえこの程度の武器を握りしめたとしてもモモンガの指が落ちる事も無い。1ダメージを積み重ねてもたかが知れて居ると言える。
「さっきのが40台で、こいつが60台強として、次のランクが愉しみだな。そしたら俺でも危険かもしれないし、その時は地上で戦わないといけないや」
「…モモンガ様」
心配そうな顔でシズが見つめて来る。
このくらいで倒され屋しないよ…と言おうとして、一言付け加えておくことにした。
「心配しなくてもシズを置いて行きやしないよ。シズは友達の娘、つまり俺の親戚同様の大切な存在だからね」
「ん」
その言葉を掛けた瞬間に、シズ恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
…自分よりも強い同族を見て、それでもタブラに置いて行かれた同族を見て、自分もまた捨てられるのかもしれないと心配して居たようだ。
「そろそろ倒して奥の研究室を確認しようか。<
モモンガは停止解除と同時にもう一つ放った。
先に掛けた
追尾性能があり避ける事自体が困難であった。
するとどうだろう、
防御すら捨ててこちらに向かって来たのだ!
「まあ無駄なんだけどな。おやすみ」
モモンガが魔法の矢に遅れて、停止解除と同時に放った魔法は足を遅くする為の魔法だ。
戦闘経験上こういったガーディアンは生命(?)と引き換えに倒そうと突撃して来ると看破していたので、予め進路に放っておいたのである。
そこには手術台と作業台を兼ねた物があり、キマイラから採ったらしき生体パーツや、モモンガには理解できない機械類もある。
そして…恭しく飾られた宝玉の様なモノが飾られていたのであった。
「ビンゴ! これユグドラシル時代でも見たけど、タブラさんの一部じゃないか。エグイよなあ…知識を求めてこれを自分の体に取り入れたら、タブラさんになるんだぜ。まさにタブラ化されるってやつだ」
ちっとも笑えないギャグを入れながら、モモンガは宝玉を取り出した。
それは良く見ると、ドクドクと脈動しており生命の輝きが窺えたのである。
こうしてモモンガ達は地下遺跡を攻略し、ラピス・フィロソロムの遺産…いやタブラ・スマラグディナの伝言を手に入れたのである。
どんな宝よりも失われた仲間との絆を手に入れたことは、モモンガに取って何度鎮静化しても収まらない、深い満足感を与えてくれたのだった。
と言う訳でタブラさんが過去に訪れて居た証拠を手に入れて遺跡探索は終了。
第一部はモモンガさんが、現地で何が可能か理解し、現地に順応し、目的を見付けるまでなので順当に第一部完了です。
(捏造地域を設定し、捏造地域で冒険してみるまで……ですので)
タブラさんが何をしていたかは、次回のタブラさん外伝で確認。何が起きているのかとかを補完するパート予定。
思い付いたらタブラさんを探す第二部、ないし連れて行ったのがシズ以外だったら? というストーリーをやってみようと思います。
知識を手に入れるつもり → 知識を持ったナニカに汚染される → 知識その物になってしまう
というホラー系のネタを取り入れてみました。
ブレインイーターに知識を奪う他、他者に植え付けるというスキルがあるというのは捏造です。
ですがコピー系スキルを持ったクラスの中には、一部のスキルを限定的に貸し出すというスキルもあったりするので、問題無いだろうとして見ました。
つまりタブラさんは自分の錬金術系魔法を他人に貸し出すことで、ラピス・フィロソォルムという賢者の石があるとしていた訳です。
それを餌さに色々なタイプの賢者を呼び寄せて、自分には無い発想や、ゴーレム魔法だったりビースト調教方法とか手に入れて居た模様です。
●コピースキルの長所短所
・コピーできるのは汎用魔法・汎用スキルまでである
・コピーした魔法・スキルが消費型である場合、当然消費した瞬間に消える
・コピーした魔法の叉貸しは出来ない
・自前の拡大魔法・スキルと組み合わせることは可能
・自前の汎用魔法・汎用スキルを貸し出す事はできる
(ここで言う自前とは、ブレインイーターを除く大凡70レベル分で取得した魔法・スキルのこと)
●地下遺跡と
砂州に造られた都市の、何度も洪水や地震で沈下して行った旧市街区に遺跡がある。
何度も上に町が作り直され、その都度に蓋の下では何層もの階層が拡がって行った。
当然一層毎は狭いし、いつ崩れるか判らない。
この地下遺跡の中で、まともに移動できる・何かを置いておく事が可能なエリアをダンジョンというか、研究室として使っている。
人目に付く事無いので非道な実験も可能で、かつ自爆装置で全てを隠蔽可能な秘密基地であった。
ネタとしてはモモンガさんが全力を出すとアッサリ終わるので、全力出したら危険な所にダンジョンを設定してみました。
それでも第三位階縛りを無視できるとか、上位物理無効・防具の性能もあって楽勝なのですが。
第一の
爪で戦うタイプで斥候であり、現地レベルに合わせた捕獲役。
40レベルほどで、内部機構に色々な装置が搭載されており、手が壊れても問題無く戦い、足がもげても問題無く移動できる。
第二の
トドメ役というよりは本来は手術用。四本の腕で医療キットや工具を持ち、タブラが脳味噌を吸い出したり、タブラの欠片を植え付けてしまう役目を持っている。
医者という役柄を持っているが、それ以上の事はできない。
ただし知性を持ち、手下どもを使って包囲網を作ったり、待ち受けて罠を張ったりは可能。
67レベルほどではあるが、四本の腕にミスリル銀製の糸ノコ、アダマンタイト製の医療ナイフといった火力の低い武器を持ち、戦闘用というよりは実験過程であり手術補助用でしかない。
なお、名前は即興演劇から医師の役柄を選んだものである。