彼らのルネサンス 作:ノイラーテム
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●情報の伝達者
モンスターを狩りながら人前で振る舞う練習を終え、モモンガはさっそく名前を売ることにした。
再び傭兵ギルドに訪れて、情報収集を兼ねて手っ取り早く名声を広めてくれる相手を探す事にしたのだ。そうしておけば、自分を雇う時に気にして居る事(人前で食べない・錬金術師の情報)などを少しずつ広めてくれるだろう…と。
「この周囲の駆逐・素材収集目的で一時的に組んでも良いパーティや、条件次第で同行しても良いという個人の方は居られますか?」
「申し訳ありませんモモンガ様。生憎と個人しか居りませんが、その場合は条件を決めて頂きませんと」
モモンガはゲームの中での冒険者ギルドを思い出しながら比較してみる。
美味しいクエストは特殊発生型になるため序盤くらいにしか使わなかったが…。この手の丁寧な受け付けは何処にでも居るんだな~と思いつつ、荒くればかりじゃ仕方無いかと思わなくもない。
血の気が多い者ばかりだとせめて受付くらいはへりくだらないと喧嘩が絶えないのだろう。
「なるほど。だいぶペースが戻って来ましたので、ちょっと遠出してみたいのですが…。素材収集を任せられる方、ベースキャンプを任せられる方であれば特には」
モモンガは大きな勘違いしているのだが、ここまで丁寧なのも『組める人が居ない』というのも彼が第三位階までの魔法を使いこなして居るからだ。
荒くれ者である傭兵達の中で、『少しは』や『使える』というニュアンスは本来の意味とは違う。
可能か不可能かではなく、可能な者が集まっている中で『使いこなして居る』かどうかが重要なのだ。第三位階に到達するのが精々なマジックキャスターが多い中、安定して第三位階を使える魔法剣士が居たらソレは英雄である。
ここ数日のハントだけで、その実力が本物と判って居る為におのずと釣り合う相手が絞られてしまう。
「モモンガ様と同等では無く、あくまでサポートという条件であれば合致する者は多いと思われます。次に報酬の分配条件をお願いします」
「そうですね。矢やポーションに食料と言った必須の消耗品をまず経費から差し引いて、残りをそれぞれの分担に対応して分ける形で問題ありませんか? もちろん金の代わりに素材を割り当てても構いません」
モモンガがユグドラシル基準の条件を提示すると傭兵ギルドの受け付けは恭しく頷いた。
理解されないことも多いのだが、消耗品の出費が自己負担というのはあまり喜ばれないのだ(前金が多い場合や最初から高額分配の場合は除く)。
経費を計上すれば矢やポーションを使っても損が出ないのであれば、ベースキャンプを守りながら素材加工するなど容易い。
「少々お待ち下さい。現在フリーの傭兵の中で、それらが得意な者を見繕って連絡いたします」
「短い間であればそこの宿にお願いします。時間が掛る用でしたら指定日に来場しますので」
受け付けは良心的な雇用主であるモモンガの為に、信用のおける傭兵を選ぶことにした。
獲物を誤魔化さないのは当然ながら、素材の説明ができる相手を見繕ったのである。
紹介された名簿の中から適当に名前のABCで選び、それぞれに収集している素材が違うということだけ重視しておいた。
「アーダベルトだ。楽器や人形に使うストリングを主に集めている。そっちのは鉱石を集めてるブルーノと、薬草のカミロ」
「モモンガです。暫くの間、御世話になりますね」
一番の古株であるアーダベルトという男が、三人を代表して挨拶して来た。
握手を求めて来るような親しみは無いが、雇用主として一応の敬意を払うと言った風情である。
「カミロです。今回はなかなか行けないところまで入れるって聞いて参加しました」
「ブルーノです。モモンガさんと御一緒できて光栄です」
「敬語は不要ですよ、お二人とも。まあ中々抜けない自分が言うのもなんですけどね。…シズも御挨拶を」
「ん。…シズ」
そんな風に挨拶を交わし合い、装備や得意傾向を把握してから打ち合わせに入る。
アーダベルトとブルーノが白兵・射撃の両方、カミロが純射手なので中々良い感じのバランスであろう。
「あんたが大将だ、好きに方針を決めてくれ。こっちは自分が集めている物を回収できれば文句を言うやつは居ない」
「この辺りに来たばかりなので、色々知りたいと思っていたところです。みなさんの収集品を集めながらグルっと行きましょう」
一番の年配であるアーダベルトが促すと、モモンガは簡単に方針を決めた。
なにしろ彼らに自分を印象付けつつ情報収集が目的で、付き合う時は何を基準にすれば良いか何をしてはいけないかを理解してもらうだけだ。
その意味では特に行きたいところなど無いとも言える。
「やったあ! 念願の目的がようやく果たせるかもっ」
「いい加減にしろ、雇われてる身でそこまで自由にする訳にはいかないだろ」
「良いんですよ。…もっとも、どんな薬草があるのかとか鉱石の種類とか教えていただきますけどね」
どうやらカミロと言う青年は楽天的で、ブルーノの方は真面目な気質であるらしい。
全員がアーダベルトのようにプロフェッショナルの傭兵と言う訳ではなく、どことなくイメージしていた冒険者に近い感じがした。
あるいは受け付けが自分の注文を覚えておいてくれて、収集家を重点に探してくれたのかもしれない。
…実のところ収集可能な者と、得意な者では随分と開きがある。
戦闘も可能で収集が得意な傭兵も居るには居るが、名前の知れた者はどこかの家にさっさと所属してしまうのでフリーではないとも言えるのだが。
いずれにせよ三人を含めた五人構成で、素材収集を兼ねたハントを始めることにしたのである。
●冒険の旅
その辺りをグルリと言っても、流石に方向性は決まっている。
街道周辺はキャラバンを組む家の傭兵が担当して居るし、フラリと現れるような奴は中堅の連中が賞金目当てで倒しに行っていた。
となると素材が取れる山間の森などに、モンスターを狩りながら突き進む。
「この辺りの都市はそれぞれ開拓によって成立してて、大きな問題を解決するために集まった者で固まっているんです」
「ああ、それで大きな家が赤土とか緑の森をさす名前なんですね」
一番古いのが赤土の大地を開拓したテラロッソが率いる赤の家、次に湖周辺で拡がったが死霊都市になって滅びたラーゴブルの青。
滅びた青の家を吸収したことで最大になったものの、急激に増え過ぎて扱いかねている森と水利のフォレスタヴェルデの緑。
そう言った大きな家が九つほど当時の主要産業を率いて勢力を為し、この都市で拡がり始めた旅芸人や傭兵を束ねるのが、最も小さい灰色のグリージョらしい。
「旅芸人の話は仮面に付いて色々尋ねましたが、傭兵の方はやっぱりアンデッド対策で?」
「半分くらいはそうですね。人が行けない場所が増えてアンデッド以外のモンスターも増えちゃいましたし。後は…貿易港として使い始めたからかな」
まずは薬草が収集できる森を選んだためか、それとも生来の気質かカミロは良くしゃべる。
こちらの事を聞いてくれれば自分に関するフェイク情報を話せるのに…と思いつつ、情報収集に丁度良いのでモモンガは相槌を打っておいた。
(なるほど。他所の国の情報を集めるなら、ここの都市は結構当たりだったんだな。街道沿いの都市とどっちにするか悩んだけど…。これならタブラさんの情報も集められるかも)
街道沿いの都市を牛耳るメディシナジャッロの黄家は、薬の行商人や錬金術師が沢山抱えて居るらしい。
家が扱うのは主要産業なだけで全ての薬師や錬金術師が所属する訳ではないらしいが、気になるとしたらそこの街だろう。
そんな風に暫く移動したところで、先頭を行くシズが足を止めた。
「モモンガさま、敵。十から最大でも二十」
「獣かな? 話の通じる亜人だったら脅して他所の都市に行けと言っても良いけど」
モモンガは肩をすくめながら、手早く作戦を考える。
二人だけなら適当に殲滅してしまう所だが、今回は人間の魔力量で可能な戦闘をやって見せる為に来ているのだ。
迂闊な行動を避け、それでいて頼りになるところを見せねばならない。
「範囲を拡大した
同じような魔法でも、
低いランクだけに頼るには弱い魔法であるが、勝てる場合には魔力効率的にも発動速度的にも利点の方が大きい。
「ほう…わざと弱い呪文を使うのか。悪くないな」
「強い魔法を使うだけが良い訳じゃないんですね。勉強になります」
「全力で魔法使って倒したら此処で引き返す羽目になりますしね。それに傷付き過ぎたら赤字になっちゃいますから」
魔力を節約し、かつ素材を取り易いのでアーダベルトも満足したようだ。
「雄が率いるハーレムだと思うが、種類によっては良い素材が取れる。できるだけ綺麗に仕留めてくれ」
「できるな、シズ」
「ん」
アーダベルトの提案で最初の数匹はできるだけ矢で刺殺し、残りを白兵戦で片付けるという算段になった。
この規模の獣が頻繁にうろついており、熟練者にも対象の特定が出来ないのが気になるがそれは後で尋ねれば良いだろう。
風下に回った後、更に近づいてシズが囁く様に告げて来る。
(「総数は十四。獅子系の猛獣」
(「問題無いな。万が一レジストした個体が多い場合は再度行使するので、突っ込む前に気を付けること」)
(「了解」)
戦う相手は一度に二・三体だろうという予想もあって、戦闘を強行。
モモンガは会敵する可能性の高い場所を指差し、全員に注意を喚起した。
一同は声を潜めて頷き、枝を踏み込まない様に注意深く足を潜める。
「最初の臭いで何か感じた個体も居るのかな? 『
「撃て! 撃て!」
ウロウロと獣が右往左往していたが、
レジストした数匹のうち、驚いて仲間と共に逃げ出す個体を放置し、襲ってくる相手を抑えるためにモモンガが前に出る。
樹と樹の間に立って道を塞ぎ、その間にアーダベルトの号令で弓を放った。
「加勢します! 不要かもしれませんが」
「数は強さに勝る。時間は貴重だから助かります」
ブルーノが弓を投げ捨て抜刀すると、モモンガの脇に立つように接近して来た。
そこで一頭ほど懐に招き入れると二人でさっさと片付けておく。
やがて本格的な戦闘が始まり、まずは一頭。
片付いた所で次の一頭、その次は矢を受けて居る為もっと早く方が付いた。
途中からアーダベルトも加わると後ろに回られる可能性も無くなったが、やはり本業の戦士は能力に物を言わせているモモンガよりは剣筋が確かであった。
こうなれば後は始末するのが早いか、それとも逃げ出すのが早いかだ。それほどの時間を掛けずに蹴散らしたのである。
視界が開けた場所へ獣たちを移動させながら、ちょっとした話を始める。
「モモンガさんの剣は銘のある魔剣なのですか?」
「カミロ、そう言うことは…」
「そのくらいなら構いませんよ。ただ、『ブレス・オブ・マジックキャスター』を掛けられるので、怪我すると魔法が失敗しかねない魔法剣士にはありがたいんですよね。王様にも売れません」
モモンガが持つ護拳付きの小剣である護法剣は、『ブレス・オブ・マジックキャスター』の魔法が行使できる。
この魔法は負傷したり殴られて態勢が崩れたりなど、負荷が掛った時でも問題無く魔法が使用出来るようになるというものだ。
ユグドラシルでも大ダメージを与えあうPK戦時には必須だが、この世界では全く別の意味があると思われた。
「王様が欲しがるかは別にして…。でも怪我したり、走りながらでも使えるのは凄いですね」
「無理すれば第二位階も無詠唱でいけますよ。MP…魔力が勿体ないからやりませんけど…」
「高く売れそうな部位は取り終わったぞ。捌ける奴は適当にバラしてくれ」
そうこうする内にアーダベルトの作業が終わり、見張りに立つシズ以外はみなで手分けして処分を始めた。
とはいえ食肉としては微妙なので、提出する部位と剥げるだけ毛皮を剥ぐと言うくらいだが。
しかし、それだけの時間があればついでに聞けることもあるだろう。
モモンガは兼ねてからの疑問を、三人の中では熟練であるアーダベルトに尋ねておく事にした。
「すいません。二人で狩って戻ってを繰り返していた時も思ったんですが、街の近くにしては獣…というか獣型モンスターが多いですよね。それに種類が豊富な様な…開拓前はジャングルだったんですか?」
「
錬金術をやっているマジックキャスターが作り出した
ソレらは普通の獣と繁殖が可能で、しかも一種類の相手を専門にする種ではない。ゆえに獣型モンスターの数が多く、それほど強くはないが手を焼いているのだという。
「
モモンガはその後、三人の他に何名かと組んで情報を集めながら最初の目的として絞って行くのであった。
と言う訳で冒険始めと成ります。
名簿のABCから一人ずつという適当なチョイスをして、都市周辺の森を探索。
実力を見せつけながら周辺の情報を集めている感じです。
と言う訳で次の五回は周囲のランクからしたらかなり強力な、モモンガさんとしてはちょっとしたボス戦になります。
●三人と報酬形態
スポット参戦のモブです。Aからアーダベルト、Bからブルーノ、Cからカミロとモモンガさんがリストの中から適当に決めて居ます。
今回の分配はまず必要経費を差っ引いて、親方であるモモンガさんが50%、色んな手配を行うベテランのアーダベルトが20%、残りをシズ・ブルーノ・カミロで頭割り。
問題が起きたり赤字が出たら全部モモンガさん持ち、雇われた三人はお金では無く素材の中から仲間内価格で買い取って良し。と言う感じの契約です。
(彼らが何もせずに、素材剥ぎ取りとキャンプ護衛だけならもっと報酬は減ります)
●都市群を支配して居る大家(捏造設定)
開拓で始まった都市群に、九つの色を冠した大きな家がある。
最初期に赤土の大地を開拓したテラロッソの赤家、今は失われたラーゴブルの青、林業と水利のフォレスタヴェルデの緑家などが存在する。
(現在、都市と共に滅びた青の代わりに、旅芸人や傭兵を援助するグリージョの灰家が九家に数えられている)
●捏造解釈
『ブレス・オブ・マジックキャスター』
この魔法を掛けて居ると、発動判定にマイナスが掛る負荷を軽減できる。
ダメージを負ったり、衝撃で態勢が崩れたり(走る事も含む)しても問題無く成功する。
一応は無詠唱の負荷も軽減してくれるが、MP効率的にとても勿体ないのでそちら目的で使う者は居ない。
『天然の
魔法で複合されたのでは無く、最初から異なる獣の特徴を備えて生まれたキマイラ。
それは他の獣と交配する事で、中間的な種族を生み出す事が出来る。段階的に特徴が埋没し普通の獣に戻っていくが、合いの子も親種族との交配が可能。
なおこのモンスターは様々な獣の特徴を持つため、稀に高く売れる素材が取れることがある。