彼らのルネサンス 作:ノイラーテム
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●仮面の化粧
モモンガとシズは少し離れた森にモンスターを狩りに来ていた。
不可視探知だけでなく、念の為に不可知を探る魔法を使って誰も居ないことを確認しておく。
「シズ。今回の目的は我々のアンダーカバーを不自然ではない程度に確認し修正しておく事だ」
「ん」
現地で強いレベルのモンスターの名前を聞いてもいまいちピンと来ない。
不自然でない程度の強さと、本気になった風を装って見せる実力の片鱗。
そして…目下のところ頭が痛いことだが、料理・採集などに対してどの程度自分達が出来るのか? 出来ないのであればどうやって代用ないし、話題を上手く避けるか。が重要であると思われた。
「では、今の我々で一番何が不自然だと思う?」
「二人とも後衛」
耳が痛いほどの正論。
まずはこれを何とかするべきだろう。
「うむ。後衛の二人組というのはスポット参戦ならまだしも、常時と言うのは不自然だからな。そこで私が
モモンガは小剣と杖を何本か取り出すと、護拳の付いた小剣を選び取る。
「ユグドラシルだったら心もとないけど、まあこんなもんか」
それを軽く振り回すとビュンビュンと風が唸り、現地レベルでは十分な様に思われた。
「次に武技とタレントは何を持って居るか聞かれたが、これは詳細が判るまでは企業秘密だと誤魔化しておく。あるいは基礎能力を上昇させるパッシブ能力みたいなモノがあると臭わせるのが良いかもしれない」
「乙女の秘密。了解」
なんとなく頷き難いが、まあそんなところだろう。
ユグドラシルでも初期に異業種の街でウロウロして居た時に、キーになるスキルや魔法を不躾に聞かれた物だ。
もちろんベラベラと喋るものではなく、レイドで活躍した時にチラリと口にする程度が恰好良いと思う。
「あとは私は魔力系が第三位階で四は使えなくもない程度。シズはシーフとクロスボウに専門化したシューターだな」
「ガンナーが無いのは酷い」
この世界に火薬が実用化されて居るかは別にして、見たことが無い以上は使って見せる訳にもいかない。
そこでアーチャーではなく、特定の射撃武器に専門家できるシューターであることにした。
クロスボウはガンナーでも扱えたアイテムであり、こちらの世界では民兵などでも使いこなせる武器だと言う。
冒険を始めた頃にちょっと良いマジックアイテムを見つけたから、専門化したと言っておけば不自然ではないだろう。
「シズが安全地帯を探しながら射撃し、私がそこを確保しながら魔法で戦う。咄嗟に魔法攻撃をすることが前提だから、第四位階は使える内に数えて無い…こんなところか」
「ん」
このランクが適性なのかは判らないが、傭兵ギルドで『使えたら頼もしいレベル』で口にして居たから問題無いだろう。
それは純マジックキャスターの能力であって、今回口にしている魔法剣士としては違うのだと気が付いていないモモンガであった。
そして魔法のランクの話題を思い出して居ると、ふと日記のうちの一つを取り出し懐かしそうに眺め始める。
「…何?」
「俺が30レベル前後だったころに書いた覚え書き。…いや魔法の使用回数振り分け表かな」
そこにはPKを警戒して探知魔法や移動魔法にマージンを取り、何発までなら攻撃魔法に使って良い。素材効率・経験値効率の良い相手ならば何発で落とせる、美味しいが時間が掛る相手ならどうすべきかなどを記載していたのだ。
「懐かしいなぁ。このころは一人で何とかやろうとして、結局うまくいかなかったんだ。たっちさん達と組めたから不要になったってのもあるんだけどね」
「……」
思い出に浸ることを邪魔しない様にシズは口を開かない。
代わりに背中をこちらの背中に押しつけて来るのだが、骨だから痛くないのかな…とつい思ってしまった。
「気にしなくても良いよ、シズ。今はデータ取りに役に立ってるから。…ええと異形種はMP多いから少し割り引かないとな」
「……」
沈黙して居るのは同じだが、不自然な話題転換が気になったのかシズは立ち上がった。
そしてパンパンとワザとらしくお尻を叩いて土を跳ね除けると、無表情に見える顔でこう言った。
「次は料理の御時間」
「くっ。…見てろよ。今度こそ」
モモンガはシズの頭に手を載せて、次は素材加工をしようとモンスターを少し狩っておくことにしたのだ。
●暗殺者と死霊魔術師のサバト
結果としてシズが作った煮込みは料理では無いことが判った。
本人は頑として認めないが、あれは別物である。
(疑似餌とか臭い消しとか作る中間素材と考えれば説明が付くな。そこまでならスナイパーやアサシンがやりそうなことだ)
口に出すと料理だと煩いので、この件に関しては頭の中だけでまとめておくことにした。
支配者ロールで怒れば黙るのだが、できるだけそれはしたく無かったのだ。
(ということは俺が湯を沸かす以上にできないのは、そんなものをネクロマンサーが作らないからだな。レシピを知らないから駄目だけど、死霊魔術の薬くらいはなんとかなるんだろうけど)
そして剥ぎ取った…と言えなくもない肉と骨を交互に眺める。
良く見ると肉は削ぎ切りであったりブツ切りだが、骨の方は割りと綺麗だ。何度か繰り返せば売り物になりそうにも見える。
(骨を分類できてるのは、やっぱこれでスケルトンでも作れってことだろうな。肉の部位分けが出来て無いのを何とかなれば良いんだけど)
試してみると、こんな風にクラスの縛りで可能なことと不可能な事があるのが判る。
おそらくは認識に問題がある模様で、肉の分類が必要なアンデッドでも思い付ければ稀少部位を採集できるかもしれない。
シズに目をやれば、アサシンゆえか大蛇から毒腺と牙を抜き取ることに成功して居た。
「おっ。シズはちゃんと採集できてるじゃないか。えらいぞ」
「一円シール張って良い?」
モモンガが一枚だけ牙に張ることを許可すると、記念に取っておくことにした。
もし街でアクセサリー職人の卵が居れば、素材を渡して安くアクセサリーにするのも良いかもしれない。
この後に案を検証する為、モモンガはシズに矢を作らせてみた。
ガンの実弾モードに使うフレショットが、クロスボウ・ボルトと共用なのでこれが可能だとは判っていた。
銃器は不良品が多いが強力と言う設定で、ガンナーは自分で弾を作るのが当然だからだ。クロスボウがガン扱いである以上は、分解整備も可能だろう。
だが…。
「駄目」
「やっぱり普通の矢は駄目か。いやよ待て…認識の差である場合、もしかして…」
不思議なことにクロスボウ・ボルトは作れるのに、普通のアローが作れないのだ。
これによってクラスの縛りの大きさを理解しつつ、ちょっとした疑問が湧いて来た。
「普通の矢を使う大型クロスボウを作ればパッチ扱いになる? でも駄目か、実験の為にそんな無駄使いは…は…は…。武器職人と知り合いに合ったら試してみるか」
クロスボウなんて詳しく知らないので、城を守る為のバリスタでも改造すれば良いんじゃね…とか気が付くこともなくそんな考えに耽ったりしてみる。
「俺たちにもパッチが当たるのかは資金の余裕とコネができてからだな。だけど…最低限の採集ができることは判明した」
「相手を見分けるの、ちょーとくい」
シズがこの手の作業に意外な貢献を見せたのは驚きだった。
まあ良く考えれば
最悪の場合でも狩ったモンスターを即座に無限の鞄に放り込み、
その時は商品価値を最大にする為だと言い訳して、自分達はモンスターを綺麗に狩ることに専念すれば良いだろう。
「最後に残った問題は…やっぱり料理か」
「モモンガさまの。片付いて無い」
重要な問題だがアンデッドであるモモンガは料理が食べられない。
もう味わうことが不可能なのは残念だが、他人の前で飲食しないのは不自然だろう。
シズは特殊オイルの方が良いのだが、一応は飲食可能なのがうらやましい。決してシズが作った生焼けのレア・ステーキ(臭いの段階的コントロール処置?)が食べたくない訳ではないぞ。
「冒険中はシズとお揃いの指輪の効果で無用だと言うことにするとしても…。街の中に居て一度も誘われないなんてハズは無いよな…」
どうしよう。
どうするよ。
現実は無常である、唸っても答えは出ない。
ゲームでは無い以上は選択肢が存在しないが、駄目なことは何をやっても駄目なのだ。
「いつか料理を味わうことを目標の一つにするとして……」
「モモンガさま。現実逃避は駄目」
シズは容赦がない。
回り込む以前に立ち上がることを止められた気分だ。
(たっちさんなら正直に食べられないと言って断る筈だ。ウルベルドさんなら嘘を吐いてそれを最後まで貫き通す…)
心の中で白い鎧と黒い山羊が右往左往する。
ぷにっとさんが助言してくれるイメージが湧かないのは、きっと彼でもシステム的な事は無理だからかもしれない。
あるいは正直に無理だと言うか、嘘を吐く以外の方法を思い付かないだろうとモモンガが諦めて居るからかもしれない。
(可能な限り断って、いよいよとなったら用意しておいた嘘をもっともらしく? …駄目だ。それは信憑性に欠け過ぎる。嘘をつくなら最初から…でも何なら良いんだろ)
今度は頭の中で巨大な蔦がナイナイと手を振ったのが判る。
(やるならそれらしい嘘を小さく散りばめておいて、相手に組み立てさせる。そして自分がそれを肯定しているかのように見せることで、嘘を呑みこませる…だったかな)
何かしらの不具合、ないし不幸が合って食事をしたくない。
頑なに避けようとするのは、それが嫌な思い出を想起するから…。
そんな内容で良いかとトントンと指で叩きながら考えを整理し、その中心に据える内容を決めあぐねる。
冒険中ならばそれで十分かもしれないが、それだとリング・オブ・サステナンスがあるからと大して変わらないのだ。
重要なのはパーティ等で誘われても上手く断る、モモンガの協力が必要だからと周囲が止める様な内容。
そんな都合の良い嘘が思いつかないのだ。
「モモンガさま?」
「すまない。考え込んでしまったようだ。…!? いや、待てよ。シズ…そうかシズだ!」
黙りこくったモモンガを見つめるストロベリーブロンドの少女。
その姿を見た時、モモンガの脳裏に閃くものがあった。
「はっははは、簡単なことじゃないか。タブラさんたちを探して居ることと、シズを守ることを理由にすればいい」
「モモンガさま!?」
シズを捕まえて胴上げすると、戸惑った様な微妙に何かを含んだ言葉が返ってきた。
先ほど名前を読んだ声は質問であったが、今度は驚きと嬉しさが内容されていた。
同じ様な言葉ながら、いや、同じような言葉だからこそ、その違いが判る。
「良いかシズ。我々は古代遺跡に四人以上でチームを組んで居た。だが食事中に起きた奇襲により、転移のトラップで離ればなれになってしまった」
「……」
モモンガの一言一句を聞き逃すまいと、シズは僅かに頬が染まったような気がする表情で静かに聞いていた。
「だから私は人前で食事を取ろうとは思わない。その事件が起きた時も大丈夫だと勧められている時だった。と言うことにする。自分だけなら構わないが、一人残ったシズが居る限りそのつもりはない。ただ…」
「私が何かを食べるのは止めない…?」
コクリと頷いて、モモンガはシズの推測を肯定した。
シズは食事が出来ないと言う訳ではないし、お近づきの徴として飲食を用意されたのであればシズが消費すれば良い。
古来より、美しい娘を浚うのに食事に眠り薬を入れるのは上等手段であるし、先ほどの作り話を聞いた後で『私が信用できんと言うのか!』などと強弁するような貴族とはむしろ付き合わない方が良いだろう。
その辺りのスタンスをちゃんと理解して、ほどほどの付き合いをしてくれる者とだけ仲良くなっておけば良いのだ。
後は実力を認知させることが全てを解決してくれるだろう。強力な冒険者であり、自分の元にトロフィーなり貴重な情報を持ち帰ってくれる者に対し、気を使うのは当然なのだから。
「よしっ! これでアンダーカバーの方向性は問題ない。名声を高めながら周囲の情報を集めて行くぞ!」
「おー」
こうして活動する為の準備を整えた二人は、他の傭兵と組む前に魔法回数や消耗品の管理を想定したモンスターハントを行う。
そして当座資金の換金に、狩り取ったモンスターの証拠を街に届けに行くことにしたのである。
と言う訳で、今回は冒険の下準備の回です。
4で準備、5で真面目に冒険、6で遺跡に潜って見る感じ。本筋ぽいストーリーは7~9くらいになるかと。
魔法使いと魔法剣士の差を忘れた為に、30レベル弱の冒険者というつもりで、35レベルくらいに思われてしまう以外はおおむねモモンガさんの予定通りになります。
まあ冒険者ギルドがないので審査がないとか、周囲が物騒なのでモンスターを狩って居れば実力は直ぐに判る…というのもありますが。
素材の確保とかは上手くありませんが、あれだけの実力なら細心の注意で倒すよりも、数を倒す方が早い…と誤解してくれるでしょう。
なお、素材収集・アイテム製作に関しては捏造設定になります。
銃はよくジャムるので整備・弾丸作りは欠かせないとかから、ガンナーは分解整備と実弾の製作が可能…とか。
ネクロマンサーは骨を壊さずに確保できたり、ストーカーは獣などの個体の区別・植物の差が判ってもおかしくないだろうとしております。
『アンデッドスレイヤーの魔法剣士モモンガさん(嘘)』
フェンサー:5レベル
メイジ:10レベル弱
ソーサラー:5レベル
ウイザード:5レベル
ハイ・ウイザード:5レベル弱
ビショップ:?レベル(アンデッド探知・夜目、オーバーマジックの為の寄り道と思われている)
武技:能力向上・流水加速?
アイテム:護法剣(ダメージを負っても詠唱が中断しない小剣)、リング・オブ・サステナンス、能力値上昇の指輪
使用魔法:魔力系がギリギリ4。ただし無詠唱化で高速発動するので4は使用しないと思われている。探知を含めた信仰系と、切り札はオーバーマジックと思われている。
『赤猫のシズ(嘘)』
シューター:10レベル。クロスボウに専門化
シーフ:5レベル
スカウト:5レベル
錬金術師:1~
武技:ストーン・オブ・コールド(冷静沈着)、幻想舞踊(予測攻撃)
アイテム:チェシャ猫のお面(店売り)、黒猫の長き手(音のしないクロスボウ)、薬投げのスリング、リング・オブ・サステナンス、猫ブーツ(静音性)、各種の薬(在庫は空)
魔法:矢への魔力付与?(実際は、魔法の弾を必要な時だけ使っている)