レシート買い取りアプリONEの17歳起業家、サービス一時停止から「怒涛の3カ月」で気づいたこと

どんなレシートも10円で買い取ります —— 。

17歳高校生起業家が率いるワンファイナンシャルが、そんなアプリ「ONE(ワン)」を発表するやいなや、利用者が殺到し、16時間でサービス停止を余儀なくされた騒動から約3カ月。 現在、ONEは少しずつ進化しながらサービスを再開している。「怒涛の3カ月」の渦中にいたCEOの山内奏人さんは今、何を考えているのか。

六本木交差点

レシート買い取りアプリが爆発的な注目を集めてから3カ月。17歳起業家が今、考えることとは。

「1日でサービスを停止してしまったことで、たくさんのご批判を頂きましたが、それは当然の批判です。自分たちの想定の甘さから、こうした状況を招いてしまったことに悔しさを感じますし、とても申し訳なく思っています。ただ、辛いとかダメージとは思わなかったです

ワンファイナンシャルがオフィスを構える、東京・六本木に山内さんを訪ねたのは、9月にしては肌寒い、雨の降る日の午後だった。東京ミッドタウンにほど近い、雑居ビルの一室で、山内さんはこの3カ月をそう振り返った。Twitterはじめネット上では、ONEの一時停止が長引くことに、当初、苦情や非難も飛び交った。

家には寝に帰る、怒涛の日々

ONEのサービスは、スマートフォンのカメラ機能でレシートを撮影すれば、アプリ内のウォレットに10円が振り込まれるというもの。いたってシンプルかつ「捨てていたレシートが現金になる」というインパクトで、ユーザー登録が殺到した。

はじめは、オフィスのパソコンで、登録者がどんどん増えていく様子を見守っていたという。その画面をスマホで撮影した写真を見せながら、山内さんはこう振り返る。

「僕がそれまで開発したプロダクトは、ユーザーが集まらないことが課題だったんです。ですから、はじめは1万人行くかなくらいに思っていました」

山内さん。

ただただ、サービスを一刻も早く再開したい一心だった。

しかしその後の展開は、想像をはるかに超えるものだった。

サービス開始翌日の13日朝の時点で、ONEのユーザー数は約10万人に到達。買い取りレシートは累計24万枚に達した。また、サービス開始初日で、iOSアプリ(iPhone向けアプリ)のダウンロード数で国内1位の記録を叩き出した。ただ、そのまま増えれば資金がショートすることは目に見えていたため、サービスは一時停止せざるを得なかった。

12歳からプログラマーとして活躍してきた山内さんとはいえ、ONEほど爆発的にユーザーが集まる体験は、未知の領域だった。

そこから「学校の休み時間に予定を調整して、放課後に会社に直行し、終電まで仕事してコンビニでご飯を買って、家には寝に帰る生活」が、続く。

ただただ、「一刻も早く再開したい一心で前進していた」。

爆発的な注目から広がるビジネス

レシート買い取りサービスの一時停止後も、ONEは新たな企業との提携や新サービスを矢継ぎ早に出している。

■主なサービス
・6月12日 レシートが現金になるアプリ「ONE」スタート
・6月18日 スマホで車を売れるアプリ「DMM AUTO」と提携し、ガソリンスタンドのレシートを30〜100円で買い取りスタート
・7月24日 保険証券を撮影すれば最大400円になるキャンペーン
・8月2日 ヘアケア商品を撮影すれば最大120円になるキャンペーン
・8月29日 かまぼこの鈴廣と提携し、かまぼこ・練り物製品の購入レシートを撮影すれば50円になるキャンペーン
・同 動物病院の診断明細書を撮影すれば150円
・9月6日 東大生限定で、学生証を撮影すれば最大200円
・9月10日 クラフトビールを購入したレシートを撮影すると最大50円がもらえるキャンペーンがスタート
・同 アプリ内で残高から、アイスクリームなど商品を購入できるチケットを販売。
・9月12日 どんなレシートでも10円買い取りを、1日あたりの上限額を決めて再開

何よりもまず、集まったレシートの買い取り資金を確保する必要があったため、企業から広告出稿として資金を調達。引き換えにONEで集まった統計データを企業に一部、提供するという事業モデルを打ち出したのだ。

山内さん。

スマートフォンには、ONEのダウンロード数が国内1位になった画面のキャプチャが残されている。

ONEが瞬時に爆発的な注目を集めたことで、事業が前進したのも事実だ。キリン、日本コカ・コーラなど、人気メーカーとの提携が相次ぎ、他にも業種をまたいだ数十社からの問い合わせがある。レシート買い取りサービスの完全復活を目指しつつも、売り上げは立つようになってきた。

それにしても、保険証券や学生証の撮影など、より踏み込んだ個人情報の撮影には、一瞬、躊躇(ちゅうちょ)してしまう。これに対し、山内さんの反応は明快だ。

「ふだん僕たちは、意識せずにFacebookやグーグルなどに膨大な情報を吸い取られています。それに対し、ONEでは本人が撮影してアップするかどうか決めるという、意思決定が明確にある。うっかり送る人はいない。本人確認も明確にやっています」

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見られ方が圧倒的に変わってしまった

「さすがにちょっとTwitterやめようかなという気になっている」

10代の起業家にとってこの3カ月が、相当ハードな毎日だったことは間違いない。

対企業のビジネスも進み、レシート買い取り資金の準備ができつつあるならば、「本来のレシート買い取りはいつ再開するのか」という声は当然、ユーザーから寄せられた。

「当初は普通のレシート一枚10円といってましたが、再開しないんですか?レシート山盛りなのですが笑」

すでに現在、1日あたりの買い取り上限枚数を設けてサービスを再開しているが、一瞬で上限に達してしまうという課題もある。

「え!もうおわったん??」

これに対し山内さんは「1日に一度、深夜0時だけの更新ではなく、日に何度か更新するなど、改善に向けて試行錯誤を繰り返しています」と説明する。

ネット上の反響は 「厳しいご意見も、使ってもらえた上でいただけたのですから、ありがたいと思っています。チームで全力を尽くすのみです」 (山内さん)。

それよりこたえたのは、リアルな対人関係で「自分の見られ方が圧倒的に変わってしまったと感じたこと」だという。

「テレビにも出たりしたので、初対面の人にも『ああ、あの子ね』と言われるようになって。お金持っているんでしょうとか、過激な起業家キャラみたいに決めつけられるのには、戸惑いました」

山内さん②

急激な周囲の反応の変化に「ついていけない」と感じた。

こうした状況に「ついていけない」という気持ちに襲われ、心身ともに不安定な時期が続いた。

そういう時に「中学から一緒の学校の友達や、家族が全く変わらずにいてくれたことは、大きかった」という。

それは、これまでのキャリアを見つめ直すきっかけにもなっている。

ずっと大人に交じって仕事やキャリアを優先してきたけれど、学校で部活をやったりとか、身近な人との時間を過ごしたりという時間と、トレードオフだったなと

この3カ月で、家族や友達と過ごす時間を意識的に長く深くとるようになった。以前は土日も1日中働いていたが、今は、必ずどこかで休息をとるようにしている。

そして今、一連の事態を振り返って思うことはこうだ。

「ものすごく重要な3カ月だったと思っています。僕はこれまで、10代という年齢で注目されてアドバンテージを得ていたところがある。今回の経験は、成長痛というか(企業としても経営者としても)ようやく本来あるべき姿になったと思っています

コンビニ弁当食べてる人に笑ってほしい

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周囲の人を笑顔にしたいという気持ちが、ビジネスの原点だ。

17歳の山内さんも、高校生活の終わりへのカウントダウンが始まっている。周囲は受験や進学で持ちきりだ。

「みんなを驚かせたい、日常を非日常に変えるようなプロダクトを生み出したいと常に思っている。ドラえもんの道具のような。そういう会社を人生をかけてやっていくと思います」

それとは別に、視野に入れている大学進学では「(これまで追求してきた)テクノロジーとデザイン以外のことをやってみたい」というのが、今の気持ちだという。

「街づくりに興味があります。建築や哲学、思想など新たな分野を学んでみたい。そこにテクノロジー&デザインを掛け合わせてみたい」

ONEの発表からの激動の3カ月を経て、今の思考はよりシンプルで柔らかだ。

ONEのレシート買い取りの原点は、コンビニ弁当を食べている友達が、笑ってくれたらいいなということなんです

山内さんが通う、都内の進学校の同級生たちは、親も共働きが多く、給食も学食もない。コンビニで昼食を調達している友人も多く、皆、 屈託なく食べている。

今の社会は便利だけど、ちょっと味気ないなという気持ちもあって。そういう世界に、遊び心やエンタメ性を加えたいと。そうやって笑っている人が周囲に多い方が、楽しいじゃないですか

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)

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