9月25日(火)、東京大学駒場第2キャンパスコンベンションホールで「第3回 交通ジオメディアサミット」が開催されました。
同サミットは東大の伊藤昌毅助教が中心となり開催しているもので、2016年2月の第1回、2017年6月の第2回に続く3回目。今年は3月に「公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2018」もあったため、東大駒場第2キャンパスにおける同種のイベントは2度目の開催となりました。
今回のテーマは「東京2020の交通をITで支えるために」。東京オリンピック・パラリンピックまで残り2年を切り、大会輸送をITでどう支えるかは大きな課題となっています。今回は4つのセッションとディスカッションを通じて様々な話題が提供されました。
広島で行われた「災害時の代替輸送における情報提供」の取り組みとは
まずオープニングセッションとして発表されたのが「広島における災害時の公共交通情報提供プロジェクト」と。今年7月の豪雨災害で大きな被害を受けた広島県における災害復旧時の代替交通の確保と情報提供の課題克服を行った例が紹介されました。
災害時の代替輸送はその大きな特徴として、状況が日々流動的に変化します。そのため、現地だけでなくwebにおける新鮮な情報提供の重要性が高くなっています。実際に広島では一元的に代替輸送の状況についてまとめたwebページおよび情報の流通経路構築を行ったほか、代替交通では難しいと考えられやすいバスロケーションシステムを簡易的にかつスピーディーに構築が行われました。発表ではその裏側の協力体制やスピード感についての説明があり、今後の災害対応におけるひとつのモデルを示しました。
オリンピックの輸送について「今度は東京を助けてもらいたい」
続いてのセッション1ではオリンピック・パラリンピックに向けた交通と輸送の準備状況について関係者から報告があり、ディスカッションも行われました。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会輸送局の神田局長は報告の中で、「「交通」と「輸送」は異なるもので、「交通」があって初めて「輸送」が成り立つ」と述べ、各地の「交通」の重要性について過去のオリンピックの例も交えながら、東京オリンピックの輸送計画の案と課題について紹介しました。その中でTDM(交通需要マネジメント,Transportation Demand Management)とTMS(交通管理マネジメントシステム,Traffic Management System)の重要性についても触れ、オリンピックに併せて交通をマネジメントしなければ渋滞が悪化するという懸念を示し、市民の協力を呼びかけました。
続いて政策研究大学院大学の家田仁教授とトラフィックブレインの太田恒平社長がディスカッションを行い、まず太田社長からは「オリンピックの輸送計画に関して、「お願いベース」には限界がある。オープンデータを利用し、現状では誰も担っていない「情報提供」を充実させるべきでは」という問いかけがスライドを交えて行われました。
これに対して家田教授は「国民的理解と協力を得てTDMを行いたい。そこでは日本人特有の助け合いの精神が重要だ。いま各地で起きている災害で全国からやってくるボランティアが助けているように、今度は東京を助けてもらいたい」と「助け合い精神」に基づく「心で訴えるTDM」を主張しました。
Google Transitのリーダーから岡山での取り組みが紹介される場面も
セッション2では経路案内サービスを提供する「コンテンツプロバイダ」の発表が行われ、Google、ナビタイム、ジョルダン(乗換案内)、ヴァル研究所(駅すぱあと)がそれぞれの最新の取り組みについて発表されました。
今回注目だったのはGoogle TransiteのリーダーのAnthony Bertuca氏の発表で、今後のGoogleにおけるマップを利用したサービス展開におけるビジョンが示されました。また、人々の移動行動を変容させるためにはリアルタイム情報が重要とした上で、岡山でのGTFSリアルタイムを使った取り組みについても触れられました。そして、協力と協働に基づいたサービスの発展が重要であるとし、コミュニティへの参加を呼びかけました。
その後は国内で経路案内サービスを展開するNAVITIME、ジョルダン、ヴァル研究所が最新のユニークな自社施策や東京オリンピックで果たせる役割について報告・発表がされました。
続いてセッション1・2の登壇者と会場を交えたディスカッションが行われ、会場から「心で訴えるTDM」に対する疑問が呈されると、「いまオリンピックに向けての期待が落ちているが、それは過去の大会でも同様で、いつそれが上昇するかが勝負だ。交通行動を動かすにはお得感が重要」という意見や「今回のオリンピックには様々な意味合いがあり、それを広めて心に訴えていきたい」という意見が登壇者から出ました。
また、オリンピックの輸送に際するオープンデータ化については「データはオープンデータで共有することで安全や福利に貢献できる」、「オープンデータ化で利用者が便利になるという方向を示して事業者がオープンデータを出すように誘導していきたい」という登壇者からの見解が示されました。
セッション3・ライトニングトークでは各地の交通とITに関する事例が報告・発表される
セッション3は話題を大きく変え、国内・海外での交通とITの融合をテーマとした発表・報告が行われました。
その中で中津川市からはGTFS形式データの整備と今後の課題、Sujiya Systemsの高野孝一代表からはダイヤ編成ソフト「その筋屋」の最新開発状況、バス停情報研究家の佐野一昭氏ら3名からはアメリカにおける交通の状況やアプリの実態が発表・報告されました。そして、実際に様々な取り組みを行っている人々からの具体的な話や独特のムービーに会場が沸くシーンも見られました。
最後にはライトニングトークがあり、群馬県の永井運輸からは臨時輸送におけるGTFSリアルタイムの活用事例の発表、Google日本法人からはリアルタイム情報の提供に関するアナウンスが行われました。そして構造計画研究所の中村嘉明氏からはなぜ事業者からGTFSデータが提供されないか、その実情について実際の事業者の声と共に紹介され、新たな課題も提示されました。
今後交通とITでは情報提供の運用や鉄道の情報に関する話のフォローが不可欠
オリンピックに関しては開催まで2年を切る中での発表でしたが、中々具体的な話も挙がらず、果たして大会の輸送は大丈夫なのかと心配する声やTDM施策について疑問視する声が会場からあがっていました。また、ロンドン・リオデジャネイロと過去2大会で活用されていたオープンデータについて日本では未だに十分な提供がされていないことの懸念も登壇者・会場双方から上がり、「情報の提供」についてもこれから活発な議論が求められることになりそうです。
また、セッション3、ライトニングトークではGTFS形式のデータ整備の話題が大半を占めていましたが、静的データに関しては方法論やツールが出そろってきており、最前線では動的データの整備へ話題が移っています。
一方で静的データの維持に関する課題は事業者百者百様であり、事業者は運転士不足をはじめ他の多くの課題も抱えています。これについてはあまり知見が共有されていないこともあり、今後フォローが望まれると考えられます。
リンク
第3回 交通ジオメディアサミット | Peatix https://geomedia-03.peatix.com/?lang=ja (イベント概要)
20180925【第3回交通ジオメディアサミット】簡易バスロケin広島県の公共交通データ提供プロジェクト #bus #buslocationinformation https://www.slideshare.net/KenjiMorohoshi/20180925trafficgms3rdpptx (ヴァル研究所諸星氏の発表)
第3回交通ジオメディアサミット | Questions https://app2.sli.do/event/3h4uy3os/questions (登壇者と会場のディスカッション)
東京2020に向けたオープンデータを軸にした交通情報システム構想 #olympicgames #opendata https://www.slideshare.net/KoheiOta1/2020-116424192 (トラフィックブレイン太田社長の発表)
『その筋屋』が実現させるバス業界向けシステムの未来 ~2020年よりも前に~(喋り入り) https://youtu.be/jIwsoXEFbf8 (Sujiya Systems 高野代表の発表)
アメリカ公共交通調査の旅 by @rosenzu #apps #bus https://www.slideshare.net/HiroyukiIto10/ss-116605161 (路線図ドットコム伊藤浩之氏、青い森ウェブ工房福田代表、バス停情報研究家佐野一昭氏の共同発表)
GTFSを導入したバス事業者が実感する 情報発信の効果 #gtfs https://www.slideshare.net/YoheiMizuno1/gtfs-116607850 (永井バス水野羊平氏の発表)
(文・写真=鳴海行人)