転職ノウハウ

「己を知れば百戦危うからず」〜稼ぐための自己認識概論〜

稼ぐために最も必要な能力は?と聞かれたら、私は迷わず「自己認識力」と回答します。Googleが火付け役となったマインドフルネスブームで「瞑想」や「自分と向き合う時間」の重要性が注目されています。自己分析を10年間研究し、個人の自己認識支援を行なっている筆者が、自己認識の効用や自己認識のためのツールなどを紹介していきます。

自己認識できているってどういう状態のこと?

そもそも「自己認識」とはなんでしょうか?学問としては「心理学」に分類されますが、自己認識の定義は心理学者の数ほどあるといっても良いくらい解釈が分かれます。「自分自身のことを言語化できている状態」と考えるとわかりやすいと思います。なんとなく好きだったり得意だったり、嫌いだったり苦手だったりすることに対して、「自分にはこういう強みがあり、それを生かすと人よりもうまくできる」とか、「自分はこういう性格をもっているのでこのような環境ではパフォーマンスが発揮されない」などが言語化されてると自己認識できているといえるでしょう。認識できていれば、状況に応じて適切な判断、行動に移すことがやりやすくなります。

自己認識力が高まるとどんないいことがあるのか?

組織心理学者のターシャ・ユーリック氏の自己認識力に関する研究によると、自己認識力の高い方は下記のような6つの能力が発揮されやすくなります。

(1)より創造的である
(2)より適切な判断を下す
(3)より強い人間関係を築くことができる
(4)仕事のパフォーマンスが高い
(5)昇進する確率が高い
(6)会社の収益向上にも貢献している

では、筆者はなぜ自己認識力が高まると「稼ぐ」ことにつながると言うのか。

稼ぐためには収入や売上の対価となる「アウトプット」を出さなければなりません。「アウトプット」を生み出す最大の資源は「自分自身」です。その資源について、適切に理解し、フル活用することでより質の高いアウトプットを生み出すことができ、結果稼ぐ力が身につきやすくなります。逆に言うと、自分という最大のリソースをよくわからないまま、うまく扱えずに戦っていても思うような結果は期待できないことでしょう。本来のパフォーマンスを最大限発揮し、さらに高めていくために自己認識力を高めていきましょう。

自分の中の「リトル自分」と対話する

自己認識力を高める方法として手軽にできることが「自問自答」です。自問自答とは読んで字のごとく自分に問いかけて、自分で答えるという行為です。自分の中にもう一人の自分がいて、その自分と対話をするイメージでしょうか。サッカー日本代表の本田選手がACミランの入団会見で入団の理由を聞かれた際に、「心の中のリトル・ホンダに聞いたら、彼が『ミランでプレーしたい』と答えた。」と述べたことで一時期大きな話題となりました。まさにこれです。自分の中のリトル自分と対話するイメージです。

即実践可能な自己認識トレーニング「なぜ?」を自分に問うことをやめてみる

自問自答といっても、どう問いかけるかによって結果が変わってきます。ある研究によると、自分に「なぜ?」を問いかけることは、自己認識を深めるには役に立たず、むしろ憂鬱になったり不安に陥るというマイナスの影響があるそうです。「なぜ?」という問いは、原因を究明するための質問で、一見理解を深めるために有効そうですが、自分について理解するには適切な問いかけではありません。というのも、自分自身のことについて、本当になぜそうなったかは、誰にもわからないからです。

例えば、ある出来事がきっかけでイライラしたとします。そこで、「なぜ(Why)自分はイライラしているのだろうか?」と問いかけます。「あいつがあんなことしたからだ」とか「自分の自尊心を傷つけられた」とかでてくるかもしれません。もしかしたら、「寝不足だからイライラしてしまった」からかもしれません。これらのどれが正解かは知る術はありません。また気分が異なる時に同じ問いかけをすると、答えは変わります。仮にしっくりする解があったとしても、それは納得するために創られた解であり、本当にそうであるかは疑わしいのです。

ではこのようなケースで、どう問いかければ良いのでしょうか?それは「Why」ではなく「What」です。「自分をイライラさせているのは何(What)だろうか?」と問いかけてみましょう。そうすると一歩引いて客観的な視点で状況を分析することができます。そして、「なるほど、自分はこういうことにイライラするのだ」と理解することができ、今後はそのような状況を避けたり、事前に対策をうつことがやりやすくなるでしょう。

全く同じシチュエーションでも、問いかけを変えるだけで思考プロセスや導き出される答えが変わります。自分をドライブさせるものは何か?自分を嫌な気持ちにさせるものは何か?今何が起きているのか?
「なぜ(Why)?」ではなく「何(What)?」を問いかけることで、また違った角度から自分を理解することができるようになるでしょう。

自己認識を深めるためのおすすめ自己分析ツール3選

自問自答で自分を理解することは、簡単なようでなかなか難しいですよね。そんな方のために自己認識を深めるためのツールがあります。数あるツールの中で、実際に私がやってみて特に良かったと思うおすすめツールを3つご紹介します。

■ストレングスファインダー
アメリカのコンサルティング会社ギャラップ社が提供する自己分析ツールです。(https://www.gallupstrengthscenter.com/home/ja-jp) 名前の通り「強み」にフォーカスしていることが特徴です。つい人は自分の弱点を克服するために時間と労力を注いでしまいがちですが、強みに目を向け、強みを伸ばすことにエネルギーを注いだほうがより高いパフォーマンスが得られるという考えに基づいて開発されたツールです。ギャラップ社は長年の研究を経て「資質」と表現される強みの源泉を34種類に分類をしました。
約30分程度のWebテストで34資質のうちあなたの「上位5つの資質」がわかります。
診断は有料で、だいたい2000円程度でTOP5を知ることができます。現在では3つの方法で受けることができます。

1.診断テストのアクセスコード付きのストレングスファインダー関連書籍(「さぁ才能に目覚めよう」「ストレングスリーダーシップ」)
を購入する

2.ギャラップ社のサイトから直接購入して診断を受ける

3.ストレングスファインダーアプリをダウンロードしてアプリから購入して診断を受ける

ちなみに私は10年近く前に初めて受けて、「1.最上志向」「2.着想」「3.ポジティブ」「4.共感性」「5.コミュニケーション」が上位5つの資質でした。診断した当時はもちろん、10年たった今でもとても納得感があります。各資質の詳細は書籍等を参考にしてください。

ストレングスファインダーを活用した自己分析で重要なことは、「結果の説明文をそのまま受け取らない」という点にあると思います。もともとは英語を日本語訳したものですので、若干日本語に違和感がある部分もあります。また表現が抽象的なため、解釈にも幅があります。一部当てはまるが、一部はあてはまらないといったこともあるでしょう。そもそもこれは何かを決めるものではなく、自分を理解するためのツールです。「この結果のこの資質は自分のどういうところを表しているのだろうか?」など、自分の体験や考えなどと重ね合わせて自分なりの言葉で解釈をしていくことで、より一層理解を深められると思います。

■MBTI
心理学者ユングの性格タイプ理論をベースとした性格検査です。欧米ではかなりメジャーで、特にアメリカでは60年以上の歴史を持ち、毎年数百万人の方が受けているそうです。日本ではまだほとんど認知されていない知るひとぞ知る性格検査です。(http://www.mbti.or.jp/)
「興味関心の方向(外向・内向)」「ものの見方(感覚・直観)」「判断のしかた(思考・感情)」「外の世界への接し方(判断的態度・知覚的態度)」の4つの指標において、それぞれが2タイプいずれかに分類され、2x2x2x2で全部で16タイプのどれかに分類されます。ちなみに私はINFPタイプです。

・興味関心の方 外向 or 内向→内向(Introversion)
・ものの見方 感覚 or 直観→直観(iNtuition)
・判断のしかた 思考 or 感情→感情(Feeling)
・外の世界への接し方 判断的態度 or 知覚的態度→知覚的態度(Perceiving)

これだけみてもなんのこっちゃと思われるかもしれませんが、ご興味があればMBTI関連書籍に一度目を通してみてください。MBTIをベースとした論文は世界中で何千本も出されていて、検査の信頼性、世界の心理検査スタンダード感でいったら抜群かと思います。しかし難点が、気軽に受けられないことです。WEB検査のようなものはありますが、受けた結果はそこからアクセスできず、MBTIのトレーニングをうけた専門家から直接フィードバックされる仕組みとなっています。診断結果の誤解や誤用がないための配慮かと思われますが、検査を受けるハードルの高さが日本であまり広まっていない要因のひとつではないかと思われます。本気で自分自身と向き合ってみたい、という方は一度受けてみていただくことをおすすめします。

■職務経歴書、面接
果たしてこれはツールなのか微妙なところですが、私はこれまで3回の転職活動を通じて、その都度自己認識力を高めてきました。職務経歴書も面接も、手法としてはベタですが、自分は何ができるのか、これからどうしていきたいのか、言語化を求められます。また複数回目の転職の場合は、過去と比較してみると色々と発見があります。市場価値が上がっていることを実感したり、選社軸が変わっていることに気がついたり、また変わるものがあるなかでずっと変わらない価値観などもあったり、自分を客観的に見つめるとても良い機会です。「今の仕事に大変満足している」といった場合こそ転職活動をおすすめします。「満足と思っているが、本当に満足なのか」「不満が少ないことと満足は同義なのか」「もっと良い選択肢はないのか?」良い時や変化が少ない時は自分を見つめ直す機会が少ないので、あえてそういうときにアクションを起こしてみることで、自分への理解を深めることができるのではないでしょうか。

自己認識力を高めたその先に

私自身、親子関係に悩まされてきたこともあり、小さい頃から「自分っていったいなんなんだろう?」と問い続けてきました。かなり早い時期にリトル自分と出会いました。もちろん今でも完全に理解していることはなく、今でも自己分析を続けています。自問自答しても、ツールを活用しても、私は「自分の価値観を何よりも大切にしたい。型にはめられたくない、枠組みや概念に縛られたくない」と出ます。3社、約10年のサラリーマン生活にピリオドをうち、自分にあった働き方としてフリーランスを選択しました。
自己理解を深め、自己が最もパフォーマンスを発揮できると思われる環境に身をおき、強みを活かしながら働くことで、今までよりもだいぶ「稼ぐ」ようになりました。また時間にも余裕ができ、大切なものを大切にできるようになりました。

本記事のタイトルは「稼ぐための自己認識力」ですが、「稼ぐ」ことも「自己認識力を高める」ことも手段にすぎません。その先に目的があり、その目的を達成するために稼ぐ、そのために自己認識力を高めるということがこの記事の趣旨です。
「稼ぐ」こともそのために「自己を理解する」ことも、もっと先のあらゆる目的を実現するために有効であると確信しております。

最後に

私が考える自己認識の効用についてです。自分のことがよくわかり、うまく扱えるようになることだけではありません。自己の認識を通じて、「他者」を認識できるようになります。またさらに自己と他者で構成される「社会」を認識できるようになります。社会についての認識が深まりその中、自己と他者を認識できるようになることで、今まで見えなかったものが見えるようになります。

自分と向き合う時間をとることはなかなか難しいかもしれませんが、日常で自分への問いかけを変えてみる、自分との対話に注目してみる、それだけでも良い変化は目に見えてあらわれてくるはずです。
自己認識はここでは到底書ききれないほど奥が深いものです。この記事を読まれて、自己認識の重要性やエッセンスだけでも伝わり、もう少し自分と向き合ってみようかな、と思える人がいたのなら、私はこの上なくハッピーです。

■著者プロフィール
あるじ
フリーランスライター。新卒で一部上場企業の営業職に配属され、当時「新卒で売れたら事故」と言われていた超高額商品を1年目からで売りまくりTOPセールスへ。「己を理解し、相手を理解し、売りまくる」という営業スタイルを確立。その後数々の営業新記録を樹立し、ベンチャーへ転職。創業間もない無名ベンチャーを営業力で上場まで牽引。その後潰れそうなベンチャー企業へ転職し、営業力で大幅な黒字化を達成し、会社を再生。現在は独立してフリーランスへ転向。人生の主導権を個人に帰属させるべく「交渉力」や「自己分析」の支援を行なっている。フリーランスが稼ぐための情報メディア「フリーランス革命」も運営。