国連本部でスピーチした防弾少年団(BTS)のリーダー、RM
クーリエ・ジャポン
Text by COURRiER Japon
ニューヨークで開催されている国連総会で、どこかの首脳でも国連大使でもない、意外な人物のスピーチが注目を集めた。韓国のアイドルグループ「防弾少年団(BTS)」のリーダー、RMことキム・ナムジュンの演説だ。
BTSは昨年、子供に対する暴力の撲滅を目指す「LOVE MYSELF(自分自身を愛そう)」キャンペーンをユニセフ(国連児童基金)と共に発足。RMはこのキャンペーンに触れつつ、国連本部から世界の若者へ向けて呼びかけた。「自分の声を見つけ、自分のことを語り、ありのままの自分を愛してほしい」と。
BTSのメンバーと一緒にマイクの前に立ったRMはまず、自身の生い立ちやアーティストとして成功するまでの苦悩について語った。
「ソウル近郊の一山(イルサン)で生まれ育った私は、いつかスーパーヒーローになって世界を救うことを夢見る普通の男の子でした」
しかし10歳ぐらいから周りの目を気にするようになり、「自分の声を失った」という。BTSの曲の中にこんな歌詞がある。「たぶん9歳か10歳のとき、僕の心臓は止まった」
「いま振り返れば、その頃でした。自分がほかの人たちからどう思われているかを気にしはじめ、彼らの目を通して自分を見るようになったのは。私は夢見ることをやめ、その代わりに、他人が作った型の中に自分を押し込もうとしました。私は自分の声を押し殺し、他人の声にばかり耳を傾けるようになりました」
「肌の色もジェンダーアイデンティティも関係ない」
そんな彼を救ったのが、音楽だった。
「私の中から小さな声が聞こえました。『目を覚ませ、自分の声を聞くんだ』と」
BTSとしてデビューしてからも成功の見込みはないと多くの人に言われるなか、「投げ出したいと思ったこともりましたが、あきらめなかったことが幸運でした」。
「BTSは大きなスタジアムで公演し、アルバムを何百万枚と売るアーティストになりましたが、私はいまも24歳の普通の青年です」
そしてRMは、自分を愛することの大切さを語った。
「昨日の私は何か間違いを犯したかもしれませんが、そんな昨日の私も、私であることに変わりはありません。今日の私は、そうした過去の欠点や誤りをすべて含めて、私なのです。明日の私は少しだけ賢明になっているかもしれませんが、それもまた私です。私はいまようやく、過去の自分やこれからなりたい未来の自分をひっくるめて、ありのままの自分を愛することができるようになりました」
だから、みんなにも自分の声に耳を傾けて、自分のことを語ってほしいと、RMは訴えた。
「あなたの胸を高鳴らせるものは何ですか? あなたのストーリーを聞かせてほしい。あなたの声を、あなたの信念を聞かせてほしい。あなたが誰であろうと、どこの出身であろうと、どんな肌の色で、どんなジェンダーアイデンティティであっても、自分について語ってほしいのです」
秋元康とのコラボを中止した理由
人種やジェンダーについて触れ、「ありのままの自分を愛してほしい」と語りかけたスピーチは、デビュー当時から社会問題について公の場で発言してきたBTSらしいメッセージだった。
日本と同じく、韓国のアイドルが政治的な発言をすることはほとんどない。人気や芸能界でのキャリアに影響するからだ。
だがBTSは違う。彼らはLGBTQやメンタルヘルスなどタブー視されている話題について語ることを恐れず、時に歌詞の中に自分たちのメッセージを込めることもあると、米誌「ローリングストーン」は指摘している。
たとえば、RMはまだデビュー間もない頃、米国のヒップホップデュオ、マックルモア&ライアン・ルイスの同性婚支持ソング「Same Love」について、「歌詞を聞くと、曲の良さが倍増するよ」とツイートした。
自殺は韓国の社会問題となっているが、BTSのメンバーは自身の不安やメンタルの弱さ、いじめに遭った経験などを明かし、悩みを抱える若者たちに寄り添おうとしている姿勢もみられる。
このように社会の偏見や抑圧に敏感なグループだからこそ、世界のファンから支持されるようになったのかもしれない。
ちなみに、この国連演説より1週間ほど前、BTSの所属事務所は、日本の作詞家・秋元康からの楽曲提供を取りやめると発表している。11月に日本で発売されるアルバムのなかの1曲を秋元に書いてもらう予定だったが、そのコラボ企画を中止したとのことだ。
事務所が出した声明には「制作上の理由」としか書かれていなかったが、この発表に先立ち、韓国のファンからコラボに反対する声が上がっていた。韓国の聯合ニュースによれば、秋元が過去に「靖国神社や旭日旗を使った演出をしていた」として反発を招いたという。
そして、もう一つ。AKB48などのプロデュースで知られる秋元がこれまでに書いてきた「女性蔑視的な歌詞」が問題視されていたという。
BTSの事務所は中止を発表する前に、こんな声明も出していた──「ファンの懸念は充分認識している」。