中国の高速鉄道(新幹線)など、列車の予約はスマホのアプリで可能になるなど、昔と比べればはるかに楽になった。
だが、たとえ入手が楽になったとは言え、自分が予約した座席を勝手に占拠し、「ここは自分の席だ」と言ってもどかない、そんな乗客と出くわしたら、不愉快極まりないだろう。こうしたトラブルが中国で立て続けに発生している。
8月には山東省済南から北京行きの列車に乗った男が、「自分の座席だ」と説明する女性に対して頑として譲らず、席を替わるよう説明する乗務員にも「足が悪いので車椅子を持ってきて」などとごねる映像がネットで公開され、この男の身元がネット検索で暴露されるなどの騒ぎとなった。男はその後、ネットで謝罪した。
さらに9月19日には湖南省から広東省深圳に向かう高速鉄道車内で、やはり他人が予約した窓側の席に座った女が、すぐ隣の通路側の席に移るのを拒否し、乗務員の説得にも「私は間違っていない!」反抗する様子がネットで公開された。
この女に対し、鉄道当局は200元の罰金と、180日間列車の切符の購入を禁止する処分を発表した。
この2人の男女はいずれも30代前半のいわゆる「八〇后」で、1人っ子政策により両親に甘やかされて育った「小皇帝」が、そのままわがままな大人となった「巨嬰」(巨大な赤ちゃん、giant infant)ではないかとの議論が起きた。
「巨嬰」という言葉を有名にしたのが、2016年に中国で出版された「巨嬰国」という書物だ。
「(中国式)巨嬰」の特徴とその社会的な背景を分析したこの本でも、巨嬰の特徴として「ナルシスト」「極端にわがまま」「自己中心」「依存心が強い」などを挙げたが、中国社会を批判する内容だとして、直ちに発禁本となった(この本は台湾の知人から手に入れたので、いずれ機会を見て紹介したいと思っている)。
この2人の乗客もまるで赤ん坊のように、他人の不利益など気にすることなく、駄々をこねればなんとかなる、という心理状態だったのではないか。そしてこうした「ゴネ得」の中国人がさらに海外旅行でも出現し、外交問題に発展した。
9月2日、曾という3人の中国人観光客がスウェーデンの首都、ストックホルムのホテルの従業員から暴言を受け、さらには警察によりホテルの外に追い出され、最後には墓場に連れて行かれ放置されたとネットで訴えた。
このニュースを15日に伝えた人民日報系の環球時報は、「予定よりも早くホテルに到着し、昼まで部屋には入れないと言われ、父母は健康がすぐれないためロビーのソファーで休ませてほしいと頼んだが、ホテル側は拒否、暴力的に追い出された」「警察は意識がもうろうとする両親を殴打し、無理やり車に乗せ、ストックホルムから数十キロ離れた荒野の墓地に置き去りにした」などと報じた。
曾一家はその日のうちにスウェーデンを離れ、同紙は「スウェーデン警察の老人に取った行動は、現代国家には想像できないものだ」と批判した。
これを受けて在スウェーデン中国大使館は「人権を標榜するスウェーデンが人権を軽視した」などと厳重な抗議を行い、ネットでも怒りが巻き起こった。
「ごろつき国家だ」「今度スウェーデン人を見たら殴ってやる」「スウェーデンは国が分裂し、民族が絶滅すればよい。ガス室に送ってやる」このようなひどいコメントがネットで登場した。
これに対しスウェーデンの現地メディアは、「3人が予約を間違えて前日の深夜に到着、客室は満員で翌日の昼でないとチェックインできないと説明したことでトラブルになった」「中国の観光客は体の調子が悪いからロビーのソファーで寝かせてくれと要求、ホテル側が拒否し、ホテルを出るよう求め、3人と言い争いになり、警察に通報した」などと報道、警察の対応も事態を沈静化させるもので、暴行などはなく問題はなかったと指摘した。
さらに事件当時の動画を公開、警察が老人らを注意深くホテルの外に運び、老人が路上で泣きわめき、曾は女性警官とぶつかってもいないのに自分から路上に倒れ、警察が殴ってもいないのに「警察が我々を殺そうとしている」と英語で叫ぶ様子などが中国にも伝わった。
さらに3人が連行されたという墓地は、実際にはストックホルムの中心部から6キロほどの地下鉄駅近くで荒野ではなく、ホームレスなどが夜を明かすことができる教会であり、墓地はすぐ脇にあったが、世界遺産にも指定された有名な観光地だったことも判明した。