タイでサッカー選手、俳優、スカウトと3つの顔を持つ元Jリーガー・大久保剛志の生き方
タイで、サッカー選手の傍ら、クラブのスカウト補助、さらに俳優業など、多彩に活動している東北人がいる。タイ・リーグ2(2部相当)のPTTラヨーンに所属するFW大久保剛志(31=宮城・岩沼市出身)だ。大久保は2014年にタイに渡り、昨年同クラブに加入。異色のキャリアを振り返り、来季への思いを語った。(取材・構成=海老田悦秀)
現在、大久保はサッカー選手をしながら、他業種に挑戦している。
「俳優業やクラブのサポートをしています。タイのテレビドラマ『Rock Letter』に出演しました。来年7月ごろにタイで上映される『Gravity of love』にも出演します。どちらもタイと仙台が舞台の作品。僕が宮城県出身でタイでプレーしていることから、オファーをもらった。クラブのサポートとしては、スカウトの補助などをしています」
本業のサッカーに支障が出ないよう、クラブとは特別な契約を結んでいた。
「タイのクラブは外国人選手とは5人までしか契約できませんが、僕はカップ戦限定で出場する条件で6人目の契約をしました。出場できるのはカップ戦だけで、空いた時間を使って様々なことに挑戦しています」
今季から異例の契約を結んだのは、ある思いからだった。
「サッカー選手は引退をすれば、すぐ次の職業を探さなければいけない。それだと視野が狭くなるので、現役中にいろんな経験を積もうと思いました。許可してくれたクラブには感謝しかない」
大久保は、J1ベガルタ仙台、J2モンテディオ山形、JFLソニー仙台という、東北の名門3クラブで経験を積んだ唯一の選手だ。
「仙台は僕にサッカーを教えてくれた。4試合しか出場できませんでしたが、チャンスをくれた都並(敏史=当時の監督)さんには感謝しています。ソニー仙台は、僕を一人の人間として育ててくれたクラブ。シーズン中に、山形への移籍を許可してくれた恩は一生忘れません。山形は僕にサッカーの楽しさを思い出させてくれました。スタッフ、選手と仲が良くて、離れるときはつらかった。僕は東北愛が強いので、東北から離れませんでした。3クラブで学んだおかげで、今もサッカーを続けられています」
来季も現クラブ残留がほぼ確実で、1部昇格を目指している。
「今はサッカーをやりたい気持ちが強いです。ただ、クラブをサポートする立場も楽しめたので、2つの楽しい悩みを抱えています。整理して来季に向けてトライします」
◆大久保 剛志(おおくぼ・ごうし)1986年6月14日、宮城・岩沼市生まれ。31歳。FW。小学2年時に岩沼西スポーツ少年団でサッカーを始め、仙台ジュニアユース、仙台ユースを経て、05年にトップチーム昇格。08年から3年間、JFLソニー仙台に期限付き移籍し、12年に完全移籍。13年8月にJ2山形に完全移籍。14年にトライアウトの末、タイ・プレミアリーグのバンコク・グラスに移籍。16年から同国2部リーグのPTTラヨーンに加入。Jリーグ通算11試合2得点、JFL通算119試合42得点。171センチ、65キロ。利き足は右。血液型A。
◆タイのサッカー事情プロリーグはタイ・プレミアリーグ(1部相当)、タイ・リーグ2(2部相当)がある。プレミアリーグは所属する18クラブで優勝を争い、下位3クラブがリーグ2に降格する。優勝クラブはアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)への出場権を獲得し、2位はACLのプレーオフ出場権を得られる。近年アジアでも成長著しいリーグで、2013年に開催されたACLでは、ブリーラム・ユナイテッドが準々決勝に進出した。また、今季J1札幌にムアントン・ユナイテッドから期限付き移籍を果たしたMFチャナティップ(24)が主力に定着し、札幌のJ1残留に貢献した。